大植真太郎、森山未來、平原慎太郎が「談ス」を“談す”!
左より、大植真太郎、平原慎太郎、森山未來 (撮影:横山将勝)
例えるならApple製品のような「談ス」。その心は…!?
躍動するカタマリ、寝ても覚めても水と酸素と体とチョーク。 踊るなら止まるな、止まるならこの指止まれ!
大植真太郎、森山未來、平原慎太郎によるダンスパフォーマンス「談ス」の全国ツアーが、2016年3月1日(火)鎌倉芸術館 小ホールの公演を皮切りに開催される。
「談ス』は、2014年9月に東京・青山円形劇場で初演。大植、森山、平原という3人のダンサーが、身体と言葉で表現するパフォーマンスだ。ツアーに先駆けて12月12、13日(土、日)に福岡・北九州公演で披露したばかりの今。三人は何を思っているのか、座談会風に話を伺った。※「座談会ならばビールが欲しい…」という声も出たが、残念!ノンアルコールで語っていただきます。
――平原さん、北海道の小樽なんですね!
平原慎太郎 (撮影:横山将勝)
平原:そう、生まれも育ちも小樽なんですよ。あとで太ももを見てもらったらわかるんですが、あの坂で鍛えた太ももです。
――「地獄坂」ですね!
平原:ええ。あの坂をチャリで立ち漕ぎしてましたよ!
森山:ってことは立ち漕ぎで行けるくらいの坂ってことやん。俺も学校が山の上にあって、本当はぐるっと回って登っていくところをショートカットでまっすぐ登っていった。これがきつくて…毎日上り下りしてましたよ。
大植:二人とも子どもの頃から足腰鍛えてるんだー。俺は坂とかチャリとかないんで、楽に生きてました(笑)
――そんなバックボーンの違う3人が出会ったきっかけって何だったんですか?
左より、大植真太郎、平原慎太郎、森山未來 (撮影:横山将勝)
大植:あまり語ったことはないけど、本当に出会ったきっかけって、たまたま夏にアーキタンツで…
森山:ああ、あれか!
大植:田町にあるスタジオアーキタンツというリハーサルスタジオで、別の作品のリハーサルをしていてね。
もともと二人(大植・平原)は一緒にやっていて、未來くんとは「テヅカ TeZukA」で知り合っていて「何かやろうよ」って話していて。とりあえず作品を作る環境に一度遊びにきてくれたら、身体も動かせるし…って。で、そこに来てもらって動いてみて…が、そもそもの始まりですね。「テヅカ TeZukA」のときはそんなに接することががなかったんです。あと、もうその頃には決まっていたと思うんだけど、平原はスペインに、未來くんはイスラエルに行くことになって、そして俺がスウェーデンにいるのでこれはチャンスだと思って。向こうで出会えるってなかなかないので、その中で何かできたらいいなあって思い「談ス」のリハーサル期間をそこで過ごしました。
森山:そうだね。やっていたね!8月頃に、「脱水!脱水!」とか。俺らリハーサルと全く関係ないことしてたね。あれ、なんであんなことしていたんだっけ?
平原:あれって、確か寝袋を持ってきたことから始まって…
大植:何か「目に見えないもの」をやりたいって話から、「誰か(寝袋を)持ってない?」って話になり、じゃあってツタンカーメンデザインの寝袋を持ってきて…。
森山:どっちかが中に入って、絞られて。「This is NEBUKURO」とか言って。
平原:(寝袋の中に)何も入っていないテイでパフォーマンスを始めて…でも畳まれてちっちゃくなったり、動いたりしますし。そのうち寝袋を絞る動きに…結局これ、ボツですよ!
大植・森山:わはははは。ボツが多いんだよねー。
――ボツになるネタは結構あるんですか?
大植:まあね。でもそのたくさんあるネタの中からイメージをふくらますんです。やっぱりしゃべっていて面白くても、身体で試してうまくいかないことのほうが多いような気がします。
森山:ネタが身体を動かすところまで持っていけてないっていう感じ。
大植:あと、でっかいチョークが落ちてくる場面があるじゃないですか。あれ、最初は天丼とか落ちてきたらどうかな?って(笑)
森山:天丼というかその器がね。
大植:あれも結構考えたんだよね。シュワーッっていう湯気が器から出て、とか。
森山:ダメだよねー(笑)
平原:この器でどうなったらおもしろくなるかって考えてましたね。
――そこからチョークに決まったのはどうして?
森山未來 (撮影:横山将勝)
森山:スウェーデンでは、大植さんの家でみんなで寝泊まりしていたんですが、(大植)真太郎さんの家の壁は黒板用の塗装がされているんです。壁一面、でっかい黒板で。基本的にはその日のスケジュールとか、思いついたことをそこに書いたりしているんですけど、そのときはそこにアイディアをばーっと…その一面をアイディア帳みたいに使っていて、とにかく消さずに書き続けていて。たぶんその延長上で舞台でもチョークにしちゃえ、ってことになりまして。「書く」という行為も含めて舞台上に持ち込んだんです。
――そんな「談ス」が2回目の上演となりますが、前回の公演でお客さまからどんな感想をいただきましたか?
大植:「ダンス公演やります」って言ってるから「談ス」を観てみたら「これだったの!?」って反応が…(笑)
森山:過去に僕が真太郎さんと仕事していることを知っている人の中には、察しているお客様もいましたが、初めて観に来た映画監督とかには恐れおののかれました(笑)次に一緒に仕事をするのが決まっていたから、お呼びしたんですけど、監督さんは「…俺はこの人と何をしたらええんや」みたいな顔になっていて(笑)
平原:満島ひかりさんもたいそう喜んでいましたよね!
森山:あ、喜んでた?
平原:喜んでたからそのあと飲みにきたんじゃないの。そのときに(大植が満島さんを)羽交い絞めにして(笑)この人、満島さん大好きなんですよ。「もっと飲め飲めー!」って
大植:(思い出してデレデレの笑顔)満島さん、好きなんですよ…ってそんな話をしている場合じゃないっ!(笑)「思っていたものと違っていた。それが悪い方向ではなくて」とか「よくわからなかったけど、その臨場感を楽しんでいた」って声が多くありましたね。この前北九州でプレビュー公演をしたときも100枚くらいあるアンケートの3、4枚は「わからない。山海塾のほうがわかりやすい」って書いてあった(笑)
平原・森山:わはははは。
大植:たまたまその人が「山海塾」を知っていて、俺たちがちょうど「山海塾」みたいなことをステージ上で言っちゃったのが気に入らなかったんじゃないか!?
平原:「山海塾はそんなもんじゃない、バカヤロー!」って?
大植:ま、全然気にしてないけど(笑)気にしてたらやってられないし。
左より、大植真太郎、平原慎太郎、森山未來 (撮影:横山将勝)
――今回の課題は?前回と変わったことはありますか?
大植:基本何も変わらないよね。ただ、今回は客席が円形と180度のホールといろいろあるので、客席の空気をどうつかむかがポイントですね。
平原:場所によってホールの大きさも全然違うよね。
森山:キャパ500のところから1000人クラスもあるしね。
大植:単純にリノリウムの敷き方を変えるという話もあるが、それより距離があるとそこまでお客さんをつかみにいけるのだろうか、僕らだけでなくお客さんも一緒に作品を作っているから、客席からのエネルギーもすごい受ける。笑いに関しては僕らがコントロールする。お客さんが欲しがるモノをずっとあげ続けると、作品が「お客さんの勢い」になっちゃうんでね。
森山:本当に「余白」の多い舞台なので…あと、「即興」はないんですが、三人の中のセッション性はすごく高いのでいくらでも上げもできれば下げもできる。その辺のバランスやお客さんとの対話もあるので、そのあたりはイメージしながらやりたいと思っています。
すごく楽しみにしているのは、これだけたくさんの様々な場所でしかもすごい短いスパンで走れること。地方ごとに生活も特色も違うと思うので、各地のお客さんとのコミュニケーション…「ここウケるんだ」「ここが面白く見えるんだ」「ここ、引いちゃうんだ」みたいな…そういうところを1回1回楽しめるのが嬉しいですね。
――舞台の中でどのくらい即興性があるのでしょうか?
大植真太郎 (撮影:横山将勝)
大植:舞台に「音」がないじゃないですか。だから、お互いその場の空気を読んで始めたり、動きが長くなったり…時間軸の中での「即興」は絶対にあると思います。観た人は「あれ、即興っぽいね」というと思いますが、「談ス」は1,2,3,4,5,6,7,8…っていうリズムでやっている訳ではないので、動きが「そこ」で「発生」しているように見えるんですね。これはやります、こういう形でやります、というのはリハーサルでも確認しますが、舞台上でぐーって相手を押していたりすると、その押し加減もその場で変わったりするし。
森山:そこはサクサクいけよって思っているのに「んあーっ」ってゆっくりやったりするから、そのあとのタッチがすごい変わることも(笑)
――その日その日の相手のコンディションの「違い」はわかるものですか?
大植:たぶん三人ともそれは「出さない」ですね。舞台に上がる前に未來くん指導で1時間くらいヨガをやっているんです。その中で気持ちをフラット=0に戻すようにしています。たとえ何かを抱えていたり、確認事があったとしても一度0に戻してから舞台にあがる。
森山:さすがに今日お腹いたいとかいうこともあるでしょうが、
平原:そういうところはいじったりしないですね。
――となると、「今日はここで仕掛けてやろう」ということもない?
左より、大植真太郎、平原慎太郎、森山未來 (撮影:横山将勝)
大植:その瞬間瞬間にはありますね。計画的にではなくて、その瞬間に「あ、こうなったから次は…」ということはあります。それは一瞬にしてそこで生まれることなので、それをやって作品が止まることはない。
…「腸内ツアー」っていう1シーンがあるんですが、英語と日本語でのかけひきがあるんですが、僕が言わなきゃならない言葉を忘れていたことがあったんです。「ついてきな!」っていう意味で「フォローミー!」っていう言葉を。それを言わなくて淡々と次に進んでいっちゃったら、そのせいかテンポも悪くなっちゃって。
初日が終わってから、機嫌が悪かったわけではないんですが、(森山が)舞台上でチュッチュチュッチュと舌打ちしてるんです。僕、全然気づかなくて(笑)初日が終わったということで、今日はこの場の空気をつかめたな、とか個人的にはテンションすごく高かったんです。そうしたら(森山が)チュッチュチュッチュ言ってて「あそこが遅い」とか「セリフ忘れたでしょ」とか言われて。そしたら慎ちゃん(平原)も言うから「あ、本当にそうなんだ!?」って。
平原・森山:わはははは。
大植:一人に言われるだけならまだしも、若干後から慎ちゃんが追い打ちをかけてきた(笑)
平原:トドメですよね(笑)
森山:意外と三人ともお互いのことを言わないんです。これを言うとどこか崩してしまうと思うから。で、そのスレスレの思い付きとかは、相談するんです。「ちょっとこれやろうと思うんだけど」とか「ここ、近づかないでくれる?」とか。みんな積極的にジャッジするから、いきなりぶちかますということはないんです。
平原:ただ一人「本気で忘れる」って人はいますが(大植をちらっと見る)
森山:それ、ある意味ぶちかましじゃね?(笑)「いつも右だけど今日は左に行っちゃえ」っていうのではなく、ただ無意識に左に行っちゃえ…とか。まあ誰とは言わないが(笑)
――こういう展開になる場合、いちばんつっこんでくるのは森山さんなんですか?
大植:そうですね。2回くらいはつっこまれてます。でも言ってくれるのが嬉しいんです。ホント。
森山:ホントー?
大植:ホント。わかってるっしょ(笑)あと、ドキュメント性を大事に、作ってきた過程やその関係性を舞台に載せようとすると、こういう三人の立ち位置の部分も垣間見えることもあるだろうし、それが観客の印象に残ることもあると思います。勝手に暴走していた部分がよかった、ってこともあるだろうし。観る人たちによって全然印象違うと思います。
――「踊る・表現する」ということに対して本気になったきっかけや影響を受けた人など、いらっしゃいますか?
左より、大植真太郎、平原慎太郎、森山未來 (撮影:横山将勝)
平原:北海道で活躍している「THA BLUE HERB(ザ・ブルー・ハーブ)」というヒップホップグループがいて、そこのMCのBOSS THE MC(ボス・ザ・エムシー)通称「BOSSさん」って言われている人がいるんです。僕は20歳くらいから聴いているんですが、その人の影響がめちゃくちゃ強いんです。北海道に住んでいてヒップホップをやっていてメシ食っているんです。レコード会社にも所属せずに。その人のやり方がすごい好きなんです。その人のスタイルが僕のベースになっていると思います。反骨精神というか「姿勢」が。どういう風に考えてどう発信していくか。根性論だけじゃなくて俯瞰で自分を見ていて、周りの環境に合わせてこうする、とか。勉強になります。
大植:僕の場合はいつも「本気」。たとえ「おもしろくない」と思ってしまったとしてもそれはそれでいいし、むしろ自分がそのおもしろくないものを見たときにどういう風に感じられるかが大事だと思っています。
「いつも本気で…」と考えているんですが、あるとき「あれ?僕の本気ってたいしたことないな」って感じたことも。この「談ス」も本気でやってますが、終わったあとでは「まだもっとやれることがあるな」って思うことがあります。本気で変わったのかなと思うとさして変わってない自分がいたりして。もしかしたら「本気で変わった」節目みたいなものは自分にはないのかもしれない。
森山:踊りはじめは小さい頃からでしたが、10代の頃はずっと神戸で踊っていて、東京に出てきていろいろな映像作品に出演して、全部楽しいけど「踊る」ってことが環境的にできなくなっていて…逆にそれまで踊り続けだったから、それに触れなくなっていけばいくほど近寄れなくなっていくんですよ。自分の身体が動かなくなっていることもすごいわかるし。もうどうさわったらいいかわからなくなって、自分の中で「踊ること、ダンスをすること」をどう消化していけばいいかわからなくなった時期がありました。ただ、いろいろなタイミングがあったんですが「俺は今ダンスしていないけどダンサーだよ」って言えちゃうような、楽になった瞬間があったんです。すると24,25歳くらいからたまたま身体を積極的に使う舞台が不思議と増えていったんです。そういうメンタルの中で「踊る」ということに向き合えたのは僕にとってはとても重要なバランスだったと思います。
影響を受けたのはたぶん本だと思うんです。アインシュタインの解説本みたいなのを読んだときに、すごい衝撃を受けたというか。あの人、科学者だけどただポエムを作りたかっただけなんじゃないかな。科学者ってどういうものか正直わからないんですが「空間や時間は縮むし伸びるよ。感じ方によって変わっちゃうんだよ」って。空間を歪ませるというのを彼は数式で科学的にそれを証明したけれど、空間を歪める要素はまだまだいっぱいあるらしく、それは光かもしれないし音かもしれないし色かもしれない・・・なんかその全部を使って空間を歪めるのが「舞台」なのかもしれない…と思ったときがあったんです。
――最後に「談ス」をご覧になる方々にメッセージを。何か心の準備とか必要でしょうか?
大植:「談ス」をコンテンポラリーダンスだと思ってくる人もいるだろうし、舞台・演劇なのか?と思う人や、「森山未來」という映像世界の人に興味を持った人もいるだろうし。本当にいろいろな情報があると思うんですが、その情報から入ってきてたぶん裏切られることもあると思う。ただ、裏切ったとしても絶対心はつかみますよ。「談ス」は、どんな角度から見ても間口が広いのでむしろ受け入れ易いんじゃないかな。決して敷居が低いというものではないんですが、内容がわからなくてもその空気感に揺さぶられたことが面白いって感じることができる…ってことで何か補足を(笑)
森山:この「談ス」は、2歳以下は入場不可ってありますが、3歳から入れる舞台ってなかなかないと思う。普通幼稚園までは入れてくれないって。僕らとしては子どもが泣いていたり笑っていたりしてもコミュニケーションを取りにいきますよ。「静寂が必要です」ということがない舞台なので。
あ、そういえば北九州のときに子どもの笑い声が聞こえてきたよね。その響きが心地よかったんです。ちょっとした大技見せると「すごーい!」とか言っちゃうし(笑)
大植:え?あったっけ?
平原:聞こえてなかったの?そりゃ舌打ちも聞こえないか!(笑)
森山:(笑)子どもって自由やなあ。でもその自由にさせているのが俺たちだし、みんなでコミュニケーションを取ってやっているのが子どもまで伝わっているのならすごいよかったなって思います。
平原:今MacとかiPhoneとかって取説が同封されてないじゃないですか?本当に最低限のことしか書いてない。でも手で触って馴染んでくるといつの間にか理解できて使えるようになっている。あれぐらいの感じですかね。「談ス」は、会場に観にきて、おのおのの直感で観方・感じ方をわかってくれればいいかなって。
大植:いいこといった!
森山:「談ス」を表しちゃったね!
平原:やっちゃった?俺、表しちゃったー!?(三人大笑い)
大植真太郎 (撮影:横山将勝)
森山未來 (撮影:横山将勝)
平原慎太郎 (撮影:横山将勝)
◆日時・会場:
神奈川公演 2016年3月01(火)鎌倉芸術館 小ホール
東京公演 2016年3月3日(木)~8日(火) イイノホール
名古屋公演 2016年3月9日(水) アートピアホール
大阪公演 2016年3月11日(金)~13日(日) 大阪ビジネスパーク円形ホール
松本公演 2016年3月14日(月) まつもと市民芸術館 実験劇場
金沢公演 2016年3月16日(水) 金沢市文化ホール
新潟公演 2016年3月17日(木) りゅーとぴあ・劇場
青森公演 2016年3月19日(土) リンクモア平安閣市民ホール(青森市民ホール)
仙台公演 2016年3月20日(日) 仙台電力ホール
札幌公演 2016年3月22日(火) 道新ホール
京都公演 2016年3月24日(木) ロームシアター京都 サウスホール
広島公演 2016年3月25日(金) 広島市南区民文化センター
福岡公演 2016年3月26日(土) アクロス福岡 イベントホール
大分公演 2016年3月27日(日) 大分コンパルホール
沖縄公演 2016年3月29日(火) 国立劇場おきなわ
◆振付・出演:大植真太郎 森山未來 平原慎太郎