岩渕貞太に聞く~新作ダンス 2023『ALIEN MIRROR BALLISM』で挑む、喜びと混乱に満ちた遭遇の場

2023.3.14
インタビュー
舞台

■故・室伏鴻との出会いと、変化する距離感

――そこから新たな創作の展開を迎えるわけですね?

直接のきっかけは2015年、カンパニーに参加させてもらっていた舞踏家の室伏鴻さん(1947‐2015)が亡くなったことです。それまでは「身体ってなんだろう?」とか「身体と音ってなんだろう?」とかを統合できない状態で、分割してそれを一緒にのせるみたいな、ある意味でフラットな実験をやっていました。自分の内面がどうこうとかではなくて、身体を考えることに注視していました。それにはある程度ジレンマがあって、踊るのがあまりおもしろくなくなってきていたんですね。で、室伏さんが亡くなった時、これからはちゃんと自分の作品を創ろうと考えました。『斑(ふ)』の再演を観にきてくれた大谷さんから「これだけできるようになったなら、これからはもっと個人的なことをやろう」と言われたのも、ちょうどその頃でした。

『missinglink』撮影:GO

――2007年から15年まで、室伏作品に出演し海外ツアーにも参加されました。室伏さんは土方巽に師事し、大駱駝艦の創立メンバーで、1978年のパリ公演が画期的成功を収めるなど舞踏界のレジェンドでした。岩渕さんは室伏さんがメキシコで客死するほぼ直前まで、中村蓉さんらとともに室伏さんの舞台に出られていましたね。室伏さんからどのような薫陶を受けましたか?

室伏さんの作品ではダンサーとして踊る喜びをたくさん味合わせてもらいました。もともとダンスをしていたわけでなく、土台がないまま運動神経で頑張るみたいな感じでしたが、室伏さんの作品に出た時、身体の底から何かが湧き上がってきて、それとともに踊る感覚が生まれました。ダンサーとしては凄く充実していたけれど、それは自分の作品ではないので、自分の活動ではこういうのをやっちゃいけないと思い距離感を持っていました。

海外ツアーが多く、その時は毎晩のように飲み食いして議論をしました。室伏さんが見てきた世代の世界や芸術のことを話してくれました。アンダーグラウンドや学生運動のエネルギーの渦中にいた人と話して作品に参加できている。もっと知りたい、触れたいという思いでした。

室伏さんには「お前は何を考えてるんだ?」とよく言われ対話しました。「俺はこうだけど、お前は何を考えてるんだ?」「何をやりたいんだ?」「お前らの世代はどういうことをやっているんだ?」と。いま考えると大きなプレゼントのような時間でした。

『曙光』撮影:GO

――室伏さん没後、岩淵貞太 身体地図の公演は2017年『missing link』、19年『残光』『曙光』のダブルビル、20年『Gold Experience』と続きます。その流れを振り返っての気持ちは?

その頃、室伏さんのボキャブラリーを直接使って作品創りをしていました。どうしてもやらざるを得ない感じがありました。当時、室伏さんといた時に分からなかったこと、自分で消化しきれなかったことをやろうと考えていました。一部の方には「痛々しい」と思われていたみたいです。でも、ただ室伏さんに憧れているとか、室伏さんのものを自分のものとして「はい、できた」みたいにやろうとしたわけではないんです。とにかく作品を創ること、踊ることで、まだ未消化の部分を身をもって考えないと先に進めない感じがしました。

『Gold Experience』撮影:前澤秀登

――室伏さんから具体的にどのような影響を受けましたか?

いわゆる運動的なテクニックではありません。たとえば痙攣というボキャブラリーだと、それが何なのかをダンサーとしては考えて提示します。室伏さんは「あれは抵抗の踊りなんだ」と。室伏さんは「国家のために、この身体は使わせない」とよく言っていました。「その抵抗で無駄なことを必死にやるんだ」とか「自分ではないもの、私ではないもの、そういうものと私との衝突や摩擦が抵抗として震えを起こすんだ」と。思想とか言葉的にでなくて、実際にそうであるというのを感じるんですね。踊りって、そういうことなんです。思想であることと、踊りがあることが交じり合っている。そういう身体と思考と思想の言葉の回路が、私が踊りを創る芯になっています。当時、自分にはボキャブラリーがなかったので、室伏さんからもらった未消化なものをやって自分で立ち上げ練っていきました。

室伏さんからの影響は少しずつ変わってきている気がしています。たぶん一つのピークは前回の『Gold Experience』でしょう。自分にとって「室伏さんとは何だったのか」「何をもらって、何を消化しないといけなのか」みたいなものを、ある程度やった気がするんです。

室伏さんを引き受けつつ、それと並行して、自分の踊りを考えていました。2019年、ダンスがみたい!21「三道農楽カラク」を踊るで、打楽器の曲「サムルノリ」でソロをやった時に、久しぶりにちゃんと踊ったというか、武術とかに触れてきたことを自分の身体を通して出し、人前で踊ることができました。自分の流れもちょっとずつ出てきた気がしました。いろいろなトライをしてきて、室伏さんとの距離感は少しずつ変わっています。

『Gold Experience』撮影:前澤秀登

――とはいえ、室伏さんの肉体は不在になっても、永遠のメンターでしょうか?

そうかもしれません。室伏さんのことは勝手に引き受けているのですが、私が好きで、いいと思っているダンスが、室伏さんの死とともになくなってしまうのがもったいないと思ったんです。個人的な感情ですが、凄く嫌だったんですね。でも、室伏さんを伝承するわけでもないし、伝統舞踊でもない。むしろ「俺の踊りだ!」という世界です。それは分かっているんだけど、何を受け取れて、何を続けることができるのかと思ったんですね。そこを模索してきました。

『Gold Experience』撮影:前澤秀登

>(次は)2年ぶりの注目の新作について、大いに語る!

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