“酸欠少女”さユりの前に大きく開かれたネクストステージへの扉 そのカギとは
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さユり 撮影=菊池貴裕
抱えたギターを一心不乱に掻き毟り、凛と張り詰めた歌声を響かせる、2.5次元パラレルシンガーソングライター・“酸欠少女”さユり。
いま、彼女の内側に劇的な変化が起こりつつあるようだ。12月7日リリースの4thシングル「フラレガイガール」は野田洋次郎プロデュースのもと、“こっぴどくフラれた女の子”になりきって独特の詩世界を見事に歌い、カップリングの「アノニマス」では<応答してよ>と呼びかける。これまで、ともすれば自己完結してしまう側面もあった彼女の表現は大きく外を向いた。
かつて拒絶しながら焦がれてきた“世界”に「溶け込んでいきたい」と語るさユり。彼女はいま何を思うのか、どこへ向かうのか。そんな現時点の心境を、“宣戦布告”の名の下に行った先日のワンマンの振り返りと、最新作に収録の各楽曲を紐解くことで明かしていきたい。
――まず、先日のワンマンライブ『夜明けのパラレル実験室 in新宿 ~ここに宣戦布告編~』は、さユりさんにとってどのような位置付けのライブだったんでしょうか。
“~ここに宣戦布告編~”というタイトルは「アノニマス」の歌詞から取っていて、「アノニマス」っていう曲自体が自分の心境を言い表しているんですけど、この曲を完成させたことは自分にとってすごく大きくて。最近、お客さんと接するというか……ライブや音楽をやっていく中で「つながりたい」という思いがすごく大きくなったんですね。今までは自分一人の中で「なんでライブをやるんだろう」、「なんのためにこの曲を作ったんだろう」とか、いちいち理由を考えたり、理由を作らないと動けなかったんですけど、それってすごく傲慢なことじゃないか?と最近思うようになったんです。
――傲慢というと?
自分の中だけで理由をつけて完結しようとしているなんて、もったいないなというか。それをライブ活動やお客さんと関わる中で感じたんです。理由がわからないからこそ、自分が歌う理由を他者に託そうって思えるように、そういう変化があって。
――それはコミュニケーションを取っていこうという気持ちでもありますか。
そうですね。自分の足らないところとか、わからない部分を人に託して、それが巡り巡って面白いことにつながれば良いなっていうか。そういう思いが芽生えて迎えたライブだったんです。
今までは人が悩んだり苦しんだりしていることに対して、一曲一曲で返そうっていう姿勢……この曲ではこういうことを歌う、こっちの曲ではこういうことを歌う、っていう感覚だったんですけど、最近は自分が歌うことそのものが答えになればいいなっていう風に思うようになったんですね。
答えを、わたしがわからないけど歌っている、足りないけど、それでも歌っているという行為自体が、存在自体が答えになるように、居場所になるように……なりたいなっていう風な気持ちが芽生えて。その決心、決意表明もあって“宣戦布告”と名付けたんです。
――そしてそのことを実際に歌ったという。それって結構劇的な変化じゃないかと思うんですよ。
そうですね。結構、ハッとする思いでした。
――きっかけみたいなものがあったんですか?
デビューしてから、そういえば思いもよらないことがたくさんあるなって気づいたんですね。デビュー曲の「ミカヅキ」も、アニメ『乱歩奇譚』のエンディングテーマをさせていただいたんですけど、作品とシンクロする部分があるって言っていただけたことで、つながって面白いものができたし、そこからまたつながって、一人で歌ってたときには考えられない、梶浦由記さんの曲(「それは小さな光のような」)を歌わせてもらったりとか。
自分が不揃いだからこそ辿り着いた場所があったし、ファンの方からのお手紙でも「私がこういう状況のときに、この歌詞にこう助けられました」みたいなことも言われて、わたしの曲たちが、巡り巡っていろんな人のところに動いていっていることで、すごく生きている感じがして。それをデビューして1年経って実感できるようになったんです。
――自分の内側に向けた言葉だったり歌だったりしたはずのものが、いつの間にか他の人にとって意味があるものになっていった。それで自然と外側を向くようになっていったっていうのは、とても良い流れですね。
さユり 撮影=菊池貴裕
はい。そういう救われ方もあるんだっていうことに気づけました。全然関係のなかった人、何処かの誰かが泣いていて、それがネットとかで私のところまでやってきて、それで一曲書けて、またそれによって誰かが救われて……それだったら、その泣いたことには意味があったんだ、素敵だなって。
そういう気持ちを「アノニマス」では投影できたなって思います。「ミカヅキ」の頃は、自分が苦しいっていうことを歌っていて、それに対しての反応が自分のところに帰ってきてほしいっていう思いが、無意識だったけど強かったように思うんですね。それが「アノニマス」では、自分が投げたボールが社会や世界の一部になってどこかにつながっていければ良いなって、そういう思いがあったり。……もちろん自分のことも見てほしいんですけど(笑)。
――跳ね返ってくるだけじゃなくて、自分が知らないところでも曲自体が色々と作用していったら良いなっていう。
そう。そういう意味では一番外を向いた曲ができたなって思っているし、つながりたいっていうのはそういうことなんだと思います。
――僕がこの間のライブを観ていてなんとなく感じたことの答えを、今いただけた気がします。そんな心境のもと、「アノニマス」も収録されるニューシングル「フラレガイガール」が間もなくリリースされるわけですが、まずトピックスとしては何と言っても野田洋次郎プロデュースという部分で。どんな経緯だったんですか?
去年の12月、わたしがレコーディングをしているときに隣のブースで野田さんが一人で作業をしてらっしゃったんですよ。わたしは昔からRADWIMPSが好きだったので「!!」って思って、CDを持っていって「聴いてください」ってご挨拶したら受け取ってくださって。それが初めてお会いしたときなんですけど、それからしばらくして野田さんが、“自分で歌う曲ではないな”って思う曲を歌う女性ボーカルを探しているとき、以前渡した「ミカヅキ」を聴いてくださったそうなんです。それで、お声がかかりました。
――ではこの曲自体は元々ある程度形ができた状態で、さユりさんが歌うのが良いんじゃないか?っていう流れだったんですね。
はい、そうです。
――だからか、この歌詞にしてもすごく野田洋次郎ワールドだと思うんですよ。胸の内であったり、その心情や情景描写の生々しさ。でもそれをさユりさんが歌うと、意外なくらいしっくりくるなぁと思いました。
ありがとうございます。曲自体はスッと入ってきたんです。それに歌詞の舞台やストーリーも完全に出来上がっていたので、飛び込むような感覚で挑めて。すごく気持ちは良かったですね。喋っている感覚で歌えたし、生活している感じというか……ちゃんと“フラレガイガール”になれたんだと思います。
――共感できる要素はあった?
そこは前提としてありましたね。過去にフラれた記憶も一番最初に甦ってきましたし、それでちょっとウルっとなったり(笑)。
――実際にレコーディングやライブで歌ってみて、この曲のどんなところが好きですか?
歌詞でいうなら、<それだけで もう生きていけると 思ったのです>が私は気に入っていて。あとは一番最後の<次の 涙も 溜まった 頃よ>っていう、そういう進み方。普通は涙を流しきって前に進む、だと思うんですけど。
――ですね。
それを、涙が溜まったから次の時間だって言う感覚が、なんだか素敵に思えて好きで。あとはすごくリアルタイム感が強いなって、歌っていても聴いていても思います。最初、やるせない気持ちとか愛しい気持ちとかがグチャグチャになって身体の中にあって、<フッてんじゃないよバカ>って強がることで自分を奮い立たせるというか、言いながら少しずつ強くなっていってるんだなっていうことを、歌っていて感じます。ちゃんと、罵倒にならない“バカ”というか、ストーリーがあって決意があってっていうところが良いですよね。
さユり 撮影=菊池貴裕
――確かに。この表題曲がまずプロデュースの面でも注目が集まりますけど、さっきもお話に出た「アノニマス」、これまた「フラレガイガール」に勝るとも劣らない曲じゃないですか。
ありがとうございます。
――風景や情景を描写しながら、サビでメッセージをしっかり投げ込んできて。
そうですね、まさに。まず“当事者になりたい”っていう思いがあって作った曲で、でも自分は当事者になれなくて、ずっと俯瞰しながら生きてきたような感覚があるから……なのでAメロとかではすごく俯瞰しているような感覚なんですけど、でも伝えたいこと、当事者になりたいんだっていう思いがあるから、そこをサビに詰めて……みたいな。
――その当事者っていう言葉が表すものに、もう少し突っ込んでいいですか。
うーん……ずっとわたしは何処にいても、簡単に言えば馴染めてないっていうことだと思うんですけど……喋っていても、喋っている自分を見ている自分がいるような、心から楽しめていないまま過ごしていたんですね。学生時代から。で、誰ともつながっていないような感覚があったし、じゃあ何のために、何をしに生きているんだ?みたいな思いもあって。生きている実感もないまま段々とつまらなくなっちゃったりもして。
そういう風に生きてきたんですけど、今は世の中的に見ても「当事者になりたいけどなれない」「なりたがらない」って多いと思うんですよ。当事者になるとバッシングの対象になりがちだったりするし、価値観とかもすごくいっぱいあって、やれることもたくさんあるからこそ、みんな何をやったら良いのかわからなかったりもする世の中なのかなって思うし。
――とてもよくわかります。
例えば、インターネットのことだけで言っても、無関係のニュースにみんなして飛び込んでますよね。わたしもそうで、生きているという実感がないから、いろんなトピックスにかじりついて何か言おうとするっていうことを繰り返していたんですね。
今は誹謗中傷なんかも多いですけど、それって「なんでだろう?」って考えると、みんな信じられるものを求めている、信じたいんだなと、あるとき思って。いっぱい色んな人がいて、色んな価値観がある中で、きっとみんな寂しかったり孤独だからこそ、傷つけたりもしながら自分の信じられるものを探してるんじゃないか?って。
――外野からああだこうだ言う声っていうのは、本当は当事者に憧れる人たちの自己表現の声なんじゃないか?と。
はい。そうやってみんな自分自身を探りながら、世界を探りながら生きてるんだなって思って。
――で、さユりさんとしてはそこから一歩踏み出そうと思ったわけですよね。歌詞にも<応答してよ>ってありますけど、それって先ほどの話でいうと投げたボールを投げ返してくれっていう欲求でもあって、それを歌うのは、すごく勇気が要ったことだと思います。
そうですね。そうなんですよ……だから、伝わればいいなって思います。自分がこれを歌うことで、誰かに何かを伝えてみようって思える人がいたらいいなって。
――これまでの作品を発表したり、ライブを続けてきた中で、自身と世界の関わりが変わってきたんでしょうか。
なんというか、球体のまま突き進むというより、小さな粒子になってたくさんのところに入り込んだり、溶け込んだり、いろんな要素をもたらしたりしながら生きていけたらなっていう感覚になっていますね。……うん。入り込んでいきたいです、世界に。
――元々はそこに壁もあったと思うんですけど。
そうですね。嫌悪感みたいなものはすごくあったかもしれないです。
――球体でいうならば、その壁にバシバシぶつけていくみたいな。それが楽曲やパフォーマンスの熱になっていたと思うんですよ。
今もそういう面もあります。そこもあるし、溶け込んでいきたい気持ちもあるしっていう。
――そう考えると、今、さユりさんがそういう心境にあることが、すごく現れた一枚になっていますよね。
ああ! そうなのかもしれないですね。
さユり 撮影=菊池貴裕
――ちなみに。以前、曲には匂いがあるっていうお話をしていましたけど、今回の楽曲たちはどんな匂いだったんですか。
「フラレガイガール」は自分が曲を作っているときのマインドとしての“匂い”とはまた別かもしれないです。でも、情景はあって、ライブで歌っていると匂いがこみ上げてきて。だから、もしかしたらこれから感じるものはあるのかもしれないです。
――では「アノニマス」はどうでしょう。
「アノニマス」は……あの、すごく具体的なことで言えば、デスクトップのパソコンの空気が出るところの匂い(笑)。量販店とかに行くと特に匂うかもしれないんですけど、あったかい空気がでている感じ。……それで何が伝わるんだ?っていう話なんですけど(笑)。
あ、でも「プルースト」はまさに、そのわたしの好きな“匂い”について歌っている曲なんです。プルーストという小説家のお話に、匂いから記憶が呼び起こされるっていう描写があって、プルースト効果っていう言葉にもなったみたいなんです。
――それってまさにさユりさんが元々やっていたようなことじゃないですか。
そうなんです。ギターを弾いてたら強烈な匂いのするメロディが浮かんで……秋と冬の間って強烈な匂いがあるじゃないですか。センチメンタルな感じの、キンモクセイが香り始めたような、あの感じ。その匂いそのもののことを歌にしようと思って出来た曲で、だからすごく特殊な作り方をしたんですけど、すごく気に入ってます。先にストーリーや景色、言いたいことがあったわけじゃなくて、匂いだけの状態から作り上げた曲ですね。
――詞先とか曲先っていう言葉もありますけど、“匂い先”っていうことですね。
もう完全にそうですね(笑)。
――そして「プルースト」の入っている初回Aでは、n-bunaくんのボカロ曲「ルラ」のカバーをしています。
はい。「ルラ」は歌詞もすっごく自分にハマるんですね。
――シンデレラがモチーフの曲ですけど。
そうですね。n-bunaさんのインタビューをどこかで見たときに、あの曲を描いた経緯で“シンデレラを読んで思うことは、待ってるだけで迎えが来るシンデレラが羨ましい、それに尽きますからね”みたいな、突き放す感じで言っていたりして、「あ~個性だ」って思います。
――配信を含めるとこれで4枚のシングルが出ることになって、そうなると俄然アルバムも期待したくなるわけなんですが。
そうですね。楽しみにしていて欲しいです。
――では、そこから先も含め、どんな存在になっていきたいですか。
不揃いなりに、いろんな人と出会いながら……匂いを嗅ぎながら、巡り巡って楽しいこと、面白いことができたらいいなと思います。
そうやって人とつながれることによって、すごく生きている感じがするなって最近思ったりもするし、そうやって歌って輪を広げていきたいです。……あの、もっと大きいところでライブやりたい気持ちはもちろんですけど(笑)。
――それはもちろん。
……なんか、わたしも含め、生きている理由はわからない人たちも、みんな奇跡があってほしいっていうことは願うと思うんです。わたしもそう思っていたところに、この「フラレガイガール」の話が来て、生きているのは面白いかもしれないと思えたりもしたから、そういう思いが生まれるような、心揺さぶられるものを作っていきたいです。
取材・文=風間大洋 撮影=菊池貴裕
さユり 撮影=菊池貴裕
2016年12月7日発売
初回生産限定盤 A
1.フラレガイガール
2.アノニマス
3.プルースト
4.未定
DVD
渋谷WWWワンマンライブ「ミカヅキの航海」ライブダイジェスト映像(2016/04/23)
封入特典:酸欠少女さユりキャラカード(4種の中から1種ランダム封入)
デジパック仕様
価格:¥1481+税
BVCL-763~764
初回生産限定盤 B
1.フラレガイガール
2.アノニマス
3.ニーチェと君
DVD
アノニマスMV(フルレングスver.)
封入特典:酸欠少女さユりキャラカード(4種の中から1種ランダム封入)
デジパック仕様
価格:¥1481+税
BVCL-765~766
《通常盤》CD
通常盤
2.アノニマス
3.アノニマス-remix-
初回仕様限定封入特典:酸欠少女さユりキャラカード(4種の中から1種ランダム封入)
価格:¥926+税
BVCL-767
全国CDショップ/オンラインショップにて12月7日発売さユり4thシングル「フラレガイガール」をご予約頂いたお客様に
“酸欠少女さユりキャラカード(AR仕様)”をプレゼント致します。特典には数に限りがございますので、ご予約はお早めに!
※一部CDショップ/オンラインショップを除きます。詳しくはお近くのCDショップまたはオンラインショップにお尋ねください。
※特典は商品引き取り時のお渡しとなります。
※未予約での購入分には付与されません。