千葉清加(ヴァイオリン)&須藤千晴(ピアノ)が紡ぐ優雅に秋を舞う調べ
千葉清加(ヴァイオリン)、須藤千晴(ピアノ)
“サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.10.1 ライブレポート
日曜の昼のひと時を、クラシック音楽を聴きながらゆったりと過ごす『サンデー・ブランチ・クラシック』。10月1日に登場したのは現在、日本フィルハーモニー交響楽団アシスタント・コンサートマスターを務めるヴァイオリニスト・千葉清加とクラシックに加えて作曲やポップス曲にも踏み込んだ幅広い音楽を追及するピアニスト・須藤千晴の2人だ。10月最初の日曜日、秋めいてきた季節にぴったりの、色彩豊かな音楽が奏でられた。
須藤千晴(ピアノ)、千葉清加(ヴァイオリン)
テーマは「秋」と「舞踊」
拍手と共に登場した千葉&須藤の1曲目はビバルディの『四季』より協奏曲第3番ヘ長調RV.293「秋」。弾むようなヴァイオリンの音色とピアノの演奏は、黄金色に色づいたのどかな田園に実りの喜びがあふれ、うきうきと楽しくなってくるようだ。どこかで耳にしたことのあるお馴染みのメロディは親しみやすく、客席は一気に2人の世界に引き込まれた雰囲気。掴みはばっちり、という感じだ。
千葉清加(ヴァイオリン)
「秋と、さらにもう一つのテーマとして舞曲を選びました」と千葉が語るように、2曲目はウィーン生まれの女性作曲家パラディス(1759-1824)による「シチリアーノ」。「パラディスは幼少時に視力を失った盲目の女性ピアニストで作曲家。モーツァルトと同時代の人で、モーツァルトの『ピアノ協奏曲第18番 変ロ長調』は彼女に献呈されました」という千葉の説明ののち、演奏がはじまる。
シチリアーノは15~16世紀のルネッサンス期が発祥とされる、ゆったりとした舞曲だ。18世紀以降には、数々の作曲家が様々な「シチリアーノ」を書いている。パラディスのものは、ゆったりとしたテンポの宮廷舞踊を思わせ、また千葉のノスタルジックなヴァイオリンの音色は窓辺の向こうで静かに揺れる赤や黄色の木々の風景が浮かんでくるようだ。
3曲目はファリャの歌劇『はかなき人生』より「第2幕 スペイン舞曲第1番」。一転、熱と郷愁を帯びたスペインらしいメロディが会場に響く。
千葉清加(ヴァイオリン)
ピアノソロはクラシックの域を超えた作品を披露
3曲を終えたところで、須藤がピアノソロを披露。曲は作・編曲家でピアニストの園田涼作曲「ミクロワルツ」だ。演奏スタイルが自由なジャズは、弾き手によってスローあるいは速いテンポであったり、陽気な、あるいはしっとりとした雰囲気など様々な表情をみせる。
須藤千晴(ピアノ
須藤の弾く「ミクロワルツ」はおしゃれで上品な、こっそりしまい込んである宝箱をのぞいて「ウフフ」と笑みがこぼれるような世界だ。「みなさんぜひこの曲を覚えて帰って頂けたら嬉しいです」と須藤。2018年3月に、園田との共演が予定されているそうで、こちらも楽しみになってくる。
須藤千晴(ピアノ)
透明なグラズノフから超絶技巧へと疾走
引き続きデュオに戻った最初の曲はグラズノフ「瞑想曲 ニ長調 Op. 32」。繊細なガラスのような、透明感あふれる旋律が甘く響き、目を閉じてその調べに身をゆだねてただ、聴いていたくなる。
そしてこの日の6曲目はサラサーテ「序奏とタランテラ Op.43」。タランテラはイタリアのナポリが発祥とされる軽快なリズムの舞曲だ。「超絶技巧の曲なので、ぜひ皆さん、演奏する右手にも左手にもご注目を」と千葉。
千葉清加(ヴァイオリン)
須藤のピアノからゆったりと始まった序奏から、次第にリズムはアップテンポに。千葉のヴァイオリンがどんどんスピードを増し、弓を持つ右手と左手が目まぐるしく動く。時には弦を抑える左手で弦を弾きながらの技巧は、これがプロの技術か!と驚かされる。唖然とする会場をよそに、2人の息の合った演奏は軽やかにフィニッシュ。「お見事!」の拍手が会場から沸き上がる。
須藤千晴(ピアノ)
アンコールはモンティ作曲「チャールダーシュ」だ。これはハンガリーの民族舞踊で、とくに19世紀にはハンガリーはもとより、隣国ウィーンをはじめヨーロッパ中で大流行。オペラやバレエのヴァリエーションとしても取り入れられている。哀愁を帯びた、ゆったりとしたリズムと陽気なアップテンポが入れ替わり立ち代わりあらわれ、最後は踊り手がくるくると回るようなスピードだ。ウキウキと楽しくなる、そして様々な踊りの色彩にあふれたひと時だった。
須藤千晴(ピアノ)、千葉清加(ヴァイオリン)
ジャズやポップスを勉強することでクラシックに深みも
終演後、東京芸術大学の先輩と後輩に当たるというお二人にお話を伺った。
――素敵な演奏をありがとうございました。今日のテーマは「踊る秋」というのでしょうか、秋とともに舞曲も交えてという構成が叙情的で素敵でした。
千葉:はい。あでやかさのなかにしっとりとした雰囲気を出したいなと思いました。
――須藤さんがソロの演目に「ミクロワルツ」を選ばれた理由は?
須藤:「踊りがテーマ」ということで、ワルツの雰囲気がぴったりでいいかなと。私がこれまでずっとやってきた音楽はクラシックです。でも即興やコード譜を見ただけで弾くということはしてきていないので、そういう意味でジャズやポップスのミュージシャンに尊敬の念を抱いていたんですね。そんな折、ご縁があって一昨年作曲の依頼を頂いた際、園田さんに作曲のノウハウのようなものを教えて頂いたことがありました。
――そうするとクラシックと違う、ある意味異種交流のような活動もされているのですか?
須藤:いろいろな意見があるとは思うんですが、私の中ではジャンルというものは、もはやない気がしています。素晴らしい、いい曲だと思うものはジャンルを超えていると思うんです。今私が気になっている音楽の一つでもあるジャズやポップスを弾く方々の頭の中やコード進行はどうなっているんだろうと思い、今日は暗譜で弾いてみましたが、そういうことを考えるのが、今すごく面白いんです。
――クラシック以外の音楽にも触れることで、ご自身の演奏や表現に得られるものってありますか?
須藤:大きなものを得ています! ベートーヴェンやモーツァルトなど、クラシックだけ弾いていたら普通に思っていた和声の進行がすごく面白かったり、「こんなハーモニーだったのか」という発見もあったりしますね。ジャズなどに触れることで、よりクラシックの和音に目が行くようになりました。
千葉:ヴァイオリンでも最近クロスオーバーのような感じでちょっと増えてきたかもしれません。即興と言われてもなかなか機会がないのですが、ヴァイオリンコンチェルトのカデンツァを自作してコンサートで披露するという方は最近増えてきてはいますね。
須藤千晴(ピアノ)、千葉清加(ヴァイオリン)
――最後のサラサーテは「手を見てください」と仰るので、注目して見てしまいました。
千葉:自分自身にプレッシャーをかけました(笑)。 でも緊張することで腕が硬直することもあるし、早いパッセだと思うように動かないということがあるんですが。今回のようにピチカートが交互に出てくる曲は、左手を使うこともありますし、作曲家の意図で、左手ではじくように、という指示があることもあります。
――様々な演奏方法が見られるのは、お客様にとってもいい機会だったと思います。最後のチャールダーシュも素敵でした。
千葉:以前フィギュアスケートの浅田真央さんがこの曲で演技されましたよね。だから最後は皆さんがよく知っている曲で盛り上げて締めようと思いました。
――お二人の今後の予定を教えてください。
須藤:セルフプロデュース第2弾の『フライデーナイトスペシャル』第2弾を11月に予定しています。第1弾はマニアックにシェーンベルクのピアノ曲全曲を弾いたんですが、今回は私がYouTubeで配信している番組に絡めて、ゲストをお呼びして、11月から年4回のシリーズでやります。11月のゲストはマリンバの塚越慎子さん。さらに3月は今日ソロを弾いた園田さんと2台ピアノで。これは私がジャズに挑戦し、園田さんがクラシックに挑戦するというものです。クラシックの曲に関してはこれまで通り追求していく形ですが、ジャズの時は私がいじめられる覚悟で臨みたいと思います(笑)。 ちょっとチャレンジングな企画をやる予定です。
千葉:私は日本フィルのオーケストラの活動が主となっているので、そちらを頑張ろうと思います。
――そういえば日本フィルでは今日演奏された「瞑想曲」を作曲したグラズノフ作品のシリーズをやっていますね。
千葉:はい。タイスの「瞑想」も好きなのですが、グラズノフの「瞑想曲」は甘く美しくて、こちらも好きで。でもグラズノフの作品は(これに限らず)ものすごく難しいんですよね、譜面が真っ黒で(笑)。 指揮者のラザレフ先生にスパルタのように叩かれています。厳しいリハーサルなのですけど、でも彼は愛情があって、皆ついて行きたいと思うんです。
千葉清加(ヴァイオリン)、須藤千晴(ピアノ)
取材・文=西原朋未 撮影=岩間辰徳
11月3日 (金) 14時~
指揮:小林研一郎[桂冠名誉指揮者]
ピアノ:牛田智大
リスト:交響詩《レ・プレリュード》、死の舞踏
チャイコフスキー:交響曲第5番
【須藤千晴 出演】
フライデー・ナイトスペシャル
■11月17日(金)
ヤマハ銀座スタジオ 19時~
出演:須藤千晴(ピアノ)、塚越慎子(マリンバ)
■2018年3月2日(金)
ヤマハ銀座スタジオ 19時~
出演:須藤千晴(ピアノ)、園田涼(ピアノ)
■オフィシャルサイト
http://chiharu-sudo.com/index.html
鈴木玲奈/ソプラノ
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