宅間孝行が自らの代表作『WHAT A WONDERFUL LIFE!』を語る! 4つの心温まる物語で思い切り笑って泣いて、2016年を締めくくろう!
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宅間孝行
「時間がない!」をテーマにした4つのストーリーで構成するシチュエーションコメディ―『WHAT A WONDERFUL LIFE!』。これは劇作家で演出家、個性派俳優でもある宅間孝行の出世作にして代表作で、2002年の初演以降、2003年、2010年と再演を重ねてきた舞台だ。物語の背景となるのは、春の中山競馬場、夏の花園神社、秋のヤクザの組長の邸宅、屋台のある冬の公園。季節の異なるさまざまな設定で、それぞれ「時間がない」切迫したシチュエーションで笑わせる。4演目となる今回は宅間本人が主人公に扮するほか、野久保直樹や辻本祐樹ら若手注目株のキャストが総勢30名近く出演する。この作品への想い、そして今回はどんなステージになりそうかを、宅間に聞いた。
――この年末に、『WHAT A WONDERFUL LIFE!』をまたやろうと思われたのは、何かきっかけがあったんですか?
劇団を起ち上げたりして本格的に演劇に取り組んでから、来年でちょうど20年の節目になるので、この1年は芝居漬けで過ごしたいなと思ったんです。劇団から“タクフェス”という形に変えてからのここ数年は舞台活動はほぼ年1回のペースだったので、もっといろいろな企画をできないかなと考えた時に、年末だったらこの『WONDERFUL~』がいいなと思いまして。うちの場合は作品に合わせて毎年のようにオーディションをやっているんですが、最後まで残ってはいたんだけど惜しいところでとか、毎年受けてくれるんだけど役柄的にうまくハマるところがなくてとか、理由はそれぞれですが出演が叶わない人たちが大勢いるんですね。そんな彼らが活躍できる場を他に作れないかな、と思ったわけなんです。オーディションでいろいろな人と向き合っていると、僕も役者のはしくれなので向こうの気持ちも痛いほどわかりますしね。その点、この『WONDERFUL~』という作品は4本立てのオムニバスで役がたくさんあるので、そういう人たちの受け皿にもなる作品になるんじゃないかと。それに前回上演した時に僕は出演していなかったので、ここである意味、決定版をひとつ披露しておきたいなという気持ちもありました。
――改めて、決定版として上演しておきたいと。
そうです。そして、まだこれが興行として成り立つかどうかはわからないんですが、できれば来年以降は僕が出演しなくても、そういう若い人たちだけで毎年年末になるとこの『WONDERFUL~』をやれるようなことになったらいいな、なんてことも考えているんです。そういう形でこの作品を残せたら、すごく素敵だなと思うので。
宅間孝行
――宅間さん以外のキャスティングについては今回、どういう狙いで選ばれたんですか。
主に、来春のタクフェスでやる『わらいのまち』のオーディションに来ていた人の中から、非常に頑張っていたんだけど選べなかった人をピックアップしてお声がけしたという感じです。野久保くん、辻本くんに関しては二人とも『わらいのまち』のオーディションの時に、とても良かったので。実際、辻本くんは『わらいのまち』のほうにも出るんですけどね。この二人が演じる役は刑事の先輩後輩のコンビなんですが、役としての分量が大きいのでぜひ彼らに担ってもらおうと考えたんです。
――初演を振り返ると、そもそもこういうオムニバスの話を書こうと思われたのは。
実は、劇団を旗揚げしてからすぐは、僕ではなくて他の人が書いて演出していた“東京セレソン”時代があって、僕はそれが“東京セレソンDX”になったタイミングから書き始めているんです。それこそ当時もしょっちゅうオーディションを行っていて、そのオーディションのために毎回30分くらいのテキストを作って。それを使って5日間とか1週間かけて芝居を作っていく、ワークショップオーディションみたいな感じでやっていたんです。
――それはずいぶん、時間も手間もかかる方法ですね。
ええ。で、そのキャストが7~8人出るテキストを、当時はまだそれほど脚本を書いたりしていなかった僕が作っていたわけです。たとえば男4人女4人とかのバランスで、それぞれにキャラクターがあって、それぞれに見せ場があるようにと考えながら書いて。それを使ってチームごとに稽古をして最終的に発表するところまでやり、その経過を見てキャストを選ぶというスタイルだったんです。そのワークショップのためだけに書いた台本が若干評判が良かったので、そのままお蔵入りにしちゃうのももったいないなということから生まれたのが、この『WHAT A WONDERFUL LIFE!』なんですよ。4本の物語のうちの2本はまるまるそのテキストで、3本目は少し設定を変更したり手を加えていて、4本目は書き下ろし。それにプロローグとエピローグをくっつけた感じです。だから要は変な話、その評判が良かったテキストを生かすために作った芝居、みたいなところがありますね。ちなみに僕が人生で初めて書いた戯曲が、このオムニバスの1本目だったりもします。
宅間孝行
――宅間さんご本人が、今回特に楽しみにしていることはなんですか?
ふだんは興行を打つ時、どうしても集客を考えてキャスティングするのが大前提になってしまっているじゃないですか。だけど、それで出演が叶わなかった名もなき俳優たちにいざやらせてみたら、実は誰よりもすごくいい芝居ができたりもするので、そういう底力みたいなものを見せられたら素晴らしいなと思うんですよ。彼らもみんなおそらくそう思いながら、今回は稽古をしていると思います。観に来てくださった方々をちょっとびっくりさせたいし「こんな面白いやつらがまだ世の中にいるんだ!」って思わせてみたい。それにこの作品は、役者がどう演じるかでやりようがいくらでもあるものなんです。つまり4本のオムニバスで、27~28人出るんですが「あの話のあの人が面白かった」と言われるかどうかは、最終的には本人次第。だからこそ、演出する僕がきっちり全部決めてしまうよりも、各自がやりたいことをやっていったほうがいいんです、僕に言われるのを待っているのではなくてね。
――自分で考えて、その役柄を個性的に作れるようになっているんですね。
そうやって「勝ちに行く」みたいなね。そういうしのぎあいになるように、考えて書いてあるので。僕は4本全部に出ていて一応、主人公という柱にはなっているんですが、要は狂言回しなんです。稽古でみんなにもよく言うんですけど、この人は主人公で真ん中に立っているけど、これは実はその周りにいる人間の話だから、本当の主役はそっち側なんだからね、と。それぞれにポジションがあって、シリアスな役もあればぶっ飛んでいる役、笑わせる役やかっこいい役、真面目な役、それぞれにみんな見せ場がありますから。おそらく観ていた方に「あのシーンの、あの役」と言った時「その人、何やってたっけ」って思い出せないキャラクターはひとりもいないはずです。
――それぞれにちゃんと印象を残せるチャンスが与えられているんですね。そして今回ならではのお楽しみ、という部分ではどういうことを考えていらっしゃいますか。
最後に全員でアカペラで歌う時に、前回まではジャズの『テイク・ファイヴ』に歌詞をのせていたんですけど、今回はオリジナル曲でちょっとゴスペル風にしてみたいなと思っているんです。もちろん、いつもの“タクフェス”のようなお祭り騒ぎ感は残したいですけど、ふだんの公演ではやらないような演出もてんこもりになりそう。普通のオムニバス作品かと思ってなめてかかってくると意外とどっしり胸に来るような作品でもあるので、そこのところもぜひ楽しみにしていてください。
宅間孝行
(取材・文:田中里津子)
■会場:東京グローブ座 (東京都)
■日程:2016/12/27(火)~2016/12/29(木)
■作・演出・出演:宅間孝行
■出演:高橋ユウ/野久保直樹/辻本祐樹/菊地美香/大窪みこえ/田中里衣/田村依里奈/小林真弥/冨永竜/明石鉄平/相馬あこ/小澤真利奈/田中隆志/水原ゆき/染川翔/東千尋/藤本沙紀/中川光男/外岡えりか/布川隼汰/大坪あきほ/天野麻菜/長沢裕/宮本剛徳/横山涼/妃野由樹子
■公式サイト:http://takufes.jp/wonderful2016/