浦井健治ら出演 日韓文化交流企画『ペール・ギュント』観劇レポート~走馬灯のように世界を駆け巡る~

2017.12.12
レポート
舞台

『ペール・ギュント』撮影=細野晋司(2017年 世田谷パブリックシアター)

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 日韓の演劇人が結集した注目作、日韓文化交流企画『ペール・ギュント』が2017年12月6日から、東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで上演されている。演出と上演台本を手掛けるのは、韓国演劇界の気鋭ヤン・ジョンウン。2018年2月開幕の平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックの開・閉会式の総合演出を務める「旬」の人物である。その彼が、150年前にノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンが書いた同名原作を、いつの時代にも通じる「自分探し」というテーマを中心に掲げて現代風にアレンジ。主人公ペール役には、ヤンが「公演のたびに異なる印象を抱かせてくれる」と語る浦井健治を据え、日韓の総勢20人のキャストで、新たに編み上げた日韓版だ。12月6日のプレビュー公演を経て、本公演初日となった8日に観劇した。上演時間は休憩15分を含めて3時間だが、その長さを感じさせなかった。ボーダーレスな世界を駆け巡るペールの一生を、走馬燈のように映し出す舞台の模様をレポートする。

『ペール・ギュント』撮影=細野晋司(2017年 世田谷パブリックシアター)

『ペール・ギュント』は、夢見がちな青年、ペール(浦井)の一生を描く大河ドラマ。前半の第1部は、青年時代。ペールは、彼の将来を案じる母親オーセ(マルシア)をよそに自由奔放な日々を過ごす。ペールの無垢な魂に引かれたソールヴェイ(趣里)と結ばれるが、「遠回りをしろ」という闇からの声に導かれるように、故郷を旅立つ。後半の第2部は、世界放浪記。海を越え世界各地を旅する。何度も財産を築き、また一文無しになる波瀾万丈の冒険の果てに、やっと故郷を目指すが…。本当の幸せ、真の自分をどこまでも追い求める物語だ。

 幕開きは、イノシシにまたがって空を飛んだと話すペールが、母親のオーセに「この大法螺吹きめ!」と後頭部を勢いよくひっぱたかれる場面から始まる。親子のやりとりがコミカルでおかしい。続く村の結婚式も、祝祭的でにぎやか。日本語と韓国語が飛び交い、アジア的混沌の雰囲気を醸し出し、自然と引き込まれていく。だが、ペールが花嫁をさらって逃げ出すところで暴風雨の大音響とともに楽しげな様相は一変する。

『ペール・ギュント』撮影=細野晋司(2017年 世田谷パブリックシアター)

 ペールを取り巻く人々や人ならざる者たちも、実にさまざまだ。ペールに結婚を迫る若い女、 紙おむつに黒の革ジャン、長い尻尾をつけたユニークなトロール(北欧伝承の妖精)たち、ペールの身ぐるみをはがす妖艶な美女、気の狂った患者たち。魑魅魍魎(ちみもうりょう)と言ってもいいくらいだ。ペール役の浦井以外の出演者は、複数の役に扮し、息の合ったスローモーションの動きや身体能力を生かした踊りなどで、色彩豊かなアンサンブルを作り上げていく。そんな彼らと出会い、やりとりをする中で、浦井演じるペールも、また変幻自在にキャラクターを替えていく。

『ペール・ギュント』撮影=細野晋司(2017年 世田谷パブリックシアター)

 ペールは、青春の激情のまま、衝動的に女たちに言い寄って情を交わし、冷たく捨てるかと思えば、純真な恋人のソールヴェイとは清い愛を誓い合う。母親に対しては、甘えっ子、いたずらっ子、不肖の息子。だが、その母親が死の床につけば、優しくいたわる。ある時は、人身売買と武器密売で巨万の富を築いたビジネスマン、またある時は怪しげな預言者となる。

『ペール・ギュント』撮影=細野晋司(2017年 世田谷パブリックシアター)

 浦井ペールはその場のノリに合わせて生きる「チャラい男」を魅力的に演じる。「昼も夜も自分自身と叫び続けた」ペールは、一瞬一瞬を謳歌しているかのように見えて、線の細い全身や端正な表情から、確固たるアイデンティティーをつかめずに不安感、揺れる心をにじませる。

 死を前にして「自分自身であった」証言を他人にしてもらうために、ペールは必死に駆けずり回る。その姿はまるで、フェイスブックやツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で、「いいね!」を欲しがる現代人の承認欲求のようだと思った。

『ペール・ギュント』撮影=細野晋司(2017年 世田谷パブリックシアター)

 趣里扮するソールヴェイは、天使のように軽やかな体に芯の強いところを見せて、ペールをひたすら愛し、待ち続ける女性を好演。

『ペール・ギュント』撮影=細野晋司(2017年 世田谷パブリックシアター)

 せりふの日本語と韓国語の割合は、7対3といったところ。同じ言葉を日本語と韓国語でそれぞれ言い換える場面もあり、2ヵ国語公演にありがちな字幕を追うストレスはほとんど感じなかった。それどころか、ペールが闇の中で大きな黒い翼の人間に呼び掛けられる印象的な場面で、日本語と韓国語が重層的に響く面白さを味わった。「遠回りをしろ」。闇からの声は最初、日本語で、その後に韓国語で聞こえてくる。日本人にとっては、意味の後ろから、語感が追いかけてくるイメージだ。意味と語感が分離して共振しながら耳に届く、多声的なリフレインが、脳裏に刻印された。

 各シーンを色鮮やかに彩る照明(小笠原純)、舞台の両側に鏡付きの廃墟のような灰色の壁を設置した舞台美術(乗峯雅寛)も見どころ。打楽器が印象的なアジアの民謡調からディスコ、ハ ードロックまでを奏でた音楽(国広和毅、演奏は関根真理も)も、ボーダーレスな世界観を盛り上げた。

『ペール・ギュント』撮影=細野晋司(2017年 世田谷パブリックシアター)

  演出のヤンは、日韓共作を生かした多様性を縦糸に、歌や踊り、音楽の多彩な味付けを横糸に、全世界を1つの舞台に凝縮した壮大な作品を織り上げた。場面ごとに万華鏡のように変化して、鮮烈な残像は、網膜に焼きつけられた。木や石のようにあるままだけではいられずに、「自分自身とは何か?」と絶えず問い、何者かであろうと、もがき続けるペールって、人間って、私ってそもそも一体何だろう?  そんな疑問がふと頭の中を駆け巡った。きっとこの作品を見た人は、人生の走馬灯をダイジェストで一気に見たかのように、さまざまな思いを呼び起こされるに違いない。

『ペール・ギュント』撮影=細野晋司(2017年 世田谷パブリックシアター)

取材・文=鳩羽風子

公演情報
日韓文化交流企画『ペール・ギュント』

■原作:ヘンリック・イプセン
■上演台本・演出:ヤン ジョンウン
■出演:
浦井健治  
趣里、万里紗、莉奈、梅村綾子、辻田暁、岡崎さつき  
浅野雅博、石橋徹郎、碓井将大、古河耕史、いわいのふ健、今津雅晴、チョウ ヨンホ  
キム デジン、イ ファジョン、キム ボムジン、ソ ドンオ  
ユン ダギョン、マルシア
■公式サイト:https://setagaya-pt.jp/performances/201712peergynt.html

 
<東京公演>
■日程:2017/12/6(水)~2017/12/24(日)
■会場:世田谷パブリックシアター (東京都)

 
<兵庫公演>
■日程:2017/12/30(土)~2017/12/31(日)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール (兵庫県)

 


『ペール・ギュント』 ライブ・ビューイング
~日韓文化交流企画 世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演~

■日時:2017年12月20日(水)18:30開演 
■会場:全国各地の映画館
 会場リストはこちら>>http://liveviewing.jp/peergynt/
料金:3,800円(全席指定/税込)
■一般発売(先着順):2017年12月9日(土)12:00~2017年12月19日(火)12:00
■『ペール・ギュント』 ライブ・ビューイング情報サイト:http://liveviewing.jp/peergynt/