劇団唐ゼミ☆『唐版 風の又三郎』が開幕~あのヒコーキが浅草で再び飛び立つ!

動画
レポート
舞台
2021.10.14
劇団唐ゼミ☆第30回特別公演 延長戦『唐版 風の又三郎』  (撮影:塚田史香)

劇団唐ゼミ☆第30回特別公演 延長戦『唐版 風の又三郎』 (撮影:塚田史香)

画像を全て表示(27件)


劇団唐ゼミ☆第30回特別公演 延長戦『唐版 風の又三郎』(作:唐十郎演出:中野敦之)が、2021年10月12日、東京は台東区・浅草花やしき裏特設テント劇場で開幕した(10月17日まで上演)。

劇作家・演出家・俳優の唐十郎(元「状況劇場」主宰、現「唐組」主宰)が横浜国立大学教授時代に指導したゼミの生徒たちが中心となって、2000年に発足した劇団「唐ゼミ」(唐が横浜国大教授を退任した2005年に現在の「唐ゼミ☆」に改名)は、旗上げから第2回公演までは唐が演出を手掛けたが、その後は主宰の中野敦之が演出をつとめている。

唐ゼミ☆は昨年(2020年)10月、新宿中央公園水の広場に特設したテント劇場で第30回特別公演として『唐版 風の又三郎』を上演した。同作は、1974年、唐が当時主宰していた紅テントの劇団「状況劇場」により初演がおこなわれ、熱狂的な人気を博した唐の金字塔的傑作だ。唐ゼミ☆によって甦った公演は大いに喝采を浴びたが、コロナ禍での上演で観客数が制限されていたこともあり、再演の要望が数多く寄せられた。そんな中、唐十郎世界の原風景ともいうべき浅草に場所を移し、“延長戦”と銘打った再演がこのほど実現に至った。彼方に巨大な東京スカイツリーのそびえたつ、老遊園地「浅草花やしき」の裏手にたてられた彼らの青テントでは、上演中もジェットコースターなど各種アトラクションの音や子どもたちの喚声が聴こえてくる独特のロケーションである。

劇団唐ゼミ☆ 浅草花やしき特設テント劇場

劇団唐ゼミ☆ 浅草花やしき特設テント劇場

なお、今回の興行の後は、劇団本公演を観ることがしばらくの間、叶わなくなる。というのも、主宰・演出の中野が2022年に文化庁海外研修のため一年間ロンドンに留学するからだ。その意味で今回の公演には、劇団活動約20年間の集大成的な気合が込められている。と同時に、去る2021年6月に他界した女優・李麗仙(旧名・李礼仙。紅テント=状況劇場の看板女優で“アングラの女王”の異名をとった。『唐版 風の又三郎』初演でもヒロイン・エリカ役を演じた)への追悼の意も込められているという。

テント劇場設営の様子。彼方には東京スカイツリー。  (写真提供:劇団唐ゼミ☆)

テント劇場設営の様子。彼方には東京スカイツリー。 (写真提供:劇団唐ゼミ☆)

「圧倒的換気力!」「安心ディスタンス客席!」を謳うニューノーマル仕様のテント劇場が設営されていく。  (写真提供:劇団唐ゼミ☆)

「圧倒的換気力!」「安心ディスタンス客席!」を謳うニューノーマル仕様のテント劇場が設営されていく。 (写真提供:劇団唐ゼミ☆)

SPICEでは、初日の前日におこなわれたゲネプロの模様を、報道向け会見のコメントとともに紹介する。(テキスト、動画ともに、ネタバレ的内容を含みますので、気になるかたは読み進めるのをご遠慮ください)

記者会見時の集合写真(左から丸山正吾、鳳恵弥、中野敦之、禿恵、米澤剛志) (撮影:塚田史香)

記者会見時の集合写真(左から丸山正吾、鳳恵弥、中野敦之、禿恵、米澤剛志) (撮影:塚田史香)


■テイタン(帝国探偵社)前で、運命が動き出す

夜の月光町。青年・織部が「風の又三郎さんじゃありませんか?」と問いかける。問いかけられたのは、宇都宮のホステス、エリカ。訳あって男装をしている。彼(女)が話を合わせてつつ「君は誰?」と答えると、織部は「読者です」と目を輝かせる。岩波文庫を開いて読みきかせる「風の又三郎」。この出会いをきっかけに、エリカは織部を巻き込み、代々木のテイタン(帝国探偵社)に……。

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

織部(丸山雄也)は、純真で繊細な青年。エリカを風の又三郎だと信じている。変な人ばかりが出てくる作中で、ちょっと会話がかみ合わないところもありつつ、客席の隣にもいそうな平凡なキャラクターに思われるが……。実は、宮沢精神病院から脱走中なのだ。

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

一方、自他ともに認める“変な人”なのが、乱腐(松本一歩)、珍腐(佐野眞一)、淫腐(佐藤昼寝)の「三腐人」。アンモラルで愉快な、女人禁制の帝国探偵社スタッフたちだ。身体をはり、物語の隙間を笑いで埋める。

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

そんな3人の小悪党が「教授」と呼び敬服する男(米澤剛志)は、去年の夏まで宇都宮少年自衛隊航空分校長だったが、同校所属の高田三郎(※宮沢賢治「風の又三郎」に登場する転校生の名と同じ…)三曹による自衛隊機乗り逃げの責任を負って辞職、現在は帝国探偵社に勤務している。この教授役は、1974年の状況劇場初演で唐が演じ、2019年のシアターコクーンでの上演では風間杜夫が演じた。今回同役を演じる米澤は「巨大な名優が演じてこられた役を自分がやることに緊張もありますが、今の自分の感覚を信じながら、今観てもらえるお客さんに届くよう最後まで演じきりたい」と会見で話した。役の台詞ひとつひとつに、濃密な個性を流し込み、おかしみと説得力を与える。

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

エリカを盲目的に愛するのが「夜の男」。教授とは少年自衛隊航空分校以来の旧知の仲で、宇都宮からエリカを追いかけてきた。演じるのは、丸山正吾。「織部とエリカの2人は、1人でも応援してくれる人がいれば立ち上がれる。この舞台も、楽しみにしてくださる方がいるなら堂々と演じたい」と、会見で意気込みを語った。丸山は、言葉と身体で、暴力性と可愛らしさを自在に操る。そこから嬉々として変態性を生み出し、奔放に場をさらっていた。

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

昭和の不良女学生2人組の桃子(鳳恵弥)と梅子(林麻子)は、セーラー服にスカジャンをはおり、剃刀を振り回す。ヒロポン中毒の姉貴分・桃子を、ドスのきいた声で演じる鳳は、「(コロナ禍がきっかけとなって)唐十郎先生はもちろん、私の恩師であるつかこうへい先生の演劇的哲学をしっかりと感じることができたので、誇りをもって血をたぎらせることができた」と会見で振り返った。劇の後半で彼女は、鮮やかに変身した姿で現れ、唯一無二のベクトルで芝居の幅を広げる。

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

本作のヒロイン・エリカは、思いを寄せる航空自衛隊の高田三郎の行方をおって宇都宮から流れてきた。高田は戦闘機を乗り逃げして海に消えた。高田の行方を追ううちに、エリカが辿り着いたのが、女人禁制の帝国探偵社だった。状況劇場時代に唐が李のために書いたこの役を演じるのは、唐ゼミ☆旗揚げ以来の劇団員、禿恵。禿は会見で本作について「多くの人の人生に影響を与えた伝説の作品と聞いています。唐さん、李さんの姿を追いかけながらも、初めて観るお客さんにも作品の素晴らしさをリアルタイムで伝えられたら」と真摯に語った。

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

冒頭では男装の麗人として現れるが、変装を脱ぎ捨てたエリカは、愛情深さに溢れていた。奇怪な人物、死後の人物が跋扈する中、生身の人間として、カニバリズムにさえ人間らしい必然性を持たせてみせた。

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

高田三曹(小川哲也)と彼を慕う死の少年(津内口淑香)、宮沢先生(ワダ タワー)、老婆(ちろ)、大学生(渡辺宏明)など数々のキャラクターたちが舞台を所狭しと駆け回り、テント空間を唐の言葉で埋める。10分の休憩2回を含めて約3時間20分(休憩時は花やしき内のトイレ使用が許可されている)。役者たちの身体から溢れ出す奔放な台詞が、どうでも良さそうなギャグに紛れ、また、血にまみれながら、どうしようもなく純粋で愛おしい物語を繰り広げる。

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

■どっどど どどうど どどうど どどう

本作の初演(状況劇場、作・演出:唐十郎)は1974年。宮沢賢治の『風の又三郎』に着想を得て、シェイクスピアの『ベニスの商人』、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリディケの物語、1973年に実際に起きた自衛隊航空機乗り逃げ事件などが綯い交ぜになっている。それらをつなぎ合わせるのが、ジェットエンジン音と劇中歌ではないだろうか。頭上を飛び交うヒコーキのジェット音。織部はラジコンだと呟き、エリカは高田を思い心を乱す。観る者は、その音がするたびに、ブレヒト幕のような、途切れることのない途切れ目を見る。

また、安保由夫の作曲した劇中歌はいずれも、わらべ歌のように耳に馴染み、労働歌のように魂を揺さぶる。中でも、宮沢賢治の原作にある「どっどど どどうど どどうど どどう」のフレーズがくり返されるテーマ曲は、物語のジェットエンジンとなり、歌う役者の熱気をのせてテントを揺らす。織部とエリカのクライマックスを見届けた後も、浅草の町から歌が聞こえてくるようだった。

【動画】劇団唐ゼミ☆第30回特別公演 延長戦『唐版 風の又三郎』より(ネタバレ注意)


■唐の求心力と遠心力を受け継ぎたい

劇団の恩師、唐十郎からは、次の激励コメントが劇団に寄せられた。

「中野が演出することで、台本に隠されていた新しい魅力に気づかされる。浅草では、スメル(匂い)とともに正攻法でもって挑んでほしい。しばらく会っていないから会いたいな。会いたいね! がんばって!」

主宰で演出の中野は、今回の上演に際して「『唐版 風の又三郎』は、唐さんが過去におこなった公演の中では、もっともお客さんが集まった、最高傑作とも言われた作品です。ただ、従来の唐さんのイメージは、真の唐さんのそれとは別のところにあるように思っています。たとえば唐さんにまつわる乱暴狼藉やあまたの事件がありますが、台本を隈なく読み、ご本人と差し向かいで接すると、繊細で優しく真面目。ふざけるところもありますが、芝居では丹念に土台を作られます。その求心力があった上で、大いに暴れる遠心力。その遠心力と求心力の両方を受け継いでいけたらと常に思っています」と会見で話した。2022年に一年間の武者修行のために渡英する彼は、「唐十郎のパワーが自分を通じてどこまで世界に通用するか。その狼煙のような公演にしたい」とも抱負を述べた。世界への飛躍にも期待が高まる劇団唐ゼミ☆の『唐版 風の又三郎』、その延長戦の成果を、目に焼き付けたい。

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

 (撮影:塚田史香)

(撮影:塚田史香)

取材・文:塚田史香  動画撮影編集:安藤光夫(SPICE編集部)

公演情報

劇団唐ゼミ☆第30回特別公演 延長戦
『唐版 風の又三郎』

​■作=唐十郎 ​■演出=中野敦之
 
■日程:2021年10月12日(火)〜17日(日)開演15:30(開場15:10)
​■場所:浅草花やしき裏 特設テント劇場

 
​■出演:
禿 恵(エリカ)
津内口淑香(死の少年)
林 麻子(梅子)
米澤剛志(教授)
ちろ(老婆/尼)
佐々木あかり(看護婦/尼)
丸山雄也(織部)
小川哲也(高田三郎)
松本一歩(乱腐)
ワダ タワー(宮沢先生(風の商人))
渡辺宏明(大学生/航空兵)
佐野眞一(珍腐)
佐藤昼寝(淫腐)
鷲見武(生徒/喪服の男/航空兵/自衛隊員)
赤松怜音(生徒/航空兵/尼)
井手晋之介(生徒/喪服の男/航空兵/自衛隊員)
荒牧咲哉(生徒/喪服の男/航空兵/自衛隊員)


丸山正吾(夜の男)
鳳 恵弥(桃子)

 
​■スタッフ:
舞台監督・照明/齋藤亮介 音響/平井隆史
舞台美術/鎌田朋子 衣装/林麻子 衣装協力/富永美夏
劇中歌作曲・編曲/安保由夫、サトウ ユウスケ
「風の又三郎のテーマ」(バンド版)エレキギター演奏/佐鳥研斗
チラシ作成/k.徳鎮 題字/上野早紀 制作/椎野裕美子

 
​■主催:劇団唐ゼミ☆/センターフィールドカンパニー合同会社
​■協力:浅草花やしき/浅草おかみさん会東京おかみさん会/浅草十和田/
(有)目白相互企画/(株)しぃぼるとぷろだくしょん
ACTOR'S TRIBE ZIPANG/サンミュージックプロダクション/Bobjack Theater
ドガドガプラス/平泳ぎ本店/宝井プロジェクト/スターダス・21Neu/シアターRAKU
中野坂上デーモンズ/Ghost Note Theater/有限会社ニュース
オフィス★怪人社/昼寝企画
​■公演場所世話役:冨永照子/関口忠相
芸術文化振興基金助成事業
令和3年度文化庁芸術祭参加公演

 
​■公式サイト:http://karazemi.com/

【参考/状況劇場1974年初演(国内公演)スタッフ&キャスト】

状況劇場『唐版 風の又三郎』
 
作・演出:唐十郎
美術・ポスター:篠原勝之
音楽:安保由夫

 
出演:
唐十郎(教授/元宇都宮少年自衛隊航空分校長)
不破万作(乱腐)
田村泰二郎(淫腐)
十貫寺梅軒(珍腐)
根津甚八(織部)
李礼仙(エリカ)
大久保鷹(夜の男)
天竺五郎(宮沢先生/風の商人)
川崎容子(老婆/尼)
滝沢修(大学生)
田口いく子(桃子/尼)
本間光琳(梅子尼)
小林薫(高田三郎三曹)
山口河童(死の少年)
御旅屋暁美(死の少年/尼)
片桐鉄人(航空兵)
今井公明(航空兵)
永田重臣(航空兵)
海江田譲児(航空兵)
山崎和子(尼/看護婦)
シェア / 保存先を選択