【緊急連載】韓国の検閲(3) 政権批判的なアーティストのブラックリストがある

2015.12.7
レポート
クラシック
舞台
アート

取材・文・撮影 : 堤広志

岡田利規と多田淳之介の共同主催による緊急イベントが、2015年11月28日(土)@東池袋・あうるすぽっとで行われた。二人はともに舞台芸術の祭典「F/T15(フェスティバル/トーキョー15)」に参加しており、それぞれ公演の本番で忙しい合間を縫ってのトークイベントである。テーマは「韓国の検閲」。今年に入り、日本でもにわかに話題となってきているこの問題について、実際に韓国で検閲に遭った経験を持つ二人のゲストを招き、その現状を聞いた。韓国では今、何が起こっているのか? そして、今後日本でも決して起こらないとは言えない“検閲”に、はたして対抗手段はあるのだろうか? 貴重にして重要なトークの内容を、6回にわたり連載する。
 
【連載目次】
 

第3回 政権批判的なアーティストのブラックリストがある

© Hiroshi Tsutsumi

岡田 では、次はジュヨンさんにお話を伺いたいんですが、ジュヨンさんが関わられたプロジェクトの中で検閲を受けられた経験をお持ちなので、そのお話を聞かせていただけますか?

ジュヨン はい。えっと、私が今年の5月にやったプロジェクトで、セウォル号を直接扱って、セウォル号の犠牲者の学生たちが住んでいたアンサンという町(京畿道安山市)を、お客さんと5時間ぐらい歩く巡礼プロジェクト(『安山巡礼道』)をやったんです。これは、5時間お客さんと歩きながら、安山という町が象徴する韓国の産業化、高度資本主義化、さらには国という概念について考えさせる色んな空間でパフォーマンスやインスタレーションを観る作品でした。それは「アンサン・ストリート・アート・フェスティバル」というフェスのコミッショニング(主催)で作ったんですけれども。そのフェスから(の依頼で)それを作ることになったのは去年の秋、10月ぐらいに決まっていて、でも自分がやりたい規模にはちょっと予算が足りないと思ったし、こういう作品こそ、アーツ・カウンシルみたいな大変大きな国家機関からの支援をもらうべきだって、すごく素直にピュアに思っていて(笑)。で、12月に申請を出したんです。その結果を2月ぐらいに聞いたんですけれども、もうそれは落ちたというのは知っていて。で、落ちたんだけど、ある程度フェスの方からの予算があるから、5月に実行してやったんですよ。その後、9月に「安山巡礼道」というタイトルの記事になって、それが落ちたのはセウォル号を扱ったという理由が一つ目で、二番目が総演出を任せた演出家が「政治的」という言葉を使っているんですけれども、「政治的」っていうのは今の政権に批判的っていうことで。2つの理由で「落ちました」っていうのを、その現場で審査をした批評家が野党の議員に証言したんです。そして、その議員がそれを文化分野国政調査で公開したんです。それで話題になって記事になったんですよね。

岡田 それを話した批評家の方は、それが理由で『安山巡礼道』のプロジェクトが落ちたことに対する、ある種の抗議の意味で、そういうことを、かばおうとしたんですね?

ジュヨン たぶん、それだと思います。2月にその審査が終って、個人的にもみんな知り合いだから、その連絡は来て。「たぶん、その2つの理由であなたたちにあげることはできませんでした」という風に話は聞いていたんですけど、それがどんな形で行われたのか、その実態は知らなくて。でも、9月にその記事になったのを見ると、何かリストがあるんですって。もう名前が書いてあるリストがあって、「この人たちは排除してください」みたいなことをその審査会の中でスタッフさんから言われるんですね。

岡田 ああ~…。

ジュヨン で、その中に、ユン・ハンソルさんっていう演出家なんですけど、その人とパク・グニョンさんとか何人かの名前が入っていて、「その人たちがやっているのは、もう通しちゃダメ」「通らせちゃいけない」っていう風に直接話があったっていうことでした。

岡田 ヘェ~…。あの、さきほど、パク・グニョンさんの助成金の話の中で、審査員をはじめ、パク・グニョンさんに高い点数を付けたことを変えるようにという指示を受けたけれども、それに応じた人は一人もいなかったっていう風にお話を聞くことができました。で、そのブラックリストって言っちゃっていいと思うんですけど、が、渡されるのも、僕は何か同じことだなと思ったんです。でも、それはすごい拘束力を持っていて、それは絶対その審査員も守らなきゃいけない命令のようなものだったっていうことなんですかね?

ジュヨン その場で「何でそれを受けたんですか?」って批評家に言いたいところなんですけれど、彼らの立場とか何か事情もあったんだろうと思うんですが、その後、国政調査に応じたのも、ある程度、自分の責任を取りたかったということがあるんだと思います。

岡田 気持ちとして、それを表明したということですよね? そのプロジェクト自体は実現されたんですか?

「安山巡礼道」(2015)より

ジュヨン さきほども話したように、フェスティバルからのコミッションだったので実現しました。パク・グニョンさんが記事になって一週間後に、この『安山巡礼道』も対象だったという記事があったんですけど、その記事を受けて、芸術家の人たちがカンパニー名義とか個人名義で声明文を出したりしたんです。けど、この『安山巡礼道』って結局50名ぐらいのアーティストが集まる結構大規模なプロジェクトで、その中に唯一の海外参加アーティストとして多田さんがいました。「声明だけで伝わるかな?」という思いもあったりして、私たちにふさわしい形で抵抗しようということになって、その記事から一週間後、もう「来年もやります」という発表会をやっちゃいました(笑)。来年のプロジェクトのタイトルは”セウォル号排除、ブラックリストにお答えしますー安山巡礼道2016制作発表会”です。

岡田 出来るといいですね。いや、ぜひやってほしい。

ジュヨン でも、プロジェクトを立ち上げた時から、このプロジェクトは毎年の4月とか5月、その事故があった時期に必ずやるという約束をして立ち上げたプロジェクトだから、やります。

岡田 そうですね。その必要はあると思います。

イベント・データ
岡田利規+多田淳之介主催緊急イベント「韓国の検閲」
 日時:2015年11月28日(土) 15:45~17:30
 会場:東池袋・あうるすぽっと エントランスロビー ※F/T15『God Bless Baseball』公演終了後
 登壇者:岡田利規/多田淳之介/チョン・ヨンドゥ/コ・ジュヨン
 

岡田利規 Toshiki Okada

岡田利規 Toshiki Okada : 演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。1973年横浜生まれ。1997年チェルフィッチュを結成。2005年『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。同年7月『クーラー』で「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005 ―次代を担う振付家の発掘―」最終選考会に出場。2007年デビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』を発表し、翌年第2回大江健三郎賞を受賞。代表作『三月の5日間』は、クンステン・フェスティバル・デザール2007(ブリュッセル/ベルギー)で初の国外進出を果たして以降、アジア、欧州、北米の計70都市で上演されている。F/T15では、日韓共同制作による新作『God Bless Baseball』を2015年11月19日(木)~ 29日(日)@東池袋・あうるすぽっとにて上演し、「野球」を題材として、日韓+アメリカの歴史や文化を批判的に描いた。

多田淳之介 Junnosuke Tada

多田淳之介 Junnosuke Tada : 演出家、俳優、富士見市民文化会館 キラリふじみ芸術監督、東京デスロック主宰。1976年生まれ、千葉県柏市出身。2001年東京デスロックを結成。古典から現代劇、パフォーマンスまで幅広く手がけ、韓国やフランスでの公演、共同製作など国内外問わず活動する。2010年より埼玉県・富士見市民文化会館 キラリふじみ芸術監督に就任。2013年、韓国の劇団「第12言語演劇スタジオ」(ソン・ギウン主宰)と日韓共同製作し、チェーホフ『かもめ』を日本統治時代の朝鮮を舞台に翻案した『가모메 カルメギ』で、韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。F/T15では、日韓共同制作による新作『颱風(たいふう)奇譚 태풍기담』を2015年11月26日(木)~29日(日)@池袋・東京芸術劇場シアターイーストにて上演し、シェイクスピア『テンペスト』を下敷きとして、20世紀初頭日本によって国を追われた朝鮮の老王族が南シナ海の孤島で王国再建を夢見る姿を描いて、日韓の歴史と文化、そして現在を照らし出した。また、2015年5月@安山ストリートアーツフェスティバルの『安山巡礼道』にも参加している。

チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo

チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo : ダンサー、振付家、アーティスト。韓国生まれ。演劇を学んだ後、韓国芸術総合学院で舞踊を学び、人間の心理に焦点をあてたユニークな振付家・ダンサーとして、韓国を拠点に世界各地で活躍。2003年にDoo Dance Theaterを設立。2004年、横浜ダンスコレクション「ソロ・デュオコンペティション」にて、横浜文化財団大賞、駐日フランス大使館特別賞をW受賞。2006年、ダンスマガジンにて舞踊芸術賞を受賞。日本での活動も多く、マレビトの会(松田正隆主宰)『ディクテ』『HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会』など演劇作品への出演や、立教大学現代心理学部映像身体学科で特任准教授を務めるなど、その活動は多岐にわたる。今年2015年10月、韓国国立伝統音楽院(国立国楽院)のプログラム「金曜共感」に参加予定だった演出家パク・グニョンが排除されたことから、自らも参加をボイコットし、デモ(スタンディング)を行う。

コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh

コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh : インディペンデント舞台芸術プロデューサー。1976年ギョンギ道生まれ。梨花女子大学新聞放送学科を経て、ソウル・フリンジ・フェスティバル、チュンチョン人形劇フェスティバル、BeSeTo演劇祭などの舞台芸術祭のスタッフを務めた後、日本に語学留学。2006年より韓国アーツマネジメント・サービス(KAMS)で様々なプログラムを企画・担当。2012年からはインディペンデント・プロデューサーとして、韓国や日本のアーティストと作品を作るほか、翻訳者としても活動をしている。2011年にはセゾン文化財団のヴィジティング・フェローとして日本に滞在し、「日本舞台芸術においてのテンネン世代」についてリサーチを行い、新しい世代の日韓舞台芸術の新しい交流方法と可能性を探求している。今年2015年5月のプロジェクト『安山巡礼道』の助成金を申請していたが、韓国アーツ・カウンシル側の意向で選考から落とされる。

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