S!N、ボカロ曲からオリジナル曲まで全24曲――自身の“これまで”が詰まったツアー・ファイナルをレポート
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S!N LIVE TOUR 2016 『Salvation』
2016.12.29 TSUTAYA O-EAST
プロフィールは非公開、アーティスト写真も存在しないという謎のベールに包まれていながらも、その存在が口コミで話題となったシンガー・S!N。インターネットに動画を投稿するのみでなく、完全自主制作した音源を持っての全国ツアーはもちろん、上海や香港でもライブを行い、Twitterのフォロワー数も13万人を突破するという、インディーズ時代から爆発的な人気を獲得していた彼が、メジャーデビューシングル「Salvation」をリリースしたのが、2016年6月のこと。今回のレポートは、その作品を掲げたワンマンツアー『S!N LIVE TOUR 2016 『Salvation』』のツアーファイナルである、12月29日TSUTAYA O-EAST公演の模様をお伝えする。
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ライブはメジャー進出作となった「Salvation」で開幕。力強いスクリームを轟かせ、「遊ぼうぜ、東京!」と、「swarm」「刀身デッドライン」「墜落」とラウドロックをベースにしたアッパーな楽曲達を矢継ぎ早に繰り出して行く。感情をフロアへぶちまけるかのごとく、シャウト気味にメロディーを歌い、何度もヘッドバンギングを繰り返す彼の激しいパフォーマンスに呼応するように、オーディエンスも延々と頭を振り回し続けるという、実に熱狂的な光景が序盤戦から生み出されていた。そこから一転、「1/6」では、<君が抱えてる悲しみが/少しでも軽くなればそれでいい>と、歌詞の一言一句をフロアに届けるように優しく歌いかけていく。
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そんな自身の歌唱力をしっかりと見せつけつつ、MCではとにかく喋り倒す。「僕が一番ぶっ飛んでるのは、歌っているときでも、暴れているときでもなく、MCなので」と、この日彼が話していたが、支えてくれているファンへ向けた愛のある言葉から、時事ネタやら下ネタやら、オブラートに一切包まない刺々しい発言まで、一度話し始めるともう止まらない。クールで端正なルックスでありながら、自由奔放に話を展開させ、笑いを巻き起こしていくところも、彼が支持を受けている要因のひとつだろう。
この日のセットリストは、「僕がここまでやってきた集大成を見て楽しんでほしい」とのことで、彼のオリジナル曲はもちろんのこと、ボーカロイド楽曲なども含めた全24曲をセレクト。「全部ごちゃ混ぜ」とも話していたように、前述のようなラウドなものはもちろん、「CITRUS」や「シンボリック・ダンスニズム」ではダンサブルに、「花瓶に触れた」では艶っぽくと、様々な曲調を見事なまでに歌い上げていく。
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そんなバラエティ豊かな楽曲達も素晴らしかったが、やはりこの日のライブで特筆したいところは、中盤戦以降の熱量の高さについて。その流れは、途中で一度MCを挟んだものの、11曲目の「厨病激発ボーイ」から22曲目の「懺悔∝Scalat!oN」まで、ひたすらアップチューンを、もしくはミディアムテンポでありながらも、「DOGS」のようなシャウト量の多めなものや、「Mes」のようなスクリームとファルセットを散りばめたものを、延々と畳み掛けて行くというものだった。また、「新世代ニヒリズム」では、クラウドサーファーに対抗するように、S!Nもフロアへダイブを敢行。「神教⇒Exclamation!」ではウォール・オブ・デスを発生させるなど、オーディエンスと一体になって、凄まじい勢いで駆け抜けていた。
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そんなハイボルテージなライブを繰り広げていたS!Nだが、後半戦に突入しても勢いがまったく衰えないどころか、むしろ調子があがっていくような雰囲気もあり、そのタフさにとにかく驚かされた。そして「最後は大団円で、笑いあってさよならできるようなものを」と「シャルル」を披露。軽快なビートにあわせ、オーディエンス達は手を左右に振り、まさに大団円でのエンディングとなった……と思いきや、とどめと言わんばかり、ハードな「曖昧な美談」を投下。この日何度目かの豪快な咆哮で、2016年を締め括った。
終始熱狂が巻き起こり続けていたライブだったが、この日のセットリストは、彼の集大成的な部分ともうひとつ、彼の想いがしっかりと詰め込まれたものでもあった。
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彼が今回のツアーで、そしてメジャーデビューシングルで掲げていたテーマは、「Salvation」というタイトルの通り、「救い」である。「日常を過ごしていく中で溜まっていくネガティブなものを、今この瞬間だけは忘れてもらえるといいなと思うし、どんな形になるかはわからないけど、そこから救われるキッカケに自分がなればいいなと思っている」。そんな想いの元、彼は「Salvation」を制作し、今回のツアーを廻っていたそうだ。また、この日最後に披露された「曖昧な美談」は、そんなデビューシングルの最後を締め括る曲。これは、「楽しかった記憶もいつかは曖昧になっていくけど、記憶なんて言葉でいくらでも装飾できるし、いくらでも美化していけるもの。来てくれた人にとって、楽しかった今日の記憶がいつか美談になっていけばいい」という想いを込めて披露された。ただただ盛り上がる曲を連発するわけではなく、今の自身の想いをセットリストでしっかりと表現していた。さらには、「みんなにとって、僕がそんな救いになればいいなと思って頑張っていこうと思っているので……まぁ、一緒に遊ぼうぜって話ですね」と、少し照れくさそうに、オーディエンスに向かって今の気持ちをしっかりと伝えていた。全曲を終え、ステージから降りる際に、長い時間、フロアへ向かって深々とお辞儀をしていた彼に、フロアから大きな拍手と歓声が送られていた。
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そんな熱い意志をステージで伝えていたS!Nだが、もし、あなたがこの記事を読んで、彼のことが気になり、名前を検索して、Twitterアカウントに辿り着いたとしても、彼の本音をそこでみることはできないだろう。いや、そこにある言葉も彼の本音ではあるのだろうけど、この日のライブで彼が訴えていたメッセージをそこで見ることはできないし、なんなら、人によっては彼のTwitterを見ることで、ちょっとひいてしまう可能性もあると思う。もし、彼のことを知りたいのであれば、やはりライブハウスに足を運ぶべきだ。是非とも彼の真骨頂を味わえるライブ会場で、その声と意志を、全身で感じてみてほしい。
取材・文=山口哲生 撮影=rillie (@rillie0484)
2016.12.29 TSUTAYA O-EAST
2. swarm
3. 刀身デッドライン
4. 墜落
5. 1/6
6. 蛍火
7. 花瓶に触れた
8. CITRUS
9. シンボリック・ダンスニズム
10. diary
11. 厨病激発ボーイ
12. 夕暮れジェットソン
13. マーシャルの嬌声
14. DOGS
15. 新世代ニヒリズム
16. 破獄伝エクソダス
17. 神教⇒Exclamation!
18. Mes
19. Waltz Of Anomalies
20. アブストラクト・ナンセンス
21. びらんば
22. 懺悔∝Scalat!oN
23. シャルル
24. 曖昧な美談