少女達にとっての「ライオンハート」と「嵐が丘」【エンタメ徒然草01】

SPICER
Kate Bush「Lionheart」ジャケットより

Kate Bush「Lionheart」ジャケットより

少女時代の新曲『Lion Heart』が8月18日に発表されるやすぐに韓国中の音源チャートのトップを独占した。しかし、「ライオンハート」といえば、編集子がパッと思い浮かべるのは、なんといってもケイト・ブッシュ20歳の時のアルバム(1978)の題名であり、そしてまた、そこに収められた『Oh England My Lionheart』である。参考までにyoutube動画も貼る。


とりわけ、この中の一節、

Oh, England, my Lionheart
Peter Pan steals the kids in Kensington Park
You read me Shakespeare on the rolling Thames
That old river poet that never, ever ends


嗚呼イングランドよ、わが獅子なる心
ピーターパンはケンジントン公園の児らを攫ひ
君は渦巻くテムズにてシェークスピアを読み給ふ
かの古き河の詩人いかで滅すべき


…を聴くにつけ、2013年に大英帝国勲章を叙勲されることになるケイト・ブッシュが若い時分から、いかに「愛国少女」であり、また「国文学少女」であったかが如実に窺える。そもそも「ライオンハート」なる言葉は、12世紀のイングランド国王リチャードⅠ世が「獅子心王(Richard the Lion-Heart)」と称せられたことに由来しているのだから、それをイングランド以外の民草が軽々しく用いるのは少々おこがましいことなのかもしれない。

そしてケイト・ブッシュの「国文学少女」ぶりは、かの有名なデビュー曲『嵐が丘』(1977)から既にして明らかだった。言うまでもなく、英国文学の最高峰の一つに数えられるエミリー・ブロンテの小説に基づく楽曲である。幼馴染のヒースクリフに恋焦がれるあまり亡霊となったヒロイン・キャサリンが、「私よ、キャッシーよ、帰ってきたの、寒いわ、窓から中に入れさせて」と訴える内容だ。ケイト・ブッシュの本名はキャサリン・ブッシュなので、己れにキャサリンを同化させたかのように…というか、ヨークシャーの荒野を彷徨う愛の亡霊が当時19歳の少女に憑依したかのように歌うさまが世界に衝撃を与えて、大ヒットした。ちなみにこの曲、わが国では明石家さんまの『恋のから騒ぎ』のテーマ曲として世代を超えてよく知られている。

8月22日に堀北真希山本耕史が結婚したと聞いて、多くの人はキャサリンとヒースクリフがついに結ばれたのかと安堵したことであろう。各種報道にある通り、この二人は今年の5月にG2の脚本・演出によって日生劇場で上演された『嵐が丘』出演をきっかけに交際を始めた。キャサリンを堀北真希が、そしてヒースクリフを山本が演じた。芝居の中では、生きているうちに結ばれることのなかった二人ではあったが、現実において恋を成就させえたことは慶ばしき限りである。

このような展開が待っているのならば日生で『嵐が丘』を観ておけばよかった、と思う御仁も少なくないだろう。しかし有難いことに、WOWOWが近いうちに『嵐が丘』を放送するのではないかという観測が囁かれている。

というのも、先頃、WOWOW総合のTwitterとして「10/3(土)放送決定! 【舞台「嵐が丘」堀北真希×山本耕史×戸田恵子】 」という情報が出されたが、すぐに引込められたというのである。真相は不明だが、世間の盛り上がりの様子を見ながらベストの放映日を再調整している可能性もある。ともあれ、いま世の中の『嵐が丘』観劇欲が急激に高まっていることは明らかである。WOWOW側も新規加入者の大幅増を見込めるチャンスだから、早々に対応するに違いない。
堀北真希・山本耕史主演「嵐が丘」宣伝写真より

堀北真希・山本耕史主演「嵐が丘」宣伝写真より


ときに堀北といえば、昨年『9days Queen~九日間の女王~』という舞台に主演したことも記憶に新しい。16歳にしてイングランド初の女王に即位するも僅か九日間で廃位させられ、斬首刑に処されてしまった悲劇の少女=ジェーン・グレイを好演してみせた。してみると堀北の体内にケイト・ブッシュに通底するイングランド魂が次第に宿り始めているようにも感じられ、だとすれば新郎の山本側にも“獅子の心”を備えることが求められるだろう。…と書きながら、思い出したのは、堀北は2010年にジャンヌ・ダルクも演じていたのだった。ジャンヌ・ダルクは英国の敵であった。ま、それはいいか。

さて、冒頭で触れた少女時代の新曲『Lion Heart』であるが、ここでは“獅子の心”さえも「手なづけるわよ」「飼い慣らしてみせるわ」と歌われる。現代の少女の時代は、そんなところにまで変容してしまったかと、些かの複雑な気持ちを抱えつつも、であればぜひ堀北キャサリンには、山本ヒースクリフを「手なづけて」欲しい、とも思った次第であった。

シェア / 保存先を選択