連続企画『アニメソングの可能性』第一回 水島精二インタビュー「アニメに寄り添い、アーティストの個性も引き出す これが両立してはじめてアニメソングと言える」

インタビュー
アニメ/ゲーム
2022.6.22

■『BEATLESS』の主題歌はアニメソングDJイベントで使って欲しい

――自分がかける曲ではなく、他の方のDJで聴いてカッコいいと思った曲はありますか?

それはやはり「鳥の歌」ですね(笑)。

――水島監督から「鳥の歌」が出てくることに、今少し驚いています。

『AIR』自体は見ていなかったですし、聞いたのもそれこそ誰かのDJで初めて聴いたんです、しかもAvec AvecのRemixで。その後原曲も聴いて、いや、本当にいい曲だな、そう思いました。やはりアニメソングでDJをすることを考えるとああいう四つ打ちでさわやかな曲がウケるんですよ。そうすると僕の関わったアニメって暑苦しい曲ばっかりだぞ、どうしよう、という悩みが出てきたり。結果自分が監督したアニメ主題歌も四つ打ち曲が生まれたりなんかしてね(笑)。

――やはりそこにも影響が……!

そりゃもう、できればDJで使ってほしい! そう思っちゃいますからね。影響は出ますよ。『BEATLESS』なんてその欲求が表に出た主題歌になってます。GARNiDELiAのtokuさんに「アニメソングDJで使ってもらえる曲作って!」って素直に言いましたから(笑)。

――そんな生々しい、というか直球な要望をされていたいんですね。

GARNiDELiAはもともとえEDM調の四つ打ち楽曲が得意なユニットなんですよ。ただ、アニメ主題歌でその方向があまり発揮されていなかった。だからこれを機に二人に思いっきり四つ打ちの曲作ってもらって、それ主題歌にしたらいいんじゃないかと思ったんです。もう打ち合わせとか2分で終わって、その後はずっと音楽機材トークに花咲かせて帰る、みたいな(笑)。

――ではD4DJのユニット・Photon Maidenの音楽プロデュースを担当されたのもDJ向けの楽曲を作りたいといった想いがあったのでしょうか?

いや、そこはちょっと違うんです。もともとPhoton Maidenはフューチャーポップのグループにしたいとブシロードが決めていて、そこに後から僕が入ってますから。僕自身DJもやっていたし、所属が株式会社一二三という音楽制作会社ということもあり、ちょうどよくパズルのピースがはまった感じですね。

――Photon Maidenの楽曲制作を株式会社一二三でやっていこう、という流れがあったんですね。

大いにありましたね。特に株式会社一二三の音楽制作チームはダンスミュージックに強い。それもあってお互いにとってwin-winだったんです。

――株式会社一二三とのマッチングも良かったと。

そうですね。うちは音楽制作メインで色々な方向性の作家がいますが、一番強いジャンルにマッチした感じはありますね。

■アニメに寄り添うと同時に、アーティストのカラーが出て初めてアニメソング

――アニメソングについていろいろお聞きしてきましたが、改めて水島監督が考える「いいアニメソングとは何か?」ということを伺いたいです。

アニメの内容が曲の中に組み込まれていて、その上で歌っているアーティストの個性も出ている曲だと思います。そういう意味では最近では米津玄師さんと星野源さんの曲はすごい。

――米津玄師さんだと最近は『シン・ウルトラマン』の「M八七」が話題となりましたね。

あれは本当に素晴らしい曲でしたね。作品ともきちんと向き合っているけれど、『シン・ウルトラマン』の曲じゃなくても成立するようになっている。主題歌としても単体の曲としても素晴らしい。あれはしびれましたね。

――なるほど。

もともと僕、米津玄師さんはハチ名義で活動している頃からチェックしているんですけど、メッセージ性もしっかり一本筋が通るものがあるじゃないですか。今回の「M八七」にもそれが入っている、その上でいろんな捉え方ができる曲になっているんですよね。加えてトラックもシンプルだけど力強い。聴けば聴くほど味が出てくるすごい曲だなって思っています。

――対して、星野源さんはいかがですか?

「ドラえもん」が素晴らしくてね、僕聴いた時に泣いちゃったんですよ。あれもまさに星野源さんらしさが全面に出ている楽曲。でもアニメ『ドラえもん』の空気もちゃんと汲み取って、サビには不自然なく「ドラえもん」って出してくる。あれは本当にすごい曲だと思いましたよ。

――アニメソングは作品にただ寄り添うだけでは、いいアニメソングになるわけじゃない、と?

その通りですね。アニメに寄り添うと同時に、アーティストのカラーが出て初めてアニメソング。なのでアニメに寄り添いすぎている曲がきたらリテイクをお願いしてます。

――これまでにそう感じた曲もあったと?

ありましたね、アニメには寄り添っているけど、別のアーティストに頼んでも作れる曲。アニメに寄り添ってくれたのはすごくありがたいことだけど、それを主題歌にしてしまったら、そのアーティストにお願いする意味がなくなってしまいますからね。

――アニメとアーティスト、両方が立って初めてアニメソングだ、ということですね。

だから企画の時点でアーティストの方向性はリクエストするし、僕自身でアーティストの選定をするときもある。ただ、僕が希望を言わなくてもぴったりなアーティストが向こうから来てくれることもあります。『鋼の錬金術師』の「READY STEADY GO」はまさにそうでした。

――L’Arc~en~Cielは水島監督のリクエストではなかったと。

そうなんですよ。『鋼の錬金術師』の二期オープニングテーマを決める時にL’Arc~en~Cielの活動再開が決まって、ソニー・ミュージックレーベルズさんから提案があった。ただ、活動休止前のL’Arc~en~Cielってオルタナっぽくて、主題歌としてはもっと疾走感のあるシンプルなロックチューンがいいとは思っていたんです。その話をしたら、L’Arc~en~Cielさんも活動再開にあたってこの曲は疾走感溢れる曲にしたいということで、たまたま考えている事が噛み合った形で、とても良い出会いになりました。

■DJとアーティストライブ、二つが同時に楽しめる場所が増えてほしい

――「アニメソングを使ってDJをする意味」についても改めて伺いたいのですが、先ほどレコメンドという言葉もでていましたが、やはりレコメンドは大事だと?

原曲を使うにしろ、リミックスを使うにしろ、やはり「こういう曲が世の中に存在している」というのを知らしめてこそDJだと思うんです。そのレコメンドのために展開作りこそがDJの腕の見せ所なんじゃないかと思っています。

――確かに、どういう流れで聴くかによっても曲の印象は変わります。

その流れを作るのが上手い人のDJなんかはやっぱり聴いていてワクワクする。D-yamaやDJ  WILDPARTYのプレイにはそれを感じます。そこでその曲使ってくるんだ!ってね。そのレコメンド力にレコード会社の人が目をつけていた頃もあったんですけど……。

――レコード会社としても曲をレコメンドしてもらいたいと思っていた、ということですか?

アニメソングDJが曲をレコメンドしてくれれば、その曲が流行る。もっと言えばそのアニメソングの流行からアニメ自体の人気にまで繋がる。そこに注目が集まっていたのが「Re:animaton13」の頃だったと思います。ただ、結果的にそれがオフィシャルとなるとまた難しい部分もあったようには思いますね。結果的に「Re:animaton」も続けていくのが難しくなってしまったわけですから。

――確かに、当時はアニメソングDJに対して注目が集まっているのは感じました。ただ、同時に著作権の部分もあり、簡単にはムーブメントが起こせないのも感じたと言いますか……。

DJ自体にやはりグレーな部分があるのは否めないですからね。人の作った曲かけたり、リミックスを作ったりするわけですから。でも、その二次創作的なところにDJの面白さの本質があるので、これはどうにも切り離せない問題ではあるんですけど。

――確かに、グレーだからこそ面白いという部分も否めないです。

ただ、コロナによるエンタメ業界全体の停滞がなければ、レコード会社が主催した、権利的にもクリアなDJイベントなんかが生まれてもおかしくないような空気は当時感じていたんです。そこから各レコード会社が手を組んで、全てのレコード会社の曲が横断的に、著作権クリアな状態でかけられる大々的なパーティなんかできていたら最高だろうな、そう想像したりもしていて。

――やはりコロナの影響は大きかったですね。そのタイミングでなくなったイベントも多かったように思います。

人もかなり入れ替わった感じはしてますね。アニメソングクラブイベントに行っても知らない人が多くなったイメージはあります……。

――それは僕も同じですね。コロナがおさまりつつある今、レコード会社主催のDJパーティは改めて実現してほしいところではあります。

そうですね、アンダーグラウンドなところはそれはそれで楽しい場所として残ってほしいし、その一方でアニメソングDJがオフィシャルな場でDJをする機会できていく、そんなシーンが育ってくれるといいとは思っています。そして、メジャーアーティストとアニメソングDJが同じ舞台に立って、DJとアーティストライブが同時に楽しめる場所ができたら最高ですよ。そういう意味ではこの間の「Music Unity 2022」なんかは一つの理想系だったんじゃないかな。

――ああいったイベントが増えていくとアニメソングDJシーンも一段階成長するな、という感じですよね。では最後に、監督が考えるアニメソングDJシーンの課題をお聞きしたいです。

日本のクラブカルチャー全体がアマチュアイズムをもとに動いている。だからこそコアなものが生まれてきて、そこに魅力が生まれたりすると思うんです。ただ、メジャーアーティストなんかを巻き込んで何かをやろうとしたら、そのままの意識ではいけない。そこの意識アップデートしたイベント主催者が少ないので、そこが増えていくのが最初の課題かとは思います。

インタビュー・文=一野大悟 撮影=池上夢貢


DJとして活動をしていると、どうしても曲のレコメンドが疎かになってしまうことがある。観客は知っている曲を聴くとビビッドに反応する、そのビビッドな反応が見たくなってしまうからだ。しかし、それだけではDJとしては片手落ちだと今回のインタビューを通して痛感させたれた。観客と曲、接点のなかった二つを出合わせてこそDJ、それを忘れてはいけない。

その出会いを期待しているのは観客だけではないのかもしれない。曲の制作を行なう人にとっても、その出会いは貴重なもの。その創出をDJシーン全体が怠れば、DJ文化は衰退の一途を辿ることになるだろう。

インタビューの中で出ていたレコード会社公認のDJイベント、この開催はきっと簡単なことではない。しかし、その糸口は曲の”レコメンド”の中にある、そう思った。

クリエイター情報

水島精二

Profile
アニメーション監督、音楽プロデューサー、DJ
第15回アニメーション神戸 個人賞受賞
 
Works
劇場版 ひらがな男子 ~序~
「Beatless」
「アイキャラ」(出演)
「エスカクロン」
「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」
「うーさーのその日暮らし 夢幻編」
「楽園追放 -Expelled from Paradise-」
「アイカツ!」(スーパーバイザー)
「夏色キセキ」
「UN-GO」
「UN-GO episode:0 因果論」
「はなまる幼稚園」
「機動戦士ガンダム00」
「機動戦士ガンダム00セカンドシーズン」
「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」
「機動戦士ガンダム00 スペシャルエディションI ソレスタルビーイング」
「機動戦士ガンダム00 スペシャルエディションII エンド・オブ・ワールド」
「機動戦士ガンダム00 スペシャルエディションIII リターン・ザ・ワールド」
「大江戸ロケット」
「鋼の錬金術師」
「鋼の錬金術師 シャンバラを征く者」
「鋼の錬金術師 PREMIUM COLLECTION」
「シャーマンキング」
「i-wish you were here-」
「地球防衛企業ダイ・ガード」
「ジェネレイターガウル」
「D4DJ First Mix」
オリジナルアニメ映画『フラ•フラダンス』
東山奈央キャラクターソングベストアルバム「Special Thanks!」のアニバーサリースペシャル盤の特典朗読CD 音響プロデュース
 
Twitterアカウント:https://twitter.com/oichanmusi
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