【緊急連載】韓国の検閲(5) 検閲はない方がいい? あった方がいい?
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取材・文・撮影 : 堤広志
第5回 検閲はない方がいい? あった方がいい?
© Hiroshi Tsutsumi
岡田 名目上は、日本もそうですけど、韓国も表現の自由があるので、つまり検閲は存在しない名目ですよね。じゃあ、実質問題は「(検閲が)ある」っていう現状で、僕がとても比較したくなるのは、中国なんですけれども、今年僕は初めて中国に行く機会があって、中国の作り手と何人か会う機会もありました。それで、まぁ有名なことですが、中国では検閲があります。これは“名目上”、検閲がある。つまり、演劇の場合は、上演する戯曲を事前に提出をして、検閲を受けて、それを通ったものだけが上演されるという、はっきりした決まり、システムがそうなっているわけです。そうすると、中国は検閲のある国。日本や韓国は検閲がない国です。で、「これはどっちがいいのかな?」と思うわけですよ。つまり、はっきり「ある」となると、彼らはそこをなんて言うんですかね…、ちょっとゲームみたいに楽しんでいるというか、駆け引きをやっているところがあって、それである時は「よし、通った!」みたいな感覚があって(笑)、ちょっとプレイフルな感じもあるんですよね。で、例えば、助成金というシステムを使ったり、あとは営業とか指定管理者制度とか、そういうシステムが必然的にもたらすメンタリティを使ってやるっていう風になると、もっとこうソフィスティケイトされているので、どっちがいいんでしょうね? ってすごく思います(笑)。
――(場内爆笑)
岡田 えっと、(質疑応答で)質問のある方、手を挙げていただければ何人か…。もし、いらっしゃったら?
Q(女性) うかがっていて、日本も他人事ではないという感じをすごく受けるんですけれども、むしろ、その検閲があるっていう問題よりも、自主規制という形でいろんなことがダメになっていくということについて、日本の方がどう思っているか知りたいんですけれども?
岡田 ありがとうございます。そうですよね、あの、さっきのパク・グニョンさんは助成金を通らなかったけど、通った人たちがいて、その人たちがボイコットしたらカッコいいのになぁって期待している人たちはいたと思うんですけど、出来なかったという話はすごく生々しいと話だなぁと思いました。その時に何をどう出来るのかというのが、すごい大きな問題だと思います。つまり、これもう本当にいくらでも言えるわけです。例えば、そのカンパニーは僕一人のカンパニーではないとか…。そういうことが大きな問題になって来てしまいますよね、うん。それをどう出来るのか、辞められたらカッコいいなぁと思います。でも、今はちょっと直面していないので、それ以上は言えません。でも、気持ちとしては辞めたらカッコいいな(笑)。
多田 まぁ、たぶん日本で起き得るなら、真綿で首を絞めるような自粛の強要みたいなことになると思いますが、僕はキラリ☆ふじみという(埼玉県)富士見市にある公立の劇場の芸術監督もやっているので、まぁ指定管理者の財団なんですね、僕は非常勤みたいな感じですけれども。なので、個人的には、まぁ劇団の作品を作る時と、劇場で作品を作る時は感覚がすごく違くて。やっぱり、キラリ☆ふじみの作品を作る時には、どこからが検閲なのかとか、どこから指導というか「ちょっとこの表現、和らげてよ~」みたいなことが来る……。
岡田 来るんですか?
多田 来るぅぅぅぅ……ぅ~~~~ん…。
――(場内笑)
© Hiroshi Tsutsumi
多田 …難しいとこですね(笑)。公立の現場で働いていると、そういうことは結構もう、ずっとあるんですよね。で、それはまぁ、アーティストとしては、自分は何のために作っているのかとか、それは誰のものなのかっていうことはあるので。僕は劇場で作る時には、「劇場を守る」ということが一番やらなきゃいけないことなので、自分の表現によって劇場が守れなかったら僕の活動は意味がないので、そこはもう完全に「劇場を守るために」というのが自分で納得がいけば、まぁそういうことです。まぁ、“指導”じゃないな、“相談”。「多田さん、あの表現なんだけど~」みたいな話が来た時に…。ただ、まぁそれが自分の劇団の公演だったりした場合はもうちょっと闘い方もあるし、自分たちの劇団の助成金がなくなるという話であれば、また別の闘い方、まぁ僕ちの生活が悪くなるぐらいのことなので…。
岡田 あの、さっきカフェで上演されていた作品が外国の、フランスの演目で、つまりそのセウォル号のことを直接扱ったものでは決してないということが、僕の中では結構引っかかっているんです。というのは、つまり今の韓国で修学旅行で亡くなった子供の話をすると、それはセウォル号のことになるんですけど、それを東京でやったとしても、そういうことにはならないと思うんですよね。で、何が言いたいかって言うと、今日の『God Bless Baseball』でも言ってましたけど、アレゴリーっていうテクニックを使うってことは、できると思っているんですけど…。だから、僕が結構そこでその出来事がショックなのは、それはセウォル号のことを直接扱っていないフランスの劇作家のもので、それが持つ、その場で上演されたことが持つアレゴリー自体が検閲の対象になったっていうことが、ショックだったんですよね。うん。で、これは、僕はすごく深刻なことだなぁって、本当に他人事ではなく思ったんです、それを聞いて。だから、僕の場合はそれは、例えばセウォル号のことを直接扱った作品の文官の検閲が起きることと一緒じゃなくって、アレゴリーにも関わらず、それが対象になったことをどう考えようかというか、すごく何か重ーい感じのことを、すごいのしかかられている感じなんですけど…。
日時:2015年11月28日(土) 15:45~17:30
会場:東池袋・あうるすぽっと エントランスロビー ※F/T15『God Bless Baseball』公演終了後
登壇者:岡田利規/多田淳之介/チョン・ヨンドゥ/コ・ジュヨン
岡田利規 Toshiki Okada
岡田利規 Toshiki Okada : 演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。1973年横浜生まれ。1997年チェルフィッチュを結成。2005年『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。同年7月『クーラー』で「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005 ―次代を担う振付家の発掘―」最終選考会に出場。2007年デビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』を発表し、翌年第2回大江健三郎賞を受賞。代表作『三月の5日間』は、クンステン・フェスティバル・デザール2007(ブリュッセル/ベルギー)で初の国外進出を果たして以降、アジア、欧州、北米の計70都市で上演されている。F/T15では、日韓共同制作による新作『God Bless Baseball』を2015年11月19日(木)~ 29日(日)@東池袋・あうるすぽっとにて上演し、「野球」を題材として、日韓+アメリカの歴史や文化を批判的に描いた。
多田淳之介 Junnosuke Tada
多田淳之介 Junnosuke Tada : 演出家、俳優、富士見市民文化会館 キラリふじみ芸術監督、東京デスロック主宰。1976年生まれ、千葉県柏市出身。2001年東京デスロックを結成。古典から現代劇、パフォーマンスまで幅広く手がけ、韓国やフランスでの公演、共同製作など国内外問わず活動する。2010年より埼玉県・富士見市民文化会館 キラリふじみ芸術監督に就任。2013年、韓国の劇団「第12言語演劇スタジオ」(ソン・ギウン主宰)と日韓共同製作し、チェーホフ『かもめ』を日本統治時代の朝鮮を舞台に翻案した『가모메 カルメギ』で、韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。F/T15では、日韓共同制作による新作『颱風(たいふう)奇譚 태풍기담』を2015年11月26日(木)~29日(日)@池袋・東京芸術劇場シアターイーストにて上演し、シェイクスピア『テンペスト』を下敷きとして、20世紀初頭日本によって国を追われた朝鮮の老王族が南シナ海の孤島で王国再建を夢見る姿を描いて、日韓の歴史と文化、そして現在を照らし出した。また、2015年5月@安山ストリートアーツフェスティバルの『安山巡礼道』にも参加している。
チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo
チョン・ヨンドゥ Jung Youngdoo : ダンサー、振付家、アーティスト。韓国生まれ。演劇を学んだ後、韓国芸術総合学院で舞踊を学び、人間の心理に焦点をあてたユニークな振付家・ダンサーとして、韓国を拠点に世界各地で活躍。2003年にDoo Dance Theaterを設立。2004年、横浜ダンスコレクション「ソロ・デュオコンペティション」にて、横浜文化財団大賞、駐日フランス大使館特別賞をW受賞。2006年、ダンスマガジンにて舞踊芸術賞を受賞。日本での活動も多く、マレビトの会(松田正隆主宰)『ディクテ』『HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会』など演劇作品への出演や、立教大学現代心理学部映像身体学科で特任准教授を務めるなど、その活動は多岐にわたる。今年2015年10月、韓国国立伝統音楽院(国立国楽院)のプログラム「金曜共感」に参加予定だった演出家パク・グニョンが排除されたことから、自らも参加をボイコットし、デモ(スタンディング)を行う。
コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh
コ・ジュヨン 高珠瑛 Jooyoung Koh : インディペンデント舞台芸術プロデューサー。1976年ギョンギ道生まれ。梨花女子大学新聞放送学科を経て、ソウル・フリンジ・フェスティバル、チュンチョン人形劇フェスティバル、BeSeTo演劇祭などの舞台芸術祭のスタッフを務めた後、日本に語学留学。2006年より韓国アーツマネジメント・サービス(KAMS)で様々なプログラムを企画・担当。2012年からはインディペンデント・プロデューサーとして、韓国や日本のアーティストと作品を作るほか、翻訳者としても活動をしている。2011年にはセゾン文化財団のヴィジティング・フェローとして日本に滞在し、「日本舞台芸術においてのテンネン世代」についてリサーチを行い、新しい世代の日韓舞台芸術の新しい交流方法と可能性を探求している。今年2015年5月のプロジェクト『安山巡礼道』の助成金を申請していたが、韓国アーツ・カウンシル側の意向で選考から落とされる。