有村竜太朗 なぜいまソロ始動なのか? キャリア初のソロ活動にまつわる数々の出会いとミラクルを語る
有村竜太朗
20年以上に渡り、ヴィジュアルシーンはおろか幅広いリスナーに支持されてきたPlastic Tree。そのフロントマン、有村竜太朗(Vo&G)が自身初のソロプロジェクトをスタートさせる。People in the boxの波多野裕文がアレンジャーとして、そのほかにもt’eのhiro (G)、THE NOVEMBERSの小林祐介(G)、chouchou merged syrups.の鳥石遼太(B)、高垣良介(Dr)らが参加して制作されたアルバム『デも/demo』(2016年11月23日発売)はどんなものなのか。さらには、その曲たちを全曲映像化してしまった経緯など、初のソロ制作で体感したバンドとの違い、様々なミラクルについて有村に訊いた。
考えるのをやめよう、感覚のまま描こう、設計図はなくてもいいやって。
“思いつき”を無下にしたくないなという感じでやりました。
――まず、なぜいまソロ始動だったのかというところから教えてもらえますか?
時期的な明確な理由はあまりなくて。きっかけは、曲作りをしていて。いつも僕の家でバンドメンバーとプリプロをやったりしてるんですけど、パソコンを見たら(バンドで)使ってない自分の曲が溜まってるなと思って。1回バンドに出しても採用にならなかったり、いい感じで途中までいっても“この曲、いまじゃないかも”とか、“あー、そっちにいっちゃうか”と思ったら、自分は引っ込めちゃったりするんですよ。それは他のメンバーもそうだと思うんですけど。
――そうやって、途中まで作った曲がどんどん溜まっていってたと。
そうですね。年齢的に、いつまで自分は音楽ができるんだろうとか。ま、そこまで死が近い年齢ではないんですけど(笑)。でも、自分もデカい病気をやったので、いつまでミュージシャンとしてできるのかとか、観念的に考えたりしてて。自分は“バンドではこれをやる”と決まって歌詞を書いていくのがほとんどなので、ちょっとずつでもここに溜まってる曲を完成させていこうと思ったのが3年前ぐらいですかね。それでちょこちょこちょこちょこバンド活動とは別に進めていったんです。
――どんなときにやってたんですか?
例えばツアー中のホテルとか。お酒を飲めるときはすぐ飲みにいくんですけど、ツアー中は喉に悪いからお酒はあまり飲めないし。かといって別に部屋にいても見たいドラマもないしなーっていうときに“あの歌詞を書こう”って書いたり。自分の空き時間を使って曲を完成させていった感じです。メンバーを集めて“こういう音源を作りましょう”ではなくて、それが“溜まったから出しました”という感じです。
――プラのメンバーは有村さんがソロをやることに対してどんな反応だったんですか?
前からよく議題には上がってましたからね。ウチは、プラもやるけど他にもバンドやサポートでもいろいろやってるんで、“ありぽん(有村)もソロやればいいじゃん”って(ナカヤマ)アキラ(G)には前からよくいわれてたんですよ。だから“ソロをやるかも”っていったときも“うん、いいんじゃない?”って感じでしたよ。そんな、メンバー間のトラブルみたいなものは何もないです。たぶんファンの人たちは一番気になるところだと思うんですが、ウチはそういうのはないんですよ。だから、20年以上バンドが続いてるんです。
――なるほど。ではソロ作品が完成してみて、今はどんな心境ですか?
こういう形になったかって感じが大きいですかね。
――有村さんの中でもどんなものができるのか分からなかった訳ですね。
ええ。曲は随分昔のもあれば最近作ったものもあって。それを実際に具現化して正式な曲にすべくレコーディングしていったんですけど。その数ヶ月は自分の頭が追いつかないぐらい、いま決めなきゃいけないもの、いま見つけなきゃいけないものがあって。そこはバンドとは違くて。
――どこが違ったんですか?
同じようなことをしてるんだけど、脳みその回転が違う感じなんですよ。だから、完成しても現実感がないというか。バンドだと完成するまでのやりとりがあるので。“この曲プリプロしたよね”、その間には“ライブどうしようってのも話したよね”とか。そういうのを日常生活の一部として20年以上やってきたので、その積み重ねがあると現実感が湧くんですけど。今回も一人でやった訳ではなく、どちらかというと人の力を借りてというのが大きいんですが。ただ、起点が“自分一人”というのはバンドとは違いますよね。何もかも初めてというのが多かったし。基本的に面倒くさがり屋だし、適当なんですけど、ただモノを作るときだけはわりと懸命にやるんですよ。それの究極の極み、みたいな感じでした。
――『個人作品集1996−2013「デも/demo」』というタイトルの西暦や、初回盤A、Bのみ収録される曲がop(オーパス)の作品番号で表記されているところとか、クラシックのアルバムのようだなと思いました。
西暦は曲の元ネタが生まれた時代というか。通常のバンドで出す曲じゃないんだよなっていうところで付けてあげたいというか。そこに自分の中で意味があったんです。要は、バンドで出さなかった死んだ曲ですから。曲にもし年齢があるとしたら、このとき生まれてこのとき死んでますというような意味も含めて。
――『~「デも/demo」』というタイトルはいつ思いついたんですか?
レコーディング中ですね。一番、表してるかなと思って。単純にデモで作ったものがフォルダに入ってて、それを曲にしよっかなーっていうところからの“デモ”と、“デモレベルで終わってたものを今回最後まで仕上げた”という物理的な意味もあるし。あとはずっとフォルダに置いてた曲だったけど、“でも、もう1回やって曲にしよっかな~”っていう自分の気持ち的な“でも”みたいなものもあって。あとは、歌詞を書いてて。“デモにして書き留めた”という一節があって。
――「恋ト幻/rentogen」ですね。
それがこのアルバム全体を表してる言葉だなという意味もあって。いま話したいろんな感覚を記号化してみたらこうなった。
――そういえば、ソロの名前の表記も記号みたいなデザインになってましたよね。
僕の場合は本名なので、絵に見えるようなアイコンがあったらいいなと思ってこういうものにしました。
――今作は最初から全作映像化したいなという気持ちはあったんですか?
“しよう”と思ったのは後からですね。監督さんの情熱だったり、それを結びつけてくれた今のレーベルも含め、“すごくいいものが撮れそうだから映像作品としてちゃんと作ってみようよ”ということになってできていったんです。
――アルバム収録曲はどうやって決めたんですか?
デモはまだあったんですけど、その中で間に合ったものとか、そうじゃない曲もあるし。SEとかはレコーディング中に生まれたもので。今回はソロなので、バンドのときよりもエンジニアさんと2人でいる時間が多かったので、そこで“こういうSE欲しいですよね”っていうところから生まれて収録したり。「浮融/fuyuu」という曲は今回絶対入れたくて間に合わせて作ったもので。曲によってそれぞれ“事情”が違うんですよね。
――なるほど。「浮融/fuyu」を入れたいなと思った理由は?
Plastic Treeで1回追求できた音楽があって。その音楽をもっと深く自分の中で追求したいなと思ったからですかね。
――それは、シューゲイザー的な音像感をどこまで深く追求できるかということ?
そうですね。それを自分の理想に近づけたかった。その一点張りでした。この曲は。
――この曲の映像の、特に湖を上空からとらえたシーンとサウンドとのマッチングが素晴らしかったですね。
あれは監督さんのアイデアで。本当は映像を撮り終わってたんですけど「どうしても撮りたい絵があるから撮りませんか?」といわれて。そんなこと普通はなかなかいわないことだよなと思って、それには自分も応えたいなという気持ちで。それをレーベルも許可してくれたので、追加で撮ったんですよ。そういう身軽さもソロならではじゃないかなと思ってます。特に今回の映像作品は、監督さんの情熱の連続性でした。プラでもお世話になっている監督さんなんですけど、その監督さんの“熱愛”ですね。
――映像監督以外に、サウンドの方でも今作は様々なプレーヤーの方々が参加されていましたが。バンドとは違いましたか?
似てるんですけど、やっぱ違いますね。それは、僕が他の人の曲に参加してもそうなんですけど。参加することで何かが起きて、それがどんどん膨らんで、というのはバンドと同じなんです。でも、ソロは曲が最後まで自分のものになってる、という感じですかね。たくさんの変化は起きるんだけど、最終的には自分に返ってくるというのがソロじゃないですかね。
――あー、なるほど。
バンドだと、自分発信の曲でも自分が参加してもバンドのための“礎”にならなきゃいけないという気持ちがあるから。今回は、自分から発信したものがいろんなプレーヤーが参加することで、俗にいう化学変化が起きて。それを最後に自分が歌って返すときに全部のジャッジを自分でしなきゃいけない。そういうところは一個人としての手間がかかってますね。
――今作、ソロの創作をするにあたって、特に心がけたことって何かありましたか?
今回は、本当にどんなものになるのか、どうなるのか分からないなというのがリアルなところだったので。一番怖かったのは、今回やってつまんなかったからボツにする、それが一番嫌だなと思ったから。僕の場合“いいな”と思ってもすぐ考え出しちゃうんですよ、いろんなことを。だから、今回は考えるのをやめようと。感覚のまま描こうと。設計図はなくてもいいやって。下絵がなくても絵の具でグシャグシャーってやってみようと。それで全部やっていったから“思いつき”を一番大事にしてました。思いつきを無下にしたくないなという感じでやりましたね。全てにおいて。“いいな”と思ったらそれをしてみる。SEっぽいものがいいなと思ったらそれを追求してみる、とか。いい映像が撮れそうと思ったらそれをとにかくやる。これは新しいメンバーの人とバンドっぽくやってみたいなと思ったら作ってみる、っていう感じで。
――“新しいメンバーの人とバンドっぽく”というのはどの曲ですか?
「魔似事/manegoto」ですね。これは、今まで自分がやってるバンドの音じゃないものでやってみたいなと思ったんです。だからベースもアップライトでやってみたかったし、鍵盤も入れたかったし。自分が弾いてみたいギターのストロークをメインに作った曲ですね。
――「恋ト幻/rentogen」のトラックは打ち込みで、こういう音像の中で歌っている竜太郎さんが新しいなと思いました。
この曲は成り立ちが変わってて。People In The Boxの波多野君(G)がアレンジしてくれたんです。僕がPeopleがすごく好きで。今回参加してくれてるte’のhiro君(G)と同じ事務所だから紹介してもらったら、波多野君が「中学生の頃からプラ聴いてるんですよ」ってことで、こんな相思相愛は素晴らしいということで飲みにいって(微笑)。飲んだらお互い、音楽の話が止まらなくて。せっかくこういう個人作品集を出すんだから、今まで接触できなかった人と音楽的な接触ができればいいなと思ってたので、その中の絶対にやりたい人の一人が波多野君だったんです。「波多野君をギタリストで呼ぶのか、曲を一緒に作るのか分からないけども一緒に何か作りたいんだよね」って話をして。そうしたら「メロディはあって歌詞もついてるけど、まだなにもしていない曲はありますか?」といわれて。ちょうど勢いで歌詞もつけちゃった弾き語りのような曲があったんで、それを聴いてもらったら「すごくいい曲なんで僕、これ全部やってみていいですか?」といわれて。好きにやってもらったのがこれですね。あんな発想は自分の中にはなかったから、すごく新鮮でしたね。これが、個人作品をやって最も驚いたことで。そういう奇跡的な事の連続で生まれたものなんですよ。今回のソロのモノ作りは。
――なるほど。そして2017年1月には単独ライブツアー『Tour2017「デも/demo」』も開催されるそうですが。こちらのメンバーは?
基本的にはこのときに参加してくれたメンバーでいきたいなと思ってます。
――どんなライブになりそうですか?
いやー、これがまったくこれを作ったときと同じで、どんなライブになるんでしょうねというのを僕が誰かに聞きたいぐらい(微笑)。今回、映像も音も写真も、お遊びみたいなことも全部やって、それがすべて意味があることになっていったので、ライブはその集大成になるんだろうなと。
――ライブでプレイするのはアルバムの曲だけですか?
アルバムの曲をバンドでやった後に、op.の作品もやろうと思ってます。
――今後もPlastic Treeと並行してソロは継続されるんでしょうか。
そうですね。これをやってみて、俺の中で、やったことに意味を感じているので、できれば並行してやって行きたいなと思ってます。
――では、最後にツアーに向けての抱負をお願いします!
公開実験みたいなものなので、ぜひみなさんにも参加して欲しいですね。
取材・文=東條祥恵
2016年11月23日発売
【初回盤A】CD+DVD IKCB-9550~1 ¥3,700+税
有村竜太朗『デも/demo』初回盤A
-CD-
01. 幻形テープ / genkeitêpu
02. 浮融 / fuyuu
03. 魔似事 / manegoto
04. また、堕月さま / mata,otsukisama
05. うフふ / ufufu
06. 猫夢 / nekoyume
07. 鍵時計 / kagidokei
08. 恋ト幻 / rentogen
op.1
op.2
op.3
「有村 竜太朗 映像作品集 2016」
有村竜太朗『デも/demo』初回盤B
-CD-
M1.幻形テープ / genkeitêpu
M2.浮融 / fuyuu
M3.魔似事 / manegoto
M4.また、堕月さま / mata,otsukisama
M5.うフふ / ufufu
M6.猫夢 / nekoyume
M7.鍵時計 / kagidokei
M8.恋ト幻 / rentogen
op.4
op.5
op.6
有村 竜太朗 映像作品集 2016」
有村竜太朗『デも/demo』通常盤
幻形テープ/genkeitêpu
浮融/fuyuu
魔似事/manegoto
また、堕月さま/mata,otsukisama
うフふ/ufufu
猫夢/nekoyume
鍵時計/kagidokei
恋ト幻/rentogen
2017/1/12(木)大阪梅田AKASO
2017/1/13(金)名古屋ボトムライン
2017/1/23(月)品川ステラボール
¥5,500(tax in) スタンディング
入場時別途ドリンク代必要、3歳以上有料、3歳未満入場不可
一般発売日 2016年12月18日(日)