聖夜に響いた“心の歌” 伊東歌詞太郎、クリスマスライブをレポート
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伊東歌詞太郎
伊東歌詞太郎 ワンマンライブ 2016 “冬空のむこう” 2016.12.25 恵比寿ガーデンホール
つくづく、心で歌うシンガーだと思う。
“気持ち”という言葉では彼の放つ熱量を表すに足らない気がするし、“魂”でも良い気はするけれど、もっと身近で最短距離を通って聴き手に届く、そんな歌。伊東歌詞太郎は、これまでずっとそうやって歌ってきたし、この日もそうだった。だからこそ、2016年12月25日に恵比寿ガーデンホールで行われた、クリスマスなどどこ吹く風の、そもそも(恋愛的な意味では)ロマンティックな楽曲などほとんどレパートリーに無い男のライブが、とびきりエモーショナルで、胸を打つものとなったのだ。
伊東歌詞太郎
伊東歌詞太郎
東京のライブハウスで個人名義のワンマンを行うのはおよそ1年半ぶりということもあり、多くのファンが詰めかけて場内はソールドアウトの超満員。オープニングのSEからそのままオープニングナンバー「北極星」のイントロへ繋ぎ、いよいよ歌詞太郎が登場する。ギターが2本にベース、ドラム、キーボードという5人編成のバンドによって生まれる厚みのあるサウンドを背に伸び伸びと歌声を響かせる歌詞太郎は、時折笑顔を見せたりと緊張や気負いは無さそうで、とてもリラックスした様子。大きく身振り手振りも交え、ステージ映えするアクションと佇まいはいつも通りだ。冒頭のサビをアカペラで歌い出すと大きな歓声が上がったのは「ピエロ」。ボーカロイド楽曲のカバーなのだが、彼の歌うこの曲はより人間味あふれる表情を見せ、言葉の一つ一つに宿った力が聴く者に勇気を与えてくれる。
伊東歌詞太郎
「あらためましてこんばんは。メリークリスマス!」と最初の挨拶をしたあと、声出しの練習とばかりに、歌詞太郎が客席に向かって男女別に呼びかけると、男子からも結構な数の「ウオーイ」という力強い声が返り、「増えたね!」と嬉しそう。音楽活動を続けてきた中で、着実にリスナーの層も幅広くなっているようだ。「待たせたな! ずっと会いたかったよ、東京」と久々のワンマンへの感慨を込めた一言を口にして客席の熱量をさらに上げたあとは、「Everything’s gonna be alright」「ぼくのほそ道」と、アルバム『二律背反』収録のポップで楽しい楽曲を立て続けに披露する。楽曲そのものがもつ明るい雰囲気に、歌詞太郎が奔放に歌い回すことでライブ感が加味され、会場中をどんどん巻き込んでいく。テンションにまかせて突っ走るのとは一味違う、ステージングの巧みさも感じさせてくれた。
伊東歌詞太郎
とはいっても、やはりこの男の最大の魅力は、歌を歌うという行為にありったけの己の感情やメッセージを載せられることにほかならない。そういった意味で、「日本では久々に歌う」と前置きしてから披露され驚きの声が上がった「rain stops,good-bye」からのドラマティックな楽曲が続いた中盤のブロックは出色の出来だった。「さよならだけが人生だ」「親愛なるフランツ・カフカに捧ぐ」まで、観ているこちらも息を呑むほど楽曲に深く没入した歌唱をみせ、想定以上にスタミナを消費したのか彼にしては非常に珍しくステージ上で水を飲むほど。渾身のパフォーマンスに触れた客席は大きな大きな拍手で応え、そのリアクションを受けた歌詞太郎は「みんなの気持ちと俺の気持ちがつながった気がした。どうもありがとう!!」と、感情の高ぶりをそのまま口にして深くお辞儀をする。そしてまた大きな拍手が起こる。音楽を通じて双方向に想いが伝わりあう、素晴らしい瞬間が何度も積み重ねられていく。
伊東歌詞太郎
「Role Praying」や「よだかの星」では、背景に歌詞や映像が投射され、空や星、宇宙といった彼を象徴するようなモチーフが映し出されるという視覚的に映える演出もあった。「いつかやりたいと思っていた」と嬉しそうな表情を浮かべた彼は、続くMCで2016年の自身の音楽活動を振り返り、年間で252日歌を歌う、音楽漬けの一年だったとしながらも、「来年はもっと立ち止まらないという約束をしたい」「イバラの道、大歓迎!」と力強く宣誓、歌詞太郎節全開でスケールの大きな「約束のスターリーナイト」を投下した。ここで場内の気温はまた一段と上昇。ギターソロやブレイクなどロックの醍醐味が楽しめる「カナリア・シンデレラ」へと繋ぎ、一際力強く歌われた福島県の『うつくしまYOSAKOIまつり おもてなし温楽彩』テーマソング「百火繚乱」、「銀河鉄道の夜」という直近の楽曲たちもお披露目。さらに「I Can Stop Fall in Love」では軽快なリズムに乗って一斉にタオルがうち振られ、まさにクライマックスといった様相をみせる。
本編ラストは「僕だけのロックスター」。歌詞太郎が語った、自らの思うロックスター像。それは一番かっこいい音楽をやっている奴なんだ、ステージの上に立っているかどうかは関係ないんだ、というものだった。曲中に紹介されソロを披露したバンドメンバーの一人一人も、会場に集まったオーディエンスも、もちろん歌詞太郎自身も。1600人のロックスターたちによって奏でられ歌われる、最高にゴキゲンなサウンドの中、聖夜のひとときは終わりに近づいていく。
伊東歌詞太郎
アンコールではサンタ帽子をかぶったレアな姿で登場、このワンマンライブのテーマ曲として作ったという新曲「帰ろうよ、マイホームタウン」を初披露した。アコギ一本のシンプルなアレンジで届けられたこの曲は、故郷=安らげる場所をうたう優しくハートウォーミングな楽曲。忙しない師走の夜にこの曲がスッと身体に染み込んで郷愁を誘い、なんだかジーンとしてしまった。ちなみにこの楽曲はステージ上からの景色を体感できるVR映像の撮影を行っていたので、その映像にも期待したい。そして最後は「パラボラ~ガリレオの夢~」を力強く歌い上げると、「冬を越えて、また来年も会おうぜ!」と高らかに告げ、ステージを後にした。
伊東歌詞太郎
終演後。歌詞太郎に挨拶する機会があったので、「心のこもった、それが伝わってくる良いライブだった」ということを伝えたら、「僕はそれしかないですから。そこはできたと思います」という答えが返ってきた。そういえば彼の初ワンマンのときも、同じようなやり取りをしていたなぁと思い出した。そう、彼は常に“心を込めて歌う”という行為に全力で、そのことは彼の原点でもあり、自覚する強みであり、アイデンティティでもあるのだ。初ワンマンの頃からすればオリジナル楽曲も増えたし、年間252日も歌を歌っているし、活躍するフィールドも広がり、シンガーとしてのスキルだって側から見れば数段向上しているのになお、「それしかない」と即答できる謙虚さ。それは言い換えれば、彼の歌にも表れる誠実さであり、ひたむきな推進力のエンジンとなっているものに違いない。
2017年、彼はどんな活動を展開し、どれだけの活躍を見せてくれるだろうか。まだ発表になっていることは多くは無いが、何にせよ、伊東歌詞太郎は常にその“心”とともにあり、歌を歌うのだろう。ということは、まだまだ快進撃は続きそうだ。
取材・文=風間大洋 撮影=スズキシンノスケ
伊東歌詞太郎
1. 北極星
2. ピエロ
3. タイムトラベラー
4. Everything’s gonna be alright
5. ぼくのほそ道
6. きみをつれて
7. rain stops,good-bye
8. さよならだけが人生だ
9. 親愛なるフランツ・カフカに捧ぐ
10. Role Praying
11. よだかの星
12. 酸素の海
13. 約束のスターリーナイト
14. カナリア・シンデレラ
15. 百火繚乱
16. 銀河鉄道の夜
17. I Can Stop Fall in Love
18. 僕だけのロックスター
[ENCORE]
19. 帰ろうよ、マイホームタウン
20. パラボラ~ガリレオの夢~