ヴァイオリニスト千葉清加とピアニスト坂本真由美、親友が生み出す“阿吽の音楽”
千葉清加(ヴァイオリン)&坂本真由美(ピアノ)
2人は高校時代からの親友! 第51回“サンデー・ブランチ・クラシック”2016.11.6 ライブレポート
11月6日(日)の『サンデー・ブランチ・クラシック』。この日のeplus LIVING ROOM CAFE&DININGには、2人のアーティストが登場した。一人は、日本フィルハーモニー交響楽団でアシスタント・コンサートマスターを務める千葉清加。もう一人は、日本だけでなく世界各国のコンサートや音楽祭にソリストとして招聘され活躍するピアノの坂本真由美だ。
実は、千葉と坂本は東京藝術大学付属音楽学校時代からの親友だという。これまでも何度も共演を重ね、互いに絶大な信頼をおく2人の息の合った音楽が、日曜日の午後のカフェを満たしてくれた。
(左から)坂本真由美&千葉清加
定刻になり、ステージに2人が登場すると、食事を楽しみながらも観客が耳を傾け期待の視線を向ける空気が漂う。そんな中、静かに響く調弦の音。準備が整うと、2人は笑顔を交わし合うと、ゆったりと演奏を始めた。この日の1曲目に選んだのは、エルガーの『愛の挨拶』。2人の芳醇な演奏が、明るいメロディの幸福感を増幅させていく。
まず、「本日は、お越しくださり誠にありがとうございます」と挨拶した千葉。以前から、このカフェのことを友人から聞いて知ってくれていたそうで、「今日、演奏させて頂けることになり、楽しみにやってまいりました」と笑顔をこぼした。千葉が「ちなみに、今日ここに初めていらっしゃった方は?」と問いかけると、半数ぐらいの手が挙がっていた。きっと、千葉と坂本の出演をきっかけにカフェの存在を知ってくださった方も多かったのではないだろうか。様々なきっかけで音楽の元に集う機会があるというのは、とても素敵なことだと思う。
日曜日の昼下がりにクラシックを
「さて、続いて演奏する2曲目、3曲目も“愛”にまつわる曲をお届けしたいと思います」と紹介したのは、シューマンの「3つのロマンス」より第2曲、そしてマスネの「タイスの瞑想曲」だ。
シューマンの「3つのロマンス」は、シューマンが妻クララにクリスマス・プレゼントとして贈った曲。オーボエの楽曲として知られるが、その魅力的なメロディから様々な楽器で演奏される名曲だ。そして、マスネの「タイスの瞑想曲」は、『タイス』というオペラの中に出てくる間奏曲の一つだが、タイトルは知らずとも耳にしたことがある人は多いだろう。元のオペラは娼婦と修道僧の恋愛を描いた作品で、モチーフとなっている旋律はエロスと神々しさを併せ持つ、不思議な魅力を放つ曲となっている。それぞれの違った“愛”の形を、聴かせてくれた。
坂本真由美(ピアノ)、千葉清加(ヴァイオリン)
続いてマイクを手に取った坂本は、続いて演奏する曲を「ピアソラの『タンゴの歴史』から「Bordel」と「Night Club」をお届けしたいと思います。ピアソラの曲は、ちょっと面白くて……。途中でピアノを叩くんですけど、これは決してイライラしているとか怒っているんではないんです(笑)。ピアノを打楽器のように演奏する、とても個性的な曲です」と紹介した。
またこの曲は、演奏者がそれぞれ音を加えるなど一工夫して演奏されることが多いので、この日の演奏は、この日だけのものとなる。坂本の「今日のこの演奏を、楽しんでいただけたらとても嬉しいです」という言葉とおり、一期一会の音が2人の息の合った演奏で紡がれ、聴衆の耳を楽しませた。
ピアノをたたく坂本
千葉清加
時間が過ぎるのは早いもので、すでに30分の演奏時間が過ぎようとしていた。しかし、ここで千葉から「皆さん、坂本さんのソロを聴きたいですよね?」と提案が。坂本は、2004年にグリーグ国際ピアノコンクール第1位に輝くなど、数々のコンクールで受賞している素晴らしいソリストでもある。ぜひソロを、という声に応え、急きょモーツァルトの「トルコ行進曲」をソロ演奏してくれた。ここまで、伴奏として千葉のヴァイオリンに寄り添うピアノを聴かせてくれていた坂本だが、ここで変幻自在なアレンジを加え、個性溢れる実に楽しい「トルコ行進曲」だった。
坂本真由美(ピアノ)
坂本とモーツァルトと言えば、2015年に発売した坂本がドイツのケルン放送管弦楽団と共演したデビューアルバムには、モーツァルトの「ピアノ協奏曲」第20番・21番が収録されている。興味を持った方はぜひ聴いてほしい。
大きな拍手の中、アンコールには再び2人で登場し、モンティの「チャルダッシュ」を演奏。千葉の軽快な演奏に、坂本は力強い伴奏で応える。最後は、手拍子で会場と一体となり盛り上がりを見せた。
ふたりの演奏は息ぴったり
終演後のインタビューで、「皆様が、美味しいお食事と一緒に音楽をすごくリラックスして聴いてくださっているのが分かりました」「私たちもお客様も、お互いにだんだんとほぐれてきて、一つのあたたかい空間が生まれたように感じました」と口々に語ってくれた2人。
高校時代からの親友だという2人の仲の良さは演奏からも伝わってきたが、「リハーサルなどでも、言葉を交わさなくてもいろんなことが分かるんです。本当に音がぴたりと合うので、弾いていてとても心地よく演奏できるんです」と千葉。まさに、阿吽の呼吸が存在することを、演奏を通じてはっきりと感じさせられた。
インタビューに応える二人
そんな2人に、改めて“演奏家”としての魅力を聞いてみた。千葉は坂本を「人柄を含め大好きな方です。すごく女性らしいのに、勇ましさもパワフルさもあって、どこからそのエネルギーが湧いてくるんだろうって、いつも尊敬しています」と信頼を寄せ、坂本も千葉を「コンサートマスターに選ばれるような人格者でもあり、彼女の奏でるヴァイオリンの音色は、艶やかであたたかくて、それでいて迫力もあって、一緒に弾いていてうっとりするんです。才色兼備ってこういうことなんだなって思います」と絶賛。
旧知の仲だからこそ、いつもは言葉にしないことを語ってもらったので、思わず赤面してしまうほど恥ずかしがっていた2人だったが、そんな様子からも「酸いも甘いもお互いに知った仲」という、積み重ねてきた時間の中ではぐくんだ絆が垣間見えた。
最後に、「子どもの頃に聴いた音楽は、その後の人生に大きな影響を与えると言われています。若い時に良い音楽に触れて、豊かな人生を送ってもらえたらと最近感じています。音楽をやっている者として、彩り豊かな人生の何か手助けになったらいいなと考えているので、お子さん連れもOKというこの場所が、クラシックを知って好きになってもらうきっかけになったらいいなと思います」 とメッセージをくれた。
(左から)坂本真由美(ピアノ)&千葉清加(ヴァイオリン)
クラシックは、知れば知るほど“人生の友”となるような存在だと思う。一人でも多くの人に、その楽しさに出会ってほしい。
取材・文=友成礼子 撮影=岩間辰徳
第49回全日本学生音楽コンクール全国大会小学校の部で第1位。
併せて兎束賞・東儀賞を受賞。第51回全日本学生音楽コンクール東京大会中学校の部第2位。
第1回YBP国際音楽コンクール総合第1位。第2回長野国際音楽コンクール総合第2位。
第1回名古屋国際音楽コンクール第1位。
第72回日本音楽コンクール第3位。第3回仙台国際音楽コンクール第5位(日本人最高位)。
2013年 CHANEL Pygmalion Days アーティスト。
坂本真由美(ピアノ)
東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校卒業。東京藝術大学同声会賞、ならびに読売新人賞を受賞し、東京藝術大学を卒業。財団法人ロームミュージックファンデーション奨学生としてハノーファー音楽演劇大学にて研鑽を重ねるかたわら同大学講師を務め、ハノーファー音楽演劇大学ソリスト科を卒業。ドイツ国家演奏家資格を取得。これまでにピアノをアイナー・ステーン=ノックレベルク、ベルント・ゲツケ、アレキサンダー・イエンナー、角野裕、角野怜子、北川暁子各氏、フォルテピアノを小倉貴久子氏、室内楽をマルクス・ベッカー氏に師事。
ケルン国際音楽コンクール第1位(独)、グリーグ国際ピアノコンクール第1位(ノルウェー)、トップ・オブ・ザ・ワールド国際ピアノコンクール第2位(ノルウェー)、アンドラ国際ピアノコンクール(アンドラ公国)、スコットランド国際ピアノコンクール(英)、イタリア文化庁主催パウシリポン国際ピアノコンクール、ピネローロ国際ピアノコンクール(伊)など国内外数々のコンクールで入賞。チャイコフスキーコンクール(露)、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール(米)にてディプロマ受賞。
これまでに日本はもとより、世界各国でコンサートや音楽祭、オーケストラにソリストとして招聘され、テレビ、ラジオにも出演を重ねている。’10年横浜市招待国際ピアノ演奏会に出演。’11-12年WDR西ドイツ放送管弦楽団と協演、西ドイツ放送で放送される。ライフワークとして、グリーグの作品に取り組み、’13年ゲッティンゲン交響楽団とグリーグのピアノ協奏曲を協演・レコーディング。’14年にはシャルヴェンカのピアノ協奏曲をフランクフルト・ブランデンブルク州立オーケストラと協演するなど、知られざる作曲家、作品の発掘にも積極的に力を注いでいる。また、ヴィルヘルム・ケンプ文化財団より招聘を受けイタリア・ポジターノにてベートーヴェン特別集中解釈講座を受講するなど、作品研究にも重点を置いている。
2015年、CDアルバム「坂本真由美 モーツァルトピアノ協奏曲20番&21番」(協演:WDRケルン放送管弦楽団、指揮:ニクラス・ウィレン)をリリース。2015年9月放送の「関ジャニ∞のTheモーツァルト 音楽王NO.1決定戦」において優勝を果たし、「初代ピアノ王」となる。
布谷史人/マリンバ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
2月26日
渡辺克也/オーボエ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
3月5日
海瀬京子/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
3月19日
松田理奈/ヴァイオリン&中野翔太/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
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