MO’SOME TONEBENDER、約6年ぶりのオリジナル・メンバー3人だけでのライブは「偏屈で片寄った」初期楽曲オンリー
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MO'SOME TONEBENDER 撮影=岡田貴之
ライブの一週間前になってオリジナル・メンバー、つまり百々和宏、武井靖典、藤田勇の3人での演奏になることが発表され、俄然血が沸騰するような思いで武者震いしたのは僕だけではないだろう。つまりこれは、藤田がモーサムでドラムを叩くということだ。
モーサムが3人だけで演奏するのは2011年3月のアメリカ・ツアー以来だそうだ。2009年11月に、それまでドラムス担当だった藤田が突然フロントに出てきてギターやサンプラーを演奏し始め、ドラムスはサポート(最近は水野雅昭)が担当するという4人態勢のライブに移行、それ以後のモーサムのライブで藤田がドラムを叩くことは基本的になくなった。藤田がドラムをプレイするのは、つまりバンドの原点に立ち返るということでもある。おまけに百々が事前にツイッターで「今回のライブはかなり偏屈で片寄った内容になる」と脅しをかけていて、偏屈で片寄ったモーサム断固支持の当方としては、否が応でも期待は高まる。
ライブ会場に入りスタッフの人にセットリストを見せてもらって驚く。ここ何年も、へたしたら10年以上彼らのライブでは聴いたことのなかった初期の楽曲がずらりと並ぶ。その大半は『DRIVE』(1999年)、『FOE / MO’SOME TONEBENDER SPLIT MAXI』(2000年)、『DAWN ROCK』(2000年)、『echo』(2001年)と、インディーズ時代の曲だ。どうしても見覚えも聞き覚えもない曲があるのであとで調べてみたら、2001年に出たコンピレーション盤に提供した曲(「アイガッタフィーリン」)だったりした。
MO'SOME TONEBENDER 撮影=岡田貴之
のっけから『DAWN ROCK』の曲を4曲立て続けに演奏。一服したタイミングで百々が言う。「最初に言っておくけど、今日は福岡時代に作った曲しかやらないから」。溜息のような悲鳴のような歓声がわく。なるほど、そういうことだったか。唯一メジャー・デビュー以降にリリースされた「ビートルバーナー」(2005年)をやっていたが、これは「最初期に作って、もう2度とやることはないと思っていたら、突然シングルで出ることになった」という百々の説明があった。
ライブ後に百々に聞くと、まずは初期の福岡時代の曲を中心のライブをやろうというアイディアがあり、それならオリジナルの3人でやるしかない、という結論に至ったらしい。つまりこの日のライブは正しくモーサムの原点ということだ。3人のメンバーが集まり、こういうロックをやっていこうと思い定め、出した最初の音。この時の演奏をたまたま耳にした前マネージャーのK氏が「こいつらとなら面白いことができそうだ」と声をかけ、モーサムは福岡から上京して東京で一旗揚げることを決意した。
「原点回帰」という言葉があるように、進むべき方向や、目標を見失いかけた時、自分の表現の原点に立ち戻るのはよくあることだ。本来自分がやりたかったことはなんなのか。ファースト・アルバムにすべてがあると言われるように、進むべき道は既にそこで鳴っていたりする。
MO'SOME TONEBENDER 撮影=岡田貴之
4人編成となり、打ち込みやサンプラーやツインギターで音が分厚くなりアレンジも凝っていた最近のモーサムではなかなか聴けなくなっていた、シンプルで荒々しくてスカスカの、ヒリヒリするような音が石つぶてのようにぶんぶん飛んでくる。テレヴィジョンやニルヴァーナやフリクションやピクシーズなどに通じるパンキッシュなガレージ・ロック。3人のメンバーが角突き合わせながらやりあう感じ。ああそうだった、と微かな記憶を呼び戻す。僕が初めてモーサムのライブにぶっ飛んだのは2001年のフジロックだったから、おそらく今日のライブと同じようなセットリストだったはず。さすがにその時の内容は覚えていないが、この時代のこの曲のこの演奏に、僕は確かに夢中になったのだ。滅多にやらないレアな曲のオンパレードなのに、客席からはイントロだけで大歓声があがる。ハードコアなファンが「偏屈で片寄った」初期モーサムに狂喜する。
でも、これがモーサムの原点であることは確かだとしても、原点=最高だとは思わない。はっきり言ってしまうと、楽曲や演奏の完成度やクオリティや強度という点では、メジャー・デビュー以降、つまり東京進出以降の彼らのほうがはるかに優れている。最大の違いは、メジャー・デビュー以降は、この曲ではこれをこう聞かせたいというフォーカスと狙いが明確でブレがないことだ。それに比べると福岡時代の曲は曖昧で散漫で、死にそうな退屈と鬱屈した暴力衝動を歪んだサウンドに仕込んだ演奏も、今となっては聴き手のことなど関係なくただ感情を衝動のままにぶちまけているだけのようにも聞こえたりする。キャッチーでないのだ。もちろん当時からそう思っていたわけではない。今のとんでもなく高いレベルまで行ってしまったモーサムを知ってしまったからこその話である。
それでも、このライブは僕(たち)の心を激しく揺さぶっていく。なぜか。彼らが一番最初に持っていて、それが一番大切だと思っていたものが、現在のモーサムにも確実に残っていることを、初期の曲しかやらないライブで逆説的に再確認したからだ。彼らの本質は、打ち込みを導入し、ダンス・ミュージックを取り入れ、ジュリアナ・ディスコと合体し、サイケデリックなアンビエントをやり、シンガロングできるような超ポップな楽曲を歌い、なんでもアリのめっぽう面白いカオス状態に突入した今も、少しも損なわれていない。言葉にするのは難しいが、それは絶対に主流に与しないオルタナティヴの精神のようなものだ。それが感じられたからこそ、その原点となる初期楽曲は今でもこうして生きて鳴っている。
MO'SOME TONEBENDER 撮影=岡田貴之
ライブの前半はミドル・テンポのヘヴィな曲が続き、百々は珍しく丹念に曲間にチューニングを行い、武井もおふざけ一切なしで演奏に集中する。藤田のドラムはART-SCHOOLで叩く時とは違うピリピリした「気」を発している。3人とも普段のライブとは少し異なる青白い緊張感を漂わせている。いろいろ仕込んだ4人モーサムではなくネイキッドな3人モーサムだからこその緊張感。「ビートルバーナー」や「アナベル・リー」あたりからフロアは一気に過熱。最後は最初期の楽曲でありながら、その後何度もリメイクされ、モーサムの現在形を常に示すような指針となっている「未来は今」(昔ヴァージョン)で幕。
そしてアンコールでは「東京に出てくる直前にスタジオに篭もって作った曲で、これで胸を張って東京に行けると思った」と百々が説明し「echo」を演奏する。なるほど、この曲を完成させることで彼らは幼年期を卒業し、次の段階へと進んだのだ。そこから彼らの興味と才能と音楽性は爆発的に拡大した。打算や損得勘定を超えた運命共同体として、モーサムという武器を携えて、今も3人は東京で戦っている。ロックって素晴らしい。
あれほど嫌がっていた「モーサムのライブでドラムを叩く」ことを、なぜ今になって藤田は受け入れたのか? この3人態勢のライブはこの一回限りなのか、それとも今後も続いていくのか。いろいろな謎はまだ残っている。『scrap & destroy '97~'17』というギグのタイトルには“vol.0”とある。ならばシリーズとして今後も続いていくよう期待しよう。来年はモーサム結成20周年である。
取材・文=小野島 大 撮影=岡田貴之
MO'SOME TONEBENDER 撮影=岡田貴之
12/25(日) Zher the ZOO YOYOGI
出演:百々和宏とテープエコーズ
前売¥3,500(1D別) 当日¥4,000(1D別)
e+発売中
問合せ:Zher the ZOO YOYOGI 03-5358-4491
BIG-O 60~小野島大還暦祭~
2016年12月15日(木)下北沢CLUB Que
OPEN 18:30/START 19:00
出演:百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)、藤田勇(MO'SOME TONEBENDER) 、勝井祐二、ヤマジカズヒデ(dip)、日暮愛葉、TOKIE、須藤俊明、ホッピー神山、シュガー吉永、木下理樹(ART-SCHOOL)、小林祐介(THE NOVEMBERS)、他
前売¥3240 当日¥3900 (1D別)
e+発売中
問合せ:OFFICE Que 03-5433-2500
ヤマジカズヒデ 対 百々和宏
2017年2月8日(水) Zher the ZOO YOYOGI
出演:ヤマジカズヒデ(Vo&G from dip)、百々和宏(Vo&G from MO’SOME TONEBENDER)、穴井仁吉(B from TH eROCKERS)、クハラカズユキ(Dr from The Birthday、うつみようこ&YOKOLOCO BAND、M.J.Q、QYB)
OPEN 19:00 / START 19:30
前売¥3500 /当日¥3800 (+1D)
e+発売中
問合せ:Zher the ZOO YOYOGI 03-5358-4491