宮下 遊、初のワンマンライブで見せた10年間の軌跡

レポート
音楽
2019.4.9
宮下 遊

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宮下 遊 1stワンマンライブ『青に歩く、東へ臨む』
2019.3.31 新宿ReNY

昨年12月に2ndメジャーアルバム『青に歩く』を発表した宮下 遊。ボーカリストとしてはもちろん、ボカロPやイラストレーターとしての顔も持つ彼は、昨年はseeeeecunとのユニット・Doctrine Doctrineとして音源をリリース、ワンマンライブを開催するなど、精力的な活動を繰り広げてきた。

そんな彼が、本人名義としては初のワンマンライブ『青に歩く、東へ臨む』を、3月31日(日)に新宿ReNYで開催した。完売のため、会場にはかなり多くのオーディエンスが足を運んでいたのだが、開演前のフロアは少し独特な空気が漂っていた。アンビエントなSEが流れる中、彼/彼女達が歓談している声も聞こえてはくるのだが、そのトーンは比較的穏やか。いわゆるライブ前のフロアの賑やかさとはまた一風違ったものだった。そこにいる全員がステージにかけられた幕の前で、そのときをいまかと待ち構えていて、ちょっとした緊張感のようなものも感じられた。

宮下 遊

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ゆっくりと暗転。青い照明が場内を包み込み、儚くも、それでいてどこか不気味な印象もある幻想的なSEが流れてくる。そして、「テレストテレス」が流れ始めると、ゆっくりと幕が上がっていき、ステージに立っている宮下の姿が見えた瞬間、フロアから大きな歓声があがった。この日のサポートを務めたマロン菩薩(Gt)、松ヶ谷一樹(Ba)、杉崎尚道(Dr)と共に、彼は自身の持ち味でもある透明感のある歌声を届けていく。そのまま「青年よ、疑問を抱け」「少女レイ」と、軽快な曲を繋げていくと、オーディエンスは青色のサイリウムを振りながら、彼の歌声をじっくりと堪能していた。そんなフロアを見渡して、「3曲ほど歌わせてもらいましたけど、すでに感無量です」と、宮下。穏やかなトーンでありながらも、客席とのコミュニケーションを楽しんでいるようだ。

この日のセットリストは、ライブタイトルの通り、アルバム『青に歩く』の楽曲が軸になっていたが、1stメジャーアルバム『紡ぎの樹』の収録曲や、動画サイトにアップされていたカバー楽曲も組み込まれたものになっていた。宮下は、「VORACITY」ではときにヒステリックなまでに力強く声を張り上げ、エキゾチックな「Fool Definition」では呪詛をつぶやくように、ずっしりとしたロックチューンの「JINGO JUNGLE」ではがなり気味にと、バリエーション豊かな楽曲達を、様々な歌声を使いわけながら歌っていく。

宮下 遊

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宮下 遊

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他にも「ロキ」「メルティランドナイトメア」「アンノウン・マザーグース」といったボーカロイド楽曲3連発では、フロアからシンガロングを巻き起こしながら駆け抜けていきオーディエンスを熱狂へ誘っていたが、宮下は基本的にはその場を動かず、じっくりと歌を届けていた。その姿は、シンガーとして歌を前に押し出すというよりは、自分の歌声もパーツのひとつにして、その楽曲の世界観をサポートメンバー達と構築していくような印象を受けた。そんな彼の特性であり、歌声が見事にハマっていたのが、ダークファンタジー的な「愛して愛して愛して」と、続けて披露された「舞台性ナニカ」。激情的に声を張り上げたり、不気味なトーンで囁いたり、ブレスをたっぷり入れたりと、様々な声で曲を彩り、フロアを魅了する。どちらも曲が終わるや否や大きな拍手と歓声があがっていて、その世界観にどっぷりと浸れるものになっていた。

この日が初ワンマンとなった宮下だが、彼が動画共有サイトに投稿を始めたのは2008年のこと。MCでは自身がこれまで歩んできた道のりを振り返る場面もあった。

「10年経ってここまで来れたのが本当に嬉しいです。10年もやっていると、自分よりもあっという間に先に進んでいく人が本当にたくさんいて。でも、自分ができることは限られているというか。自分なりにひとつずつやってきて、ようやくここまで来れたので、このままもっと大きいところまでいけたらなと思っています」

宮下 遊

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そんな言葉の後に届けられたのは「炎」。宮下は、穏やかでゆったりとした曲調でありながらも、彼の胸の中でいまだに冷めやらぬ熱を表すように歌うと、続く「Fading ghost」では、彼がこれから進んでいく道を照らすようにまばゆいまでに真っ白な照明が場内を包み込み、その意思をエモーショナルなバンドサウンドが後押ししていた。そして、オーディエンスに感謝を告げた後、最後に「青へ向かう」を披露。実にドラマティックな光景となっていた。アンコールに披露された「夜の反芻は空白を待つ」も含め、全18曲。瞬く間に駆け抜けた90分間のステージだったが、この初ワンマンで彼が得た経験はかなり大きなものだっただろう。

宮下遊は、5月11日(土)にTSUTAYA O-EASTにて今回のライブの追加公演を開催することになっている。『青に歩く/水の狭間』と題したこの公演には、ゲストとして、『青に歩く』に書き下ろし楽曲を提供している かいりきベア、てにをは の2人が出演。初のワンマンライブで掴んだものを手に、彼は次にどんなものを見せてくれるのか期待したい。


文=山口哲生 撮影=小松陽祐[ODD JOB] 

ライブ情報

宮下 遊 1stワンマンライブ ・ 追加公演
「青に歩く / 水の狭間」
2019年5月11日 OPEN:16:00  START:17:00
TSUTAYA O-EAST
出演 : 宮下 遊
Guest : かいりきベア、てにをは
券種/料金
スタンディング(整理番号付) 4,000円(税込)
※3歳以上有料  ※ドリンク代別途必要

セットリスト

宮下 遊 1stワンマンライブ『青に歩く、東へ臨む』
2019.3.31 新宿ReNY

1. テレストテレス
2. 青年よ、疑問を抱け
3. 少女レイ
4. コウカツ
5. VAROCITY
6. アイアルの勘違い
7. ONE OFF MIND
8. Fool Definition
9. JINGO JUNGLE
10. 愛して愛して愛して
11. 舞台性ナニカ
12. ロキ
13. メルティランドナイトメア
14. アンノウン・マザーグース
15. 炎
16. Fading ghost
17. 青へ向かう
[ENCORE]
18. 夜の反芻は空白を待つ
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