【緊急連載】韓国の検閲(2) 演劇の街テハンノ(大学路)での公演阻止事件

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2015.12.7
取材・文・撮影 : 堤広志

取材・文・撮影 : 堤広志

岡田利規と多田淳之介の共同主催による緊急イベントが、2015年11月28日(土)@東池袋・あうるすぽっとで行われた。二人はともに舞台芸術の祭典「F/T15(フェスティバル/トーキョー15)」に参加しており、それぞれ公演の本番で忙しい合間を縫ってのトークイベントである。テーマは「韓国の検閲」。今年に入り、日本でもにわかに話題となってきているこの問題について、実際に韓国で検閲に遭った経験を持つ二人のゲストを招き、その現状を聞いた。韓国では今、何が起こっているのか? そして、今後日本でも決して起こらないとは言えない“検閲”に、はたして対抗手段はあるのだろうか? 貴重にして重要なトークの内容を、6回にわたり連載する。
 
【連載目次】
 

第2回 演劇の街テハンノ(大学路)での公演阻止事件

© Hiroshi Tsutsumi

© Hiroshi Tsutsumi

岡田 えっと、その後、僕がニュースで読んだ話なんですけど、テハンノ(大学路)でも…、テハンノっていうのは韓国でとても演劇が盛んなエリア、たくさん劇場があるエリアなんですが、そこで演劇人たちがある種の抗議活動をした。そして、それに対しても検閲というか介入があったっていう話も聞いているんですが、もしそれについてもお話しできたら、それについても教えてもらえますか?

ジュヨン それはちょっと事実がずれていると思うんですけれども…。

岡田 あ、じゃあ、訂正も含めてお願いします。

ジュヨン 韓国で一番大きい舞台芸術祭「ソウル・パフォーミング・アーツ・フェスティバル(SPAF)」というのがあるんです。これは元々は民間で立ち上げられたフェスでした。けれども前の政権の時に文化部に吸収され、現在は文化部傘下の財団法人韓国舞台芸術センターが主催しています。このフェスのメイン会場はこの財団の運営する大学路芸術劇場とアルコシアターなんですが、大学路芸術劇場の1階にあるシアターカフェで、このフェスティバルのサイドイベントとして、「POP UPシアター」という企画があったんです。お客さんが普通にお茶を飲んでいるところにいきなり公演をやる、という企画だったんですけれども、それをそのフェスティバルのチーム長であるディレクターが阻止したという事件がありました。それは何か「お客さんから苦情があったから」「お客さんが嫌がるから」「他のお客さんに迷惑になるから」という理由だったんですけれども、実はその作品がセウォル号(2014年韓国フェリー転覆事故)を扱っていたということです。

岡田 その作品がセウォル号を扱っていたというのは、直接セウォル号のニュースを題材にしたものだったということですか?

ジュヨン ニュースじゃなく、セウォル号の事故というものを題材にしたものだと思いますね。

© Hiroshi Tsutsumi

© Hiroshi Tsutsumi

岡田 えっと僕、その作品とは別の作品かもしれないんですけれども、セウォル号のことを直接題材にしたのではない演目が、セウォル号の問題を想起させるという理由で上演が中止になったという話も聞いているんですが、それは本当ですか?

ジュヨン それがそのカフェの(作品)、誰が観てもセウォル号を想起する作品で。“直接”というのはどこまで“直接”ということなのかわからないのですけれども…。

岡田 僕が今、気にしているのは、例えば今日の演目(『FT15『God Bless Baseball』)でも、今日日本・東京で観た時にいろんなことを感じさせるということも起こりますけど、それはいつどこで観るかっていうことと関連していて、例えば今東京で観るとそういうことを想起する、誰が観ても、っていうことは起こりますが、それはどの時代でも、どの場所でも起こることではないということが、起こる。そういう意味で、その演目は必ずしもセウォル号のことを扱ったものではなかったという風にも聞いているんですが?

ジュヨン でも、現場でそのディレクターとかが、それを阻止しながら「この作品、セウォル号じゃん」みたいな発言をしたというのが、もう証言されていて、それだと…。

岡田 それは、その演目を止めさせようとした人が発言したんですよね?

ジュヨン はい。

岡田 でも、その戯曲そのものは、セウォル号とは関係もなく書かれたものかもしれなかったものなんですか? それとももう明確に意識して書いたものなのですか? 僕が聞いた情報だと、その戯曲自体は外国の戯曲だって聞いたんです。

ヨンドゥ それはフランスの戯曲ですけれども、その内容が修学旅行に出た子供が死んで、その子供が自分の子供であるか? っていうことを確認しに行く物語です。だから、セウォル号そのものですね。フェスティバル側はたぶんそれ(プログラム)は決めているものの、もっとセウォル号のことが話題になったら自分たちにとって良くないんじゃないかっていう自己犠牲みたいな感じだったんだと思います。サイドイベントの演目まで詳しくは知らなかったから、直前にその情報が耳に入ったために、本番が始まる直前にそれを阻止したと聞いています。アーティストたちは、「なぜ、セウォル号を扱っちゃいけないのか」という疑問をいまだに持っています。

多田 それは、さきほどのパク・グニョンさんのやつとはたぶんケースがちょっと違っていて、政府からの介入ではなくて、フェスティバル側の自粛で起きたことですよね。自己犠牲でフェスティバル側が公演を阻止したっていう。本当はカフェでやる予定だったのが、机を全部直しちゃったりとか、もう物理的に上演をできないようにしたって聞いています。で、それに対する抗議として、劇場の前でのデモが行われたんですよね。一人15分のデモでしたよね?

ジュヨン それをリレーで、誰でもいいから劇場に来て下さいということで…。

© Hiroshi Tsutsumi

© Hiroshi Tsutsumi

多田 一人一人デモをするという。で、その後にフェスティバルの人なのか、劇場の人なのか、人事異動があったという話を聞いたんですけれども?

ジュヨン フェスの担当だったそのディレクターさん、スタッフなんですけど、その人と、その上の韓国舞台芸術センターのセンター長が人事異動になりました。

多田 それは、どういう意味での人事異動だったんですか? 例えば、デモとか抗議が通って替わったのか、それとも問題になったから責任をとって辞めさせられたのか?

ジュヨン たぶんものすごく騒ぎになったから、それの「責任とります」という感じで。その担当者が掲示板とかに書き込んだことを見ると、何かセウォル号とかじゃなくて、「カフェの営業に障害があるから」とか「お客さんから嫌がられるから」とか…。それで「やり方として、それはやりすぎだったかもしれないけど、そういう意味でやりました。だから、責任をとって、自分はそのポジションからは下ります」っていう風に書き込んで、それが後始末になりました。

多田 わかりました。ありがとうございます。

イベント・データ
岡田利規+多田淳之介主催緊急イベント「韓国の検閲」
 日時:2015年11月28日(土) 15:45~17:30
 会場:東池袋・あうるすぽっと エントランスロビー ※F/T15『God Bless Baseball』公演終了後
 出演者:岡田利規/多田淳之介/チョン・ヨンドゥ/コ・ジュヨン
岡田利規 Toshiki Okada

岡田利規 Toshiki Okada

岡田利規 Toshiki Okada : 演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。1973年横浜生まれ。1997年チェルフィッチュを結成。2005年『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。同年7月『クーラー』で「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005 ―次代を担う振付家の発掘―」最終選考会に出場。2007年デビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』を発表し、翌年第2回大江健三郎賞を受賞。代表作『三月の5日間』は、クンステン・フェスティバル・デザール2007(ブリュッセル/ベルギー)で初の国外進出を果たして以降、アジア、欧州、北米の計70都市で上演されている。F/T15では、日韓共同制作による新作『God Bless Baseball』を2015年11月19日(木)~ 29日(日)@東池袋・あうるすぽっとにて上演し、「野球」を題材として、日韓+アメリカの歴史や文化を批判的に描いた。

多田淳之介 Junnosuke Tada

多田淳之介 Junnosuke Tada

多田淳之介 Junnosuke Tada : 演出家、俳優、富士見市民文化会館 キラリふじみ芸術監督、東京デスロック主宰。1976年生まれ、千葉県柏市出身。2001年東京デスロックを結成。古典から現代劇、パフォーマンスまで幅広く手がけ、韓国やフランスでの公演、共同製作など国内外問わず活動する。2010年より埼玉県・富士見市民文化会館 キラリふじみ芸術監督に就任。2013年、韓国の劇団「第12言語演劇スタジオ」(ソン・ギウン主宰)と日韓共同製作し、チェーホフ『かもめ』を日本統治時代の朝鮮を舞台に翻案した『가모메 カルメギ』で、韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。F/T15では、日韓共同制作による新作『颱風(たいふう)奇譚 태풍기담』を2015年11月26日(木)~29日(日)@池袋・東京芸術劇場シアターイーストにて上演し、シェイクスピア『テンペスト』を下敷きとして、20世紀初頭日本によって国を追われた朝鮮の老王族が南シナ海の孤島で王国再建を夢見る姿を描いて、日韓の歴史と文化、そして現在を照らし出した。また、2015年5月@安山ストリートアーツフェスティバルの『安山巡礼道』にも参加している。

チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo

チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo

チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo : ダンサー、振付家、アーティスト。韓国生まれ。演劇を学んだ後、韓国芸術総合学院で舞踊を学び、人間の心理に焦点をあてたユニークな振付家・ダンサーとして、韓国を拠点に世界各地で活躍。2003年にDoo Dance Theaterを設立。2004年、横浜ダンスコレクション「ソロ・デュオコンペティション」にて、横浜文化財団大賞、駐日フランス大使館特別賞をW受賞。2006年、ダンスマガジンにて舞踊芸術賞を受賞。日本での活動も多く、マレビトの会(松田正隆主宰)『ディクテ』『HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会』など演劇作品への出演や、立教大学現代心理学部映像身体学科で特任准教授を務めるなど、その活動は多岐にわたる。今年2015年10月、韓国国立伝統音楽院(国立国楽院)のプログラム「金曜共感」に参加予定だった演出家パク・グニョンが排除されたことから、自らも参加をボイコットし、デモ(スタンディング)を行う。

コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh

コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh

コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh : インディペンデント舞台芸術プロデューサー。1976年ギョンギ道生まれ。梨花女子大学新聞放送学科を経て、ソウル・フリンジ・フェスティバル、チュンチョン人形劇フェスティバル、BeSeTo演劇祭などの舞台芸術祭のスタッフを務めた後、日本に語学留学。2006年より韓国アーツマネジメント・サービス(KAMS)で様々なプログラムを企画・担当。2012年からはインディペンデント・プロデューサーとして、韓国や日本のアーティストと作品を作るほか、翻訳者としても活動をしている。2011年にはセゾン文化財団のヴィジティング・フェローとして日本に滞在し、「日本舞台芸術においてのテンネン世代」についてリサーチを行い、新しい世代の日韓舞台芸術の新しい交流方法と可能性を探求している。今年2015年5月のプロジェクト『安山巡礼道』の助成金を申請していたが、韓国アーツ・カウンシル側の意向で選考から落とされる。

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