ストレイテナー・ホリエアツシと語る2020〜21のライブとバンドの姿、抱いた思いとは

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2021.6.8
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=高田梓

ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=高田梓

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2020年に唯一、ストレイテナーが観客を前にして行なったワンマンライブと、明けて2021年頭に最新アルバムとともに全国8箇所をまわったツアーのファイナルを収めた映像作品『20201217+2021Applause TOUR』がリリースされた。
ストレイテナーの何たるか、ストレイテナーのライブの何たるかを改めて示すような前者と、アルバム『Applause』の楽曲群の魅力をライブでの生演奏で余すところなく伝えるだけでなく、それらと呼応する過去曲たちも輝きを放った後者。それぞれに見どころや感情を動かされるポイントは多々存在するが、何よりも「ライブに行く」という行為そのものが簡単なものではなくなった現在においては、彼らが真っ向から演奏し歌う瞬間を“そのまま”記録した作品となっていること自体が、本作を特別なものとしているように思う。そして、そういう撮り方や編集を施された作品でもある。
本稿ではライブ当日のことから作品にするにあたっての意図、そしてライブやバンドの活動に対していま抱える思いを、ホリエアツシ(Vo/Gt/Key)が語ってくれる。

――2本とも個人的に現地で観れていないライブが作品になったからなのか、映像を観ているといつも以上にジーンとくるというか。この情勢下でのライブはどうしても、ファンの方々にとっても現地で観れていない方がいつも以上にいるわけじゃないですか。

うん、そうですね。席数を減らしてるから、来たくても来られなかった人もいるし、自分の判断で「今回は行くのやめよう」っていうファンもいるので、映像で観てほしいなっていう思いは強いですね。映像で観てもらっても生の音だったり空気の良さというものが何パーセント伝わるんだろう?っていう気持ちも、やっぱりどうしてもあるけど、今回はいつものライブの映像とは作りが違っていたりするし、そこをよりこだわって作った感じはあります。

――生の魅力をどうパッケージするかというのは、過去にリリースしてきた映像作品でももどかしい部分でしたか。

もちろん割り切ってはいるんですけどね。だから映像では違う見せ方をしないといけない、違う価値がないといけないなっていうふうに思っていたんですけど。でも今回は、なんていうかな……映像作品としてというよりも、「今回のライブを観てほしい」という気持ちが強いかなと。

――作りの違いとしては、より「そのまま」という意識で?

ああ、そうですね。自分たちの映像が多いです、やっぱり。お客さんを含めたライブ会場の画よりも――普段は映像にするときにお客さんの盛り上がりや熱量から力を借りるんですけど、今回の2本のライブは席数も減らしているしリアクションにも制限があったりするから、そこに頼らずに自分たちの演奏やパフォーマンスの映像を純粋に観てもらうためのライブ映像、っていうところにすごくこだわってて。

――たしかにいつも以上にメンバー一人ひとりのアップだったり、表情がよく分かるカットが多い印象はありました。

そうですよね。

――それは引きの画が減った分に加えて、配信ライブ等を経験したことで見せ方のバリエーションを獲得したというのもあるんですかね?

うん。あとはやっぱり作品を重ねてきているから、監督の中でもその都度撮り方を変えてきてもいるだろうし。で、今回は特に「お客さんに頼らない」っていうことは監督とも事前に打ち合わせていて、「だったら――」っていうところもあったと思います。表情がすごく鮮明に映されているし、その画が長い。アクション的にカットが切り替わるんじゃなくて、じっくりと捉えてくれてるなっていうのは自分でも思いました。

――ホリエさんに関しては、対面から望遠で撮っているような、カメラ目線に近い正面のカットまであって。

(笑)。たしかにそれは珍しいかもしれないですね。

――ライブを実施した当初を振り返ると、まず12月17日の渋谷QUATTROに関してはコロナ禍以降初の有観客ワンマンで。その日の思いや意気込みってどんなものでしたか。

「できてよかった」っていうことではなく、やっぱり「ここから」というか、原点に返るというか。ライブというものを自分たちがいかにやってきて、これから改めてまたいろんなことに向き合っていかにライブを作っていくかっていう、その第一歩みたいな感覚が強かったですかね。

――ツアーとは切り離されたライブだったというのもあって、セットリストもある種ベスト的というか、各年代のキラーチューンを含んだ、「テナーのライブとはこれだ」を再確認・再定義するもののようにも思えて。

そうですね。このライブの前、9月に『TITLE COMEBACK SHOW』(アルバム『TITLE』の再現ライブ)をやったのが、初めてのスタジオでの配信ライブで。で、去年の活動って主にアルバムを作ったこととその『TITLE COMEBACK SHOW』とこの『1217』だったので、まず配信でできたことと課題が残ったことを踏まえて……この日も配信もしていたので、配信としては2回目でしたけど、2020年唯一のお客さんを入れたワンマンライブだということがすごく大きかったから、アルバムが出た直後ではあったんですけど、普段通りの、いつものストレイテナーのライブをやりたいなと思って。だからクアトロっていう場所も、自分が最初に目指していたハコだったのもあってすごく相応しかったし。

――クアトロでの過去のエピソードも、よくMC等で話されていたりしますもんね。

クアトロにはやっぱり自分たちの成長の場面場面があるし、いろんなバンドを観てきた思い出もあるし、そういう相応しい場所でやる、1年に1度だけのワンマンライブっていうのと、これからのライブのあり方っていうのを模索するライブでもあったかなと。

――やはり心情としては高ぶったりエモくなるようなところはありました?

なんだろう……このときはお客さんの熱量に対して、大船に乗るのではいかんなという気持ちが強くて。ライブっていうもので一つの映画を見せるような、そんなことは目指してたかなぁ。

――ステージ側から出すものだけで一つ成立させてやろうというような。

うん。やっぱりMCでもね、我々だけキャッキャしてふざけて笑っていても、お客さんは笑いを堪えてるのか、全然ウケてないのかが、わかんないじゃないですか(笑)。……全然ウケてなかったらウケるまでしゃべろうか、みたいなときもあるんですけど。我々はなぜか。

――やたらと天丼するみたいなことはありますよね(笑)。

そうそうそう。そういうMCも含めて……最初は難しいかなと思ってたけど、ツアーもそうですけど、直接的ではなくても僕らの気持ちも伝わってるし、お客さんの気持ちも僕たちに伝わってくるっていう実感はありましたね。

――そういった感じたこと、得たものを持って年明けに『Applause』のツアーを回るにあたっては、ニューアルバムの曲たちが入ってくることも含めてどういう考えで挑んだんでしょうか。

アルバムのツアーって一回しかないから、この『Applause』の曲を全曲演奏するライブはこのツアー限りだろうという覚悟のもと、厳しいタイミングではあったんですけど、これをやれなかったらこのアルバムを持って回るツアーというのはできなくなるんじゃないかなっていうところに対する残念な気持ちが強くて、絶対やりたかった。で、お客さんに制限があるタイミングだけど、近年作ってきた作品の中でもすごくライブ感というかバンド感が出せたアルバムだからこそ、フロアがぎゅって一体にならなくても、一人一人が好きに楽しめる曲たちで、今のライブに合ってるアルバムだなぁというのは、やる前から思ってました。

――本来であればシンガロングできるような曲もありますけど、それ以上に内側に熱を溜め込んでいくような曲が多くて。

そうですね。ダイレクトに心に届けるというか。

――セットリストを見ても出だしから、「叫ぶ星」は新曲ですけど、そのあとに並ぶ既存曲の「Ark」や「Braver」もそういうタイプの曲ですよね。その時点でライブの方向性がなんとなく伝わってくるような。

公演ごとに過去曲は色々と入れ替わっているけど、「Ark」をやってなんとなく箱舟に乗っている感じというか。「ネクサス」とかもそうだけど、運命共同体だぜっていうメッセージもありつつのものですね。

――ああ、たしかに。あとは本編最後の「Our Land」「ネクサス」「混ぜれば黒になる絵具」の流れとか最高ですよ。

激情だもんね、ここ(笑)。

――はい。中盤でのニューアルバム曲連打も良かったですし、年季の入ったファンにとっても嬉しい内容な気がします。

そうであればいいなと思うんですけどね。

――ツアーを通して、ストレイテナーの魅力や特色の中でどの部分を特に打ち出したかったとか、実際に出せたかとか、そういう意味ではどんな感触がありましたか。

やっぱり演奏を楽しむというか、作品のライブ感を生で伝えられたらいいかなっていう。あれだけライブができない時期が続いてからのツアーだし、ネガティヴにはなりたくなくて。本当に演奏を楽しんでいる自分たちを観て、聴いて、楽しんでほしいなっていう思いが強かったですね。

――コロナ禍を受けて、コンセプチュアルなものを表現したりメッセージ性を強めていったりとか、アーティストの打ち出し方も様々な中で、むしろそういうものを排除してよりシンプルに。

うん、“今”っていう。20周年でそれまでを振り返ったりしてきた、その先にあるものだと思っているから、続きではあるんだけど新しいストレイテナーっていうイメージの方が自分ではあったかな。

――それはきっと、コロナとかが無くてもそうなっていってたであろうモードというか。

そうですね。2019年の年末に、YouTubeだったかファンモバイルだったかわからないですけど、4人でしゃべっている中で、次のステップとしてはこう、「上がりたい」っていうことを宣言していて。それでその作品なりが……ライブはね、できなかったから衰えた部分はもちろんあるんですけど、音楽的に次のステージに行けてたらいいなと思います。

――あとは映像の中で、アルバムタイトルでもあるApplause=拍手の大きさや長さも印象深かったです。

うんうん。ほとんどカットされてないですね。無音のところとかは摘んでるんですけど、監督的にはそこも全く摘まずに最初は上がってきたので、見せたかったのかなって。

――そういうシーンが象徴していたり、作品名が日付になっているのもそうですけど、2020年・21年のライブというものの記録映像のようでもありますね。

たしかに。さっき10-FEETのTAKUMAくんとの対談があって、そこでライブというものにフォーカスした話をしていた時に、TAKUMAくんも(作品を)観てくれて、ちらっと映るお客さんの横顔みたいな部分にすごく愛を感じるって。表情だったり、拳を控えめに握っている感じとかに、めちゃくちゃグッときたと言っていて。やっぱり気持ちがね、普段とは違うし。どちら側も「このライブを成功させたい」という熱い思いがあるから。

――終盤の方の引きの画で、両拳でガッツポーズするお客さんのシルエットとか、たまらなかったです。

うん、良いとこ撮ったなぁ(笑)。

――ちなみにこのツアーを作品にするだろうなっていう意識は最初からあったわけですよね。

はい。でも最初にホールを名古屋と神戸と渋谷で押さえたときには、まだ世の中がこうはなっていなくて。単純に「次の作品のツアーはホールでやろう」っていう話は2019年からあったんですよね。で、期せずしてこういう世の中になってしまって、当初は神戸か名古屋で映像を撮ろうかなっていう話もあったんですけど、スタッフ大移動みたいになってもいけないので、ファイナルの渋谷を撮りました。

――過去にもホールのライブは映像になっているじゃないですか。『COLD DISC』のときとか。

そうですね、人見記念講堂。あと、NHKホールで『Dear Deadman』のライブをやったのが一番最初のホールで。あのときは「ホール似合わねぇなぁ」って自分たちで思ってたんですけど。今はもう何も抵抗なくというか。

――むしろ音響面とかも含め、椅子席であったりスタンド席がある会場で観るストレイテナー、良いなぁって思うんですよね。

それ、自分たちでも言ってます(笑)。「もういい歳なんだしホールだよね、俺たちは」みたいな。でもそこでいつも「いやいや、ライブハウスがホームだから」って僕がフォローするっていう(笑)。まあ、ホールで全都道府県できるくらいの大物だったらホールツアーも回ってみたいけど、そういうわけにもいかないんで。

――30周年とかで初めてやったバンドもいますし、ある種の年季が入って到達する領域でもあると思うので、そこは楽しみではあります。

うんうん。……まあ、今回のツアーはセットとかも含めてすごくしっくりきて、全てがよかったなぁって思うんですけど。特に名古屋の公会堂はめちゃくちゃレトロで様式美みたいなのもすごくて、文化財なんですよ。レトロ好きとしては、自分たちがステージに立って客席を見ているその画で感慨深かったですね。本来であればね、全ホール撮りたかったです。それぞれに良さがあったから。

――こういう社会状況になってみて、ライブに対する思いとか覚悟……と言ったらおかしいかもしれないですけど、ステージに立つ人として――みたいな部分も変わったこともありましたか。

そうですね。まあ、自分のパフォーマンスに対してはそんなに変わるものないですけど、ライブに対するモチベーションというのはやっぱり違ってきてるかなと。できればいいというものでもないし、今はまだ、ライブができてさらにみんなが無事に健康でいられるっていう、“ライブの先”までが一つになってるじゃないですか。でも、なんだろうな……全部を我慢して心まで落ちていくべきではないと思うので、日々の日常からライブとかの非日常まで全て含めて、それぞれがやれることをやって、その中で心も体も健康であるっていうのが一番良いと思ってます。

――MCでは、自分たちは音楽をやって生きていて、ステージに立つことで仕事ができている、という話があったじゃないですか。当たり前といえば当たり前なんですけど、その当たり前をああやってあらためて言葉にして、それを受けてお客さんも好意的にリアクションするというのも、この時代ならではだよなと。

そうそう。お客さんは一生懸命仕事して働いて、そのお金でを買ってライブを観に来てくれてる。で、僕らはこれが仕事で、働かざるもの食うべからずだと思うので、働きたい!っていうね(笑)。ざっくりした俯瞰でエンターテインメントっていうことで言ったら、みんな娯楽やオフのためっていうふうに見えがちだけど、「いや働いてるから!」っていう。そのために働いてる人たちの立場っていうのも重要なので。

――そうなんですよね。そういった部分も含め、他のバンド・アーティストを見渡しても、結局よりシンプルな、「何が大事なのか」の根本的な部分に目が向くようになってきている気もするんですね。

やっぱり特に今、考えなきゃいけないのって、いろいろな人のそれぞれの立場があるってことを想像することだと思っているから、そりゃあ俺たちは働きたいしライブをやりたいけど、行かない判断をする人たちの立場も理解をしないといけないし。片や、我々は求めてくれる人がいるから良いけど、本当はもっと希望に満ちた未来があるはずの人たちが諦めなきゃいけない現状かもしれないっていうことも思うし。だからありがたいなぁという気持ちが大きいんですね。こないだ『ARABAKI』が中止になって、その代わりにというか――

――YouTubeの配信がありましたね。

はい。『ARABAKI』に対する気持ちで集まって……本当はもっとたくさん出たかった人はいると思うんですけど、僕はTOSHI-LOWさんが声かけてくれて出させてもらって。そのときもすごく感じたんですけど、それぞれやっていることっていうのは一緒じゃないし、バンド同士はもちろんしのぎを削って「俺のほうがかっこいい」みたいなライバル視をしながら切磋琢磨してきたけど、その上で我々はやっぱり支えあったりとか認め合って高め合ってきた部分が、今こうやって輪になっていて。ああやってTOSHI-LOWさんが声かけたらあれだけの人が集まって、あったかい気持ちになれるっていう、そういう場所にいられてることがすごく幸せだなと思って。その自分の中で生まれた幸せな気持ちっていうのを、みんなに伝えていきたいなってのもありますね、今は。

――ツアーを終えてこうして作品となったことで、『Applause』のフェーズには区切りがついたわけですが、いま現状としてはホリエさんおよびストレイテナーはどう過ごされてるんですか。

もう今はすでに次の曲を作ってレコーディングに入ってます。

――おお!

『Applause』を作った後しばらくはわりと空っぽでしたけど、今年に入ってからまたポツポツとアイディアが湧いてきたものを形にしていこうかなって。ただ、その楽曲は最高なものが作れたとしてもそれを届けるツアーだったりライブがやれないのは辛いなって。

――こういうライブできるかが不透明な現状って、曲作りにも影響するものですか?

どうですかね?  単純に自分のマインドとして歌詞に出たりサウンドの方向性に出ることはあると思うんですけど。

――例えば、こういうときだからスローテンポの曲を作っておこう、とかは。

あ、そういうのもあると思いますね。その逆もあるかもしれない。こういうときだからアッパーな曲を、とか。

――そこでいうと、今向きあっている曲たち含めバンドが「こんなモードだよ」というのはあります?

やっぱり、去年の今の時期に『Applause』を作ろうとスタジオに入ってた時期とは、気持ち的には明らかに違っていて。その、世の中でいう気の緩みじゃなくって、去年よりは前向きになっている。自分たちのやるべきことに対して、ちゃんと音楽を作って届けていくっていうことに対して前向きになっているから、それは楽曲にも出てると思うので。面白い曲が、手ごたえのある曲ができてます。


取材・文=風間大洋 撮影=高田梓

リリース情報

『20201217+2021Applause TOUR』
2021.6.9 Release
【BLU-RAY】
TYXT-10052 税込:¥6,600(税抜:¥6,000)
【2DVD】
TYBT-10067/8 税込:¥5,500(税抜:¥5,000)
■収録曲
【2020年12月17日(木)渋谷クラブクアトロ】
「泳ぐ鳥」
「FREEZING」
「彩雲」
「Graffiti」
「DAY TO DAY」
「Toneless Twilight」
「灯り」
「TENDER」
「スパイラル」
「From Noon Till Dawn」
「YES,SIR」
収録
 
【2021年2月28日(日)LINE CUBE SHIBUYA】
「叫ぶ星」
「Ark」
「Braver」
「Sunny Suicide」
「原色」
「Melodic Storm」
「吉祥寺」
「Yeti」
「Parody」
「さよならだけがおしえてくれた」
「倍音と体温」
「Dry Flower」
「Maestro」
「Death Game」
「ガラクタの楽団」
「KILLER TUNE」
「No Cut」
「スパイラル」
「シーグラス」
「Our Land」
「ネクサス」
「混ぜれば黒になる絵具」
「Graffiti」
「ROCKSTEADY」
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