『世界が絶賛した浮世絵師 北斎展』をレポート “画狂老人”北斎の代表作から稀少作品まで、50点が集結

レポート
アート
2017.7.3
 《冨嶽三十六景》 神奈川沖浪裏

《冨嶽三十六景》 神奈川沖浪裏

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パルコミュージアムにて『世界が絶賛した浮世絵師 北斎展〜冨嶽三十六景・エッフェル塔三十六景の共演』(会期2017年6月30日〜7月17日)が開幕した。本展覧会は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師・葛飾北斎(1760-1849)の代表作「冨嶽三十六景」をはじめ、ユーモア溢れる「北斎漫画」や、旅風景を描いた「東海道五十三次」など50作品が集い、北斎芸術の魅力を幅広く紹介するものだ。

生涯93回の引越しと30回以上の改名を繰り返し、自らを「画狂人」「画狂老人」と称した北斎は、その名の通り数多くの作品と作風を生み出した。本展では、誰もが一度は目にしたことのある「赤冨士」「浪冨士」に加え、極めて珍しい「青冨士」や、北斎に影響を受け、後に「エッフェル塔三十六景」を生んだフランス人画家アンリ・リヴィエール(1864-1951)の作品もあわせて楽しめる。国内だけでなく、海外でも高い評価を得ている北斎版画の見どころを、一般公開に先立ち開催された内覧会よりお伝えしよう。

会場エントランス

会場エントランス

世界中にたった3枚しか存在しない「青冨士」

日本のシンボル富士山を中心に描いた「冨嶽三十六景」は、四季や市民の暮らしを反映しながら、様々な姿をみせる富士を大胆な構図と鮮やかな色彩を用いて表現した北斎の代表シリーズである。

《冨嶽三十六景》 甲州三坂水面

《冨嶽三十六景》 甲州三坂水面

現代の観光風景にも通じるワンシーンを描いた「五百らかん寺さざゐどう」や、豆粒のような人間がかわいらしい「東都浅草本願寺」、アニメーションのような動きを感じさせる波が特徴的な「神奈川沖浪裏」(俗称「浪冨士」)など、一枚一枚見るごとに、不動の存在感を放つ富士山の印象も変化していくだろう。

《冨嶽三十六景》 五百らかん寺さざゐどう

《冨嶽三十六景》 五百らかん寺さざゐどう

《冨嶽三十六景》 東都浅草本願寺

《冨嶽三十六景》 東都浅草本願寺

《冨嶽三十六景》 神奈川沖浪裏

《冨嶽三十六景》 神奈川沖浪裏

「凱風快晴」(俗称「赤冨士」)は、朝焼けに映える真っ赤な山肌が際立ち、「冨嶽三十六景」の中でも傑作といわれている。その「赤冨士」よりも後に摺られた青摺りの同作品(俗称「青冨士」)は、試し刷りの色変り品であり、世界に3枚しか存在していないという。同じシルエットにもかかわらず、青色に縁取られた輪郭は「赤冨士」とは異なる表情を見せてくれる。本展では、赤と青の冨士が対をなすように展示されているので、ぜひ二つを見くらべてほしい。

《冨嶽三十六景》 凱風快晴 「赤冨士」と「青冨士」

《冨嶽三十六景》 凱風快晴 「赤冨士」と「青冨士」

おどろおどろしい妖怪画から、「変顔」だらけの北斎漫画まで

風景画を多く残した北斎だが、その他にも小説の挿絵や戯画、文字絵など、幅広いジャンルに渡って活躍した。こんなエピソードが残っている。100個の怪談を集めて語られる「百物語」の題材に挑戦した北斎。しかし、それぞれの作品に力を注いだあまり、100枚に到達することなく、5枚のみの完成に留まってしまったという。今回展示されている2枚の妖怪画「こはだ小平二」と「さらやしき」の写実的な人物表現や繊細な色使いは、寒気を誘う薄暗さもあり、見応えも十分だ。

《百物語》 こはだ小平二

《百物語》 こはだ小平二

《百物語》 さらやしき

《百物語》 さらやしき

《三国妖狐傅》 唐土紂王館の段 第一斑足王御てんのだん

《三国妖狐傅》 唐土紂王館の段 第一斑足王御てんのだん

絵手本として江戸庶民の間でベストセラーになった人気作「北斎漫画」の前身となるような鳥羽絵では、ゆるい表情の人々が愛らしい。絵の中に巧みに文字を組み込む文字絵や、百人一首の情景を絵画化する試みなど、北斎のセンスが抜群に発揮される作品も多数展示されている。

鳥羽絵 駕籠かき

鳥羽絵 駕籠かき

《文字絵六歌仙》小野小町

《文字絵六歌仙》小野小町

北斎漫画

北斎漫画

北斎漫画

北斎漫画

「冨嶽三十六景」からヒントを得た「エッフェル塔三十六景」

19世紀半ば、海を越えてヨーロッパに渡った浮世絵は、当初、陶器など割れ物の包み紙として使われていた。その包み紙に注目した画家たちは、西洋には見られない独特の構図やモチーフに興味を抱き、やがて、単なる東洋趣味を越えた「ジャポニスム」という流行を作り出す。

北斎の誕生年から約130年後、フランス国内がジャポニスムブームに包まれる中、リトグラフ画家として活躍したのがアンリ・リヴィエールだ。モネやゴッホなどの印象派画家と同じく、リヴィエールもまた浮世絵に感化された。北斎の「冨嶽三十六景」に着想を得て、14年の歳月をかけて、パリの新たなシンボルとなるエッフェル塔をモチーフに「エッフェル塔三十六景」を完成させた。

《エッフェル塔三十六景》 扉絵

《エッフェル塔三十六景》 扉絵

北斎が得意とした近景を拡大(誇張)して描く手法や、画面を分断するような大胆なモチーフの扱い方などを、リヴィエールの作品内に見つけることができる。「ラマルク街より」に描かれた強風に揺れる木々の描写は、北斎の「駿州江尻」とほぼ一致している。36枚全ての作品を見ながら、北斎の影響が感じられる部分を発見するのも面白いだろう。

《エッフェル塔三十六景》 ノートル・ダム寺院より

《エッフェル塔三十六景》 ノートル・ダム寺院より

《冨嶽三十六景》 常州牛堀

《冨嶽三十六景》 常州牛堀

《エッフェル塔三十六景》 塔より

《エッフェル塔三十六景》 塔より

《冨嶽三十六景》 甲州三嶋越

《冨嶽三十六景》 甲州三嶋越

《エッフェル塔三十六景》 ラマルク街より

《エッフェル塔三十六景》 ラマルク街より

《冨嶽三十六景》 駿州江尻

《冨嶽三十六景》 駿州江尻

北斎版画のモチーフを用いた限定商品も販売

グッズ売り場では、ポストカードやクリアファイルをはじめ、北斎ラーメン(乾麺)等、一風変わった商品も取り扱っている。また、本展限定の赤富士や波模様をモチーフとしたオリジナルTシャツにトートバック、スマホケースなども販売している。

グッズ売り場

グッズ売り場

多機種対応・マルチケース 神奈川沖浪裏 総柄

多機種対応・マルチケース 神奈川沖浪裏 総柄

『世界が絶賛した浮世絵師 北斎展〜冨嶽三十六景・エッフェル塔三十六景の共演〜』は2017年7月17日まで開催。晩年まで衰えることのない北斎の表現活動の軌跡を、ぎゅっと濃縮した空間となっている。時を経てもなお愛される「画狂老人」の作品が見られるこの機会に、ぜひ足を運んではいかがだろうか。

イベント情報
世界が絶賛した浮世絵師 北斎展〜冨嶽三十六景・エッフェル塔三十六景の共演〜

会期:2017年6月30日(金)〜7月17日(月・祝日)全18日間
会場:パルコミュージアム(池袋パルコ本館7階)http://www.parco-art.com
開館時間:10:00〜20:00(入場は閉場の30分前まで ※最終日18:00閉場)
入館料:一般700円 学生500円 小学生以下無料
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