YURiCa/花たん、“二面性”がテーマの新アルバム『ERiCa』ではどのように演じ歌ったのか
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YURiCa/花たん
ニコニコ動画やYouTubeなどを中心に活動するシンガー・YURiCa/花たんが、11月23日(水)に5thアルバム『ERiCa』をリリースした。
タイトルは、“幸福”“裏切り”という対極の意味を持つ花の名。その意味通り、それぞれ楽曲を提供した作家が思う様々な“二面性”が現れた曲が収録されている。そんな楽曲たちを花たんはどう解釈し、どのように演じ歌ったのか――最新アルバムを紐解く。
――充実の仕上がりをみせているこの5thアルバム『ERiCa』を制作していくにあたって、YURiCa/花たん(以下、花たん)さんは当初どのようなビジョンを描いていらしたのでしょうか。
この『ERiCa』というアルバムは、実在しているお花の名前からタイトルをつけさせていただいたんですけど、そのエリカという花の花言葉には“幸福”とか“裏切り”という意味があるそうなんですよ。
――“幸福”と“裏切り”……随分と対極的な意味を持った花なのですね。
そうなんです、両方の意味を持った花言葉を持っているのがエリカなんです。そのことを知ったのと同時に、ちょっと自分の名前(YURiCa)と近い響きがあるところもあったせいか、妙に親近感が湧いたんですよ。しかも、時期的にその頃は心境の面での浮き沈みがけっこう激しくなっていたのもあって、そういう2つの意味を持った言葉に対して凄く反応してしまって(苦笑)。
――バイオリズムしかり、気分の面でも一定ではないのが人間ですもんね。
ちょうどプライベートでのゴタゴタが重なってしまっていて、いろいろと滅入ることが多い時期だったんです。でも、そんな中でも良いことはあったりしたので、そこも含めてエリカの花言葉に共感した、というのがやっぱり大きかったですね。だから、まずはアルバムのタイトルを『ERiCa』と決めてから、今回は作曲や作詞で参加してくださる方々にも、「幸福と裏切りとか、ある意味での二面性をテーマにしていきたいです」ということを最初にお伝えしました。
――そうなると、今作にはOSTER projectさんをはじめとし、これまでも花たんさんとお付き合いのある作家さん方が多数参加されていますが、中には「普段とは少し違うな」と感じるテイストの楽曲が仕上がってくるケースもあったのではないですか?
たとえば、いつもお願いしているOSTER projectさんや天野月さんに関して言えば、基本的にはいつも通りというか、いかにもお二方らしい作風の素敵な曲をいただいているんですけど、よく歌詞をみるとその中には二面性が含まれているな、という印象を受けましたね。特に、今回アルバムのタイトル曲としてOSTER projectさんに作っていただいた「ERiCa」は、まさに幸福と裏切りがうまいこと同居しているかたちなので、今回はまさにわたしが思い描いてたものが出来て嬉しいなと思っているところなんです。
――では、その「ERiCa」についてもう少し詳しくお話をうかがって参りましょう。そもそも、花たんさんはエリカという花のことは以前からご存知だったのですか?
いえ。わたしの場合、毎回アルバムのタイトルやタイトル曲について決める時は、必ずお花をテーマにしたものにしていて、大体いつもは『○○○Flower』みたいにすることが多いんですよ。
――過去をたどると、『FLOWER』に始まって『Flower Drops』、『Primrose Flower Voice』といったアルバムを出されてますもんね。
それだけに、今回は一旦Flowerという単語を外してみようかなと思ったんです。そのかわり、今回は花言葉というものを意識することにして、まずは花言葉の一覧をネットで調べてみたところ、直感で「これだ!」と感じたのがエリカの花言葉でした。
――エリカというのは、見た目的にはどんな雰囲気のお花なのでしょう?
アルバムジャケットや、歌詞カードの裏にもデザインとして入れてあるんですけど、ちっちゃくて蕾みたいなお花なんですよ。
――あぁ、コレですか! なんとも可憐で可愛いお花ですね。
偶然といえば偶然だったんですけど(笑)、自分にとって共感出来る花言葉と出会えたところから今回はこのアルバムが生まれたので、それは自分にとって新しい体験でした。
――OSTER projectさんの提供してくださっている「ERiCa」という楽曲自体に対しては、どのように対峙されていきましたか。
ひとつの曲の中に絶妙な浮き沈みがあって、だけどそこまで別に暗いという感じでもなく、最終的には幸福を感じられるような雰囲気の曲になっていて。歌の面でもこれに関していつもより抑揚の部分に気をつけながら、レコーディングしていきました。
――それもあって、これだけ表情の豊かな歌になっているのですね。
OSTER projectさんからの要望で、こうなった部分もあると思います。というのも、OSTER projectさんの曲って基本的に可愛らしいニュアンスのものが多いから、いつもはわたしも少し子供っぽい感じで歌うことが多いんですよ。この曲に関しては現場で「ちょっとオトナっぽく歌って欲しい」という要望があって。実際そうすることによって、この曲のイメージはガラリと変わった気がします。自分の中では、落ち着いていて色っぽさのあるようなオトナの女性をイメージしながら歌ってみました(笑)。
――それと同時に、これからアルバムを手にする方たちには、是非この曲の最後の一節にも注目していただきたいところです。掲げられているテーマに対しての回答がが、得られるかたちになっていますもんね。
ありがとうございます。最終的に幸福を感じられる曲になっている、というのは結局そこが大きいポイントなので、歌詞カードを見ながら聴いてもらえると嬉しいです。
――かと思うと、今作には花たんさんによる書き下ろし楽曲「C」も収録されています。こちらは、どのようなプロセスから生まれてきたものでしたか。
前々作から、アルバムには必ず自分で作った曲を入れようということが暗黙の了解になっているところがあるので(笑)、今回もまた書くことになりました。「C」というのは、ウチの猫の名前からとった頭文字で、歌詞も一応猫の目線で書いてあります。
――猫好きからすると、この詞の世界は切なくも心温まる内容だと感じます。
この曲の中で主人公になっている猫は、ウチに3匹目としてお迎えした子で、もともとは捨てられていたところをわたしの友だちが保護して、「もう一匹どう?」ということでウチに来たんですね。ここには、そのあたりのエピソードもちょっと含めました。
――詞の内容もさることながら、「C」は曲自体もふんわりじんわりとした優しい雰囲気に包まれていますね。
良かった! その感覚が伝わったんだとしたら、すごく嬉しいです(笑)。この曲は歌詞から書いていって、後からメロディをつけていく感じだったんですよ。わたしは普段から言葉で何かを表現するのは得意じゃなくて。歌詞を書く時にもいつも自分の文才の無さによく落ち込んだりするんです(苦笑)。この曲に関しては詞だけじゃなくて曲の面でも、自然とその子に対する気持ちが表現出来たような気がします。でも半分くらいはフィクションなんですけどね(笑)。
――そこは創作物ですので、“まんま”よりも完成度の方を重視してしかるべきかと。そして、完成度という意味ではATOLSさんが提供されている「生花」も非常に鮮烈ですね。オリエンタルなテイストもあり、今作の中では異彩を放っている印象があります。
以前からATOLSさんの曲が好きだったんですよ。それで、今回は初めてお願いをさせていただくことになりました。ただ、いざ出来上がってきてみたら今まで聴いたことのあるATOLSさんの曲よりも、ものすごくキーが高くてちょっとびっくりしてしまいました……歌えるかな?って(笑)。
――それを、見事なほど高らかに歌い上げていらっしゃいますから流石ですよ。おそらく、ATOLSさんは「花たんなら歌い切れるはずだ」と見越した上で、敢えて難しい曲にしてくださったのでしょうね。
不安だったし、難しかったですけねぇ(苦笑)。それでも、とにかく大好きで良い曲だなと感じていたので、それをこうして歌わせていただけたというのは、本当にありがたいことだなと思います。5枚目にして、全く今までに無かったこういう曲をアルバムに入れられたことが幸せです。
――また、毎回花たんさんのアルバムにはレギュラーで参加されている、天野月さんによる楽曲「栞」も独特の存在感を放ってますね。この曲については、どのようなスタンスで向き合われましたか。
最初に「今回はどんな曲にしたいか」というやりとりを天野さんとさせていただいた時、わたしとしては天野さんの作られるちょっとダークでロックっぽい曲が好きだし、それが今回のテーマにも合うかな?と考えていたんですよ。だけど、そのあと天野さんからいただいた楽曲は全然ダークとかではなくて、最初は「あれ?」って思ったんです。
――確かに、ダークでもロックでもありませんね。むしろ、繊細で美しい楽曲です。
そうなんですよ。歌詞はお願いしたとおり二面性という要素がありつつ感動的だし、聴いていてすごく“しみて”来るんですよね。天野さんからは、直接「花たんが歌うなら、今回はこういう曲が良いなと思って作りました。最初の話とは違っていてごめんなさい」というメールもいただいて、その時点で自分の中でも切り替えが出来たので、この曲は聴いてくれる人たちにも思わずホロリと来てしまって欲しいなと願いながら(笑)、大切に歌っていきました。
――はたまた、今作にはEDM的な空気感をまとった「Out of Reality」なる楽曲も収録されています。花たんさんは、つくづく芸幅が広いですねぇ。
ユーロやトランス、EDMっていうのも実はわたしがとても大好きなジャンルなんです。でも、ここまで4枚のアルバムにはそういった楽曲って入れたことが無かったんですよね。それで、今回kors kさんとお会いして「どんな曲が欲しいですか?」というお話をさせていただいたときに、「EDMっぽいんだけど、アガるというよりはちょっと切ない感じの曲が欲しいです」とお願いしました。その結果、アルバムの中でもかなり目立つ華やかな曲になりました!
――では、bermei.inazawaさんが提供されている「凍る花」についてはいかがでした?
bermei.inazawaさんも、わたしは前から大好きな作家さんだったんですよ。『ひぐらしのなく頃に解』というアニメのエンディング曲で、bermei.inazawaさんの作られた「対象a」という曲があるんですけど、カラオケでもその曲は良く歌っていたんですよ。そういった意味で、今回は楽曲依頼をさせていただき、こういうかたちが実現することになったんです。
――ひとつの夢が叶ったわけですね。
曲を聴くだけで映像が浮かんでくるようなこのリアルな感じは、やっぱりbermei.inazawaさんならではですよね。とにかく、音づくりが細かいんですよ。ドラマティックだし。すごく臨場感がある曲で、これもわたしとしては今までにあまり歌ったことがないタイプの曲だったので、レコーディングの時に直接bermei.inazawaさんからしていただいたデイレクションがとても助かりました。この曲と出会ったことで、またひとつ新しい世界に踏み入ることが出来たような感じがしています。
――逆に、さつき が てんこもりさんの作られている「カミソリパーティー」などは、花たんさんの最も十八番な部分がいかんなく発揮されている曲であるとも言えそうです。
さつきさんとは、別のお仕事で2回ほどご一緒させていただいて来ているのもあって、最近だんだんとさつきさんがどういう歌い方が好きなのかとか、そういうことが分かってきましたね。これは、ちょっとヤンデレっぽい曲になりました(笑)。
――曲タイトルからして「カミソリパーティー」ですもんねぇ。
詞も曲も、かなりとばしてます(笑)。歌う時も、ヤンデレ的な感じを醸し出しつつ、でもあんまり暗くなり過ぎないように明るい感じで、主人公になり切って歌いました。
――いっぽう、ピアノの響きが特徴的な「poppin' jumpin'」はmaras kさんからの楽曲となります。この曲に対しては、どのような解釈をされていきましたか。
maras kは、まらしぃさんとkors kさんが一緒にやられているユニットなんですけど、この曲に関してはまらしぃさんが作詞と作曲、kors kさんがアレンジをしてくださってます。こういうノリの曲でピアノの音が入っているというのが、すごく新鮮でしたね。そういえば、この曲はディレクションが凄く面白かったんですよ。
――それはどのような意味で?
わたしが歌っていると、まらしぃさんが「もっと可愛く!」とか「もっとそこは恥ずかしそうに照れながら!」みたいに、細かく演技指導を入れてくるんですよね。どうやら、わたしはまらしぃさんの好みの女の子を演じさせられていたみたいで(笑)。歌詞も、まらしぃさんが理想とするちょいツンデレ系の二次元的女の子像を描いたものなんだって言っていました。「それをわたしが歌って大丈夫なんですか?」という心配はありましたけど、歌っていては面白かったです(笑)。
――なお、今作の佳境にはダルビッシュPさんによる「pale」も収録されていますが、こちらはなんとも躍動感のある曲ですね。
この曲はもともと今年の5月にやったライブツアーの為に、ダルビッシュPさんから書き下ろしていただいた曲だったんです。ダルビッシュPさんの曲って、基本的にはメタル寄りのロック的なものというイメージが強いんですけど、この曲についてはエモーショナルなものをお願いします、ということで作っていただきました。これは、歌っていてとても気持ちの良い曲ですね。
――そんな中、アルバム本編のラストを飾っている「胸の箱」は、川江美奈子さんによる楽曲になります。花たんさんとのコラボは、セカンドアルバム『Primrose Flower Voice』に収録されていた「花のうた」以来になるそうですね。
アルバム的には前回から少し時間が空いてしまったんですが、「花のうた」はライブで常に歌わせていただいているものでもあるので、今回はぜひ川江さんに曲をもう一度お願いしたかったんです。それと、自分的に純粋な恋愛ソングというものはこれまであまり歌ったことが無かったんですけど、今回は川江さんの作られる心に響くラブソングというものを歌いたかったので、「恋愛ソングをお願いします」ということで挑戦してみました。
――とても心打たれる歌になっていますね。
切ない想いを抱えた女性像、というんですかね。歌詞としては、「失恋しちゃったのかな? どうなのかな?」という感じのどちらか分からない書き方になっているので、歌っていくときにもそこを少しぼやかしたかたちで、でも寂しげな雰囲気は漂わせながら、という感じで歌っていきました。
――それもまた二面性ですよね。
しっかりしたキャリアウーマンの内にある切ない乙女心みたいな。そういう設定を自分の中で勝手につくりあげて(笑)、歌いましたね。
――そのほかにも、今作にはスマホアプリゲーム『クルセイダークエスト』オープニングになっている「knots way」と、Honey Worksさんによる「ラズベリー*モンスター」もスペシャルトラックとして収録されていますし、5thアルバム『ERiCa』はひたすらに大充実な作品に仕上がったようですね!
いろんなジャンルの曲が入っているので、きっといろんな人に楽しんでいただけるようなアルバムになったんではないかなと思います。わたし自身、あまりひとつの型にはハマりたくないという気持ちがあるので、とても理想的で満足のいく1枚になりましたね。協力してくださった皆さんに本当に感謝しています。
――さて。この年末には、このアルバムのタイトルを冠したレコ発ライブ『ERiCa』が大阪と東京にて行われることも決定しています。こちらに向けては、どのような気持ちで臨んでいくことになりそうです?
個人的には、ライブをするのはイヤなんですよ(苦笑)。
――イヤだった、ではなく?
はい。イヤなんです(笑)。
――なんと!
人前に出るのも、人と接触するのも好きでは無いし苦手なので。毎回ライブの前は「どうしよう。やりたくない。人前はヤダ……」ってなってしまいます(苦笑)。ただ、歌うこと自体は大好きだし、その日が近付いてくると「そろそろ歌詞を覚えなきゃ。怒られちゃう」っていう気持ちになってきて、やがて本番という風になる感じなんですよね。
――そうして本番が始まった暁には、「少し気持ち的には重荷だったけど、やっぱり実際にやってみるとライブは楽しい!」という風になれるわけですよね?
あー、どうだろう。でも、「楽しい!」というよりは、「とりあえず、当日になっちゃったしやるしかない!!」っていう気持ちでいっぱいいっぱいって言った方が正しいと思います(笑)。
――花たんさんの生歌を楽しみにしておりますよ。
そういうことを、OSTER projectさんとか周りの皆さんからも良く言われるんです。「生の歌も聴いてもらう機会をちゃんと作った方がいいよ。あなたの歌は、人は絶対に感動させるから」って。そう言っていただいたのをキッカケに、「じゃあ、やってみようかな」という気持ちにはなったので、もちろんやるからには来てくださるお客さんたちの期待に、なんとか応えられるようにしたいと思います。そういう前向きな気持ちは、前よりも持てるようになりました。でも、まだまだライブ慣れはしていないので、もし当日ステージの上でヘンに空回ってしまったらごめんなさい!(笑)
取材・文=杉江由紀
¥2,315 +税(8%)
商品番号:SCGA-00054