KAKUTA「20周年記念年間」第3弾『愚図』開幕近づく!桑原裕子・林家正蔵 インタビュー
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林家正蔵、桑原裕子(撮影/大倉英揮)
昨年からの1年間を「20周年記念年間」と銘打って、3つの公演を企画・上演してきたKAKUTA。その第3弾で新作書き下ろしとなる『愚図』が、11月10日から幕を開ける。
現代という時代の生きにくさ、日常的に起きる不条理などを、市井の人々の眼差しで描き出して注目を集めている桑原裕子。今回は「愚図」と呼ばれる人間と、それを取り巻く状況をその洞察力で鋭く照射する。そんな桑原が、今回の主演に迎えたのは落語家で俳優の林家正蔵。
えんぶ12月号に掲載の桑原裕子×林家正蔵対談の別バージョンが、本誌発売に先がけて演劇キックに登場。11月9日発売の本誌と切り口の異なるwebバージョンをお楽しみください!
林家正蔵、桑原裕子(撮影/大倉英揮)
焼き肉の煙の向こうから「出ませんか?」と
──今回の正蔵さんの出演にはどんな経緯が?
正蔵 ある日、寄席の楽屋で柳家喬太郎さんと話をしていて、いつも喬太郎さんとは「最近観た面白い芝居は?」という話題になるんですが、「KAKUTAというのがすごくいいんだよね」と。「どんな芝居?」って聞いたら、「観たあとでまた話そう」と。それで青山円形劇場でやってた『痕跡』というのを観に行ったんです。で、次に喬太郎さんに会ったとき、「どうだった?よかったでしょ」と聞かれて「腰が抜けた!」と。本当に立ち上がれなかったんです。そこからKAKUTAの追っかけをして(笑)、挨拶もして、皆さんと仲良くさせてもらって。それで、去年、一緒に焼き肉を食べてたら、煙の向こうから桑原さんが「今度出ません?」って。煙の中だったので、もしかしたら幻じゃないかと(笑)。本当だとわかってからは、天にも昇る気持ちになって、でも冷静になった今は、怖くてドキドキしてます。
桑原 こちらこそがっかりされないかドキドキしてます(笑)。『痕跡』の時、スタッフから「正蔵師匠が観にいらしてるけど」と言われて、本当にびっくりしました。それから仲良くさせていただいているうちに、もし誘ったら出てくださるんじゃないかなと、すごくおこがましい思いを抱いてしまって。で、いきなりお願いしたら受けてくださって。そうと決まったら是非この「20周年記念」の第3弾に出ていただこうと。本当ならもっと先の、余裕のあるスケジュールでお願いするべきだったんですが、3本の中で唯一新作ですし、師匠に出ていただくことで、また違った手触りのものが作れるという思いもありましたので、無理を承知でどうしても出ていただきたいと。お忙しい中でスケジュールを空けていただいて、本当に有り難かったです。
正蔵 今回のチラシが演劇好きの落語家仲間から大好評なんです。「あにさんらしいね、愚図だって!うまいね!」と(笑)。写真が父親(林家三平)に似てると言われますし。おふくろからも、「いいわね!愚図ってよく見抜いたわね」と。母にいつも愚図、愚図って言われてましたから(笑)。
桑原 私も言われてました(笑)。もともと「愚か」という字を入れたタイトルを考えていて、師匠が出てくださることになって、『愚図』という言葉が浮かんで、そういうレッテルを貼り付けられて身動きができない男の人の話を書こうと。私も学校とか社会に出たときそう呼ばれて、コンプレックスと、その一方でレッテルに甘んじて私は愚図なんだからと言い訳してた部分があって。そういう自分に向き合う作品になっているせいか、今、書いててストレスフルなんです(笑)。
正蔵 ストレスフリーじゃなくてフルですか(笑)。
桑原裕子、林家正蔵(撮影/大倉英揮)
劇団バブルがなかったおかげで少しずつ進んでこられた
正蔵 僕はKAKUTAという劇団の雰囲気が好きなんです。この劇団の皆さんとならご一緒したいと。なんか匂いでそう思う。皆さんの人柄なのかもしれないけど、テーマは深くて重いのに、観終わったあとに心がほっこりするんです。だからこの劇団になら身を預けて大丈夫かなと。
桑原 うちは仲が良いと言われてきて、それが恥ずかしかった時期もあったんです。居心地よさそうに見えることが、傷を舐め合ってるように思われたら嫌だなと。でも最近、努力してこうなってるんだからいいんじゃないか。つらい思いもごまかさずに人間同士として付き合ってきた、その末にこうなっているわけだからそれでいいんだと。劇団が20年も続いてきていること自体、奇跡だと思いますから。
──続かせるための地道な努力があったわけですね。
桑原 地道という意味ではうちの劇団はバブルがなかったんです。ブレイクしないまま、もう少しもう少しと進んできた。旋風を巻き起こしたいという思いがないわけではなかったけれど、でも5年先もやれる作品にしたかったので。そのおかげで、ちょっとずつお客さんさんが増えて、20年経ってるのに、まだ少しずつ増え続けているんです。
──師匠も林家正蔵という大きな名跡を継いで、その名前が身につくまでには年月が必要だったのかなと。
正蔵 ずっと前に、古今亭志ん朝師匠から言われたんです。「三平師匠みたいには絶対なれないんだから、ちゃんと古いものを勉強しなさいよ」と。それもあって、自分は、今風なギャグを入れるわけでもなく、新作で大向こうを狙うわけでもなく、地に足をつけて人物を生き生きと語れればいいんだと思ったんです。その当時は、「急に高座に戻ってきたよ」みたいに言われたりもしたんですが、その時々に助けてくださる先輩がいたのと、そんな正蔵の高座を聞いてみようというお客さんが、最初は20人、そこから30人、50人と増えていって。嬉しかったですね。「50人でいいのかい?」と言われたこともありましたけど、積み重ねるんだと決めたとき、何人だろうと足を運んでくださるお客さんの前でやれればそれでいいんだと。
桑原 わざわざ来て下さる、その有り難みはよくわかります。
正蔵 浮ついたところが取れたんです。そういう自分と、九代目正蔵も三平も関係ないところで、桑原さんやKAKUTAの皆さんは付き合ってくれてて、そこは信じられるので。
──最後に公演への意気込みをぜひ。
桑原 『愚図』というタイトルになっていますが、1人の人のことだけではなくて、全体を俯瞰したときに「愚かな図」があちこちで見えたらいいなと思っています。
正蔵 落語家が芝居に出ると、どうしても落語家臭が出ちゃうんですが、林家正蔵ではなく、本名の海老名泰孝という愚図な男が、いかにちゃんと出るかというのが僕のテーマです。
桑原裕子、林家正蔵(撮影/大倉英揮)
【撮影/大倉英揮】