ヒグチアイ×片平里菜 2つの対照的な“強い意志”が交差した一夜をレポート

レポート
音楽
2018.12.4
ヒグチアイ、片平里菜

ヒグチアイ、片平里菜

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HIGUCHIAI presents 好きな人の好きな人 meets 片平里菜
2018.11.28 渋谷WWW X

タイミングや省みる面もあったのだろう。希せずともこの日の両者は、改めて自身を見つめ、そこで見つけたものをアイデンティティと共に、次なる自分の表し方や方向性、行く先として明示してくれた。それこそが両者異なる「正論」。それらがこの日、そこに集った者たちの明日への活力へと変わる瞬間に立ち会うことが出来た。

ヒグチアイ片平里菜をゲストに、「HIGUCHIAI presents 好きな人の好きな人 meets 片平里菜」と題したライブを行った。これはシリーズで、ヒグチが都度自身が共演したいアーティストと行ってきたもの。タイトルはヒグチの楽曲で描かれる世界感に精通しており、「好きな人が、その人が好きな人のことを嬉しそうに話している(話を聞く歌の主人公は横恋慕)様を羨ましさと、どうしてその話に出ている私じゃないのだろう……」との哀しさや悔しさを歌った内容が多いのだが、その憧れの対象の佇まいや楽曲、その才能に嫉妬しているという意味では、このシリーズにつけるにはもってこいのタイトルだったりもする。

この両者にて長野と東京で行われた同イベント。長野の方はヒグチの出自の場とも言える「LIVE HOUSE J」にて弾き語りスタイルで、このWWW Xでは双方バンドスタイルで贈られた。

片平里菜

片平里菜

片平里菜

片平里菜

まずはステージに片平里菜が現れた。「環境が変わり、これからどうしようか?と1人で悶々としているなか声をかけてくれた」際の嬉しさと、新しく歩を踏み出すキッカケを与えてくれたことに音や歌で、意志回答をしてくれた彼女。これまでのキーボードを交えた編成からキーボードレスの4ピーススタイル且つ、バンドのメンバーもベース以外は斬新して挑んだ。この布陣はソリッドさや、ややアーシーでダイナミズム重視の印象。が故に、どこか彼女が秘めている決意や覚悟、次に向かうための新しいバイタリティとの絶妙なマッチを魅せてくれた。

片平里菜

片平里菜

まさに岐路を自身で選んでいく強い意志と、私は私で真っすぐシッカリ歩いていくわ的な力強さを誇示すべく「CROSS ROAD」から幕を開けた、この日。いきなりのハンドマイクスタイルにて、「邪魔しないでよ。ひと時の夢なんかじゃ終わらせないから」と歌った「Hey boy!」。またカントリーフレーバーな中、片平のやさぐれな歌と楽器が擁する楽しさが場内に呼び込まれた「BAD GIRL」、また対照的に片平のみが、上からのピンスポのなかアコギの弾き語りにて、気持ちの機微をデリケートさも交え伝えた「結露」、それとは正反対に、オルタナなギターを弾きながらの歌い出しからのバンドサウンドも映えた「最高の仕打ち」では絶妙な夜明け感を味わうことが出来た。

片平里菜

片平里菜

片平里菜

片平里菜

後半に向けライブは色を変えた。「大人になれなくて」がよりライブを色づかせ、続く「Party」では、再びハンドマイクにて歌われ、その前進感のある8ビートと4つ打ちがブレンドされたサウンドと共に場内をグイグイ惹き込んでいった。そしてラストは、「女だって戦っているんだよ! 私のことちゃんと愛して!!」と「Oh JANE」を放出。何か吹っ切れた感のある表情を残し片平はステージを去った。
 

ヒグチアイ

ヒグチアイ

奇しくもこの日29歳の誕生日を迎えた、続くヒグチアイは、今の自分のアイデンティティとこれからを、「好きな人たち」の前で胸に秘めたり歌に込めたりしながら、力強く各曲に「想い」を宿し歌い放った。

荘厳なSEが流れ出し、真っ暗なステージにベースの御供信弘、ドラムの伊藤大地のシルエットが現れ、少し間を置き現れたヒグチが「ようこそ」といった両手を広げた仕草で場内を歓迎する。ピアノに座り、流麗に「ココロジェリーフィッシュ」のイントロを奏で、合わせて歌も紡ぎ出されていく。ミニマルなフレーズのループの上、クールでしっかりとした強度を保つ彼女の歌声がブレンドし、それをバンドサウンドが更に生命力を帯びさせ、血肉化させていく。こんなちっぽけなプライドなんて砕け散ってしまえ、と歌わんばかりに、同曲がまるで助けを求めるように未来へと手を伸ばす。続いての新曲「街頭演説」では、自身の内省から今度はこちらへと詰問の矛先が変わる。ここでは御供のコーラスも歌に絡みつき、同曲が夜明けへと手を伸ばすように響く。また、伊藤の作り出すシャッフルの混じった牧歌的な雰囲気の中、母への心手紙にも響いた「わたしのしあわせ」では、聴く者も自身の誰にも汚させない聖域を思い浮かべさせ、対してシティポップ的な洗練されたアレンジが施された「かぜ薬」では、作品以上に軽やかさを増した印象を与え、歌われる「やっぱり別れたくなかった」の本心は、その時の熱による弱気だけではなかったことを改めて想い起させてくれた。

ヒグチアイ

ヒグチアイ

ヒグチアイ

ヒグチアイ

この日は3曲の新曲が披露された。中盤に歌われた「そのまま」もその中の1曲。この曲を含め、結局閉じ込めていなくちゃならなかった想いが以後、次々に告げられていく。私ぐらいは私のことを褒めてあげたいとの想いの詰まった「わたしはわたしのためのわたしでありたい」が、帆に風が集まって膨らんでいく瞬間の、「でも行かなくちゃ!!」と共に再びライブを走り出させれば、他者にはけして映らない自身のみが感じる永遠の瞬間を謳った「永遠」、また、変拍子も交えた「黒い影」では、各ソロを交えてのメンバー紹介も行われた。

ヒグチアイ

ヒグチアイ

ヒグチアイ

ヒグチアイ

後半に向けライブはアグレシッブさを増していく。後半に現れた「聞いてる」も新曲であった。ピアノを基調に鳴り物やチャームにてシンプルに伝えられた同曲を経て、本編最後はまるで自身の架空の履歴書のような「備忘録」が放たれた。その際には、糧なのか?傷なのか?とにかくこれから一人でも強く生きていく為には、それらは忘れてはいけない戒めと言わんばかりにバンドサウンドが攻めの力を帯びて広がっていく様を見た。

ヒグチアイ

ヒグチアイ

アンコールではアコギを持った片平が呼び込まれ、「この涙を知らない」(片平)のカバーが本人も交えデュエットされた。とその前に長めの女子トークが。それらはそこまで漂っていた緊張の糸をほぐし、和みを与えてくれた。この曲も長野では、この2人ながらアコースティックスタイルで届けられていた。一番をヒグチが歌い、二番を片平が引き継ぎ、そこに2人の声質の異なるユニゾン/ハーモニーが絶妙な織りなしを魅せてくれた。そして三番は交互に歌い、極めつけはユニゾンのハモり。加え、歌内容にある強がりな女心にもグッと来た。まさに両者、今までも常にこのような心境でサバイブしている胸の内が伺えた瞬間であった。

ヒグチアイ、片平里菜

ヒグチアイ、片平里菜

サバイブ……そうだよなぁ……生きていかなくちゃならないもんなぁ……。そんな、今後の毎日のサバイブの仕方を「私は私、私らしく今後も強く生きていくわ!!」と力強く歌い放った片平。一方、「そんなこと周りのみんなに言われているから分かってる。そうはなりたい。しかし、それをしていくにはこの社会や周りは息苦しい。だったらその中で私は私らしく、自分ぐらいは自分を誉めてやろうと自身に言い聞かせて生きていく!!」そんな改めての宣言のようにも響いたヒグチの歌たち。ジレンマや葛藤を抜けた、この2つの対照的な「強い意志」が交差し、融合を魅せ、どちらの正論も合わせ飲ませてくれた、この日。その2者のコントラストは双方「正論」として、今でも私の胸に残り続けている。


文=池田“スカオ”和宏 撮影=石井亜希

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