岩渕貞太に聞く~新作ダンス 2023『ALIEN MIRROR BALLISM』で挑む、喜びと混乱に満ちた遭遇の場
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■「網状身体」とは何か? そして新作について語る!
――自身の活動も行う中で、基礎トレーニング方法である「網状(あみじょう)身体」を開発されました。「舞踏や武術をベースに日本人の身体と感性を生かし、生物学・脳科学等からインスパイアされた表現方法論」を標榜されていますが、いま少し詳しくお聞かせください。
作ろうと思ったのは『斑(ふ)』の時です。それまでは自分のソロ中心だったので、他のダンサーに自分の身体のことを移す方法がないと困ります。なので方法論を創ったほうがいいと当時の制作チームに言われて考えたのが網状身体です。骨があって、筋肉があってみたいな身体観ではありません。身体を伸ばすと気持ちいいじゃないですか。そうすると、回路としては全体がつながる。それで身体が動いてくるんですね。今までの筋肉=力であるというのとは別のところに行けます。武術の影響もありますし、システマとかも好きなので自分でリサーチしました。網状身体は、身体とかダンスを解析するための下地なんですね。それで室伏さんの踊りを解析したりとか、自分なりにですがバレエを解析できるなとか、そういうメソッドなんですよ。
ビジュアル:尾角典子 Noriko Okaku デザイン:鈴木成一デザイン室
――岩渕貞太 身体地図 新作ダンス2023『ALIEN MIRROR BALLISM』を創ろうと思われた動機を教えてください。
2年ぶりの新作なので、構想期間に余裕があって、タイトルも早く決まりました。影響はいろいろあります。ミュージシャンの菊地成孔さんのことがすごい好きでライブにもよく足を運んでいます。DC/PRGの「MIRROR BALLS」という曲やFINAL SPANK HAPPYの「エイリアンセックスフレンド」という曲から今回のタイトル『ALIEN MIRROR BALLISM』を考えました。それと「エイリアン」は室伏さんともつながっています。室伏さんは「日本人でもあり、アジア人でもあり、地球人でもあるけど、そうじゃなくて、俺はエイリアンの踊りを踊りたいんだ」と言っていたんです。室伏さんの使った言葉を自分がどう引き受けて、自分が何をできるんだろうということも含めて名付けました。
自分でいうのもなんですが、私は真面目なんです。今回は踊りたいし、ダンサーたちにも踊ってほしい。自分は自意識が強かったのでクラブにも行かないし、人前で踊れと言われても「嫌です」という感じでした。でも私じゃなくて体とか人間とか動物とかラインを引いていくと、みんな踊るはずなんです。人間も、動物も、生命は踊るはずだし、踊ってると思うんです。そういうことを、重く固くではなくて、ある種のダンスフロアという、どうしようもなくベタなイメージを持ってそういう場所を創ることが、次のステップかなと思ったんです。
重要なのは「深さとか重さを、浅さにどう宿すか」ということ。今までは重く深いことによって表現の強さを担保しようとしたけれど、そうでなくても信じられるようになった気がしています。別にふざけたいわけではなく、浅く軽く深いものもやれるかどうか。ただ軽薄にやりたいとか、軽いのをやりたいというのではなくて。
『ALIEN MIRROR BALLISM』リハーサル
――ダンサーは岩渕さん含め6名です。常連から初出演まで多彩ですね。
今回は6~7人でやりたいと構想しました。入手杏奈さん、北川結さん、涌田悠さんには3、4作品出てもらっているので信頼を置いています。辻田暁さんは、ここ2~3年、ゆる研という身体研究みたいな場によく来てくれています。ある種動物的な躍動感とかエネルギーを持ち、魅力的なキャラクターのダンサーです。あと男性が自分以外にもいたらいいなと考えました。中村理さんは、ワークショップ、ゆる研などで交流があります。私の身体への探求に共感し、モチベーションを持って参加してくれているので、出てもらいたいと思いました。
――スタッフの布陣も強力ですね。
音楽の額田大志さん(東京塩麹・ヌトミック)とは、STスポット横浜30周年公演で出会いました。その時、額田さんはAokidの作品に出ていました。それから吉祥寺シアターの吉祥寺ダンスLAB. vol.2『サーチ』の額田さんの回で、私をコラボレーターに指名してくれました。前回の『Gold Experience』の音楽をお願いしましたが、クリエーションが楽しかった。額田さんは演出家でもあるし、音楽家でもあるので、彼のアプローチが新鮮でした。
毎回スタッフの座組によって勝利を確信するんですけれど、今回も凄く楽しみですね。「浅さに深さを宿す」みたいなことを言っているんですけれど、美術の佐々木文美さん、衣裳の藤谷香子さんたちが、いろいろなものを宿していくのを助けてくれそうです。
『ALIEN MIRROR BALLISM』リハーサル
――ダンサーの皆さんとのクリエーションの印象は?
シーンの基になるものを一緒に考えています。あらためて「エイリアンのミラーボーリズムって何なんだろう?」「どういう身体、どういう踊りがここにあるべきなんだろう?」と。そこで、基になる素材は持ってくるけど、それがすぐにダンスになるわけではありません。トーテムのことだったり、ウィリアム・ブレイクの本を持ってきたり、いろいろなものを突っ込むんです。武術のワークをやってみたりとか、甲骨文字とか昔の漢字の基になったものを持ってきたりとかもしています。そして、それを踊りに立ち上げていく。『ALIEN MIRROR BALLISM』というのは大きな枠組みなので、たまに食み出しながらやっています。
実験をしていると、いわゆる東南アジアみたいな舞踊の動きが出てきたりします。あるシステムを作ると、そういう身体がでてくる。それをちょっと変えていくと、パラパラみたいな体が出てきたりとか、町のお祭りみたいな身体が出てきたりとかします。身体のなかにある地図とか歴史が移っていくような感覚があります。私たちの今の身体ではない身体であったりとか、ここの土地ではない土地の身体につながる回路が見つかる気がする。その回路を開いた時に、私を通して私個人の歴史を超える身体が出てきておもしろいんです。
岩渕貞太 Teita Iwabuchi 撮影:野村佐紀子
――本番への意気込みをお聞かせください。
「私たちがどういうところから始まって、どこにいこうとしているか」ということが見えてくるところがあるかなと思います。私はスタッフワークすべてを指示するのではなく、とにかく『ALIEN MIRROR BALLISM』という場を創りたい。音楽も、美術も、衣裳も、照明も、音響も何を投入していくのか話し合いをしていますが、そのなかで一つの要素に集約していくのではなく、どんどん混乱とともに広がっていくといいなと思います。そこには個人ではなく、超個人が現れるみたいな。自分自身が混乱していくとか、観ている人が混乱していく。この人なんだけど、この人ではないとか。男でもあり女でもある、女でもあり男でもあるとか。人間なんだけど植物であるとか。そういうものが現れる予感に満ちあふれています。観ている方には、楽しんで混乱する、喜びを持って混乱してしまう、そんな何かに遭遇してほしいです。
取材・文=高橋森彦
公演情報
【出演】入手杏奈、北川結、辻田暁、涌田悠、中村理、岩渕貞太
衣装:藤谷香子 舞台監督:河内崇 宣伝ヴィジュアル:尾角典子
宣伝デザイン:鈴木成一デザイン事務所 制作:霜村和子、宮脇有紀
【提携】公益財団法人武蔵野文化生涯学習事業団
【助成】芸術文化振興基金、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
【協力】急な坂スタジオ 【レジデンス協力】Dance Base Yokohama
公演日時
3月17日(金)19:30 開演
3月18日(土)14:00 開演
アルテ友の会 3,600円
U24(24才以下) 3,500円(要証明)
【入場券扱い】
岩渕貞太 身体地図 (当日の現金精算)
https://forms.gle/JaZBN27SPJQ8XyZQ
武蔵野文化生涯学習事業団 (クレジット決済可)
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-s/
Tel: 0422-54-2011 午前9時より午後10時(無休)
※発券手数料無し、入場券は当日劇場で受け取れます。
受付:開演60分前、開場:開演30分前
※未就学児は入場不可
【会場】
吉祥寺シアター
※JR中央線・京王井の頭線「吉祥寺」駅北口より徒歩5分
https://www.musashino.or.jp/k_theatre/