祝!書籍化!観劇あるある4コマ漫画『カンゲキさん』作者 木村琴々インタビュー 「観劇だけじゃない、あらゆるオタクの生態4コマです!」

インタビュー
舞台
アニメ/ゲーム
2020.4.21
木村琴々書き下ろしイラスト

木村琴々書き下ろしイラスト

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SPICEで、すでにVol.165を超える連載の『カンゲキさん』が書籍化! 4月1日に発売された書籍の発売に合わせ、作者の木村琴々さんに観劇にハマったきっかけから『カンゲキさん』誕生秘話まで、そして書籍化の担当編集であるKADOKAWAの伊藤素子さんになぜ書籍化をしようと思ったのかを、SPICEアニメ・ゲーム編集長で、劇団ガイアクルーの主宰でもある加東岳史が訊いた。観劇沼にハマる女性の心情を軽やかに、かつ面白く4コマ漫画で展開する『カンゲキさん』は、観劇好きなら首がもげるほどうなずいてしまう「あるある」ネタが満載!このインタビューも「そうそう、あるある!」という内容満載となりました。

『カンゲキさん 推しがいるから現場は天国!』書影

『カンゲキさん 推しがいるから現場は天国!』書影

2回の休載を経て続けた「カンゲキさん」はライフワーク?

――まず木村さんが観劇にはまったきっかけから教えてください。

木村:実はあんまりこれ、というのはないんです。知り合いに、舞台に誘われて観に行くとチラシをもらったりポスター見たりして、それで芋づる式に……。

――では初めて観に行った作品は覚えていますか?

木村:学校行事の観劇を除いてしまうと、たぶん中学の時に友達と行った声優の真殿光昭さんの舞台だと思います。都電に乗った先の小さい劇場で。椅子もパイプ椅子でした。

――その時はそれほど、いわゆる「観劇沼」にハマるって感じじゃなかったんですね。

木村:ですね。あとは大学の時に『サクラ大戦』の舞台や、ネオロマンスのイベントとか、友達の友達が声優の専門学校に行っていて、講師の声優さんの公演を観た、とかですね。あとはBSで見た野田秀樹さんの『半神』『赤鬼』が衝撃で、一時期は野田さんの本をすごく読んでました。あとバイト先の人に誘われて『エリザべート』を観たり。

――じゃあ舞台を観ること自体はお好きだったんですね。というか普通の人よりやっぱり沢山観ている気が……。

伊藤:木村さんはどちらかというと「二次元沼」からの「観劇沼」ルート、という感じがしますね。他界隈のオタクからの沼落ちが多いのも「観劇沼」の特徴だし、良いところだと思います。

木村:そうですね。もともとは二次元オタクなので、そんな感じのルートです(笑)。あと、誘われたら行く、みたいなとこあります。予定が決まってないと家から出ないので(笑)。予定が強制的に決まる観劇はそういう意味でも性格に合っていたかもしれません。

書籍ならではの「カンゲキさん」描き下ろしも掲載

書籍ならではの「カンゲキさん」描き下ろしも掲載

――そんな人に誘われて観劇されていたわけですが、明らかに「観劇沼」にハマった! みたいなきっかけは思い出せますか?

木村:キッカケ……「舞台おもしろいな!」ってなったのは、劇団扉座の『アトムへの伝言』(2011年、2013年)ですかね…。『アトムへの伝言』は紀伊國屋書店の階段の踊り場にポスターがあって。ちょうどドラマ『相棒』(テレビ朝日系)にハマっていたときで、あ、米沢(役の六角精児)さんだ! って。

――ポスターで観劇決めるってなかなかいないですけどね。確かにポスターって作品の印象を決める大事なものだと思うんですが、それが決め手で購入する人ってかなり演劇好きな方じゃないかと。

木村:チラシとかで知ったり、知ってる役者さんが出てるとか、有名な作品はとりあえず観ておくか…みたいな。あと、2006年あたりからフリーランスになったので、単純に時間があったんじゃないかなと。今でも「なんかおもしろそうなポスターだな」って感じで決めたりしてますよ! あとは、演出違いに憧れがあって。野田秀樹さんと蜷川幸雄さんが、『パンドラの鐘』を同時演出したことがあると知って(1999年)そこから演出違いの舞台に興味を持って、チラシで見つけて観に行ったり。2005年の『ジェラルミンケース』が演出違いを観に行った最初の作品だと思います。

伊藤:ポスターを見て観劇する作品を決めるってのは相当フットワーク軽いと思います。観劇ってお値段的にも場所的にもハードル高く感じてる人も多いジャンルだと思うので。

木村:小劇場のは5000円前後ですし、私、他には本くらいしか買わないので。舞台関連で一番お金を突っ込んだのは戯曲セミナーの20万円ですね。

――戯曲を書かれる方にも興味あったんですか?

木村:舞台の何が好きって、「お話が好き!」ってところが強くて。ストーリー漫画だとまずセリフを書き出すところから始めたりするので、そんな興味もあって申し込みました。

――そんな戯曲セミナーの体験が役にたった部分はありますか?

木村:平田オリザ先生(劇作家・劇団「青年団」主宰)の授業で、ワークショップと、グループでの戯曲制作課題があったんですけど、とにかく「こんな考え方あるんだー」っていう連続でした。あと、平田先生の作品もセミナー受講がきっかけで見るようになりました。

――本当は戯曲セミナーは僕が受けたりするべきなんでしょうけど…(笑)。劇団の主宰をやってるのに独学ですし。

木村:独学でなんとかなるならいいんじゃないでしょうか。私も絵の勉強とかしてないですし(笑)。あと鈴木聡先生(劇作家・劇団『ラッパ屋』主催)の話も印象深かったです。

――ではその絵の話もお聞きしていきたいのですが、舞台に対してはハードルも低く、フットワークも軽く沢山の作品を観られたということですが、絵を描く、というのは子供の頃からですか?

木村:幼稚園の時に絵のうまい子がいて、「わたしも描く!!!!」ってなったのを覚えてます。

――それで自分も描いてみようと。

木村:はい。で、ずっと描いてはいたんですけど、高校では美術部のレベルに怖気づいて入らず(笑)PC部でCGやったり音楽部で合唱したりしつつ、普通に進学して。

籍化に合わせて各話の欄外にコメントも追加

籍化に合わせて各話の欄外にコメントも追加

――そこから「漫画を描いてみるか!」となったのはどんなきっかけからなのでしょうか?

木村:あんまり覚えてないんですけど、大学の時に、絵の仕事がしたいな、イラストとかマンガとか……って思って、とりあえず8ページくらい描いてみたような思い出があります。

――結構大事な人生のポイントなのに記憶が曖昧だ(笑)。

伊藤:二次元オタクだと、自分の推しをひたすら描きたい!! ってなりませんでした?

木村:推しの絵はひたすら描いてましたね(笑)。でも、オリジナルのキャラクターのほうが多かった気がします。あっ、大学の時に考えてたオリキャラ、『カンゲキさん』にこっそり描いたんですよ!115ページに出てくる白いコートの人たちです。懐かしい……。

 

――そんな漫画と観劇がつながって『カンゲキさん』があるわけですが、『カンゲキさん』のアイデアはいつ頃思いつかれたのでしょうか?

木村:前に話をした戯曲セミナーが座・高円寺の稽古場であったんですけど、その近所に、もともとお仕事をさせていただいていた出版社さんがあったんです。一年間のセミナーが終わる頃に、その出版社の担当さんから「紙の原稿を返したい」とご連絡いただきまして。そこで「実は座・高円寺で戯曲セミナー通っていて、御社の前を毎週通ってました~」って言ったら、「じゃあ舞台ものでなんか書きませんか?」とお声がけいただいたんです。

伊藤:すごくドラマチックなきっかけですね! 高円寺の出版社さんと木村さんがお仕事をしていなかったら、『カンゲキさん』は生まれてなかったかもしれない(笑)。

過去連載時のイラスト①

過去連載時のイラスト①

木村:それはたしかにあるかも……。で、観劇好きな編集さんとか、社会人演劇やってる人がその出版社にいて、Webサイトで4コマ連載させてもらうことになったという。まあ60本で打ち切りになったのですが……。

伊藤:それがあとがきにあった2014年あたりで、そこから2016年に再開されるわけですが。

木村:はい。でもその雑誌も4冊で休刊で……。

――そして今度はご自身のTwitterで発信しだしたと。

木村:はい。で、「代欲しーなー」と思って(笑)、SPICEさんに持ち込みしました! ありがとうございます!

――ありがとうございます(笑)。素朴な質問なのですが、『カンゲキさん』って連載が2回終わってるわけじゃないですか。それでも描き続けた、というのはどういったことからなのでしょうか?

木村:なんでしょうね……?

――ここ大事なとこですから!(笑)

木村:私もたまに不思議で!(笑)基本的に飽きっぽいので、よくやってるなって思います。ネタが思いつくのと、4コマ漫画はストーリー漫画に比べれば早く描けるのもあってここまで続きました(苦笑)。

――ネタが思いつくとか、早く描けるとかはあるかもしれませんが、とはいえ毎週の連載なわけで、ネタ集めかなり大変なんじゃないかと思っていたのですが。

木村:「俳優沼」から「歌舞伎沼」に落ちた友人がいるので、ネタもらったりもしました。

過去連載時のイラスト②

過去連載時のイラスト②

伊藤:書籍化の担当編集側から見た印象としては、まず『カンゲキさん』というタイトルが良かったです。そしてクオリティーの高い4コマがここまでストックとしてすでに貯まっているんだ! ということにまずビックリしましたね。

木村:もともとは『カンゲキガール』だったんですけど、連載が終了して自分で再度始める時に『カンゲキさん』に変えました。

――では、今度は伊藤さんへの質問なのですが、そんな『カンゲキさん』をなぜ書籍化されようと思ったのでしょうか?

伊藤:私自身がもともとエンタメ雑誌の『週刊ザテレビジョン』編集部時代が長くて、ジャニーズの方が出てる舞台や、TEAM NACSや蜷川幸雄さん作品など、取材も兼ねて舞台を観る機会が多かったんです。その影響で、リサーチも兼ねて舞台の感想や考察記事をよく読んでいて、Twitterでもミュージカルオタクの方のつぶやきをチェックしたりしてたんですね。そうしたらある日、『カンゲキさん』がリツイートされてきて。絵が可愛いなと思ってリンク先に飛んで、連載を読んで、木村さんに連絡したという流れです。何かにガッツリはまって人生楽しんでる女子を礼賛する本を作りたかったというのもあります。

――実際『カンゲキさん』をまとめて読んでみて、最初の印象はいかがでしたか?

伊藤:とにかく「オタクあるある」が詰まっていて面白かったです。「観劇オタクあるある」のはずなんですけど、面白いのが、オタクってやっぱり別界隈でも共感しあえるんですよね。「推しが尊い」「実質タダ」みたいな感覚って全界隈共通というか(笑)。

木村:それはインスタで言われてた気がします

伊藤:よくよく読んでみると舞台界隈、それもかなり限定されたジャンルの舞台オタクの話なんですけど、たぶん、アイドルオタク、俳優オタク、ミュージカルオタクとか、あらゆる「生のエンタメ」が好きな人が共感できるパッションが詰まってるなと思いました。あと舞台観劇って、さっきも言いましたが、別界隈からの流入が元々多いジャンルだと思うんです。

――それは分かります。『カンゲキさん』を読んでくれている人も「わかる……」という意見が多い。

伊藤:私はTM NETWORKの大ファンだったんですが、「宇都宮隆さんが出る!」というのでミュージカル『RENT』(1998年、日本初演時)に興味をもったり。声優さんやアーティストや俳優、アイドルきっかけで「舞台沼」にハマる人もいるし、巻末マンガに出てきますが、原作ファンで舞台を観に来る人もいますよね。

木村:オタクの生態4コマですから……。あと、この10年ぐらいで「体験」を重視する流れが加速してますよね。

伊藤:ドラマでは実現しえないファンタジーとか歴史ものにチャレンジできるのも舞台のいいところですし。「観劇沼」って、二次元オタクから三次元オタクまで、幅広いオタクの最終着地点という感じがします(笑)。それもあって、あらゆるオタクが読んで「わかるー!」「楽しい!」「オタクライフ最高!」となれる漫画だと思いました。

木村:2.5次元舞台はほんと偉大ですよね……。オタクを家から出したという。

――そうですね、今の2.5次元舞台は、俳優ファンか原作ファンかが多い印象ですが、俳優さんファンって言う比重は増えてきたかなと思います。

伊藤:木村さんは普段ストーリー漫画とか同人誌も描かれてるので、『カンゲキさん』も4コマ漫画とは思えないくらい展開がドラマチックだったりテンションが高いので、ワクワクしながら読めるのもいいですね。

木村:以前『カンゲキさん』を見ていただいた編集者さんに東村アキコさんみたいなテンションの高さがあったほうがいいかもって言われたの思い出しました。

――確かに前の頃に比べて最近の作品のほうがテンション高めですよね。

木村:4コマ漫画を一時期めちゃくちゃ読んでたのと、『GS美神 極楽大作戦!!』の椎名(高志)先生が4コマを描かれていて、それはもうバイブルなので、そのあたりが役に立ってるかもです。漫画を読んでてよかったです(笑)。

――『Dr.椎名の教育的指導!!』だ!(笑)

木村:ですです! あれは神です!(笑)あと、読者の方から『カンゲキさん』は非常識な人が出てこないところがいい」という感想をいただいたのも嬉しかったです。

伊藤:わかります。『カンゲキさん』の登場人物はみんな推しと舞台空間を愛してて、すごく従順でマジメ(笑)。オタク自体がそういう生態というのもありますけど、舞台は特に、客席も協力し合って作り上げる生の芸術みたいなところがあるから、そこも大事ですよね。

――ですね。そしてそんな体験の場である劇場に、新型コロナウイルスの影響で通えない日々が続いています。今回の単行本巻末の描き下ろしでは、「今日も明日も、舞台を観られる日常が続くといいね」というメッセージに「泣ける」という感想も見られましたが。

木村:「泣ける」という感想はすごくいただきます。ネーム直しで伊藤さんからメチャクチャ熱い長文メールをいただいて。

伊藤:そうなんです。ちょうどいろいろな公演の中止が発表されだした頃で、木村さんに超絶暑苦しいメールを送って、ネームを再考していただいたんですよね。

木村:全部書いたら32ページ超えますよ……?って思いながら、1ページにまとめました!

――どういう形に直されたのでしょうか?

伊藤:当初の打ち合わせでは、巻末に「観劇オタクってやっぱり楽しいねー!」と思えるようなちょっとドラマチックな話を入れたいとお願いをして。ただ舞台を観ているだけだと、受け身な感じで動きが少ないので、当日券に並んでいた時、近くにいた人と仲良くなったという木村さんの実話から膨らませた、「観劇がきっかけで友達も増えて楽しい!」というお話でした。そこにさらに、「みんなが推しに会える、舞台を楽しめる日常ってなんて素晴らしいんだ」というメッセージを込めて欲しいとお願いをしました。

――タイミング的にいつ頃の話でしょうか?

伊藤:2月末から3月上旬にかけて書籍作業の山場だったんですが、ちょうどその頃から新型コロナウイルスの影響でさまざまなライブや舞台の中止・延期が決まり始めて。3月1日に野田秀樹さんが公式ホームページに、公演中止が相次いでいることへの警鐘を込めて「意見書 公演中止で本当に良いのか」というメッセージを出されましたが、その日の深夜に、木村さんにメールをお送りしました。その頃Twitterは、いろいろな界隈のオタクの方々の「エンタメは不要不急じゃないんだよ!」「現場が無いとむしろ体力も精神力も削られる」「推しに会えないと免疫力下がる」といった悲痛な声にあふれていて…。『カンゲキさん』が書籍化するタイミングでまさかエンタメ界がこんなことになっているとは予想外でしたが、巻末漫画には、こんな時期だからこそ、「1本の舞台がいろいろな出会いを運んでくれて、自分の世界を広げてくれるし、豊かにしてくれる」「だから現場はいつ行っても最高だし天国だし、そこに通える毎日って幸せだ」というメッセージをこめて欲しいとお願いしたんです。

――なるほど。舞台という場があることが、幸せであるということを、この状況下だからこそ盛り込みたかったと。そして、今度は木村さんに質問ですが、SPICEで連載を続けていただいている理由として、作品のクオリティとサイトとの親和性が高いという部分があって、実に163回も続けてもらっています。SPICEでは『カンゲキさん』が最長連載なんです。そんな草の根のように続けてきて、遂に単行本化まで来ましたが、改めて感想を。

木村:『カンゲキさん』は2回も連載がなくなったりしながら細々と続けてきたので、連載させてもらえて嬉しいな、ありがたいなという気持ちでした。それ以上のことは、同人誌にでもまとめられたらいいかな、くらいしか考えてなかったです。友人たちには「継続は力だね!」って言ってもらいました。

――改めて書籍が完成してみての感想や反響を教えてください。あと、今後の野望などもあれば。

木村:新型コロナウイルスの影響もありますが、「楽しかった時の気持ちを思い出せた」とか「こういう日常に戻れるように頑張る」とか感想をいただきました。本という形でまとまったからこそいただいた感想かなとも思うので、非常にありがたいなと思いました。気軽に読んでもらえれば、って感じだったんですけど、1冊の本にまとめていただいたことで、また別の価値が生まれたのかなと。

伊藤:繰り返しになりますが、観劇オタクさん以外であっても、何かにハマってる人には「あるある!」「わかるー!」となってもらえる漫画だと思います。裏表紙側の帯に「そこに現場がある限り、毎日が最高に楽しい。すべてのオタク女子に捧ぐ、ハイテンション観劇コミック!」と書かせていただいたんですが、それが全てかなと思いますね。いろんなものにハマって日々経済を回しているオタクのみなさんに、「オタクって毎日楽しいよね!」と再認識していただけると嬉しいです。

――個人的にはドラマ化してもらいたいです! 早くみんなで観劇できる日が来るといいですね。それまでは単行本とSPICEで「わかるー!」や「この人の舞台みたい!」という思いを貯めてもらえたら。

木村:大変な時ですが『カンゲキさん』を読んでみんなの心が少しでも明るくなるといいなって思っています。
 

インタビュー:加東岳史 構成・文:林信行

書籍情報

カンゲキさん 推しがいるから現場は天国!

著者:木村琴々

定価: 1,100円(本体1,000円+税)

発売日:2020年04月01日

判型:A5判

https://www.kadokawa.co.jp/product/322001000145/

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