開場20周年記念 新国立劇場2017/2018シーズンラインナップ発表会見レポート
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左から宮田慶子氏、飯守泰次郎氏、大原永子氏
新国立劇場のさらなる発展を願って
新国立劇場の会場0周年記念となる2017/2018シーズンラインナップのプログラムが、1月12日(木)、オペラ、バレエ&ダンス、演劇部門の各芸術監督より発表された。
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まずオペラ芸術監督である飯守泰次郎氏は「任期の最後のシーズンであり、お客様や劇場のサポートに感謝をこめて、豪華で多彩な演目を用意した。なかでも日本人作品を取り上げられて嬉しい。さらに次世代の若手を多く取り入れた」と語った。
そして今シーズンの新制作はワーグナーの楽劇四部作「ニーベルングの指環」第3日の『神々の黄昏』(2017年10月)、日本初演である『松風』(2018年2月)、ベートーヴェン唯一のオペラ『フィデリオ』(2018年5月~6月)の3作品であることを発表した。
2015年の『ラインの黄金』から開始した新国立劇場の「ニーベルングの指環」四部作は、『神々の黄昏』が掉尾となる。かつて飯守氏が共に仕事をした故ゲッツ・フリードリヒ最晩年の演出作品を最後まで指揮することには特別な想いがあるようだ。ヴァルトラウテ役にヴァルトラウト・マイヤーが新国立劇場に初登場することを発表し、会場から驚きの声があがった。また読売日本交響楽団が新国立劇場のピットに初登場する。
飯守泰次郎氏
2つ目の新制作である『松風』は「国立で唯一のオペラ・ハウスである新国立劇場で日本の作品を上演することは大きな使命だった。そして現代を代表する世界的な作曲家である細川俊夫氏の作品を取り上げることが念願だった」と述べた。2011年5月にベルギー王立モネ劇場で初演された本作は、世界有数の振付家サシャ・ヴァルツが音楽と舞踊、声楽が一体となったコレオグラフィック・オペラという様式を確立した格調高い作品として名高く、細川が最も信頼するプロダクションだという。今回の新国立劇場が日本初演となる。
最後の新制作である『フィデリオ』は「ベートーヴェンのもっとも深い精神性と高貴な理想を表現した作品として新国立劇場開場20年周年記念にふさわしく、近年大きな注目を集める演出家でバイロイト音楽祭総監督を務めるカタリーナ・ワーグナーを迎えて上演する」と語り、「レオノーレ役は高い技術力が要求されるので、近年活躍がめざましい技術力のあるドイツのソプラノ歌手リカルド・メルベート氏にお願いした」と発表した。
新制作以外では『椿姫』(2017年11月)、『ばらの騎士』(2017年11月〜12月)、『こうもり』(2018年1月)、『ホフマン物語』(2018年2月〜3月)、『愛の妙薬』(2018年3月)、『アイーダ』(2018年4月)、『トスカ』(2018年7月)の7作品。『アイーダ』は新国立劇場開場20周年記念特別公演として、300名を超える歌手、そしてダイナミックな舞台転換をおこなう、新国立劇場の大きな舞台でしか表現できない祝祭的な演目となる。
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続いて、舞踊芸術監督の大原永子氏。ラインナップの発表の前に「就任して3年経ち、ますます責任感が強くなった。ダンサーの育成と成長には芸術監督としての責任があるのを認識した3年でもある。その成果として、ダンサーの理解力と表現力が上達し、芸術性や才能を発揮してくれるようになったことを改めて感じる。日本のバレエ界の発展のためには、そこから観客層を広げ、さらに古典だけではなく、ドラマティックなバレエやコンテンポラリーなバレエに挑んでいきたい」と熱弁をふるった。その一つの指標として新制作のチャイコフスキーの『くるみ割り人形』(2017年10月~11月)を挙げる。振付に古典的な様式の中にモダンの要素を巧みに盛り込むことのできるウエイン・イーグリングを招聘。日本人デザイナーとともに新国立劇場版『くるみ割り人形』に挑戦する。
それ以外にも『シンデレラ』(2017年12月)、また新国立劇場開場20周年記念特別公演として『パ・ド・カトル』『グラン・パ・クラシック』『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』『シンフォニー・イン・C』を一挙に上演する「ニューイヤー・バレエ」(2018年1月)、『ホフマン物語』(2018年2月)、チャイコフスキーの『白鳥の湖』(2018年4月〜5月)と『眠れる森の美女』(2018年6月)、また子供達にも観てもらいたいとのことから、今年度も「子供のためのバレエ劇場」と称して『しらゆき姫』(2017年7月)を上演する。
最後に「今回のラインナップにチャイコフスキーの3大バレエが入っていることが重要。歴史を感じさせる、若手からベテランまで層が厚いバレエ団にしていきたい。そしてフレッシュなキャスティングを含め、多くの方に観てもらいたい」と力強く語った。
大原永子氏
ダンスのラインアップについては、自身の海外での経験から「海外にいた時に、日本の現代舞踊の歴史において非常に重要な位置を占めていることを再認識させられた2つのカンパニーを招聘した」として、「舞踏の今」と称し、山海塾の『海の賑わい 陸の静寂―めぐり』(2017年11月)、大駱駝艦・天賦典式『罪と罰』(2018年3月)を上演する。
2018年2月には高谷史郎(ダムタイプ)の『ST/LL』。「映像、照明を含め、メディアアートとして完成されており、とても美しく、琵琶湖ホールの上演を観て、ぜひ東京でやりたいと思った」と語る。さらに、2018年5月には、森山開次『サーカス』を再演。「モダン・ダンスは難しくなく、家族でも楽しめるような作品を上演したいと森山さんに再度お願いした」とバレエ&ダンスの新規観客のさらなる開拓を目指していく。
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最後は演劇芸術監督の宮田慶子氏もラインナップ発表の前に意気込みを語る。「芸術監督を2期8年、任期の最終年を迎え感慨深いものがある。節目の年にふさわしく充実したラインナップになったと自負している。最後に『世界を映し出す』というテーマを集大成と捉え、日本初演が3演目、新訳演目、新国立劇場には切っても切れないシェイクスピア、井上ひさし、鄭義信氏の作品、さらに現代を代表する作家・蓬莱竜太氏を迎えた豪華で冒険的なシーズンになるだろう。演出では、栗山民也氏、鵜山仁氏、次期芸術監督の小川絵梨子氏、そして宮田慶子と現在・過去・未来と4人の芸術監督が勢揃いする20周年にふさわしい豪華な演目を揃えた」
まずはシェイクスピアの『ヘンリー五世』(2018年5月〜6月)が豪華なラインナップに華を添える。2009年の『ヘンリー六世』、そして2016年末の『ヘンリー四世』2部作を上演し、ここに多くのシェイクスピア・ファンが待ち望んでいた3作が揃う。宮田芸術監督も「ほぼ同じスタッフ・キャストでヘンリー四世から六世まで上演しているのは、世界の国立劇場を見渡しても新国立劇場だけではないか」と自信をのぞかせた。
そして日本初演の3演目。現代の欧米戯曲の日本初演作品を上演する企画が2作。まず『プライムたちの夜』(2017年11月)。アメリカの劇作家ジョーダン・ハリソンの代表作。時代は2060年ごろのアメリカ。とある老婆と男性の会話から垣間見えるロボット社会を描き、ロボットの存在意義や価値を浮き彫りにした内容となっており、現代にふさわしい内容といえよう。同じく『1984』(2018年4月~5月)。ジョージ・オーウェルの傑作小説を、イギリスの劇作家ロバート・アイクとダンカン・マクミランが翻案した作品。小説『1984』の附録に記された「ニュースピークの諸原理」に着想を得たSF作品。最後は『赤道の下のマクベス』(2018年3月)。鄭義信の新国立劇場での3部作『たとえば野に咲く花のように』『パーマ屋スミレ』『焼肉ドラゴン』に続く第4弾。2010年に韓国ソウルで上演された韓国語版を日本語版に全面改訂し公演する。1947年、シンガポールのとある刑務所にいるBC級戦犯の日本人と元・日本人だった朝鮮人の紡ぐ物語だ。
宮田慶子氏
さらにオープニングを飾り、また新訳上演である『トロイ戦争は起こらない』(2017年10月)。「ジャン・ジロドゥの作品を上演することは念願叶ってのことだった」と、時代を冷静冷徹な目で切り取ったフランス劇作家の名作の上演に目を輝かせる。「詩人でもあるジロドゥの美しい言葉を岩切正一郎氏が丁寧に日本語に訳してくださった。キャスティグも華やかでオープニングを飾るのにふさわしい作品」と興奮気味に語った。
再演は2演目。『かがみのかなたはたなかのなかに』(2017年12月)。作・演出の長塚圭史が書き下ろした子供にも楽しめる作品。本作は、バレエ&ダンスの『くるみ割り人形』『シンデレラ』と合わせて「冬のこども劇場」という形で
宮田芸術監督の任期の最後を飾る作品は「蓬莱竜太の新作」(名称未定、2018年7月)。「任期の最後にどうしても新作を上演したくて、現代に巣食うもどかしさを描くことに長けた蓬莱氏にお願いしたかった」と感慨深げに語る。「任期の最後のシーズンを、大冒険しながら終われるのが良かった。ここまで8年かけて、シェイクスピア、井上ひさしといった新国立への財産を残せたような想いをひしひしと感じる。8年かけて64演目、劇場を行ったり来たりする激動の年月だった。様々な試みをしてきたが、最後まで気を抜かずにいきたい」と決意を述べた。
発表の後には質疑応答、熱い議論が交わされたのち、懇親会が行われ各芸術監督の想いを改めて感じた。次の芸術監督からそのまた次へ、これまでの新国立劇場の歴史を繋いでいこうとする熱い想いや、開場20周年を機に、新国立の新しい未来を作り上げたい夢を描いているのは、どの芸術監督も同じだ。そのためには、子供から大人まで、多くの観客に、劇場に足を向けさせる必要がある、そんな決意を滲ませた言葉が印象的なシーズンラインナップ懇談会であった。
(取材・撮影・文:竹下力)