松村龍之介、黒崎真音が恋に奮闘!? PREMIUM 3D MUSICAL『英雄伝説 閃の軌跡』ゲネプロレポート
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舞台写真
幾重にも張られた伏線のある綿密に練られたストーリー。個性的で愛嬌のあるキャラクター。そして戦略性のあるゲームシステムで、ゲーム初心者から、手練れのゲーマー達まで虜にするRPGゲーム『英雄伝説 閃の軌跡』が、PREMIUM 3D MUSICAL『英雄伝説 閃の軌跡』として2017年1月8日(日)~15日(日)、Zeppブルーシアター六本木で上演される。今回は、この舞台のゲネプロに立ち会うことができた。
舞台装置はいたってシンプルだ。中央に組まれた黒の迷彩柄のような板張りの坂。その奥にはスクリーン。それだけである。スクリーンは近年話題の3D映像が映し出される仕組みになっており、観客は事前にメガネを渡される。昨今の3D映画を観るのと同じ段取りと言っていいだろう。
転換は暗転し、役者が上手と下手にはけて、スクリーンの映像が場所を変えることによって、季節や風景を表現する。あるいは戦闘シーンも魔獣と呼ばれる敵がスクリーンに現れ、殺陣はその魔獣に対して正面を向いたりスクリーンを向いて行われる。もちろん3D映像なので、立体的で迫力があり、生き生きとした演出を堪能できることは言うまでもない。
とはいえ、そういった素晴らしい装置があるからといって、求められているのはあくまで、役者の動き、声の発声、歌の上手さ、ダンスの統一感、殺陣のダイナミックさに他ならない。つまり必要とされているのは、役者のリアルな肉体だ。舞台装置がシンプルなだけ、役者にかかる負担も相当なものだと思う。しかもミュージカルである。それでもこのカンパニーは、迫力ある声で歌ってダイナミックに殺陣をこなし、20人近くでダンスまでこなして動きが寸分狂いなく揃ってしまうのだから、感動することこの上ない。ゲーム機のコントローラーを握る手の平の汗のような熱気と緊張感が常にあった。そして、カンパニーがそれをやり遂げた時のカタルシスは凄まじいの一言だった。
舞台写真
カーテンコールで鳴り止まない拍手の中、主人公の松村龍之介をリーダーに、黒崎真音、中村嘉惟人、友常勇気、畠山遼、岸本卓也、梅田悠、楓、柴小聖、吉川麻美などが汗ばんだ顔でお辞儀をすれば、そこには稽古で幾多の困難の乗り越えて築き上げられた彼らの友情や舞台にかける愛情をひしひしと感じることができた。
舞台写真
原作のゲーム『英雄伝説 閃の軌跡』は、日本ファルコムが制作・発売したたPlayStation 3(PS3)およびPlayStation Vita(PSVita)用ゲームソフトである。元々は、1989年に発売された『ドラゴンスレイヤー 英雄伝説』から派生したゲームで、ドラゴンスレイヤーを含めれば歴史は30年近くになる。
9人の主人公たちに与えられた独自の「アーツ」と呼ばれる魔法を使える武器を駆使し、仲間たちと力を合わせながら、戦闘を繰り広げるRPGだ。戦術面は多岐にわたるが、この舞台では、「リンクアタック」というシステムが鍵になっている。これは、仲間同士でどれだけ協力できたのか、あるいはキャラクターの武器との相性や敵との戦闘の行方によって、強力な必殺技が出せるというシステムである。こういった必殺技を繰り出すためには、一つの戦闘でも息を抜けない高い戦略性が求められるし、それを達成した時のアクションはスピーディーで興奮するし、美麗なグラフィックも話題を呼んだゲームでもある。ストーリーは、今の現代の政治や経済にも当てはまるようなリアリスティックでいて、壮大にして華麗な歴史物語である。
舞台写真
舞台はゼムリア大陸エレボニア帝国。平和に見えた帝国だったが、実は近年、ある2つの勢力が台頭し、国内の緊張が高まりつつあった。
1つは四大名門と呼ばれる大貴族を中心としたかつての既得権益を守ろうとする「貴族派」。もう1つは平民出身の鉄血宰相ギリアム・オズボーンを中心とし、軍拡をはかり、大貴族の利益を奪おうとする新興勢力「革新派」である。両者は事あるごとに衝突を繰り返し、主権を握ろうと暗躍する。
それは主人公リィン・シュバルツァー(松村龍之介)が入学した「トールズ士官学院」でも同じだった。あらゆる面で優遇される白い制服の貴族生徒たち。優秀ながらも見下され理不尽さを抱く緑の制服の平民生徒たち。
舞台写真
その一方で、少数ではあるが、「深紅の制服」を着た生徒たちがいる。彼らは身分に関係なくある目的で集められた「Ⅶ組」の生徒だ。彼らは通常とは異なるカリキュラム「特別実習」でさまざまな土地を訪れ、魔獣を倒しながら、帝国の貴族派と革新派の対立を目の当たりにして愕然としていく。最終的には、帝国内にできた第3の勢力「帝国解放戦線」がテロを巻き起こすことで帝国はパニックに陥るのだが……。
今回は「トールズ士官学校」の入学式、白いライノの花が舞い散る中、リィンとアリサ・ラインフォルト(黒崎真音)が出会うことでストーリーが始まっていく。この辺りは、少女漫画に出てきそうな微笑ましいシーンなのだが、リィンの松村龍之介とアリサの黒崎真音のちょっとしたやりとりが、ほほえましくて、どこか恥ずかしくて切ない、そんな青春の一コマをリアルに描き出していた。
先にも言ったように、装置はスクリーンに映し出される花舞い散る映像しか流れない。もちろん3Dの世界で観れば、ライノの花がそこにあるようにリアルなのだけれど、だからこそ要求されるのは、映像に負けないぐらいの圧倒的な演技力だと思う。そこには、些細な動作で感動を呼ぶほどの研ぎ澄まされた演技があった。
この舞台の見所を3つあげるとするならば、1つは音楽。Falcom Sound Team Jdkによるサウンドが素晴らしい。この舞台は、リィンとアリサの恋物語としても楽しめる。ひっそりと2人きりで交わす会話のシーンでは、流麗なストリングスの音楽を静かに流し、魔獣との戦闘シーンでは激しいギターの曲が流れたりと、縦横無尽の活躍ぶりだった。圧巻だったのは、オペラ歌手のヴィータ・クロチルダ役のRiRiKAの歌であろう。元・宝塚歌劇団花組娘役だけあって、帝都内で行われるコンサートでキーの高いソプラノを披露するのだが、声が全くぶれることなく、それでいて荘厳な音楽が相乗効果を生み出し筆舌にしがたかった。
RiRiKA
次にゲームだからこそのキャラクター設定の細かさが挙げられる。リィン・シュバルツァー、アリサ・ラインフォルト、エリオット・クレイグ(中村嘉惟人)、ユーシス・アルバレア(友常勇気)、マキアス・レーグニッツ(畠山遼)、ガイウス・ウォーゼル(岸本卓也)、フィー・クラウゼル(梅田悠)、ラウラ・S・アルゼイド(楓)、エマ・ミルスティン(柴小聖)。彼らⅦ組は出自も、性格もバラバラで個性的で面白くて、笑える話も、悲しい話もあるのだが、彼らはみなそれぞれ大きな悩みを抱えている。平民である悩み、貴族であるが故の悩み、親との確執、それぞれの思いが衝突し、喧嘩をし、葛藤しながら、恋もすれば、それぞれが和解しながら幾多の壁を乗り越えて成長していく。面白いのは、実は、それが勉強のためにあちこちを転々させられているということだろう。ある意味で学園ものRPGのように経験値をためて、成長するお話でもあるのだ。
つまり、その困難を乗り越えた時、仲間同士がリンクして心がひとつになると、考えられないようなクリティカルな必殺技を出せるのだが、これは劇中でご覧になることをお勧めする。劇中後半の大きな殺陣の後におどろおどろしい魔獣の映像と披露される必殺技。ダンスと殺陣が織りなすスペクタクルで、それが壮大な爽快感をもたらすのだ。
舞台写真
3つ目は舞台装置や小道具だろう。魔獣との戦いは3D映像と相まって凄まじく迫力があった。もちろん役者の稽古の証でもあるからこその迫力とも言えるだろう。それから小道具の武器の凄まじい細部までこだわった緻密さも忘れてはならない。それらが絡み合って、まるでゲームの世界に入り込んでしまったような印象をうけるのだ。思わず席からのけぞったり、身を乗り出したりすることは確実だ。まるで、ディズニーランドやUFJのヴァーチャルな世界にいながら、実際のジェットコースターに乗せられているようなスリリングな演出は見事だった。
舞台写真
それでもやはり、役者陣の演技は欠かせない。全員を挙げたいところだけれど、ここでは主に主人公たち「Ⅶ組」のメンバーの素晴らしさを紹介していこう。
松村龍之介の歌、演技、殺陣、ダンス、すべてが逞しかった。他の出演者を先導するような圧巻のリーダーシップが皆をグイグイ引っ張っていく。
松村龍之介
舞台初出演の黒崎真音は、どこかおどおどした女子高生といった役を、はっきりした口跡でセリフを喋り、歌も完璧にこなしていた。やはりシンガーとして培った素地があるのだと実感。
黒崎真音
さらに、元・アイドルグループのSDN48の梅田悠が、小柄な体躯ながら、殺陣やダンスでダイナミックな演技が求められる舞台なのに、果敢にチャレンジして、それをものにしていた。さらに、高域から低域まで声量豊かに歌っていたのが感動的だった。
梅田悠
エリオット・クレイグの中村嘉惟人も、本当は音楽をやりたいという根の優しい子をピュアに演じていて、さらに女性的な可憐な台詞回しで胸がキュンとなること必須だ。
中村嘉惟人
ユーシス・アルバレアの友常勇気は、貴族であることを事あるごとに自慢するが、それは鼻にかけているというわけではなく、あくまで天然であるという難しいキャラクターを演じていたが、難なくこなしていて驚いたし、さらに彼の大きな騎士剣を振り回す演技はかっこよかった。
友常勇気
マキアス・レーグニッツの畠山遼は、ある事情で貴族であるユーシスに嫌悪感を抱いており、事あるごとに対立するのだが、深刻な問題を抱えながらも、時にはどこかコミカルに演じていて会場から笑いが起きるほど楽しかった。
畠山遼
ガイウス・ウォーゼルの岸本卓也は、帝国北東のノルド高原からやってきた留学生という1人だけ異端な存在をクールに飄々と演じていたけれど、ダンスや殺陣になれば、彼が一番目立つ迫力があった。
岸本卓也
「アルゼイド子爵家」の1人娘ラウラ・S・アルゼイド役の楓は、知的でいて真面目、だからどこかのほほんとしたフィーとの相容れない関係に悩みながらそれでも凛とした佇まいを終演まで忘れないでいて素晴らしかった。
楓
エマ・ミルスティン役の柴小聖は、太い黒縁メガネをかけた奨学生で、成績も抜群で、クラスの委員長を務めるのだが、どこか間の抜けた感じを可愛らしく丁寧に演じていた。
柴小聖
私的にはサラ・バレスタイン役の吉川麻美がツボにハマってしまった。クラスの担任役で、大酒飲みのキャラクターがどこか憎めない愛嬌を醸し出していて、いつも目に行く存在で楽しかった。
左:吉川麻美
こうしてキャラクターを目で追っているだけでもあっという間に過ぎ去る時間。2幕、約2時間ほどの舞台は、気づけばカーテンコールを迎えていた。
舞台写真
これはまさにゲームに熱中して、思わず徹夜をしてしまうような感覚に似ていて、手に汗握るスペクタクル、最後に待ち受けるワクワクするサスペンス、一瞬たりとも見逃せないシーンの連続で、2017年の始まりを告げにふさわしい傑作舞台。ゲーム好きなあなたも、初めて知るあなたも、ぜひとも観劇してみてはいかがだろうか。きっと忘れられない思い出になるはずだ。
舞台写真
レポート・撮影・文:竹下力