ゴスペルシンガーを経てミュージカルの世界へ! 塚本直にインタビュー「音楽業界と演劇業界の架け橋になれたら」/『ミュージカル・リレイヤーズ』file.13

インタビュー
舞台
2022.8.31

「最初はゴスペルの授業がめちゃくちゃ苦手でした(笑)」

――専門学校での学びはどうでしたか?

専門学校に通って出会ったのが、ブラックミュージックやゴスペル、R&B、ソウル、ファンクといった洋楽でした。それまではゆずやaikoのような弾き語り系のJPOPが好きだったんですけど、ここで一気に洋楽にハマったんです。どんどんその魅力に惹かれて、中でもブラックミュージックやゴスペルに寄っていきました。

――特に印象的な授業はありますか?

実は、最初はゴスペルの授業がめちゃくちゃ苦手でした(笑)。音を与えられて、その場でメロディと英語の歌詞を耳で覚えて歌うという授業。「Make some noise!」と突然言われて、みんなで「イエーイ!」って。やばいところに来ちゃったなって、正直ちょっと引いていました(笑)。

――そこからどのようにゴスペル好きに?

授業の中で、先輩たちがアメリカのゴスペル歌手カーク・フランクリンの「Lean On Me」を歌ったんです。それがとにかく衝撃で! 「みんな日本人だよね?」と疑っちゃうくらい上手くて。ゴスペルを歌っている人たちはみんな上手い人が多いなと感じたので、頑張ってそのクラスを受け続けようと決めました。木曜日の6〜7限と遅い時間だったのですが、毎週頑張って通っていましたね。

――音楽を学びながら、専門学校の卒業後のことは考えていましたか?

当時はデビューしたいという想いはあまりなくて。どちらかというと、知る人ぞ知るような技術を持っている人になりたいなと思っていたんです。学校の先輩たちがゴスペルグループを作って活動する姿も見ていたので、そういうグループに入るのも素敵だなと思いながら過ごしていました。実際に専門学校を卒業する瞬間は何も決まっていなかったんです。ただ漠然と、一旦音楽から離れようって。

――なぜそのタイミングで音楽から離れようと?

音楽漬けの3年間だったので、一度離れて落ち着こうと思ったんです。洋楽を中心に勉強をしてきて、英語で歌うことはできたけれど、英語で話すことはできない自分にコンプレックスもあったので、語学留学を考えました。ただ決して裕福な家庭ではなかったので、留学費用を貯める必要があったんです。そんなときに、住んでいたマンションを、道路の拡張工事のために退居しなくてはいけなくなって。引っ越し代としばらくの家賃としてまとまった金額を立ち退き料としていただいたんです。しかも専門学校卒業とほぼ同じタイミングの3月に! こんなミラクルあります?(笑)留学しろと言われているんだと思い、オーストラリアのUniversity of Queenslandへ行きました。

――すごいミラクルですね! 留学中に音楽をやりたいという想いは?

留学して約10ヶ月ぐらい経った頃に、帰国したらまたゴスペルを歌おうと思うようになりました。留学って、どうしても孤独なんですね。もちろん友達はできたけれど、深いところで話せる相手というのはなかなかいなくて。そういうときにいつも聴いていたのがゴスペルだったんです。やっぱり私はゴスペルをやりたいんだなと、改めて気付きました。

帰国後、専門学校でお世話になっていた先生にゴスペルをやりたいと話したら、ちょうどその先生が福岡・大阪・東京にそれぞれゴスペルグループを作っているところだったんです。私は福岡校出身なので、福岡チームだろうと思っていたのですが、編成の都合でまさかの東京チームに。声を掛けていただけたことがまず嬉しかったので、スーツケース1つ持って東京へ行きました。それが「THE SOULMATICS」(ザ・ソウルマティックス)です。

――熊本から福岡、オーストラリア、そして東京と、すごい展開ですね。約10年間のTHE SOULMATICSの活動はどうでしたか?

そこでの活動が私の主軸になっています。歌い方もそうですし、歌で想いを伝えようという心持ちも。ゴスペルは「クリスチャン音楽」と言われていて、元々は神様に対しての音楽なんです。ゴスペルと一言で言ってもジャズっぽい曲やファンクなどいろんな種類の音楽があって、その歌詞が神様に対しての言葉だったり、聖書の内容が描かれていたりするんです。専門学校の先生からは、ゴスペルは神様に向けて歌わなきゃいけないわけではなく、その神様を自分の大切な人や自分を支えてくれる人に置き換えて想像して歌っていいんだということを学びました。私自身もクリスチャンではないですが、「みんな誰かに支えられていて、独りじゃないんだよ」というポジティブなメッセージを歌う活動を中心にしてきました。

――確かに、言われてみるとゴスペルってポジティブで励まされるような曲が多いかもしれませんね。

そうなんです。本場のアメリカでは、みんなで日曜日に集まって、普段抱えている苦しいことや悲しいことをゴスペルを歌うことで発散するんです。それくらいその人たちにとっては音楽が身近にあって、自分を助けてくれる存在なんですよね。ゴスペルはそういうところから生まれているので、基本的にポジティブで救ってくれる音楽になっているんでしょうね。

>(NEXT)舞台・ミュージカルの世界へ! 見つけた「自分の在り方」

シェア / 保存先を選択