劇団史上最も恥ずかしい“黒歴史”が復活! 柿喰う客『俺を縛れ!』中屋敷法仁&永島敬三インタビュー

インタビュー
舞台
2018.1.13
 (左から)中屋敷法仁、永島敬三

(左から)中屋敷法仁、永島敬三

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結成12年目を迎えた柿喰う客が、次なる新展開を見せる。

期待の最新公演は、2008年に初演された『俺を縛れ!』。小劇場ファンにはおなじみの佐藤佐吉演劇祭2008で、最優秀作品賞、こりっち賞、シアターガイド賞を席巻。柿喰う客の名を轟かせた、劇団初期の重要な作品のひとつだ。それを10年ぶりに再演。しかも代表の中屋敷法仁曰く「恥の多い作品」と言うのだから、俄然興味は高まる。

なぜ柿喰う客は10年ぶりに封印を解いたのか。この『俺を縛れ!』は今後の柿喰う客を占う公演となりそうだ。中屋敷、そして出演の永島敬三に話を聞いた。

当時は、自分のことを天才だと思い込んでいました(笑)

ーー何でも中屋敷さんはこの『俺を縛れ!』を「恥の多い作品」と語っているそうで。ぜひその真意からお聞かせいただけますか。

中屋敷 劇団も10年くらい続けていると、代表作と呼べるような良い作品もできます。しかし一方で、その3倍くらい駄作を生み続けているような気がするんです。そのときは最高傑作だと思ってやっていても、歳月を置いて振り返ると「あれはヤバかったな」と思うものが少なからずあるもので。柿喰う客にとって、振り返ってみたときにいちばん恥ずかしいのはこの『俺を縛れ!』じゃないかな、と。当時は、完全に自分の才能に自惚れていましたから(笑)。

ーー何でもこの『俺を縛れ!』には「俺を縛れるものなら縛ってみろ!」という挑発的な意味がこめられていると聞きましたが…。

中屋敷 そうなんです。こんなに才能ありすぎてどうするんだ、と。当時は自分の才能に困るくらいの気持ちでやっていましたね。でも今DVDを見返してみたら、普通でした(笑)。むしろよくこんな凡才なのに天才だと自惚れられたな、と。周りの人によく怒られなかったなと思いました(笑)。

ーーとはおっしゃいますが、当時の評判なんかを調べてみると、なかなか絶賛だったようですが。

中屋敷 たぶんそれは「自分たちは最高に面白いんだ!」という実力以上の確信が、異常性というか、狂信性として、可笑しさとして伝わったんじゃないかな、と。当時は、プロデュース公演が全盛で、劇団の集団性が崩壊している時期。劇団にしても、もう少し穏やかな団体が多かったので、その中で柿喰う客は異色の存在でした。「柿喰う客は面白いんだ!」という自分たちのブレなさが、圧力としてお客様に伝わったんじゃないかと思います。

中屋敷法仁

中屋敷法仁

ーー当時はまだ永島さんは出演されていないですよね。

永島 僕はこの作品を客席で観ていました、それも確か初日で。実は、初演のときの出演者オーディションも受けていたんですよ。でも残念ながら落ちちゃって。その次の『真説・多い日も安心』から客演として出させてもらえるようになったので、そういう意味ではこの『俺を縛れ!』の初演が純粋なお客さんとして柿喰う客を観た最後の作品。ぎゅうぎゅうの中案内されて、固い椅子に座らされて、上演時間が2時間15分だと聞いて「嫌だなあ…」と思った記憶があります(笑)。

ーーやはり当時から柿喰う客に惹かれていたんですね。

永島 さっき中屋敷さんが言ったみたいに、狂信性を帯びた団体って当時そんなに多くなかったので、そこに参加して巻き込まれてみたいな、という気持ちがありましたね。

ーーちなみに初演をご覧になっての感想は覚えていますか?

永島 とにかく台詞が早口で、最初の15分くらい何て言ってるのか全然わかりませんでした(笑)。でもそれをたぶん良しとしているような勢いがあって。冒頭のあたりは無駄なことばっかり喋ってましたよね。

中屋敷 そうだね。くだらないギャグとかたくさん入れてたね(笑)。

永島 それなのに気づいたら徐々にそのスピードに慣れて、いつの間にか客席が作品世界に呑みこまれていった。何だかわからないけど、面白かったということははっきり覚えています。

柿喰う客はヤバいぞ、ということを改めて問い直したい

ーーしかし、そんな「恥の多い作品」をキャリアを経てやるのは相当恥ずかしい気がしますが。

中屋敷 10周年ということもあって、ここ最近、今までの中でも評判の良かった作品をいろいろ再演してきたんですけど、どうもそこに僕自身が興味を失ってしまったというか。むしろ今は「黒歴史を紐解いてみよう」という悪意に目覚めはじめているんです。新しいお客様がどんどん増えていくうちに、どこか柿喰う客がちゃんとした団体だと誤解されているような気がして。いや、そうじゃないんだ、と。もっと怖い団体なんだぞ、と。中屋敷法仁も今はとても演出が丁寧に見えるかもしれないけど、それは表面だけであって、根幹は相当ヤバいやつだぞ、と。決して「あの頃は良かった」というノスタルジーに浸るのではなく、柿喰う客とはそもそもそうあるべき劇団だったのではないかということを問い直すためにも、ここで『俺を縛れ!』をやっておきたいなと思ったんです。

ーーそういう意味では、近年新しくついた柿喰う客ファンの中には引いちゃう人もいるかもしれませんね(笑)。

中屋敷 いや、でも中には見抜いている方も多いと思いますよ。よく外部で脚本や演出をやらせていただいたとき、何人かのお客さんから「本気は出しているけど、本音は出していない」って言葉をいただくんですね。確かに、演出の手腕としては本気だけど、自分の本音が出ているかというと、それは別の話。一方、劇団というのはそもそも本音からつくる集団ですからね。いつも柿喰う客では、本気以上の本音で作品をつくっている。中でも、その本音が一番顕在化したのが、この『俺を縛れ!』でした。だからこそ、そんなふうに実力は一切なし、心意気のみの作品を今一度改めてリメイクしたいな、と。引く人もいるだろうけど、「これを待ってました!」と言ってくれる人もいてくれたらいいなと期待しています。

初日はきっと恥ずかしいと思うんですよね。でも、むしろ最近ドヤ顔で初日を迎えている自分を情けないなと思っていて。そんなふうに今回も上手くいったという安パイな感覚で作品を着地させるのは、年をとった証拠。本来は、どこか居たたまれなさというか、自分の見せてはいけないものを見せるような、まる出しの感覚を持っていないとダメだと思うんですよ。そういう自分をこの公演で取り戻したいですね。

ーー永島さんは、観客として観ていた作品に10年越しで主演するというのは、どんな気持ちですか?

永島 やっぱりプレッシャーですよね。30歳になって、この疾走感の塊みたいな作品にどう立ち向かっていけばいいんだろうって考えると。たぶん小手先で臨むと作品が普通のものになってしまう気がします。この10年、曲がりなりにも積み重ねてきたものはありますが、それをあまり意識せず臨むことが大事なんじゃないかなと思っています。

ーー確かに若さや勢いが作品の輝きとして加味していた部分はある気がします。そういう意味では、今この年齢でやるのはリスキーにも感じますね。

中屋敷 そこはなぜこの作品を再演したかという部分と重なるところではあるんですけど、10年もやっていると、自分と同期の劇団がどんどん解散していくんですね。で、どうして解散したのか彼らにインタビューしてみたら、全然すごい理由じゃないんですよ。大喧嘩して殴り合いになったとか、そういうのじゃなくて、単純にやる意味がなくなったから。だから、やめた。それが、僕には悲しかったんです。

ーーと言うと?

中屋敷 もちろん僕にも「劇団なんてやらなくていいだろう」と感じる瞬間はあります。でもだからこそ、劇団の異常性にこだわって作品を作りたいんです。自分たちがヤバいと思うものをもっと提示していかないと。お客さんはこういうものが観たいんだろうと打算的なシミュレーションのもとで作品をつくることってあると思うんですけど、そんなふうに手取り足取りケアされるような作品にもうお客さんは飽いてしまっているようにも見えるんです。むしろ「こんなもの誰が観るんだ!」「こんなもの誰が喜ぶんだ!」っていうようなものでも、自分たちを信じて作っていかないと。

中屋敷法仁

中屋敷法仁

ーーそこで聞きたいのが、柿喰う客の現在地です。ここ数年の間に一気に劇団員が急増したり、1ヶ月単位でフェスを打ったり、いろんな試みをされています。柿喰う客の現状と今後の方向性についてどうお考えになっているか聞いてみたいです。

中屋敷 現在地という話でいくと、今、僕らが思っている以上のスピードで、演劇界での立ち位置が決まってきている気がします。僕らはお客さんから「いつも何しているんだろうね?」って訝しがられる団体でありたいのに、そこがだんだんわかりはじめてきちゃっている。もっと「アイツら、何やってんだ?」と言われ続ける団体でありたいという目論見はあります。

どうしても演劇界での地位みたいなものが固まってくると、作品がつくりにくくなるので、できる限りポジショニングを決められないままでありたい。そういう意味では、GPSを早く混乱させなきゃという感じです(笑)。この作品は、迷走のための第一歩。本当は真骨頂とか完成形って言いたいんですけど、むしろその逆。最高の未完成と言われるものにしたい。そして、観た人にもさらに迷子になってほしいです。

永島 柿喰う客って僕が入団してから5年くらい固定の7人でやっていた時期があって。おかげで、その7人の間で約束事みたいなものが言語化しないでもできていたような気がするんですね。それはとても便利な反面、ずっと7人でやり続けていたら何も変わらないと思ったし、お互い尊敬し合ってはいるけれど、パワーバランスみたいなものがずっと変わらないままというのも何だかもどかしくもあって。そんな中で、16年、17年と立て続けに新メンバーが入ったことは、劇団としてはすごく良かったと思います。おかげで自分の立ち位置もわからなくなりましたしね(笑)。

乱れていくことは、団体としていいこと。その中で、自分のやってきたことを見失わず、その上にまた新しいものを積み上げていければ、という気持ちでいます。

チラシを父に見せたら「恥ずかしいな」と言われました(笑)

ーーちなみにチラシがすごいインパクトなんですけど、このあたり撮影のお話もちょっとふれていいですか?

永島 いや、もう何と言うか「痛いな」って感じでした(笑)。スタジオに入ったら、いきなり脱がされて、いつの間にか縛られて。こんなことやったことないし、今後もやらないだろうから、そういう意味では貴重な経験。縛られながら、「ああ、俳優だな」って思いました(笑)。

ーー何でも吊るされるとくるくる回ってしまうから、なかなかベストショットを撮るのが難しかったとか。

永島 そうなんですよ。カメラマンさんから「こっち向いてください」って言われるんですけど、できない(笑)。で、しばらくしたら1回下ろされるんですけど、「もう1回お願いします」ってすぐまた吊るされる。地獄を見ましたね(笑)。手首が縛られているから、どんどん手に血がたまっちゃって、ちょっと赤くなってるんです。なので、ぜひこのチラシを見た人は、僕の手に注目してください(笑)。

中屋敷 敬三くんも結婚してるのに、まさかこんなことをさせられるなんてね…。この恰好、娘さんはどう見てるの?

永島 チラシを見て「パパだー!」って言ってました(笑)。

中屋敷 わかるんだ(笑)。

永島 あと、父親に見せたら「恥ずかしいな」って言ってました(笑)。

中屋敷 このビジュアルに関しても、年代によって見られ方って様々だと思うんですよ。僕らがまだ20歳なら「何だコイツら」って注目してもらえるし、40歳だと「逆にすごい」と思ってもらえる。今がいちばん中途半端。でもそれでいいんですよ。

さっき燃料切れの話が出ましたけど、燃料切れが起きる原因は、自分の燃料を決めちゃっているから。ガソリンじゃなきゃダメだではなくて、何ならエラ呼吸もしますし光合成もしますよっていう姿勢がないと続かない。そういう本当の意味での空腹感というのは、常に持ち続けていたいなと思っています。

永島敬三

永島敬三

ーーでは最後にお誘いのメッセージを。

中屋敷 本来、お客様って美しいものとか醜いものを見せると喜んでくださると思うんですけど。今回はそれを裏切って、一番どうしようもないものを見せるというか、見せちゃいけないものを見せる作品になると思います。そして、そんなどうしようもない僕らを見ているお客さんを見て、僕らも楽しみたい。そういう悪意に取り憑かれています(笑)。

きっと初日は恥ずかしくてしょうがないと思う。でも、それがいいんです。いよいよ迷走しはじめる時期なので、その迷走の第一歩をちゃんと目撃してほしいし、お客様自身にも劇場に通うことの意味を改めて問い直してほしい。もちろん演劇って楽しければいいんですけど、それとは別にもっともっと迷子になる気持ち良さというものがあるんじゃないかなという気がします。そんな迷子になる楽しさをこの『俺を縛れ!』でたっぷり味わってもらえれば。

たぶん過去の作品を引っ張ってくるにしても、他にもっとローリスクな作品とか褒めてもらえる作品とかあったと思うんですよ。それなのに、よりにもよって選んできたのが、この『俺を縛れ!』。でも実は、当時のキャストやスタッフの間で再演してほしいという声が強かったのも、この『俺を縛れ!』だったりします。ずっと僕の中でも残っていて、それだけ目を背け続けていたということは、逆に気になっていた証拠でもある。僕としては昔の自分のファッションを見るような感覚で(笑)、天才ぶっていた自分ともう1回向き合いたいなと思います。

永島 今回、この作品に取り組むにあたって、初演を観ていて良かったなと思っています。僕の中で、また客席にいたあの頃の自分に観てもらえるような感覚があって。あのとき、劇場全体で共有した雰囲気をまた今回もつくり出せたらいいなと思うし、初演とはまた違う新しい雰囲気に出会いたいなっていう気持ちもある。そのためにも、舞台の上でこのフライヤー以上にもっと恥ずかしい姿を見せられたらいいなと思います。

(左から)中屋敷法仁、永島敬三

(左から)中屋敷法仁、永島敬三

公演情報
柿喰う客 2018年本公演『俺を縛れ!』
 
■日程:2018年1月24日(水)~2月4日(日)
■会場:本多劇場
■作・演出:中屋敷法仁 
■出演:
永島敬三/牧田哲也/加藤ひろたか/田中穂先/宮田佳典/守谷勇人/とよだ恭兵/村松洸希
七味まゆ味/葉丸あすか/長尾友里花/淺場万矢/北村まりこ/永田紗茅
宮下雄也/平田裕一郎/神永圭佑/清水 優
■公式HP:http://kaki-kuu-kyaku.com/

 
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