LGBT問題を普遍的な人間ドラマとして描く名作『MOTHERS AND SONS ~母と息子~』が開幕

レポート
舞台
2019.7.30
(C)CHIE KATO(CAPS)

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NYのLGBTの世界をダイレクトに描いた舞台『MOTHERS AND SONS ~母と息子~』が2019年7月26日(金)東京・サンシャイン劇場にて初日を迎えた。
本作は『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『蜘蛛女のキス』を手掛けたアメリカの劇作家テレンス・マクナリーが原作となり、2014年の第68回トニー賞では脚本賞にノミネートされた話題作だ。

『LGBT』―Lはレズビアン、Gはゲイ、Bはバイセクシュアル、そしてTはトランスジェンダーを意味する。本作は、性的マイノリティであるこの言葉、LGBTとは何なのかをより理解してもらうために、そして自身がLGBTである事に悩んでいる人を救う一助になるべく、アニメ『タッチ』の上杉達也役で知られる三ツ矢雄二が立ち上げた『LGBT THEATER』第一弾作品でもある。

本作の公開ゲネプロ(通し稽古)が初日直前に行われた。この模様を紹介しよう。

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<あらすじ>
キャル(大塚明夫)とウィル(小野健斗)は同性婚カップル。二人にはバド(阿部カノン・中村琉/Wキャスト)という子どももいる。クリスマス前の冬の日、エイズで亡くなったキャルの元恋人アンドレの母親キャサリン(原田美枝子)が、キャルに会いにやって来る。キャサリンは夫にも死なれ、一人きりになっていた。
「息子はなぜエイズで亡くなったのか? なぜ自分は孤独なのか?なぜあなた達は幸せなのか?」キャサリンはキャル達を問い詰めていく―。

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たった4人で描く芝居は驚くほどアメリカ人の普通の生活が描かれていた。大塚と小野は性的マイノリティである事を除けば、言葉の掛け合い、時にはジョークも交え、まごうことなく恋、結婚をして家庭を持ちたいと思うごく普通のカップルを丁寧に演じていた。一方、原田が演じるキャサリンは皮肉たっぷりで二人に対して敵意をむき出しにする。マジョリティ側の人物を高圧的に演じている様から目が離せなかった。

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キャサリンが投げつける言葉のナイフを素手で受け止めつつ、冷静に向き合おうとするキャル役を演じる大塚は、時に頭を持ち上げては悩ませる過去の苦悩を含めてキャルという人物を好演。またキャルの今の恋人ウィルを演じる小野は、キャサリンの考え方に対して嫌悪感をむき出しにし、一方でキャルの元恋人でありキャサリンの息子であるアンドレに対して猛烈な嫉妬心を燃やす。3人ともそれぞれに心に抱えるやり場のない闇の感情をぶつけながら、やがて「アンドレが死ぬまで求めていたもの」の存在を徐々に浮かび上がらせていた。

この10年くらいでLGBTの人々を取り巻く環境は急激に変化している。だが一方で未だに変わらない偏見や先入観もまた存在する。本作は3人の感情や心情を通してその問題を描きつつ、それでいてLGBTではない人々にとっても共通する人間ドラマとしても魅力的な作品となったに違いない。時には胸を締め付けられる場面もあるが、キャルとウィルの子ども・バドの愛らしい存在に癒されつつ楽しんでいただきたい。

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取材・文=こむらさき

公演情報

三ツ矢雄二プロデュース LGBT THEATER Vol.1 
『MOTHERS AND SONS ~母と息子~』
 
■日時:2019年7月26日(金)~8月4日(日)
■会場:サンシャイン劇場

■原作:テレンス・マクナリー
■演出:三ツ矢雄二
■出演:原田美枝子、大塚明夫、小野健斗、阿部カノン(WキャストA)、中村琉葦(WキャストB)
 
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