能『隅田川』×ブリテン オペラ『カーリュー・リヴァー』連続上演“幻” 開催が決定
能『隅田川』×ブリテン オペラ『カーリュー・リヴァー』連続上演“幻”
2020年10月18日(日)よこすか芸術劇場にて、能『隅田川』×ブリテン オペラ『カーリュー・リヴァー』連続上演“幻”が開催されることが決定した。
オペラ『カーリュー・リヴァー』は、イギリスの20世紀を代表する現代音楽の巨匠ブリテンが、能『隅田川』を見て触発され作曲した作品。能とオペラ、仏教的世界観とキリスト教的世界観の対比など、この2作品を連続上演することにより、魂の物語を多面的にたどり、東洋と西洋、日本とイギリス、文化の融合を、舞台芸術(本作品)を通して体験するという。演出は、能楽界の新時代を牽引しよこすか能をプロデュースしている観世喜正と、演出家としても頭角を現すオペラ歌手彌勒忠史がタックを組み、オルガニスト・指揮者として実力、人気ともに高い鈴木優人が、初めて現代オペラを弾き振りする。
観世喜正、彌勒忠史2名より、「上演に寄せて」コメントが到着した。なお、上演を前に7月26日(日)には横須賀芸術劇場リハーサル室にて『演出「観世喜正×彌勒忠史」二人による プレトーク”幻“』と題したプレイベントが行われる予定だ。
観世喜正
観世喜正
『隅田川』は世阿弥の息子、観世十郎元雅の作品として知られる悲劇の名作です。
念仏の場面で、子方の梅若丸の幽霊を舞台上に出現させるか否かを、元雅と世阿弥が親子で論争した話しが『申楽談義』に載っており、14世紀の前半にそうした真剣な演出議論を行っていたことに驚きを覚えます。
この演目、人買い商人に連れていかれた都の少年・梅若丸を、母親が狂乱となりながら探し歩く、『狂女物』といわれる形式の能で、観阿弥作の『百萬』、世阿弥作の『桜川』、作者不詳ながら秋の名作とされる『三井寺』など、それら親が子を探す作品は、必ず最後に親子が再会を果たし、ハッピーエンドとなります。
しかし現行演目の中で唯一この『隅田川』だけが、息子は亡くなっており親子の再会の果たせない真の悲劇として描かれています。
演目名の『隅田川』も、横須賀を始め、関東の方にはどなたにもお馴染みの川の名前。遠く平安時代の伊勢物語・東下りをモチーフに、室町時代の十郎元雅が描いた、いわば関東のご当地ソングともいえる演目ですが、この演目が20世紀後半に、イギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンによって、能をモチーフとしたオペラ『カーリュー・リヴァー』として再生されたことは実に興味深いことです。
能とオペラ、東洋と西洋、仏教(念仏)とキリスト教(賛美歌)、いくつもの対比と踏襲を通して、テーマへの共感、能とオペラの演劇性の融合に繋がっていきました。
今回は、市川海老蔵さんの『源氏物語』で度々共演させて頂いた、声楽家の彌勒忠史さんと横須賀芸術劇場さんとの御縁とが重なり、能の『隅田川』に続けてオペラの『カーリュー・リヴァー』を上演できることになりました。
彌勒さんのアイデアにより、能舞台をそのまま使用してオペラにつなげるという手法で、両方の作品を一つの舞台でご鑑賞いただける形となります。
ぜひ、両作品をご覧いただき、「違い?」「共通性!」などなど、お客様方の色々な視点、感覚から多くのご感想をお聞かせ頂けたら、この上ない喜びです。
彌勒忠史
彌勒忠史
この度、能の『隅田川』と、20世紀イギリスを代表する作曲家、ベンジャミン・ブリテンが、その『隅田川』から霊感を得て作曲したオペラ『カーリュー・リヴァー』を連続上演することとなりました。
観客の皆様には、観世流シテ方でいらっしゃる観世喜正先生のプロデュース、ご出演により、何百本という蝋燭に照らし出された幻想的な舞台で演じられる『隅田川』をご覧いただいたのち、全く同じ舞台で、今度はキリスト教世界に翻案された、同じ魂を持つ物語をご覧いただきます。
そもそも、このような上演形態の公演が発案されましたのは、観世喜正先生が、毎年、横須賀芸術劇場において蝋燭能をプロデュース、上演されてきたこと、そして私が同劇場にて、やはり毎年、『オペラ宅配便シリーズ』をプロデュース、演出してきたという背景があるためです。そして、光栄なことに、2018年まで数年にわたって、市川海老蔵丈の『源氏物語』で観世先生と共演をさせていただいたことから、直接お話をする機会を得て、『何か面白いことをご一緒に』とお声がけをさせていただきました。
私は『オペラ宅配便シリーズ』においても、しばしば日本人としてのアイデンティティを前面に出した演出を行います。それにはいくつかの理由があるのですが、やはり私自身が西洋藝術音楽を生業としながらも、日本で生まれ育ち、日本文化のバックボーンを持ち、さらに能、歌舞伎、文楽といった伝統芸能が好きであるために、それらの要素を舞台上にちりばめたくなる、というのが一番大きな動機でしょう。
ブリテンが『隅田川』に触発されたように、私も今回の『カーリュー・リヴァー』は能の要素を多く取り入れて演出したいと考えています。例えば、まず小道具や衣装などを、能そのものではなくとも、インスピレーションを得た形でデザインすることを考えています。
そして、これは演出法、劇作法に関わることですが、『カーリュー・リヴァー』初演時の演出プランを、あたかも能における型のように扱ってみようと思っています。もちろん初演時と舞台セットも違えば、衣装も小道具も照明も違うわけですから、当時の演出プランでそのまま舞台が成立するわけではありません。しかし型が、特定の心情や情景を表すために非常に有効であることを鑑みた時、初演時の所作や動線を“伝承”し、型として扱った上で、そこから新しい表現“型破り”を生み出せれば、と考えているのです。
幽玄の世界と日本に里帰りしたオペラのコラボレーションに、どうぞご期待ください。