MOROHA 「俺が目指すのは、俺たちが目指すのは、あなたの、お前の、君の心だ」Zepp Tokyo『単独』

レポート
音楽
2018.12.17
MOROHA  撮影=森好弘

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MOROHA 『単独』  2018.12.16(SUN)Zepp Tokyo

「あの日、最後の曲でMOROHAの二人は無数のスポットライトを浴びながら」といきなりクライマックスから書いて読者の気を引くのは……もういい。リハーサル風景や出番前の楽屋はどんな様子だったのか伝える……そんなの今回は必要ない。ライブレポートの書き方はある程度パターン化されていると思う。しかし、机に向かって今日のことを書こうと思った途端に、どれもくだらないと思ってしまった。僕は何を書くべきなのだろう、何を?

MOROHA  撮影=森好弘

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――2018年12月16日、Zepp TokyoにてMOROHAの単独ライブが開催された。朝は曇り空で、先行物販が始まる14時ごろは少し雨が降って、15時30分には夕焼けが見える不思議な天気だった。

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開場時間16時。寒空の下で待っていたお客さんがようやく場内へ。開演時間17時を少し過ぎた頃、アフロとUKがステージに姿を現す。そして真っ暗になった場内。たった2つのスポットライトが2人を照らす。かろうじて表情が見える状況で、男はマイクを握り締めて放った。《出し切るのは練習の成果じゃない 生きてきた人生丸ごとだ》(「二文銭」)こうしてMOROHAのライブが始まった。

MOROHA  撮影=森好弘

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その後、「奮い立つCDショップにて」「一文銭」を披露するが、会場から歓声は一切起こらない。ライブでよくある演者の名前を呼ぶ声もない。ただただ歌を届ける者と聴く者がいるだけ。観客はみんな一言一言を心で噛みしているようだった。そんな中、アフロが口を開く「せっかくデカイ会場なのに、舞台に何の演出もなくてすいません。この後、ステージに火柱が……立ちません。紙テープが……飛びません。そういうのは実力の無いヤツがやることです。MOROHA Zepp Tokyoワンマンライブは完全ソールドアウト。もしも、この時点で感動しているヤツがいたら、そのヌルい感情は捨ててくれ。誰のライブを観に来たんだよ?」今日は来てくれてありがとうではなく、こんなもんで満足しないでくれと言葉を投げつけた。「どんなに小さいハコだって、どんなに大きなフェスだって、Barだってライブハウスだってクラブだって、やることは一緒。いつだって俺らが言いたかったことはただ一つ……俺のがヤバイ!」結成初期から歌っている、この曲。アフロが言った通り、客が10人に満たない場所でも彼らは今と変わらず「俺のがヤバイ」と歌い続けてきた。

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僕は他人に対して一時的な感情ではなく、確固たるものとして「俺のがヤバイ」と言い切れる何かがあるのだろうか……と曲を聴きながら考えた。そしてアフロは「たいした結果も出したこと無えクセに、いっちょ前の口をきくやつが大嫌いなんだよ。……誰のことだと思う? 俺のことだよ」と、すごい剣幕のまま「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」へ。<明日があるさじゃ明日は来ない 来たとしたってろくなもんじゃないよ><にんげんだもの で割り切れるなら 最初から音楽やってねえから>鈍器で頭を殴られて、ドクドクと額から溢れる血の生ぬるさで生きてる実感を味わう。そんな感じだった。この胸の痛みこそが、今この場でMOROHAを聴いている証明な気がした。

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中盤になり、アフロが再び話し始める。「ここまで拍手が少ないライブってのは、なかなか無いんじゃないでしょうか? いつも曲を作るときに拍手をいっぱいもらいたいなとか、歓声たくさんあがったらいいなって、ちょっとだけ考えるんです。でも、この曲を作ったときは拍手も歓声もいらないから、胸の中だけでもいいから、聴いた人が好きな人の名前をつぶやいたらいいなって思いました。俺は……愛を、愛を歌いたい」そんな言葉の後に「ハダ色の日々」を演奏。UKがギターを弾き始めた途端、ある映像が僕の脳裏に浮かんだ。仕事を終えたサラリーマンが定期券に忍ばせた彼女の写真を見ながら電車に乗って、2人のアパートへと帰っていく。スーパーで買った発泡酒とお惣菜が並ぶ2人の食卓。派手さはない、華やかでもない、そんな日々の暮らしを幸せと呼ぶ。僕はいつか布団の中で「結婚しようね」と言ったまま叶うことのなかった、亡くなった彼女との約束を思い出した。

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「スペシャル」「革命」「四文銭」と重ねて「tomorrow」へ。「それ本当の拍手か? それ本当の歓声か? ずーっとずーっと疑ってる。金を払って、期待して、愛してくれるお客でさえも、ずーっと疑ってる。なんでかって? ……それは俺が俺自身のことを信じてないからだ」――ある野球少年は、プロ野球選手になりたい希望もむなしく万年補欠にしかなれなかった。大人になり、思い描いた自分になれず悶々と過ごす毎日。テレビの向こうでは、同い年のメジャーリーガーが初勝利をあげた。《どのツラ下げて どこへ向かうの?》目の前でMOROHAが歌っている。なりたいものになれず、好きな人を幸せにできず、それでも進むしかない。「お前は誰かじゃなくて、お前にしかなれないんだよ」と言われているみたいだった。

MOROHA  撮影=森好弘

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そして、後半戦になり「バラ色の日々」へ。いつもよりUKのギターが悲しく、アフロの声は優しく聴こえた。この曲で一体どれだけの人が涙しただろう。ライブで演奏される度に、僕はこの曲でどれだけ泣いている人を目の当たりにしてきただろう。僕の隣で泣いてる女性の涙は好きな人を思ったものなのか、叶わない誰かを思ったものなのか、誰かを捨てて後ろめたい気持ちがこみ上げたものなのか分からない。だけど同じ曲を聴いて、それぞれが違う理由で心を揺さぶられているのだとしたら、それは素敵なことだと思った。

MOROHA  撮影=森好弘

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そして15曲目。MOROHAが単独ライブの最後に選んだのは「五文銭」。この曲はメジャーデビューして喜ぶわけじゃなく、売れているアーティストやアイドルに真正面から向かっていくことを決めた男たちの歌だ。UKがギターを一心不乱に弾く中、アフロが歌う。《アルバムリリースはメジャー ユニバーサルVS二本の中指だ 俺たちのために俺たちが選んだ さあ食うか食われるか》――高校1年生の頃、長野県上田染谷丘高等学校で出会ったアフロとUK。その後、2人は上京。2008年にMOROHAを結成して10年が経った。《どこへ なぜ どうして 何をもってそこまで いつまで どこまで なんのために》マイク1本、アコースティックギター1本、それだけでずっと戦ってきた。《追いかけ続ける問いかけの答え 答え 答え》何度も何度も叫び続ける。眩いスポットライトがステージに注がれる。

MOROHA  撮影=森好弘

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「Zepp Tokyoが埋まったから、次は武道館だ! そのあとはアリーナだ! ……そんなことを一瞬でも考えちまった自分に吐き気がするよ。馬鹿野郎って思うよ。LIQUIDROOMも通過点だった。Zepp Tokyoも通過点だ。武道館だって、アリーナだって通過点だ。二十歳の頃、何も持ってなかった俺とUKが『MOROHAやろうぜ』って誓い合って目指した場所は、そんなちっぽけな場所じゃなかったはずだ。俺が目指すのは、俺たちが目指すのは、あなたの、お前の、君の心だ。心、心、心、心!」UKが演奏を続ける中、アフロは続けた。「触らせてくれ! 抱きしめてくれ! ブン殴ってくれ! 俺はたくさん裏切ってきたし、たくさん負けてきたけど、いつか俺は俺自身のことを褒めてやりたい!「よく頑張ったって! 最後まで諦めなかったって!」自分のこと、力いっぱい抱きしめてやりたい! そしていつか! 俺は……俺は……」一瞬、時が止まった。そして「……俺のことを幸せにしたい!」こうして、2時間に及ぶライブは幕を閉じた。

MOROHA  撮影=森好弘

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――二人がステージから去った後も会場に残る観客。「アンコールをするのか、しないのか」それが分からず、様子を探っている。数分後、袖からアフロが再び姿を現した。「アンコールはありません。全部出し切りました。もう何も残っていません。アンコールがなかったということを、皆さん胸を張って会場を出てください」そして出入り口を指差した。「あれは入り口なんだよ、あれは入り口。俺もあの(ステージ袖の)扉を入り口だと思って出て行くから……また会いましょう」盛大な拍手に包まれながら、またアフロは姿を消した。

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――原稿を書き終えて、もうすぐ午前6時になろうとしてる。思い返せば、MOROHAのライブレポートを初めて書いたのは、2017年のクラムボンと対バンした『怒濤』だった。あれから少しだけ原稿を書けるようになったのかなと思ったけど、全然ダメだ。こんなもん所詮は、ただのライブレポート止まりだ。もしもMOROHAのライブを観たことがなかったとしたら、この記事で良し悪しなんか決めなくていい。どんなライブをするのか、あなたの目で確かめればいい。ただ……いつだって僕がMOROHAのレポートを書くときは、誇張や脚色せず、不器用でも真正面から自分の言葉で伝えていきたい。いつだって、今回が最後だと思って出し切りたい。

取材・文=真貝聡 撮影=森好弘

セットリスト

MOROHA 『単独』Zepp Tokyo 2018.12.16(SUN)
二文銭
奮い立つCDショップにて
一文銭
俺のがヤバイ
勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ
三文銭
ハダ色の日々
スペシャル
革命
四文銭
tomorrow
バラ色の日々
恩学
ストロンガー
五文銭

ライブ情報

MOROHA 『単独』
2019年7月13日(土)日比谷公園野外大音楽堂
開場17:00 / 開演18:00 
全指定席¥4,500(税込)
 
オフィシャル一次先行予約受付
12/19(水)12:00〜1/10(木)23:59
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