小原孝の心安らぐピアノ即興と語りで、19年目に突入のNHK-FM『弾き語りフォーユー』

ピアニストの小原孝が、パーソナリティーを務めながらリクエスト曲をピアノで即興演奏する、NHK-FM『弾き語りフォーユー』（月～木 午前11時～、再放送 火～金 午前5時～）。優しい響きのピアノと語りで、聴く人の心をふんわりと解きほぐす憩いのひとときを綴り続け、99年4月のスタートから早19年目に突入。夏恒例の「音楽で綴る愛と平和へのメッセージ特集」のリクエストも募集中だ。

ピアノでオープニング曲『風のメロディー』を弾きながら、目の前のマイクに向かって「こんにちは、小原孝です……」。小原の席は、初回からずっとグランドピアノの前。20分間そこに座ったまま､話をしたりピアノを弾いたりする。ソフトな語り口で、リスナーからの便りやメールのメッセージを読み終わると、すうっとリクエスト曲の演奏に入る。

心洗われる美しいピアノの音色、単に音がきれいなだけでなく、ピアノが歌っている。普段から「言葉で弾く」ことを基本とする小原ならではのピアニシズム。「ドレミではなく、歌詞で弾くことで、ニュアンスが音に表れる」という。お陰で、リスナーはほっとひと息つけるのだ。

曲の長さにもよるが、１回の放送で取り上げる曲数は４～６曲程度で、クラシック、歌謡曲、洋楽、民謡などジャンル不問。リクエストに漫然と応えるのではなく、例えば7月初めの週に、「七夕」にちなんで「星」にまつわる曲を取り上げる…といったように、テーマ性を持たせて季節感を出すなど工夫を凝らしている。

歌手の歌唱音盤をわざわざ流してから、ピアノで即興することもある。歌がなくなると物足りなく聞こえそうなものだが、どっこい「こんな風に弾けたらなあ」とつくづく思う演奏で、いつも感心してしまう。

また、同じ曲のリクエストが来ても、その都度、弾き方が違う。ちゃんと理由があって、「例えば、卒業シーズンのリクエスト曲で『息子が卒業式で弾いた…』と『亡くなった恩師に教わった…』では、同じ弾き方にならないでしょ」という。

なるほど、番組全体のトーンを保ちながら、さまざまな手法で演奏しているので、毎回とても「新鮮」に聞こえる。ゲストを招いたり、たまに小原の弾き語りで自身の曲が流れたりも。さだまさし風の、語りかけるような歌唱である。

8月恒例の「音楽で綴る愛と平和へのメッセージ特集」もリスナーには楽しみなことだろう。番組へのリクエストを自身のブログでも呼びかけている。「愛と平和」といっても人によって感じ方や経験はさまざまで、オンエアされる曲のバリエーションは幅広い。

昨年のラインナップをたどって見ても「We Are The World／鳥の歌（カタロニア民謡）／瑠璃色の地球…」とか「精霊流し／長崎の鐘／ある晴れた日に（プッチーニ）…」といった具合に、放送日ごとになかなか意味深い。

この他、ときどき全国各地で公開収録も行われ、自身のホームページでも随時紹介しているので、トーク＆ピアノ即興演奏をナマで味わうことも可能。また、番組に寄せられるリクエスト曲の中から選曲＆新録音したアルバムも複数出ている。

中でも、『弾き語りフォーユーBEST～ランチでピアノ』シリーズには、『見上げてごらん夜の星を』『一本の鉛筆』『糸』『ひこうき雲』『TOMORROW』といった、世代を超えて歌われている曲が多く収録されているうえに、オープニングの『風のメロディー』とエンディングの『For You…』が、番組でおなじみのトーク入りで収録されている。

また、リスナーにはピアノ愛好者も多く、90歳で発表会に挑戦している人から便りが届いたりするほど。そこで今年は、小原自身も愛奏してきたブルクミュラーやツェルニーの曲をはじめ、『乙女の祈り』『ラ・カンパネラ』といった発表会の人気定番をまとめた2枚組『ピアノ名曲フォーユー』を６月にリリース。「ピアノ用にアレンジしてほしい」というリクエストに応え、皇后陛下美智子さま作曲の子守歌『おもひ子』がボーナストラックに入っている。

健康維持のために水泳を続けながら、たゆまず着実に続けるうち、すっかり長寿番組になった『弾き語りフォーユー』。20周年までもうひと息。節目で何を聴かせてくれるのか、今から楽しみだ。

文＝原納暢子