“一歩一歩確かめながら歩いてきた”バンド・ircleは、自身を掘り下げながらも大きく開かれた最新作で何を歌うのか

2017.1.6
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音楽

ircle 撮影=風間大洋

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決して順風満帆でも、平坦な道程でもなかったはずだ。だが、2001年に地元・大分の同級生同士で結成され、2016年で結成15周年を迎えたバンド・ircleは、自身の15年間を「実際に振り返ってみて悪いもんじゃなかった」と振り返る。自身の原点でもあるライブハウスの名を冠した最新作『Copper Ravens』のリリース、さらには過去最大規模となるワンマンライブを含むツアー開催を控えたタイミングで敢行した、SPICE初登場となる本インタビュー。彼らの抱く思いを紐解きながら、最新作についてはもちろん、バンドの結成時からこれまでの歩み、そして現在地を語ってもらった。時を重なるにつれてより明確になりつつあるビジョンやアティチュード、感じる高揚、あるいは生き様。それら全てを音にブチ込んだ快作を高々と掲げ、ircleは2017年の音楽シーンに挑む。

──1月11日にミニアルバム『Copper Ravens』をリリースされますが、タイトルは地元・大分にあるライブハウスの名前からきているそうで。よくライブしていたんですか?

河内健悟:してました。でも、昔はライブハウスじゃなかったんですよ。

仲道 良:元々はバーがメインだったんですよ。でも、一応ステージみたいなのがあって。

河内:そうそう。あとはドラムとかも置いてあって。全部生音だったんだけど、先輩がそこでライブしてるのを知って、俺らもやろうって。

仲道:その当時にもう他のライブハウスにも出演してたんですけど、オーナーさんに使わせてください!って頼みに行って。そしたら、今思うと簡易的なものだけど、PAシステムとか、機材とかが揃っていって。高校3年間とその後もちょっと出てたんですけど、自分達が精神的に一番成長するときに、ライブハウスも一緒に成長していった感じがあるんですよ。

ショウダケイト:だから、ircle発祥の地みたいなところですね。

──ホーム中のホームと言えますね。

河内:伊井ちゃんの家が一番近かったよね?

伊井宏介:ライブのリハが終わって、自分達の出番がくるまでの間に、帰ってご飯食べてましたからね(笑)。

仲道:チャリで来て、チャリで帰るっていう。それぐらい地元なんですよ。

河内:まぁ、目の前は風俗店なんですけど(笑)。

仲道:めちゃくちゃいかがわしいっすよ(笑)。

──そこも含めていいですよね。ドキドキ感があって。

ショウダ:まだ高校生だったときに、目の前のお店の人が、好意で僕らの曲を店頭で流してくれてて。

仲道:高校生の自主音源がまさか風俗店で流れるっていう(笑)。

河内:で、「中に入っていきなよー!」って言われて。

ショウダ:いやいやいやいや!って。

仲道:そんな多感な時期でした(笑)。

ircle 撮影=風間大洋

──いい話(笑)。今年はバンド結成15周年で、新曲+過去音源を録り直した『光の向こうへ』を発表されたり、今回の作品題に関してもそうですが、モードとしてはこれまでを振り返る気持ちが強かったんですか?

河内:そうだったんだと思います。10周年のときは、特別何かをしなかったんですよ。前の事務所をやめて、自主でやってたときだったんで。だから、15周年っていうのが来たときに、まぁここじゃない?って。別に振り返らなくてもいいんすけど、改めて振り返ってみることも大事かなと思って。

──そもそもですけど、15年前にバンドが始まったキッカケというと?

仲道:中1のときに、男子の中でギターブームが来たんですよ。……敢えて言うと、僕は小6からギターを始めてはいたんですけど……。

河内:(仲道は)昔からそうやって敢えて言うところがあるよな?(笑)

仲道:(笑)。で、ギターブームが来て、「俺、弾けるよ?」みたいな感じで、友達の家に自慢しに行くわけですよ。で、最初は河内と俺の2人で、ゆずとか19のコピーをしてたんです。

河内:野球部だったんですよ、俺ら2人は。

仲道:だけど、(河内が)急に「バンド組みたいね」って言い始めて。最初は聞き流してたんですけど、気づいたらひとりでメンバー探しに奔走してて。

河内:とりあえずバンドやるならドラムセットがいるやろっていうことで、ネットでCANOPUSを調べたら、高っ!と思って。じゃあメンバーを探して、そいつに買ってもらおうって。

──はははは(笑)。なんでCANOPUSだったんですか?

河内BUMP OF CHICKENが使ってたから。

ショウダ:その発想が中学生っぽいよね(笑)。

──ショウダさんはドラムをやってたんですか?

ショウダ:いや、全然やってなかったです。そもそもバンドっていうものをよく知らなかったんですけど、「ドラムやれ」って言われて。で、全然よくわかんないまま、ドラムを買ったんですよ。

仲道:しかも、当時この2人ってそこまで交流なかったよね?

ショウダ:なかった。でも、なんとなく面白そうと思って。もしかしたら読んでる人はピンとこないかもしれないけど、田舎ってスタジオがあんまりないから、機材を揃えてガレージで練習するっていうのが当たり前なんですよ。

仲道:だからドラムは買うものっていう。

ショウダ:そう。それで、河内くんの実家の倉庫に持ち込んで練習してて。

──伊井さんはどういうところから加わったんですか?

伊井:僕は河内くんと同じクラスだったんですよ。僕はサッカー部だったんですけど、ギターを始めたサッカー部の連中が河内くんのところに行ってて。俺もブームに乗っかって遊びに行ってたんですけど、「ベースやる?」って聞かれて。で、ギターの6、5、4、3弦で練習したり、ベースは河内くんの家にあったんで、それを弾いたり。

ircle 撮影=風間大洋

──最初はコピーからですか?

仲道:そうですね。それこそBUMP OF CHICKENとかやってましたよ。

河内:最初はガチャガチャやってただけですけどね。とりあえず楽器鳴らすっていう。

──それだけでもう楽しかったり?

河内:いや、よくわかんなかったっすよ(笑)。ホントにガチャガチャやってただけだから。

仲道:でも、すごい覚えてるのが、夏休みに「天体観測」を通して出来たんですよ。そのときの感動はひとしおでしたね。

河内:俺らすげえ!って(笑)。

仲道:いける!みたいな感じになってて。なにがいけるのかわかんないけど(笑)。

──本格的にバンドでやっていこうと思ったのはいつだったんですか?

河内:大学に進学するぐらい?

伊井:あぁ。そこは大きかったと思う。

ショウダ:大学在学中に初めて全国流通をさせてもらったときに、プロ意識じゃないですけど、これでやっていくんだろうなっていう感覚はありましたね。

伊井:でも、やっていこうって思った時期はメンバーによってまちまちかも。

河内:うん。そうだと思う。

──仲道さんはどのタイミングで思いました?

仲道:具体的なタイミングはあんまりなかったんですよね。責任を感じ始めるタイミングはいろいろありましたけど。でも、個人的にバンドはずっとやっていきたいなって昔から思っていたから、バンドをやりたいって思ったときがそのタイミングだったのかもしれないです。

──河内さんは?

河内:俺は一番始めからずっとですね。

──ひとりでメンバーを探し始めたころから?

河内:そう。だから、重い彼女みたいな存在だったと思いますよ、俺は。

伊井:付き合い始めたら即結婚みたいな(笑)。

河内:そうそう。絶対お前と結婚するからな!って。

仲道:「ねぇ、CD出すよね? CD出すよね?」みたいな(一同爆笑)。

ショウダ:でも、それを匂わせなかったからよかったのかもしれないですね。それを感じちゃったら、当時の俺とか伊井ちゃんは、それは無理だわ……ってなってたかもしれないし。

伊井:俺、そんなの言われたら速攻やめてる(一同笑)。なんか、高校生のときって、逃げ癖みたいなのあるじゃないですか。なんかもうやだ!って。

──やりたくないものは、とにかくやりたくないっていう。

ショウダ:でも、そういうのを匂わせずに、もっといいライブがしたいとか、もっと良い曲作りたいって、目の前にあることを本当に毎日やってきたら、さっき(仲道)良が言ったけど、なるようになったし、続けてこれたんじゃないかなって思いますね。

ircle 撮影=風間大洋

──音源のお話に戻しまして、たとえば「orange」にはバンドが始まった<2001>とか、現在の<2016>という数字も出てきますが、曲作りの段階からこれまでを振り返るものにしようと思っていたんですか?

河内:そうですね。その通りなんですけど、「orange」の歌詞は、恋愛遍歴的なものに見えればな……っていうところもありましたけどね。

──確かにかなりパーソナルな内容ではありますよね。

河内:そうそう。だから、パーソナルな年号を書いてるんだなって思ってくれって。そこはもう別にバレちゃっても大丈夫です(笑)。

仲道:実は、この曲って『光の向こうへ』を出す前にとりかかってたんですよ。それこそ、あのミニアルバムに入ってもおかしくないような作り方というか。アニバーサリーじゃないけど、歴史が見えるような曲にしたいねっていう話は出てましたね。

──そうだったんですね。今回の収録曲はどれもアップテンポで、かなり熱量の高い曲ばかりが揃っていますけど。

河内:そういうものにしようっていうのは最初から話してました。それは良が言ってたんですけど。

仲道:『我輩は人間でr』を作ってから、激しい方面に行きたい欲が沸々と出てきまして。ライブで映えるような曲を作りたいなって思ったんですけど、今まで僕らって、お客さんのことをあんまり考えたことがなかったんですよ。だから、余白がしっかりあるものというか。初めてそういう隙間が見えるものになったかなって。

ショウダ:ツアーを廻っている中で、自分達に足りないものとして、さっき良が行ったような激しい部分であったり、もっと外に向いた曲がほしいっていう欲がでてきて。今までの僕らって、僕らだけでしかやっていないんで、変な話、ツーカーなわけじゃないですか。

──そうですよね。これだけの年月一緒にいるわけですし。

ショウダ:だから、これを言えばわかるでしょ? なんでわかんないの?っていうところもあったんですよ。だけどそうじゃなくて、ちゃんと自分達のことがわかるように出力していきたいなって思ったんです。「光の向こうへ」で、今までやってこなかったような、すべてを巻き込んでいく歌を作れたし、もっとircleを掘り下げても、わかりやすく外に飛ばすことができるんじゃないかって。

──なるほど。

ショウダ:それもあって、『光の向こうへ』の時点で「orange」に手をつけてはいたけど、これは今出しても伝わらないだろうなって思ったんです。これは純度120%のircleだし、それこそ河内のパーソナルな部分が出てるんで。だから、「orange」を正解とするための『光の向こうへ』であったり、今回の他の5曲はそういう部分もあって。

ircle 撮影=風間大洋

──河内さんとしては、「orange」の歌詞はパーソナルではあるけど、外向きな感覚もありました?

河内:ありました。今回は曲を作っている段階から、これはちょっと楽しいぞっていう感じがあったし、それってなかなかすごいことなのかもなと思って。別に振り返らなくてもいいと思ってたけど、15年っていう年数をいざ気にしてみたときに、俺、こんなに楽しんでバンドをやれてるんだなって。それと同時に、これをちゃんと伝えなきゃマズいと思ったんですよ。この高揚感を。だから、わかりやすい表現が増えたところも多いとは思いますね。

仲道:あとは、それこそ15年前の自分というか、少年の俺が聴いてもかっこいいなと思えるCDを作りたかったっていうテーマは、個人的にありました。10年後、20年後に聴けるものをっていうのは大前提ですけど、昔の俺が聴いても「これは買うわ」っていうものをやってみたらどうなんだろうって。

河内:俺もそういう気持ちで曲は書いてました。言っても、そこは自分としては変わらないものではあるんですけど。思春期のガキに聴いてほしいっていうのは、昔からずっと同じなんで。

──それに、これまでを振り返ってはいるけど、どれも前を向いてますよね。痛みも抱えながら前に進んでいくというか。

河内:そうですね。それはこのバンドの性質だと思います。

仲道:なんかこう、一歩一歩というか、一回疑って、ちゃんと悩んで答えを出したいというか。

伊井:でも、歌詞に関しては河内くんの性質だと思うけど。

河内:楽器もそうじゃない? 前にというか、新しくなにかすることが好きだったりとか。

伊井:あぁ。確かに同じことはしたくないタイプの人達が集まっているバンドではあるね。

河内:そういうのもありつつ、自分のなかでリバイバルがあったりするやん。

伊井:昔の曲とまったく同じフレーズを入れてみたりとかね。確かに、そうやって過去の自分を今の自分で遊んだりするのは楽しかったりする。

──作品を締め括る「Blackbird」は、まさにそういう性質が表れている曲ですよね。<痛みも忘れないでって超矛盾>っていう歌詞があったり。

河内:矛盾とかすべて取っ払ってロックをやればいいって、このアルバム作っているときに思っていたので、まぁ、全部あり、みたいなところですね。俺、個人的にこの曲は印象に残っていて。最初はセッションみたいな感じで良が作りはじめたんだけど、サビを何回か作り直してたんですよ。絶対にもっと良くなるはずなんだけどなぁって、なんかもう意地のかたまりみたいになってて。

仲道:この曲って、バンドのセルフポートレートなんですよ。だから、ここは何としてでも曲げられないと思って。

河内:そう。だからまあ、このバンドのテーマソングみたいなものですね。俺ら、ライブしているときってだいたい全身黒色ですからね。黒って厄介払いされるような色なのかもしんないですけど、こんなナリでもちゃんと伝えていきますよっていう。

ircle 撮影=風間大洋

──来年1月からは全国ツアー『『Copper Ravens』Release Tour ~Raven claw tour~』を開催されます。ツアーファイナルは3月16日、渋谷CLUB QUATTROで行なわれますけど、15周年の集大成としてどんなライブにしたいですか?

河内:「別に振り返らなくていい」って何度も言ってきたんですけど、今日実際に振り返ってみて悪いもんじゃなかったなって思うんで、それを証明したいですね。クアトロでワンマンっていうのは自身最大キャパで、周りと比べると遅せえなって思われたりするかもしんないけど、そこは関係ねえし、絶対に俺らは間違ってないことを証明したい。そこに来てくれた人達も、人それぞれいろんな矛盾を抱えているかもしれないけど、そこの場所は絶対に間違いないものにするし、ツアーの最初からそういう気持ちで臨もうと思ってます。

伊井:あと、「Raven claw」はアルバムタイトルとかけているところもあるんですけど、その土地土地でしっかりと爪痕を残していきたいっていう想いを込めてるんで、そこはしっかりとやっていきたいですね。

──今のツアーのこととか、「Blackbird」では「全部あり」というお話がありましたけど、矛盾を肯定してもらえるのってありがたいなって思うんですよ。人間って矛盾していて当たり前じゃないですか。

仲道:そうですよね。なんか、今の世の中って正しすぎることが多すぎて生きづらくないですか? 人間なんだからそういう気持ちも認めてよって思うんですけど。

──ホントそうですよね。そんなにキッチリされても困っちゃうんだけどな……っていう。

ショウダ:それに、こういう世の中だから、何を言っても揚げ足とられちゃうんだろうなと思って、何も言えなくなってる人も増えていると思うんで、それを河内くんが肯定してくれればいいかなって思ってます。

仲道:きっとそれで救われる人がいると思いますからね。

ショウダ:それって15年やってこないと言えないことだとも思うんですよ。いきなり「大丈夫、大丈夫!」って肯定されても、何が大丈夫なんだよって思うし(笑)、本当に一歩一歩確かめながら歩いてきた自信が僕らにはあるので。ツアーではそれを食らいに来てくれればいいなと思います。


取材・文=山口哲生 撮影=風間大洋

ircle 撮影=風間大洋

リリース情報
『Copper Ravens』
2016年1月11日発売

『Copper Ravens』

YMNT-1008 / \1500+税
【収録曲】
01.orange
02.悲しいのは僕の方だ
03.覚醒
04.ダイバーコール
05.一夜完結
06.Blackbird
 
ツアー情報
ircle「Copper Ravens」Release Tour
~Raven claw tour~

1/11(水) 渋谷 TSUTAYA O-Crest
1/14(土) 富山 SourPower
1/15(日) 金沢 vanvanV4
1/22(日) 京都 MUSE
1/28(土) 松本 Sound Hall aC
1/29(日) 新潟 CLUB RIVERST
2/3(金) 岡山 CRAZYMAMA 2ndRoom
2/4(土) 高松 DIME
2/6(月) 神戸 太陽と虎
2/10(金) 高崎 clubFLEEZ
2/11(土) 宇都宮 HEAVEN'S ROCK VJ-2
2/25(土) 札幌 mole
2/28(火) 山口周南 LIVE rise
3/1(水) 長崎 Studio Do!
3/3(金) 小倉 FUSE
3/4(土) 大分 club SPOT
3/5(日) 福岡 Queblick
3/10(金) 大阪 Club JANUS
3/12(日) 名古屋 APOLLO BASE
3/16(木) 渋谷 CLUB QUATTRO (ワンマンライブ)
 
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