京都の新劇場[Theatre E9 Kyoto]が、プロジェクト発表&クラウドファンディング募集
[Theatre E9 Kyoto]外観イメージ。
小劇場の閉鎖が相次ぐ京都で「100年つづく小劇場」の開設を目指す。
日本でも有数の演劇活動が盛んなエリアでありながらも、オーナーの高齢化や施設のリニューアルなどで、若手表現者向けの小劇場がどんどん閉鎖されている京都。そんな状況を変えるべく、現在京都市によるアートゾーン構想が進められつつある京都市・東九条エリアに、新しい小劇場[Theatre E9 Kyoto](シアターイーナインキョウト)をオープンする計画が立ち上がった。6月26日にプロジェクトの詳細と、創設に伴う支援協力の呼びかけが、会見の形で発表された。
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[Theatre E9 Kyoto]設置が予定される、京都の不動産会社「八清」の倉庫。「八清」は町家のモダンなリノベーションで、建築マニアの間で人気の高い会社だ。
京都ではこのわずか3年ほどの間に、[アトリエ劇研]や[元・立誠小学校]など、5つもの演劇向けのスペースが閉鎖&17年度中の閉鎖予定となっている。現在残っている施設も、芝居を始めたばかりの若手には利用が困難な所が多いため、小劇場界以外からもこの現状を危ぶむ声が上がっていた。そこで[アトリエ劇研]ディレクターのあごうさとし、大蔵流茂山家の狂言師・茂山あきら、現代美術家のやなぎみわなどが「一般社団法人アーツシード京都」を設立。JR京都駅から徒歩15分の所にある倉庫を、100席程度の小劇場+ギャラリーやアーティスト用の宿泊スペースも備えた複合施設にリノベーションし、2018年秋を目標にオープンするという構想をあきらかにした。
[Theatre E9 Kyoto]プロジェクトの会見。左から2番目がやなぎみわ、4番目があごうさとし、5番目が茂山あきら。 [撮影]吉永美和子
「アーツシード京都」の代表に就任したあごうさとしは「5つの劇場がなくなることで、年間で100~150演目が公演の機会を失うことになります。特に空間を自由にレイアウトできるブラックボックス形式の劇場は、小劇場としては基礎的な空間なので、これが消滅すると本当に舞台芸術の人材が京都から育たなくなる。民間の小劇場は長い活動を持続することが難しいですが、できればずっと続いていけるような場所になれば……という願いを込めて“100年つづく小劇場を”というキャッチをつけました。どこまで構想が実現できるかはわかりませんが、皆様に長く愛されるような広場を作っていけたらと思います」と、今回の立ち上げについての思いを語った。
またあごうは、小劇場文化の存在意義を問われて「表現とはそもそも多様なもの。たとえ社会的には不道徳に思われたり、ネガティブに受け止められるようなものでも、人間には表現の衝動があり、そこにはアートの本質があると思います。小劇場は変な規制がかかってこないから、マスメディアではできないような表現も自由に、かつ音楽や美術を用いた総合芸術として発表できるんです。非常に小さい場所ゆえに大衆性を獲得しにくくはありますが、その分自由な表現、あるいは人間存在そのものに密接した空間だと言えます」と答え、その価値を改めて強調した。
[Theatre E9 Kyoto]内部イメージ。SPACや地点などの舞台デザインや空間構成も手がける、建築家の木津潤平が設計を担当している。
また茂山あきらは、古典芸能の世界から今回のプロジェクトに関わった理由について、30代の頃に[アートスペース無門館](アトリエ劇研の前進)の名物プロデューサーだった故・遠藤寿美子に誘われて、サミュエル・ベケットの数々の作品に挑戦したという経験を踏まえて「若者たちと一緒に活動をすることで、狂言のような古典芸能も現在に生きていられる。そんな若者たちが活動の場を失うと外へ逃げちゃいますし、もう二度と帰ってこれないかもしれない。それを何とかくい止めたいと思って、老婆心ながら彼らが発表できる場を作らねばいけないと考えました。まずはスタートまで来ましたので、ここから二歩三歩目は、皆様にぜひとも、ぜひともご協力いただきたい」と語っていた。
[Theatre E9 Kyoto]予定地倉庫1階部分。ここを100席程度の劇場にリノベーションし、隣にはカフェスペースを作る予定。
今現在[Theatre E9 Kyoto]設立に向けて大きな課題となっているのが、劇場設立の認可と資金。倉庫がある一帯は法律上劇場経営が許可されていないが、現在特例で認可が降りるように動いているそうだ。さらにその申請にかかる所経費や、倉庫の改装や備品購入などで、現時点で想定される総事業費は8,550万円にも及ぶ。それを今後、クラウドファンディングを中心とした寄付金を募ることで調達していくという。
[Theatre E9 Kyoto]予定地倉庫2階部分。ここにはギャラリーと、アーティスト用の宿泊施設の設置を予定している。 [撮影]吉永美和子
寄付金の総額を含めた今後の現状は、公式サイトで随時報告されることになっている。京都の未来の演劇文化を守り育てる劇場が立ち上がり、まずは「影絵と狂言を一緒にした作品を、オープニング(公演)の時にやりたい」という茂山の願いがかなうことを祈りたい。クラウドファンディグは一口1万円から募集中。協力特典などの詳細は、下記のサイトでご確認を。
「アーツシード京都」代表理事のあごうさとし。7/12~17には新作『リチャード三世』を上演する。作品インタビューは後日公開。 [撮影]吉永美和子
■公式サイト:https://askyoto.or.jp/
■クラウドファンディングサイト:https://readyfor.jp/projects/TheatreE9Kyoto