メンバー脱退&オリジナルメンバー復帰を経たHUSKING BEEは、最新作で何を示したのか
-
ポスト -
シェア - 送る
HUSKING BEE 撮影=風間大洋
1stアルバム『GRIP』から20年。オリジナルメンバーの工藤哲也(B)が復帰し、放たれたHUSKING BEEの8thアルバム『Suolo』。インタビュー内で“おっさんのやる肩の力の抜けたメロコア”との発言も出てくるように、彼らの最新作から聴こえてくるのは、攻撃的なパンクというより柔らかく優しいインディロックだ。メンバーの脱退や工藤の復帰といったバンドにとって小さいとは言い難い出来事を経る中で、いかにしてこの作品が作りあげられていったのか、そして現在のHUSKING BEEは何を思い、何を体現しているのか。磯部正文(G/Vo)と工藤の2人に訊いた。
――今日はこのインタビューのあとスタジオで練習ということですが、最近のスタジオはどんな雰囲気ですか?
磯部:最近はね、テッキン(工藤)が戻ってきていつもの感じになったというか。和気あいあいとまではいかないけど、けっこういい感じに集中して曲の練習とかやってる感じがするかな。意見もわりと出やすくて。
――なるほど。
磯部:(今年の春に脱退した)若い2人と一緒に作っていくのも楽しかったんですけど、テッキンさんがいることによって出来ること、みたいな部分も大きいなと思ったりしました。だから人間関係って難しいなぁと。
――テッキンさんに再加入してもらったことは間違ってなかったと。
磯部:そうですね。これで「間違えてた」とか言ったら……ねぇ?
――たしかに(笑)。
磯部:もちろんそんなことはなくて、とてもいい感じになってるなと。
――今、話にも出ましたけど、かつてのメンバーだったテッキンさんが再び加入する流れのなかで、それまでのベーシストだけでなくドラマーまで脱退してしまうという出来事がありました。このメンバーチェンジはかなりの波紋を呼びましたね。
磯部:そうなんですよね……一緒にバンドをやってるとどっちにも言い分があるから、話す相手によっては良くも聞こえたりするし、悪く聞こえたりもする。でも、僕はメンバーチェンジの理由を特に話したいわけでもないので、「すみませんがこういうことになってしまいました」っていう感じなんですよね。
――今回脱退したメンバーがハスキンに加入した時のインタビューを読みましたけど、「周りに反対されても、自分でこれがいいと思ったことを押し通すほうが上手くいくんだ」っていうことをイッソン(磯部)さんは話していました。今回もそういう譲れない思いがあったんですか?
磯部:さすがに今回はそんな感じではなかったかな。すごく難しかった。でも、結局決めたのは自分だし、自分の責任だから。
――テッキンさんとしては、復帰に至るまではどうだったんでしょう? 一度、『AIR JAM 2012』のときにはサポートという形で参加してましたが。
テッキン:自分の人生プラン的に、バンドをがっつりやって生活することからは完全にシフトチェンジしてたんですよ。あくまでも仕事ありきで生活を安定させて、その延長でバンドができればっていう感じになってたんで、HUSKING BEEに関しても限定的な動き以外では全然やる気はなかったですし、客観的に見守るような感じだったんですよ。
――なるほど。
テッキン:これまでもイッソンとはずっと、月に一度ぐらい一緒にメシを食ったりしてて、その時にお互いに「どうよ?」って話をしてたんですけど、HUSKING BEEの再始動に関しては良い感じの話ばかりをずっと聞いてて。だけど、僕に加入の話をするちょっと前ぐらいから「おや?」って思うような話が出始めて。今回僕に(再加入の)話をしてきたのも、自分の中で葛藤しながらHUSKING BEEを上手く回していこうとしてたんだけど……っていうところまで考えてのことだろうと思ったし、僕の状況も分かってくれた上で話をしてくれたんで、その場で即答はしなかったですけど、気持ち的には断る理由はないなと。
――2012年から時を経たことでテッキンさんの中でも考え方が変わる部分があったと。
テッキン:HUSKING BEEを動かす意味について当時はすごく考えました。やっぱりすごく大切なぶん、動かさないほうがいいんじゃないかっていう思いもあったし。でも、今動いていることに対しては「俺が入ってもっとよくなるなら」っていう考えになったから。
HUSKING BEE 撮影=風間大洋
――イッソンさんはそれだけテッキンさんとやりたいと思ったということは、鳴らしたい音のビジョンが明確にあったということなんですか?
磯部:音というか、曲というか、ライブ感というか。
――総合的に?
磯部:うん。そうですね。その中でも曲作りに関する部分が一番大きいですかね。
――具体的には?
磯部:テッキンは僕が何かを作ったり、スタジオで瞬発的にワンフレーズだけ出来たりするときに、自然にポツッと「すげぇいいなぁ」とか「いい曲になるなぁ」みたいなことを言ってくれるんですよ。それだけで「もっとよくしたいなぁ」って思えて。こうやって話すと小さなことのように思えるけど、自分にとっては大きいことなんです。
――そういうちょっとしたひと言が助けになってたと。
磯部:「これがいい曲になるって思ってくれてるんだなぁ」と。そうするとね、自分のモチベーションが上がってくるし、バンド全体のモチベーションにもつながるんですよ。
――そんな作業を経てできた今作ですが、まずジャケの話から聞かせてください。1stアルバム『GRIP』を思わせるアートワークになってますけど、これはどこから着想を得たんですか?
磯部:メンバー2人が4月に脱退してから葛藤しまくってて、「もういっぺん地に足をつけてやらんといけんなぁ」とかいろいろ考えていて。そんな中、普段自分の子どもと公園で土遊びすることが多くてよく自然のことを考えてたんですけど、「そういえば(『GRIP』の)ジャケット撮影で携わってもらった彼はもうすっかり親になってるんだよなぁ」とか思ったりして、「ああ、そうだ。次のアルバムのジャケットは親になった彼が子どもを自転車に乗せてる姿を撮るのがいいなぁ。曲のアイデアともつながるなぁ」と。
――そういう気持ちがこもった『Suolo』(地面)だったんですね。
磯部:そう。響き的に好きだし、意味も好きだし、自転車のジャケの感じにもつながりそうだなと思ったので。ジャケを発表したときはわりといろんな人から好評で、自分としてはやりたいからやっただけなんだけど、「そんなふうに思ってくれるんだ!」って。
――そりゃあ、ざわつきますよ。
テッキン:『GRIP』からちょうど20年っていうことも撮影のときに気付いて。
磯部:そう。「久しぶりー! こんな撮影できてうれしいよね」って話してて、「俺、あのとき14歳だった」「じゃあ、俺は24だったんだね……ということは、ちょうど20年ぶりに撮影してるんだ!」って感慨深くて。
テッキン:そんな偶然、なかなかないですよね。
――そして、ジャケから想像して『GRIP』みたいなフレッシュなパンクサウンドが流れてくるのかと思いきや。
テッキン:ふふふふ。
磯部:ははは!
――全然違うという(笑)。
テッキン:気持ち的には原点回帰と言われてもいいぐらいではあるんですけど、音としては一度解散する前に出した『variandante』の延長にあるというか。
HUSKING BEE 撮影=風間大洋
――イッソンさんのイメージはどんな感じだったんですか?
磯部:脱退した若い2人と一緒にやってきた2枚のアルバムでの経験とか感謝の気持ちも大きかったので、そこと繋げたいなっていう気持ちもありました。だから、『GRIP』感がめちゃくちゃあるようなものを作らなきゃとは全然思ってなかったし、今回は今までのハスキンの流れのなかで培った経験から生まれたものや、純粋に今やりたいと思う曲たちを作りました。
テッキン:初期の音っていうのは引き出しのひとつではあって、やろうと思えばできることなんですよ。「じゃあ、やってよ!」って思うかもしれないけど、それは機がきたらって感じですね。
――じゃあ、今100%この音を出したかったというわけではないんですね。あくまでも引き出しのひとつであって。
磯部:やりたいと思うことはふんだんにあって、皆さんがくれたコメントだと、「(今作を)『GRIP』と並べたい」とか言ってくださるけど、自分としては『GRIP』と近いからこうしたってわけじゃなくて……でも、やっぱり『GRIP』と繋がってくるものは自分でも欲してるのかもしれないなぁと思ったり。今後、わりと自分でも戻っていく感じはあると思います。だからこそ、やりたいことをやった今回のアルバムには意味があるんじゃないかなぁと。
――音としてはいい具合に枯れたインディ・ロックという印象です。
磯部:そういうのを狙ってはいます。
――サウンドの質感も柔らかくて優しいし、そういう音作りを意識したのかなと思ったんですけど。
磯部:そんなに攻撃的ではないですね。
テッキン:今回は忠章くん(福田"TDC"忠章)のドラムとかいろんな要素があってそう聴こえるのかもしれないですね。
磯部:そうかもしれない。今回、縁あって忠章に曲作りから全曲関わってもらったから、それも大きいかもなぁ。
――忠章さん以外にもゲストの数がすごく多いですよね。特に「Puff」はどういう意図があったんでしょうか?
磯部:おっさんになっても歌えるような曲が作りたいなと。「Pressure Drop」といういろんな人がカバーしてるレゲエの曲が好きなんですけど、それと匂いが近い曲……レゲエというよりは、パンクとかいろんな要素が詰まった、自分なりのレゲエソングを縁がある人と歌いたいなぁと思ってて。そうしたら、6月ぐらいにとあるライブに元NUKEY PIKESのミツハシ(アツシ)さんがお客さんとして来てくれてて、打ち上げのときに「なんかあったら呼んでよ」って気軽に言ってくださったんで、「新曲で歌っていただきたいのがあるんですけど」って言ったら、「嫌だよ!ダメだよ!」って(笑)。でも、結局スタジオまで来て歌ってくださって。あと、この曲はイントロがちょっと長くて、ここで誰か「曲が始まるぞ」みたいなMCをしてくれないかなと思ってTAKAに相談して、っていうふうにしてゲストが増えていったんですよね。
――まさに“ユニティ”って感じですよね。
磯部:うん。ジャケにしてもそうだし。今までつながりのあるというか、僕が上京してからものすごく頻繁に見に行ったのがNUKEY PIKESだし、いろんな刺激があった時代のなかでも特に印象的なバンドなので、こうやって今につながることを考えると「わりと面白いバンドをできてるな」って。そんなことを思ったりしながらレコーディングしてました。
HUSKING BEE 撮影=風間大洋
――アイゴン(會田茂一)さんに関してはどうでしょう?
磯部:「おっさんのやる肩の力の抜けたメロコアが格好良いかもね」って話に忠章となって、「だったらそんな曲作りたいな」と思って急に作ったんですけど、ほぼ出来上がってきた頃に「バンジョーの音が入ってたら軽やかに鳴るような気がするな」と思って。そうしたらテッキンが「アイゴンさんがいいんじゃないの?」って。それで最初はバンジョーを借りようって話になりまして。
テッキン:會田さんがバンジョーを持ってることは知ってたんで、最初はお借りして僕が練習したんですけど、そんな簡単に弾けるもんじゃなかったのでお返しして(笑)、「これは本人に弾いてもらったほうが早い」ということでお願いしました。
――テッキンさんは再びハスキンに戻ってこうやって作品が出来上がって、今のHUSKING BEEについてどう思いますか?
テッキン:すごくいい意味でカテゴライズされにくい音になったなと。パンクバンドとも対バンできるし、ポップなバンドともできるし、年上とも年下ともやれるっていう相変わらず幅広い感じでやれそうだなっていうことは、アルバムを録り終わってから感じましたね。すごくHUSKING BEEの音だなって。
――ここ数年、ハスキンが動き出したり、ハイスタが音源をだしたり、BRAHMANが去年大きな祭り(『尽未来際』)を開催したりとパンクシーンに大きな動きがありますが、90年代を生き抜いてきたバンドから刺激を受ける部分はありますか?
磯部:ありますよ、もちろん。BRAHMANがメンバー変わらずに続いてるっていうのは本当にすごいことだと思うし、ハイスタも本当にいろいろありながらも「すごいな!」と思うし、自分にとって今後も指針になるというか、「あの人たちがいるから大丈夫だ」っていう感覚は一緒にやってきた人たちに対してはありますね。
テッキン:生活やいろんなことが変化していくなかで継続してバンドをやったり、また動き出したりっていうのはすごくパワーが必要だと思うから……バンドっていいなって思いますね(笑)。なかなか難しいことだからこそ面白いというか、バンドを良い状態に持っていって良い音を鳴らしてるのをみると、「ああ、やっぱり大したもんだなぁ」と思いますね。いい世代の中でやれてると思います。
――ケツを叩かれてる部分もあり、安心する部分もあり。
テッキン:ハタチぐらいから一緒にいるから変な感じですけど、楽屋とかで子どもの話になりますからね。すごく良い変化だと思います。
――今後は自分たちのペースでやっていけたらって感じですか?
磯部:どうだろうねぇ? 今後も「ああでもないこうでもない」って考えたりしながら、いろんな波のなかで進むんでしょう。でも、「今、しゃかりきになってんなぁ!」って思う瞬間があったらそれは最高だけどね。
――それにしても、まさかハスキンが再びこんなふうになるとは思いませんでしたよ。それはお2人にしてもそうですよね?
磯部:そうそう。4、5年前なんてまさかハスキンをやるとは思ってなかったから、すごいと思う。怒涛の変化。でも、いろんなことがあって……様々な決断をする時にたくさんの人を巻き込んじゃうから、責任をもってやらなきゃいけないとは思ったりするんですけど。まあ、今後の展開は……この“続きはウェブで”って感じですね(笑)。
取材・文=阿刀"DA"大志 撮影=風間大洋
HUSKING BEE 撮影=風間大洋
発売中
『Suolo』
2.Carry You
3.Let We Go
4.Across The Sensation
5.Invisible Friends
6.Grand Time
7.Spitfire,8.Blue Moon
9.Compass Rose
10.Nonesuch
11.Suffer
12.Puff
13.通りすがりの物語
2017年1月20日(金)北海道 BESSIE HALL
<出演者>
HUSKING BEE / NOT WONK
<出演者>
HUSKING BEE / bacho
<出演者>
HUSKING BEE / bacho
<出演者>
HUSKING BEE / Tokyo Tanaka(MAN WITH A MISSION)、ミツハシアツシ(ex NUKEY PIKES)、白川貴善(BACK DROP BOMB、Noshow)、下村亮介(the chef cooks me)
<出演者>
HUSKING BEE / WATER CLOSET
<出演者>
HUSKING BEE / BACK DROP BOMB / the PRACTICE
<出演者>
HUSKING BEE / BACK DROP BOMB