『デヴィッド・ボウイ 浮世絵展』レポート 熟練の職人達が表現する、“ロックンロールの心意気”

レポート
アート
2018.6.26
出火吐暴威変化競「竹沢藤次」一部

出火吐暴威変化競「竹沢藤次」一部

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『UKIYO-E PROJECT presents デヴィッド・ボウイ 浮世絵展』が、表参道のブックストアBookmarcにて、2018年6月23日〜7月1日まで開催されている。「UKIYO-E PROJECT」とは、現代のスターを題材に「”今”ならではの浮世絵」を熟練の職人達が制作をする、という興味深い試みだ。これまでにロックバンド、KISS、アイアン・メイデンを題材としており、今回は浮世絵にぴったりの人物デヴィッド・ボウイがモデルである。作品は200部限定で販売されており、会場やインターネットで購入することが可能だ。

会場風景・版木がパネル状に並べられており、制作工程がわかりやすい。

会場風景・版木がパネル状に並べられており、制作工程がわかりやすい。

デヴィッド・ボウイは、アーティスト活動において演劇的な手法を取り入れ様々なキャラクターを演じてきたロックスターだ。

絵師の石川真澄氏はボウイの個性を活かし、歌舞伎役者のように江戸のキャラクターを演じる姿を浮世絵にしたかったという。江戸に遊ぶボウイの姿を彫師の関岡祐介氏、佐藤奈美氏、摺師の伊藤達也氏、中山誠人氏とともに、熟練の技とチームワークで表現したのが、今回の「出火吐暴威変化競」だ。

浮世絵に使われる絵の具も展示している

浮世絵に使われる絵の具も展示している

版木の一部と職人の道具

版木の一部と職人の道具

会場には、作品の元となった写真のオリジナルプリントや版木、職人の道具、摺りの工程なども展示されており、いかに時間と手間のかかる仕事かよくわかる。1枚の浮世絵作品が仕上がるまでには、合計で6ヶ月以上もの時間を要するという。日本伝統の職人の忍耐と繊細な技術力には驚かされるばかりだ。

彼らの手による浮世絵でボウイがどんな姿に”チェンジ”しているか見てみよう。

出火吐暴威変化競「鬼童丸」

出火吐暴威変化競「鬼童丸」


出火吐暴威変化競「鬼童丸」の元版である、スミ線の版木

出火吐暴威変化競「鬼童丸」の元版である、スミ線の版木

1枚目の作品は、《出火吐暴威変化競「鬼童丸」》だ。写真家ブライアン・ダフィーによる『アラジン・セイン』のジャケット写真と歌川国芳の浮世絵《鬼童丸》が題材となっている。アラジン・セインはボウイの出世作『ジギー・スターダスト』のツアーの最中に発表されたアルバムであり、ジギーの裏キャラクターともいわれている。無機質で退廃的な『アラジン・セイン』と鬼の子である鬼童丸はこの世ならざるものとしての共通点がある。ふたつのキャラクターが一体となればどんな妖術を使うのだろうか。思わず想像がふくらむ作品だ。

出火吐暴威変化競「竹沢藤次」

出火吐暴威変化競「竹沢藤次」

出火吐暴威変化競「竹沢藤次」の元版である、スミ線の版木

出火吐暴威変化競「竹沢藤次」の元版である、スミ線の版木

2枚目は《出火吐暴威変化競「竹沢藤次」》。写真家テリー・オニールによる『ダイアモンド・ドッグス』のイメージ写真と歌川国芳の《一流曲独楽 竹沢藤次》が題材だ。『ダイアモンド・ドッグス』はSF的なディストピアをテーマにしたボウイのアルバムである。

キャラクターは”ハロウィーン・ジャック”という海賊で、元の写真では大きな犬を従えている。いっぽう竹沢藤次は江戸時代に九尾の狐の演出で大人気を博した曲芸師だ。20世紀ロックシーンにおいて奇術的であったボウイと、江戸時代に大人気だった曲芸師竹沢藤次。時代と地域は違えど似たもの同士という着眼点が面白い。

作品では、ハロウィン・ジャックがダイアモンドの犬の代わりに九尾の狐を従え、ハットをかぶりブーツを履いたまま裃(かみしも)を着ている。和装と洋装の組み合わせでも不思議なほど違和感がない。腰を低い位置に置き、独楽回しをしながら足を伸ばし見得を切ったポーズは身体能力の高かったボウイのステージングを彷彿とさせる。

浮世絵の順序摺り

浮世絵の順序摺り

これら両作品に共通するのは浮世絵とそしてロックに共通する”いかがわしい魅力”にあふれているということだ。ロックは”反抗的”で”いかがわしく”、”悪の香り”に満ちている音楽だからこそ多くの人々を魅了してきた。歌舞伎や曲芸、そして浮世絵も同様だ。現代でも見世物としての要素が強く、歌舞伎の悪役達は今も昔も大人気である。

歌舞伎の舞台の上で悪役は何のためらいなく悪事を繰り返す。彼らの悪にはスタイルがある。格好よくなければ成り立たない。そう、それはまさにロックスターだ。

浮世絵の元となった写真も展示。手前・ブライアン・ダフィ『アラジン・セイン』その横・テリー・オニール『ダイアモンド・ドッグス』

浮世絵の元となった写真も展示。手前・ブライアン・ダフィ『アラジン・セイン』その横・テリー・オニール『ダイアモンド・ドッグス』

江戸時代の人々は悪のスタイルを楽しみ、いかがわしく妖しげな浮世絵を手にしてはドキドキしたことだろう。本来の浮世絵は決して古典芸術ではなかったのだ。私たちがボウイのセンセーショナルなイメージ写真を初めて見たときと同じ感覚で浮世絵を見ていたはずである。UKIYO-E PROJECTは現代のロックスターを扱うことで、本来の浮世絵らしさ、”今を生きる人間の感受性”を浮世絵によみがえらせている。

浮世絵は今でも浮世絵、古典芸術のジャンルに収まらないぞ、という心意気である。そんなロックな心意気を今回は当代きっての名役者デヴィッド・ボウイが演じている。ロックンロールする浮世絵「出火吐暴威変化競」。ぜひ体感してほしい。

『出火吐暴威変化競「鬼童丸」』一部

『出火吐暴威変化競「鬼童丸」』一部

版木の一部

版木の一部

イベント情報

デヴィッド・ボウイ 浮世絵展 
会期: 2018年6月23日(土)〜7月1日(日)
営業時間: 12:00-19:00
会 場: Bookmarc
住所: 東京都渋谷区神宮前4-26-14
電話: 03-5412-0351

UKIYO-E PROJECT(浮世絵プロジェクト)とは
浮世絵の「浮世」は「今」「現代」という意味があり、各時代に人気のあった美人や、歌舞伎役者、人気スポットなどの風景を描いていました。浮世絵プロジェクトは、その浮世絵のスタンスを現代に生かしたいという考えのもと、現代のスターを伝統木版画で表現しています。 第一弾はロック界のトップを走り続けてきたアメリカのアーティスト、KISS。日本の女性アイドルユニット・ももいろクローバーZと、KISSのコラボレーションで実現した楽曲のCDジャケットの浮世絵も制作しました。そして第二弾はイギリス伝説のへヴィ・メタルバンド、アイアン・メイデンとのコラボレーションを果たしています。 
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