小野明子(ヴァイオリン)が贈るクリスマスの贅沢なひと時

2017.2.3
レポート
クラシック

小野明子(ヴァイオリン)

画像を全て表示(11件)

小野明子が初めてのクリスマスライブで披露した“ロマンス” 第59回“サンデー・ブランチ・クラシック” 2016.12.25ライブレポート

12月25日、町はクリスマスのイベントで盛り上がっている。この日、渋谷・道玄坂のeplus LIVING ROOM CAFE&DININGでは、ヴァイオリニストの小野明子を迎え、『サンデー・ブランチ・クラシック』が開催された。ピアノ伴奏は、碓井俊樹が務める。

鮮やかな花模様のドレスをまとって登場した小野は、さっそく楽曲を披露してくれた。1曲目は、ワーグナー作曲「ロマンス」。優しいピアノの序奏に始まり、ヴァイオリンが甘美な旋律を奏でる。開放的でのびやかな音が、曲の魅力を引き出している。

小野明子

上昇音型を執拗なほど繰り返し、音楽は盛り上がりを見せる。曲の頂点では、美しくも張りのある音色を出し、緊張感も演出している。曲は徐々に静まっていくが、その過程の中・低音域の音はとても温かみがある。少しずつテンポを落とした音楽は、安らかに眠りに落ちるように静かに終わる。

カフェでのオープンスタイルライブ

会場から拍手を受けながら、小野は「こんにちは。そしてメリークリスマス! 本日は、たくさんのお客様にお集まりいただきありがとうございます。クリスマスにコンサートを行うのは私にとって初めてなので、このお洒落な会場で皆さまと素敵な思い出を作ることができれば嬉しく思います。1曲目に演奏しましたワーグナー「ロマンス」は、もとはピアノのために作曲された小品です。このたび、8年ぶりにCD『ROMANCE』をリリースすることになりましたが、私にとって特別な思い入れのある作品を取り上げました。このワーグナーもその一曲です」と挨拶を述べた。

「続きまして、クライスラーの「ウィーン奇想曲」をお聴きいただきたいと思います。今日、ピアノをお弾き下さっている碓井さんとは、ウィーン行きの飛行機でたまたま隣の席になったことで知り合いました。学生時代の懐かしい思い出です」と、楽曲紹介を行い、唐突な印象を与える、断片的な音型で曲が始まった。

冒頭部分は、どこかユーモラスで諧謔的な雰囲気だ。やがて曲想は一転し、甘くロマンティックなメロディーとなる。重音を多用しているのが特徴で、美しいハーモニーを作り出している。音楽はまた表情を変え、テンポの速い軽快な曲調になる。技巧的な早回しのパッセージも、難度を感じさせることなく軽やかに弾きこなしている。幾度も表情を変えた音楽は、どこか現実離れしたムードの中で終わる。

情熱的な演奏

拍手の後、切れ目なく3曲目の演奏に入った。ファリャ作曲(クライスラー編曲)「スペイン舞曲」。今度は、欧州の田舎の祭りを思わせる軽快な民族舞踊風の音楽だ。弓を軽やかに跳ねさせるスピッカートを用い、遠くまで飛ぶような軽い音を出す。視覚的にも、聴衆を楽しませる演奏だ。

中間部では、ラテン系らしい情熱的な曲想となる。場面に合わせながら音色や強弱のメリハリを的確に調整し、非常に表情豊かな演奏に仕上がっている。コーダではテンポを速め、熱のこもった弾き方で聴衆を引き込んで見せた。

小野明子(ヴァイオリン)

碓井俊樹(ピアノ)

小野が、「次に、ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタより第1楽章を演奏したいと思います。この曲は、ドビュッシーが癌で亡くなる前年に作曲されました。短くコンパクトな曲ですが、幻想的な曲想に仕上がっており、生きるエネルギーのようなものを感じさせます」とコメントを挟むと、伴奏の碓井がスッと話しはじめた。

「ピアニストが横やりを入れるのはどうかと思いますが、この楽章は4分ほどとごく短いです。聴いている皆さまにはちょっと物足りないと思うので、是非CDも2枚ほど買っていただければ(笑)」。冗談で和やかな雰囲気になったところで、4曲目の演奏に入る。

ドビュッシー作曲「ヴァイオリン・ソナタ」第1楽章。曲の開始は静謐で、白昼夢の中にいるようだ。まもなく音楽は激しさを帯び、熱情的なパッセージが出現する。音の強さやテンポが目まぐるしく変わる中、強弱や緩急のコントラストをしっかりと見せる演奏となっている。

やがて、ピアノが水の流れるような幻想的な音型を奏で始める。その上に、やや気だるさを感じさせる甘いヴァイオリンのメロディーが乗った。クリスマスということもあって会場は満席だが、聴衆は皆静まり返って演奏に集中している。曲のクライマックスに、情熱的なメロディーをたっぷりと豊かな音色で聴かせ、曲は断ち切られるように締められた。

碓井俊樹(ピアノ)、小野明子(ヴァイオリン)

「ありがとうございます。続いて最後の曲になります。「ツィゴイネルワイゼン」は幼少のころからのお気に入り曲ですが、弾くたびに新しい発見があります。やはり名曲と言われるだけあり、惹きつけられます。」と語る小野から奏でられたのはサラサーテ作曲「ツィゴイネルワイゼン」。

第1楽章は、非常に有名な、悲壮な序奏で曲は始まる。ヴァイオリンが提示するメロディーは、愁いを帯びており情熱的。弱音の箇所も音色には張りがあり、緊迫した感じをもたらす。華麗な早回しと、耳を突くようなフラジオレットの高音が耳に残った。

第2楽章では、ゆっくりとしたテンポの抒情的な音楽に。過去を追憶するような悲しげなメロディーで、切々と訴えるような印象を残す演奏である。たとえピアニッシモの音でも、一本の丈夫な絹糸のようにはっきりした存在感がある。

第3楽章では、一転して急速なテンポの激しい音楽となる。ピアノ伴奏が刻むリズムに乗せて、技巧的なパッセージが次々と現れた。右手の弓で弾く音と同時に、左手でピッツィカートを鳴らすテクニックが有名。早弾きの箇所であっても、1つ1つの音は綺麗につくられ、粒だって聴こえる。コーダを駆け抜けると同時に、この日一番の拍手が送られた。

超満員の会場に響く「きよしこの夜」

拍手に応え、小野が「皆さま、今日は本当にありがとうございました。折角のクリスマスですので……」と、披露されたアンコール曲は、「きよしこの夜」だった。

クリスマスを象徴する慣れ親しんだメロディーだが、曲の中で繰り返されるメロディーは、それぞれ印象を大きく変えている。時には、華麗な重音を高音域で美しく響かせ、時には中音域を使ってぬくもりのある音色を出す。祈りの曲にふさわしく、癒しに満ちた演奏だった。

30分強のミニコンサートの終了後はサイン会が開かれ、ファンが小野と交流を楽しんだ。

お客様とのふれあい

終演後、小野は「LIVING ROOM CAFE&DINING はオープンスペースで雰囲気が良くとても楽しめました。ステージから客席全体を見渡せるのもアットホーム感があり素敵ですね。お客様との距離が近いので小さな音の繊細なニュアンスも伝えやすく魅力的です」と語ってくれた。

また、12月にリリースされた、野平一郎との共演CD『ROMANCE』については、「CD タイトル『ロマンス』と題したこのアルバムには、友情を育み、お互いを尊敬し、音楽的に感化し合った作曲家たちの作品が盛り込まれています。愛、郷愁、友情など、広義にとらえたロマンスを讃えています。音楽が持つ、国境を越えた力を表現したいと思いました。そしてこのアルバムは、今年生誕100周年を迎えた恩師ユーディ・メニューイン先生へのオマージュです」と聴きどころを話してくれた。

インタビューの様子

今後については、「演奏する機会を頂いたときに常に心がけていることは、“生きている音楽”を作ることです。譜面から音を作り出すプロセスを大切にし、音楽を立体的に表現することを目指しています。それを一人でも多くの皆様に味わっていただけたら嬉しいです」と、音楽やファンへの思いを語る。演奏家としてさらに充実度を増そうとしている小野。今後の活動から目が離せない。

小野明子(ヴァイオリン)

毎週日曜日、午後の昼下がりに渋谷のカフェでおこなわれる『サンデー・ブランチ・クラシック』。ぜひ一度足を運んでいただきたい。


取材・文=三城俊一 撮影=岩間辰徳

プロフィール
小野明子(ヴァイオリン)​

12歳で英国・メニューイン音楽院に単身留学し、メニューインに7年間師事。文化庁芸術家在外研修員としてウィーン国立音楽大、同大学院で学ぶ。 2000年メニューイン国際ヴァイオリンコンクール・シニア部門で優勝し、英国紙”ザ・タイムス”の一面トップを飾り一躍注目を集める。ビオッティ・バルセシア、フォーバルスカラシップ・ストディヴァリウス等のコンクールで優勝。またエリザベート王妃、パガニーニ、シゲティ国際コンクール等に入賞。1998年、ユニセフ・ガラコンサートにてメニューイン指揮/エッセン・フィルと共演し欧州デビューを飾る。同年、ニューヨーク国連本部で行われた「世界人権デー発足50周年記念会議」に招かれ、バッハ「パルティータ」を演奏。2004年、ニッポン放送「新日鐵コンサート」公開録音プロミシング・アーティスト・シリーズに出演。翌年、J.ジャッド指揮/NHK交響楽団とツアー公演を行う。

これまでワイマール響、ベルギー国立管、仏・リル国立響、ロンドン・モーツァルト・プレーヤーズ、ロンドン室内合奏団、リトアニア室内合奏団、サンカルロ歌劇場管等と共演。NYカーネギー、ロイヤル・アルバート・ホール、クイーン・エリザベス・ホールなどで演奏。国内では佐渡裕、下野竜也、飯守泰次郎、広上淳一、飯森範親、小松長生、C・アルミンクらの指揮のもと読売日本交響楽団、東京交響楽団、新日本フィル、東京シティ・フィル、兵庫芸術文化センター管弦楽団、札幌交響楽団、大阪フィル等と共演、世界30ヶ国で演奏する。Y.メニューイン、D.シュワルツベルグ、M.フリッシェンシュラーガー、小林武史、小林健次の各氏に師事。

 
現在、英国メニューイン音楽院にて教鞭をとる傍ら、室内楽奏者、国内外のゲストコンサートマスターとして幅広く活躍中。佐渡裕氏率いるスーパーキッズ・オーケストラ特別指導者。(財)地域創造・公共ホール音楽活性化事業登録アーティスト。

ディスコグラフィー
『チゴイネルワイゼン』 P: 野平一郎 (NM-WWCC7595) 好評発売中
『ROMANCE』 P: 野平一郎 (NM-WWCC-7827) 好評発売中

 

サンデーサンデー・ブランチ・クラシック情報
2月12日
布谷史人/マリンバ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
 
2月26日
渡辺克也/オーボエ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円

3月5日
海瀬京子/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円

3月19日
松田理奈/ヴァイオリン&中野翔太/ピアノ

13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
 
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
  ※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html​