松田理奈(ヴァイオリン)がプロデュース『OTOART』始動! 子どもたちが繋ぐクラシック音楽と現代アート

レポート
クラシック
2017.6.5
松田理奈プロデュース OTOART vol.1『音×色』

松田理奈プロデュース OTOART vol.1『音×色』

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松田理奈(ヴァイオリン)×中山晃子(現代アート) “サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.5.21 ライブレポート

日曜午後に渋谷・道玄坂で毎週行われているサンデー・ブランチ・クラシック。一流アーティストの生演奏が気軽に楽しめると好評だ。5月21日に登場したのはヴァイオリン奏者の松田理奈(まつだ りな)。同コンサートに度々出演しているお馴染みの彼女だが、今回は自らがプロデュースした『OTOART vol.1「音×色」』を披露した。

松田のヴァイオリンと、「Alive Painting」という色鮮やかな液体を使った映像パフォーマンスで知られるアーティスト中山晃子(なかやま あきこ)とのコラボレーションである。クラシック音楽と現代アートという二つの世界を子どもの感性が繋いでいく。

開演30分前、多くのベビーカーが並ぶ入り口を抜け、会場に入った。既に、1歳から5歳ぐらいまでと見受けられる小さな観客たちがママ、パパと一緒にランチを楽しんでいた。客席中央部にオープンスペースが設けられた会場に、時間になると大きな拍手に包まれて松田、中山、そしてピアノ伴奏を務める小森谷 裕子の3名が登場。

子どもたちに呼びかける松田

子どもたちに呼びかける松田

松田が「このあたり。真ん中のエリアで、床にペタっと座って聴いてみてくださいね!」と呼びかけると、子どもたちは嬉しそうな笑顔でオープンスペースにひょこひょこと集まる。ちょっと緊張気味だが、興味津々の子どもたちに素敵な魔法がかけられた。

「楽しく聴いて見られるように、おまじないを掛けますよ! げんこつを作って、頭のてっぺんをぐりぐりしてね。こうするとよく見えるようになるの」

子どもたちは、皆、手を頭の上で回す。

「次は、首の後ろを掴んで。硬くなっていない?ここを、ぷにぷにと柔らかくすると音が耳にいっぱい入ってきますよ」

みんな懸命に首をもむ(笑)。会場は一気に打ち解けた雰囲気につつまれた。

“青”が交りあう

“青”が交りあう

「それでは、音と色の世界に行きましょう!」の掛け声が合図となって、ラヴェル「ツィガーヌ」の演奏が始まった。この曲の冒頭には長い即興風カデンツァがある。ヴァイオリンが、G線の一弦だけで独奏する技巧的に難しい箇所。大胆かつ精妙な松田の演奏は、情熱や哀愁、時に大陸的な雄大さまでを感じさせてくれた。同時に、設置されたスクリーンには映像が映し出される。

様々な色が混ざり合っていく

様々な色が混ざり合っていく

中山は、カラフルな液体や固体を用いて、色が入り混じる動きや意外性のある形、模様などを作り出すアーティスト。彼女の手による抽象的な色彩の動きは、どうしてか音楽と合わせてみると意味をもって立ち現われてくる。流体の混和や散乱を生命のメタファーとよぶ彼女の作品につい引き込まれた。子どもたちも顔を見合わせて、「すごーい!」と歓声を挙げる。

スクリーンに映し出された映像

スクリーンに映し出された映像

手元の様子

手元の様子

「ツィガーヌ」は、ジプシーを意味するフランス語で、ジプシー音楽とフランスの印象主義的な音楽語法とが融合した名曲だ。個人的には赤いイメージだったが、目の前に繰り出された映像は深い青。なるほど、この青色にはエキゾチックさとミステリアスさが秘められている。そして、ピアノ伴奏加わると、赤い色が鋭く交わってきた。青と赤のせめぎあいに、再び歓声が挙がる。「赤が青い!」色の移ろいは、子どもの心にちゃんと届いていた。

手元のイラストとスクリーンの映像を見比べる子供たち

手元のイラストとスクリーンの映像を見比べる子供たち

2曲目は、優雅で祝福感に溢れたクライスラーの「テンポ・ディ・メヌエット」。生気溢れる艶やかな音で、親密に旋律を奏でていたのが印象的。中間部は、軽やか且つ溌剌と演奏され、鮮やかな対比が作られた。

対峙する映像は、美しい紫色の花の写真を背景としたもの。瑞々しい花々が、時に無数の雫で、時に金色の細粉で飾られた。春を謳歌するかのような明るさが随所で感じられ、包容力のある演奏との一体感をさらに高めてくれる。

質問コーナー

質問コーナー

演奏が終わり、子どもたちに向けた質問コーナーに移った。「質問のある人はいますか?」という声に多くの手が挙がる。「(今、出ていた)お花の名前は?」と聞かれて、中山は「名前は分からないけど……お散歩中に、この紫色がキレイだなと思って撮影しました」と回答。

松田理奈(ヴァイオリン)、中山晃子(現代アート)

松田理奈(ヴァイオリン)、中山晃子(現代アート)

「何でお花畑に絵具が現れたんですか?」と聞く女の子には、「キラキラが出てきたときに、蝶々なのかな、花粉なのかなあと想像しながら描いていました」と答えた。子どもたちの「知りたい」という素朴な感情から発せられる疑問の一つひとつに暖かな微笑が絶えない。

松田理奈(ヴァイオリン)

松田理奈(ヴァイオリン)

最後の曲は、同じくクライスラーが作曲した「前奏曲とアレグロ」。力強く壮大な主題で始まる前奏曲を、格調高くも時に抑制した表現を丁寧に織り交ぜることで、メランコリックな雰囲気を作り出した松田の手腕に思わず息をのんだ。続くアレグロは、アップテンポの中で多く弦を同時に弾かなければならない演奏家泣かせの難所だが、細やかなコントロールの求められるパッセージも含めて、充実した響きで楽しませてくれた。

宇宙を感じるアート

宇宙を感じるアート

その間、眼前に広がっていたのは黒をベースとした波や渦の動き。果てなく広がる宇宙を彷彿とさせ、曲のもつスケール感や神聖さを一層深めてくれる。まさに音楽と映像のコラボレーションに相応しい。

演奏が終わり、「私もすごく楽しかったです。子ども連れの外食は、大変だと思いますが、お越し頂きありがとうございました。」と松田。彼女と中山に、小さな観客からも惜しみない拍手が送られた。

キラキラした映像に女の子たちは夢中

キラキラした映像に女の子たちは夢中

映像はもちろん演奏も素晴らしい

映像はもちろん演奏も素晴らしい

予定されていたプログラムの演奏の後、残された僅かな時間は、きっと子ども達の記憶に長く残り続けるだろう。舞台に上って、自由に動ける機会が用意されていたのだ。松田がクライスラー「美しきロスマリン」とエルガー「愛の挨拶」を演奏する傍らで、スクリーンに触ったり、絵具の流れを見ながら中山に質問したりする子ども達。自らの興味に従って動く子どもたちの姿から、自主性や創造性が垣間見える。パパとママにとっても嬉しい時間であったのは間違いない。

カフェの店内とは思えないパフォーマンス

カフェの店内とは思えないパフォーマンス

公演後、素敵な時間を届けてくれた松田と中山に話を伺った。


――本日は、素晴らしい演奏を有難うございました。本番はいかがでしたか?

松田:映像とコラボレーションするのは初めてでしたが……ピアニストとの共演と全く変わりませんね。表現方法が違うというだけで、時間の流れも一緒。目を合わせるわけでもないのに、映像から中山さんがどういう動きをしているが分かってしまう。不思議な感覚でした。

中山:ヴァイオリンとの共演は初めてで、私にとっても贅沢な時間でした。公演中、視覚は絵とお客さんに集中していましたが、音は耳や肌でキャッチできます。松田さんから事前にイベントの経緯や想いなどを伺っており、彼女の人柄を知った上で舞台に立てたことが、一番、意味のあることだったと思います。

インタビュー中の様子

インタビュー中の様子

――今回のイベントで大切にされていたことを教えてください。

松田:親と子どもの関係というのは、親から子どもへの直線的なものではなく、円環の方が相応しいと思います。だから、子どものもつ無限の発想力やひらめきに、大人が触れられる瞬間をもって欲しいと思いました。今回は、どういうのが子どもに分かりやすいかという理屈は考えず、真剣勝負のセッションを見てもらおうというシンプルな気持ちで臨みました。

中山:二人ともそういう姿勢で取り組み、子どもたちも受け身にはならなかったと思います。「赤がいっぱいになった」とか、子どもたちの素朴な感想がステージの上にいた私のところまで押し寄せてきました。彼らの熱気を受け止めながら、音と動きを作っていく。そういう感触がありました。

――今回は、第一回目。今後はどのように展開されるのでしょうか?

松田:OTOARTは、子どもに舞台に参加することを経験して欲しいという気持ちから始まっています。文字や絵でも小道具でも、何か、子どもたちからアウトプットされたものが、舞台に反映されるような企画がいいですね。それが、彼らの成功体験になるようなことになれば、とても嬉しい。オペラのようにストーリーのあるものも一つでしょうし、音楽を聴いてもらった上で一緒にストーリーを作っていくというのもいいかもしれません。アイディアはたくさんあります(笑)。

中山:舞台に上がって、私の傍にきた子ども達は影絵が出来ることを発見しました。こちらから与えるだけではなく、自分自身で見つけた楽しさを、さらに膨らませていく手助けをする。松田さんが、親子の関係を円環とおっしゃっていましたが、円のようにアイディアが連なっていくような企画が出来ればいいなと思っています。

松田理奈(ヴァイオリン)、中山晃子(現代アート)、小森谷 裕子(ピアノ)

松田理奈(ヴァイオリン)、中山晃子(現代アート)、小森谷 裕子(ピアノ)

子どもがもつ想像力と感性の豊かさにはいつも驚かされる。葉っぱや石、水といった身近なものを、色々なものに見立てて豊かに遊んでいる。生の演奏を聴くことが、そういった想像力や感性を伸ばす一助になると思うのは、筆者だけではあるまい。最近では、0歳児であっても参加できるコンサートも多く企画されているが、いざ連れて行こうと思うと、「長い時間、聴いていられるかな?」、「ぐずって、歩き回ったりしないかな?」などの尽きない心配に二の足を踏んでしまう。実は松田も一児の母としての顔をもつ。一流の演奏家とママという二つの目線から作られたこの企画は、コンサートに小さなお子さんを連れて行きたい皆さんに、間違いなくオススメできる。次回、『OTOART』のvol.2では、一体どんな世界が体験できるのだろうか。是非、パパ、ママも、この「特別な時間」を、子どもたちと一緒に楽しんでみてはいかがだろうか。

取材・文=大野 はな恵 撮影=荒川 潤

サンデー・ブランチ・クラシック情報
6月11日
西谷牧人/チェロ&新居由佳梨/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
6月18日
文代fu-mi-yo/声楽家
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円


6月25日
二瓶真悠/ヴァイオリン&黒岩航紀/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円

7月16日
藤田真央/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html​

 

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