坂本真由美(ピアノ)と金子鈴太郎(チェロ)が届ける、聴かせて魅せる「楽しいクラシック」の世界

レポート
クラシック
2018.8.25
坂本真由美(ピアノ)、金子鈴太郎(チェロ)

坂本真由美(ピアノ)、金子鈴太郎(チェロ)

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「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.7.8ライブレポート

クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。7月8日に登場したのは、ピアニストの坂本真由美とチェリストの金子鈴太郎だ。

東京藝術大学、ハノーファー音楽演劇大学、ハノーファー音楽演劇大学ソリスト科を卒業し、ドイツ国家演奏家資格を取得した坂本真由美は、ケルン国際音楽コンクール第1位、グリーグ国際ピアノコンクール第1位をはじめとした数多くの国内外コンクールで優勝、入賞。日本はもとより世界各国でコンサートやオーケストラにソリストとして招聘され、テレビ、ラジオにも数多く出演。現在、東京藝術大学で教鞭を執りながらピアニストとしての演奏活動を展開している。
一方、桐朋学園ソリスト・ディプロマコースを経て、ハンガリー国立リスト音楽院に学んだ金子鈴太郎は、国内外のコンクールで優勝、入賞。バロックから現代曲までの幅広いレパートリーを演奏するチェリストとして、これまでに日本やハンガリー、オーストリアにおいて数々の世界初演をおこなっている他、NHK「名曲アルバム」、NHK-FM「名曲リサイタル」等に出演。大阪交響楽団首席チェロ奏者、大阪交響楽団特別首席チェロ奏者を経て、現在は各オーケストラにゲスト首席として招聘されるほか、サイトウ・キネン・オーケストラ、ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラ等で活躍している。

坂本真由美(ピアノ)、金子鈴太郎(チェロ)

坂本真由美(ピアノ)、金子鈴太郎(チェロ)

名曲中の名曲からはじまるコンサート

そんな二人がサンデー・ブランチ・クラシックの冒頭に選んだのは、サン=サーンスの「白鳥」。チェロと言えば! でおそらく誰もが真っ先に思い付くだろう超有名曲だが、大定番だからこそ金子のチェロがたっぷりとたゆたうように奏でられる様のふくいくさが伝わってくる。坂本のピアノの水の流れを思わせる音色も美しく、ハイフェッツ編曲による後半の重音が印象的な演奏になった。

坂本真由美(ピアノ)、金子鈴太郎(チェロ)

坂本真由美(ピアノ)、金子鈴太郎(チェロ)

名曲に早くも温まったリビングルームカフェ&ダイニングの空気の中、坂本が自己紹介と共にチュニックにスリムパンツという自分のカジュアルな服装を「あれ?」と思った方もいらっしゃるかと思います、と切り出し「実は白いドレスも用意してきたのだけれど、金子さんが明るい色のカジュアルな衣装で現れてバランスがあまりよくなかったので、カフェらしくカジュアルになりました」と裏話を披露。「チェロを持ってくるだけでも暑くて大変で、これでも綺麗にしてきたつもり」と金子が返して、会場に和やかな笑いが広がったところで2曲目はポッパーの「ハンガリー狂詩曲」。金子がハンガリー留学中にレストランでロマが弾いていた曲だそうで「お金を入れるまで弾き続けていた。ロマの音楽の喜怒哀楽の激しさを感じたので、自分もものすごく楽しそうに、悲しそうに弾きます」とのことで、堂々たるピアノ前奏から、チェロのソロが自由で情感に溢れる。その自由さにピアノも呼応し、楽しいメロディーでは演奏者二人も微笑みいっぱいで弾むような表情から、やがてチェロとピアノの掛け合いが華やかに展開され、互いに高め合ってのフィニッシュに大きな拍手が贈られた。

(左から)金子鈴太郎、坂本真由美

(左から)金子鈴太郎、坂本真由美

ここで一旦、金子が退場し、坂本のソロによるリストの「ラ・カンパネラ」。「カンパネラ」はイタリア語で「鐘」を意味する言葉で、パガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番ロ短調Op.7、第3楽章『ラ・カンパネッラ』(鐘のロンド)を主題に用いている。全編に渡って鐘の音を表現する嬰二(レ#)音が鳴り続けている1曲だが、坂本の演奏は他のパートとこの鐘の音色の弾き分けが実に鮮やか。リストらしい華やかな技巧が確かなテクニックによって情緒的に感じられるのが素晴らしく、終盤の盛り上がりにも特段のダイナミズムがあった。

坂本真由美

坂本真由美

クラシカルなタンゴから、遊び心溢れる世界へ

再び金子が登場しバンドネオン奏者であり作曲家である、ピアソラのタンゴの世界が展開される。まずはじめに演奏されたのは「オブリビオン」。金子が「某イタリア映画の為に作曲されたが、映画が大失敗に終わったため世に出ず、後にシャンソン歌手が詞をつけて歌ったことで有名になったタンゴです」と、楽曲秘話を披露。「タンゴは98%失恋の歌で、僕は(失恋の)ベテランだけど、ピアノの坂本さんはどうなのでしょうか? これから演奏するオブリビオンを聞いてもらえればきっと答えがわかるかもしれません」と笑わせてはじまった演奏は、チェロの低音の深みと高音のもの悲しさが哀愁を誘う。そんなチェロの音色に静かに添っていたピアノが、いつしか激しさを増してゆき共に高みを目指し、やがて消え入るように終わる様に得も言われぬ余韻が残った。

金子鈴太郎

金子鈴太郎

坂本真由美

坂本真由美

そして、ピアソラがチェロの為に書いた唯一のタンゴ「グランタンゴ」が演奏される。ピアソラがロシアの世界的チェリストのロストロポーヴィチに演奏してもらいたいと願って書かれた曲だが、ロストロポーヴィチは当時タンゴに関心がなく、楽譜を渡されたまま10年間放置していたそうだ。だが、アルゼンチンに演奏に行くことになり、思い出して弾いてみると名曲だった為、それ以降はよく演奏した曲とのことで、ミステリアスなスタッカートを多用したメロディーに独特の味わいがある。アルゼンチンタンゴを踊るダンサーの情景が目に浮かぶようで、チェロがたっぷりと歌うと、ピアノが遠くから軽いリズムを刻み、やがてタンゴのリズムが際立ってくる。ラストは技巧的な盛り上がりも華やかな大曲に喝采が湧き起こった。

坂本真由美(ピアノ)、金子鈴太郎(チェロ)

坂本真由美(ピアノ)、金子鈴太郎(チェロ)

その歓呼に応えて戻ってきた二人がアンコールに選んだのはモンティの「チャルダッシュ」。ヴァイオリンの定番曲で、サンデー・ブランチ・クラシックでもおなじみの楽曲だが、チェロでの演奏が男性歌手の歌曲のようだ……と思った折も折、なんとメロディーは演歌のようなメロディーに! 笑いと驚きに満ちた客席をよそに何事もなかったかのようにチャルダッシュに戻るアレンジが実に巧み。超絶技巧で魅せる部分もチェロの音色だとある意味の落ち着きがあるな……と感じていると、今度は坂本がどんどん「もっと高く!」「もっと高く!」とマイムで金子に要求し続け、チェロの音域では無理! となったところで金子がメロディーを口笛で吹き、大爆笑と拍手の中茶目っ気たっぷりの演奏はフィニッシュ。演奏者の遊び心もふんだんに感じられた50分のボーナスコンサートとなった。

坂本真由美(ピアノ)、金子鈴太郎(チェロ)

坂本真由美(ピアノ)、金子鈴太郎(チェロ)

クラシックにエンターテインメントの要素を加味して愛好家を増やしていきたい

演奏を終えたお二人にお話を伺った。

ーー素晴らしい演奏をありがとうございました! 今日の演奏で感じられた会場の雰囲気や手応えはいかがでしたか?

坂本:私はサンデー・ブランチ・クラシックでの演奏は3回目になりますが、コンサートホールでの演奏とはまた違って、私たちの素の部分もお客様に楽しんでいただける、しかもお食事や飲み物もいただきながらクラシックを聴いていただける場はなかなかないですから本当に貴重だなと。特に未就学児童は入れないという場が多い中、赤ちゃんから聴いていただけるのが素晴らしいですね。子育ての時期というのは子供だけでなく、お父様、お母様もコンサートホールにはいけなくなってしまって、コンサートそのものから足が遠のいてしまうことにもなってしまうので、こういう機会があるとコンサートから離れなくてすみますし、そういう意味でも大切な機会だと思って、いつも楽しく演奏させていただいています。

金子:全部言われちゃった!(笑)

坂本:言っちゃった!(笑)

坂本真由美

坂本真由美

金子:クラシックは敷居が高いとよく言われていて、全然クラシックを聴いたことがない方と演奏すると「あぁクラシックですか、いいですね~、1回は行ってみたいと思っているのですがちょっとなんかね……」と必ず言われるんです。そういう方達に、ここでの演奏を通じてクラシックを楽しんでいただける機会が増えるといいなと思っていて。例えば今日初めてここでクラシックを聴いて「リストの『ラ・カンパネラ』が好きになった」とか「ポッパーの『ハンガリー狂詩曲』が好きになった」とか言っていただけることが、僕らが1番やらなければいけないことだと思っています。もちろんコンサートホールでの演奏も好きで、クラシックマニアの方達が聴いてくださることもとても嬉しいのですが、更にクラシックを聴いたことがない方に聴いていただけるのが本当に大切なことだと思っています。

ーーおっしゃる通りで「サンデー・ブランチ・クラシックがクラシックのファーストコンタクトでした」と言っていただけることも多いので、嬉しいことだと思っているのですが、今日はまた多彩なプログラムを聴かせていただけましたが、選曲にあたってはどのような工夫を?

坂本:プログラムの中に皆さんがどこかではきっと聴いたことがあるもの、例えば「白鳥」や「ラ・カンパネラ」などの名曲を聴いていただくことと同時に、新しい出会いになる曲を持ち帰っていただきたいという思いがあります。聴いてくださる方の音楽の世界が広がれば、と思いプログラムを作りました。

金子:今日の本番時間が50分で、本当は30分なんですが(笑)。

金子:その50分の緩急の付け方をすごく考えました。この曲が終わったらお客様はこういう精神状態だろうから、そこにこれを持ってくると、というような、コンサート全体がひとつながりになるように考えました。

ーー全体を通してひとつのものという作りだったのですね!

金子:そうです。更に漫才もあり(笑)。

坂本:小芝居もありね(笑)。

(左から)坂本真由美、金子鈴太郎

(左から)坂本真由美、金子鈴太郎

ーー本当に面白い趣向で、皆様の中にクラシックは楽しいものだという空気が伝わったと思いますが、是非演奏していてお互いの魅力をどう感じているかを教えてください。

金子:30分くらいかかっても良いですか?(笑)

ーーそこをなんとかキュッと凝縮していただいて!

坂本:金子さんは本当にベテランでどんなところでも最高の演奏をされるので、私も一緒に弾かせていただいて勉強になりますし、刺激も受けますし、毎回やらせていただく度に「この人すごい!」と思います。緩急のつけ方だったり……。

金子:居心地が悪い!(笑) 目の前で褒められるのって!(笑)

坂本:(笑) 本当に素晴らしいチェリストです。一緒に演奏させていただけて光栄です。

金子:また全部先に言われているんだけど(笑) この人の集中力って尋常じゃないものがあって。坂本さんが集中して出す音、集中力が詰まった音楽は本当に魅力です。お互いが良い具合、良い関係で引張りあえるんです。演奏していて僕が「こうしようよ!」と引っ張っていく関係性になることも多いのですが、坂本さんとの演奏は片方が引っ張るのではなく、お互いの相乗効果で演奏がどこにいってしまうのかわからない醍醐味もあります。リハーサルと同じにも決してならないし、例えば「ここは小さく弾こう」と言っていたパートでも「絶対に強く弾かないとおかしいよね?」という状態にお互いが本番でなっていったりとか、そういうことが本当に楽しいです。

ーー自由度が高い中でちゃんと「阿吽の呼吸」があるというのは素晴らしいですが、今日はお洋服もカジュアルで。

金子:あれ、まさか暴露されるとは思わなかった!(笑) いや、最初は黒シャツにしようと思ったの。

坂本:そうでしょう? 先週のリハーサルで「黒シャツにしよう」って言ってたから白のドレス持ってきたのに!(笑)

金子:でも朝家中探しても黒シャツが家の中に1枚もなかったの! スケジュールの関係で今朝家に帰ってきて、黒シャツ4枚くらい持っているのに全部洗濯中だった!(笑) だからこれだったら本番もいけると思ってこれにしたら、合わないって。

金子鈴太郎

金子鈴太郎

坂本:どうしようと思ってたらたまたま別のカジュアルな衣装も持ってきていて、「それでいいじゃん」って言うから。

ーーでは是非次の機会に折角のドレスもご披露していただくとして(笑)、今後の活動についての夢やビジョンなどについては?

金子:たくさん仕事がもらいたい!(爆笑) ええと(笑) そうですね、やっぱりクラシックを広げたいというのはずっとやっていきたいことで、クラシックって芸術の分野ですが、その要素は残しつつも上手い具合にエンターテインメントの要素を入れられないかなと思っていて。それによって1人でも多くのクラシック愛好家の方が増えたら嬉しいなと思っています。

坂本:私も似ているのですが、クラシックをもっと身近に感じられるものにして、クラシックファンの裾野を広げていきたいと思っています。クラシックコンサートの世界はこうしたサンデー・ブランチ・クラシックなどの機会で少しずつ敷居が低くなっていっているとは思うのですが、自分なりに工夫をして、これまで私たちがコンタクトできていなかった方々に向けて発信していけたら良いなと思っています。たとえば、来年の3月9日にHakuju Hallで自分のピアノリサイタルをするのですが、音楽業界ではないハウスメーカーとのコラボを企画しています。日本にお住まいの外国の方達にももっと楽しんでいただけるのではないかと思っています。新しい方向からクラシックを広げる努力を続けていきたいです。

ーーフィギュアスケートで使用された曲が注目されたり、音楽大学を舞台にしたアニメーションが人気になったり、今クラシックに関心をもってくださる方は潜在的に増えていると思いますので、お二人の活動が更に広がっていくのを期待しています。またサンデー・ブランチ・クラシックにもいらしてください!

坂本:是非また演奏させていただきたいと思います!

金子:よろしくお願いします!

(左から)坂本真由美、金子鈴太郎

(左から)坂本真由美、金子鈴太郎

取材・文=橘涼香 撮影=山本 れお

公演情報

サンデー・ブランチ・クラシック
 
8月26日(日)
長 哲也/ファゴット
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
 
9月2日(日)
土岐祐奈/ヴァイオリン
&平山麻美/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
9月9日(日)
石田成香/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html

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