上村聡史演出「岸 リトラル」開幕、父子の壮大なロードムービー

レポート
舞台
2018.2.21
世田谷パブリックシアター「岸 リトラル」より。(撮影:細野晋司)

世田谷パブリックシアター「岸 リトラル」より。(撮影:細野晋司)

「岸 リトラル」が東京・シアタートラムにて昨日2月20日に開幕した。

「岸 リトラル」は、レバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワドの戯曲。2014・17年に同劇場にて上演された「炎 アンサンディ」を含む、“約束の血4部作”の1作目で、今回が日本版初演となる。演出は「炎 アンサンディ」に続き文学座の上村聡史が担当し、出演者には岡本健一、亀田佳明、栗田桃子、小柳友、鈴木勝大、佐川和正、大谷亮介、中嶋朋子が名を連ねた。

高い灰色の絶壁に挟まれた閉塞的な空間で、物語は展開する。生き別れになっていた父・イスマイルの死を突然宣告された青年・ウィルフリードは、自分を産んですぐに亡くなった母・ジャンヌの墓に父を埋葬しようとして、母の親族たちから猛反対される。そこでウィルフリードは、父の遺体を埋葬するのにふさわしい場所を求め、内戦の傷跡が残る父の祖国へ向けて旅を始めるのだが……。

生きる意義が見出せず、空想にとらわれがちな青年・ウィルフリードを演じるのは文学座の亀田佳明だ。さまざまな出来事に振り回されつつも、徐々に成長していくウィルフリードを亀田は丁寧に演じている。そんな息子を見守る父・イスマイルには岡本健一。死が受け入れられず、魂となって息子に語りかけ続ける姿は、死してもなお人間臭く愛嬌を感じさせるが、ラストに向かってより大きな存在となり、物語を包み込む。なお岡本は2017年に行われた戯曲リーディング「岸 リトラル」で父と息子の2役を兼ねて演じた。

彼らを軸に、そのほかの俳優たちは、あるときは実在の人物として、またあるときはウィルフリードの空想上の人物として、複数の役を演じ分けている。恋人を殺された女や父親を殺した息子、親の死を目の当たりにした男や親に捨てられた男、そして死んだ人たちの名前を全部記憶しようとする女など、戦争の傷を抱えたさまざまな人たちと出会いながら、ウィルフリードは“岸”を目指すのだった。

虚実入り乱れる複雑な構造だが、ワジディ・ムワワドのストレートで鋭く、熱を帯びたセリフが胸を打つ。湖岸と彼岸を行き来する壮大な父子のロードムービーを、ぜひ目撃してみては。公演は3月11日まで東京・シアタートラムにて行われたのち、3月17日に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールで上演される。

「岸 リトラル」

2018年2月20日(火)~3月11日(日)
東京都 シアタートラム

2018年3月17日(土)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

作:ワジディ・ムワワド
翻訳:藤井慎太郎
演出:上村聡史
出演:岡本健一、亀田佳明、栗田桃子、小柳友、鈴木勝大、佐川和正、大谷亮介、中嶋朋子

ステージナタリー
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