「ゲゲゲの鬼太郎」トリビュートアート展『鬼太郎EXPO』レポート 鬼太郎に魅せられた72名のアーティストたち

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2023.8.16
「ゲゲゲの鬼太郎」トリビュートアート展『鬼太郎EXPO』 (C)水木プロ・東映アニメーション

「ゲゲゲの鬼太郎」トリビュートアート展『鬼太郎EXPO』 (C)水木プロ・東映アニメーション

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夏も真っ盛りの2023年8月11日(金)、「ゲゲゲの鬼太郎」トリビュートアート展『鬼太郎EXPO』が、池袋・サンシャインシティ 文化会館ビル3F 展示ホールCにて開幕した。会期は8月27日(日)まで。この記事ではバラエティ豊かな展示作品の紹介とともに、開幕に先立って開催されたオープニングイベントの様子をレポートする。

歴史を踏まえた本格エキスポ

会場エントランス

会場エントランス

この『鬼太郎EXPO』では、鬼太郎×多彩なジャンルのアーティストによるコラボ作品が展示される。まずは、これまで半世紀にわたって放映されてきたご本家・アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の丁寧な解説エリアからスタートだ。

鬼太郎のHistory(歴史)パート

鬼太郎のHistory(歴史)パート

ここでは1期〜6期のオープニング映像を見比べられるほか、パネルでは各期のストーリーの特色や、キャラクターデザインの変化(猫娘の等身の伸びっぷりなど)について、わかりやすい言葉でまとめられている。レギュラー妖怪たちについてもしっかりと紹介があるので、「実はあんまり鬼太郎や妖怪のことは知らない……」という人でも、ここをおさえればきっと面白くこの先の展示を見られるはずだ。

いまの目で描く『ゲゲゲの鬼太郎』

鬼太郎カラーのソファが可愛い展示空間

鬼太郎カラーのソファが可愛い展示空間

『ゲゲゲの鬼太郎』の歴史を踏まえて、さあいよいよ奥の展示空間へ。今回鬼太郎とのコラボを果たしたのは、総勢72名ものアーティストたち! ここからはガッツリとアートの展示会である。作品の多くは会期終了後に抽選販売が行われるので、「自分ならどれが欲しいか」の目線で見て回るのも楽しそうだ。

愛☆まどんな《三度目のゲゲゲ》

愛☆まどんな《三度目のゲゲゲ》

愛☆まどんな《三度目のゲゲゲ》(部分) 瞳を覗き込むと、鬱蒼と茂った植物が描きこまれている。

愛☆まどんな《三度目のゲゲゲ》(部分) 瞳を覗き込むと、鬱蒼と茂った植物が描きこまれている。

パッと目を引くのは、愛☆まどんなの《三度目のゲゲゲ》。猫娘のリボンと刈り上げを浮かび上がらせる変形キャンバスや、眩しい色彩が印象的だ。美少女をモチーフとして描き続ける同作家らしさ全開の一作である。

岡野剛《鬼太郎・90年代少年ジャ◯プバージョン⁉︎》

岡野剛《鬼太郎・90年代少年ジャ◯プバージョン⁉︎》

こちらは『地獄先生ぬ〜べ〜』で知られる漫画家・岡野剛による《鬼太郎・90年代少年ジャ◯プバージョン⁉︎》。『ぬ〜べ〜』愛読世代の筆者は、お約束である左手を突き出すポーズの鬼太郎に懐かしい笑いが込み上げてしまった。ほか『鬼灯の冷徹』の江口夏実など、漫画家やイラストレーターが自身の持ち味で鬼太郎を描いた作品を多く見ることができる。参加者に若手クリエイターが多いためか、販売前提だからか、会場内には現代らしいオシャレさを纏った作品が多い印象を受けた。

せきやゆりえ《おめめキラキラ★ねずみ男》《おめめキラキラ★鬼太郎》《おめめキラキラ★ねこ娘》

せきやゆりえ《おめめキラキラ★ねずみ男》《おめめキラキラ★鬼太郎》《おめめキラキラ★ねこ娘》

もちろん、イラスト以外にも落とし込む

MAマン《霊明》

MAマン《霊明》

MAマンの《霊明》のような、息を呑むほど精緻な立体作品も。こちらは原型師である岩倉圭二との共作で、隣には未塗装状態の同作《ゲゲゲの鬼太郎》も併せて展示されている。鬼太郎がしれっとタバコを手にしているのに驚いたが、水木しげる氏の原作漫画では普通に吸っているのだと知ってさらに驚いた。そうだ、そもそも鬼太郎は人間の少年ではなく幽霊族だった……。

PUCCI(JAHPON LAND)《鬼太郎のゲゲゲランプ》《ねずみ男のビビビランプ》

PUCCI(JAHPON LAND)《鬼太郎のゲゲゲランプ》《ねずみ男のビビビランプ》

PUCCI(JAHPON LAND)《鬼太郎のゲゲゲランプ》(部分)

PUCCI(JAHPON LAND)《鬼太郎のゲゲゲランプ》(部分)

こちらは鬼太郎とねずみ男をステンドグラスで表現した不気味可愛いランプ。鬼太郎の頭頂部や目玉おやじの瞳孔部分はカットガラスになっていてキラキラと眩しい。

福山武志(VENDER WOH!)《Oi! Get @ Low》

福山武志(VENDER WOH!)《Oi! Get @ Low》

さらに変わりダネなのは、鬼太郎をモチーフにしたスニーカー(と言っていいのだろうか?)である。鬼太郎と仲間たちが力を合わせて靴に化けた……というコンセプトらしい。どこぞのスポーツブランドのロゴのような一反木綿や、ポンプボタンになった目玉おやじも気になるが、一番頑張っているのは靴底部分でブリッジしているぬりかべである。

《Oi! Get @ Low》というタイトルは……オイ、ゲタロウ!ということ?

《Oi! Get @ Low》というタイトルは……オイ、ゲタロウ!ということ?

ねずみ男がいない?……と思ったら、しっかり踵部分にいた! 発想がユニークなのはもちろん、キャラクターたちの「誰がどこの部分を担当するか」の議論が聞こえてきそうで面白い。

和田淳《ダメだよ》(部分)

和田淳《ダメだよ》(部分)

会場ではオリジナルアニメーション作品も数点展示されている。特に注目したいのは和田淳による《ダメだよ》。ものすごく些細な悪戯をする妖怪を、鬼太郎がやんわり「ダメだよ」と注意する、というもの。絶妙な絵の力の抜けっぷりと、4枚のモニターを使って同時多発的に進行していく構成が印象的だ。これ、シリーズ化してアニメのおまけ映像にならないだろうか……。

オープニングイベントで『ゲゲゲの鬼太郎』の懐深さを語る

左から:原口尚子、片桐仁、片桐春太、鬼太郎(敬称略)

左から:原口尚子、片桐仁、片桐春太、鬼太郎(敬称略)

『鬼太郎EXPO』開幕前日に開催されたオープニングイベントでは、本展の参加アーティストでもある俳優の片桐仁、その息子の片桐春太、原作者・水木しげる氏の娘である、水木プロダクションの原口尚子氏(+そして鬼太郎)が登壇。鬼太郎のトレードマークのチャンチャンコを着て、本展の見どころや作品への思い入れなどを語った。

オープニングイベントにて

オープニングイベントにて

片桐仁の出展作品《メンボー神》と、妖怪繋がりということで、片桐春太作《落花生人》(こちらは会場での展示なし)が登場。作品を見た原口氏からは、どちらも「昔から鬼太郎の世界にいるキャラクターのよう」と嬉しいコメントが飛び出した。

片桐仁《メンボー神》

片桐仁《メンボー神》

《メンボー神》は、片桐自身が朝ドラ『ゲゲゲの女房』で演じた「ビンボー神」をもじって生み出したオリジナルキャラクターだ。作者いわく、「綿棒って、けっこう雑に使っちゃってるけど、本当に必要な時に無かったりするじゃないですか(笑)。それをニヤニヤと“綿棒ないよ〜、綿棒ないよ〜”って言ってくるような」神だそうな。

オープニングイベントにて

オープニングイベントにて

展覧会の感想について、原口氏は「『ゲゲゲの鬼太郎』への作品愛が溢れていて本当に嬉しいです。昭和の時代に水木が生み出したキャラクターが、現代の空気をまとっているのが見られて新鮮!」と語る。

そして実際に作品づくりに取り組んだ片桐仁は、「鬼太郎の世界はアーティスト心をくすぐる」と実感したという。「初めて妖怪にふれるのって、この『ゲゲゲの鬼太郎』きっかけの人が多いと思うんですよね。でもただ怖いだけじゃなくて、そこにある物語が、いろんなイメージの源泉になっていく。この展覧会に来たら、きっと“鬼太郎っていいなぁ”って思うだろうし、自分も絵を描いたりしたくなるんじゃないかな」と朗らかに語った。

鬼太郎たちに揺さぶられた感性

さて、展示に戻ろう。総勢72名のアーティストによる数々の鬼太郎コラボ作品が勢揃いする中、直感的な「可愛い」「いい感じ」では済まされない、見るものをハッとさせる作品がいくつか存在する。

角ゆり子《ゲゲゲの妖怪》

角ゆり子《ゲゲゲの妖怪》

角ゆり子《ゲゲゲの妖怪》は、私たちが『ゲゲゲの鬼太郎』を思い起こす際の優先順位をそのまま絵にしたようなリソグラフ(孔版印刷)作品である。特に、鬼太郎を描いた左の一枚のデフォルメがすごい。まずチャンチャンコと下駄。肩に父さん、あと髪の毛が立つ(近くで見ると異常に小さい頭部はちゃんと横分けのヘアスタイルで、髪がピンと立っている)。何をどこまで描いたら鬼太郎になるのか、自分にとっての鬼太郎とは何なのか? を深く考えた上で生み出された作品だと感じた。

牛木匡憲《アニメゲゲゲの鬼太郎第12期−夜は墓場でダンス大会−》

牛木匡憲《アニメゲゲゲの鬼太郎第12期−夜は墓場でダンス大会−》

牛木匡憲による《アニメゲゲゲの鬼太郎第12期−夜は墓場でダンス大会−》は、一見するとイケイケの若者がポーズを決めているスタイリッシュな一作……なのだが、単純に今っぽく描いてみたというわけではないようだ。本作は、今後ますますのダイバーシティ&インクルージョンを意識して、キャラクターが人種や性別の枠を超えていく様を描いた“未来予想図”だ。ねずみ男は女性の姿に、砂かけ婆と子泣き爺は若返って国籍も変わっているよう。ぬりかべはスマホケースになって凛々しい鬼太郎のポケットに……うんうんそうだ、確かにぬりかべが大きくなくちゃいけないと押し付けるのは、多様性を尊重できていないということだ。猫娘も面の下は男性かもしれない。かくして「これは誰?」と湧き上がる当然の疑問に応えるべく、それぞれの衣装にさりげなく「ゲゲゲ」「NEZUMI」「ババア」と描き込まれているのが可笑しい。

ホセ・フランキー《帰宅中にて》

ホセ・フランキー《帰宅中にて》

ホセ・フランキーの《帰宅中にて》は、伝統的な日本画のような絹本着彩の一作。『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズの本質を描いていると感じさせてくれた作品だ。夕暮れの帰り道、親子らしき人物は何でもない様子で歩いているが、長く伸びた影からは妖怪二口女(ふたくちおんな)が現れている。(二口女は娘を虐待してしまった継母の罪悪感から生まれたという妖怪だが、それを踏まえて見るならこの親子関係は一体どんなものなのだろうか。)……恐ろしい妖怪たちは人間の影から生まれているもので、完全に切り離せるものではない。消せない“おそれ”と共生していくために、私たちは調停役である鬼太郎たちを同じ影から生み出す必要があるのかもしれない。ちなみに、よ〜く見ると親子の髪の毛はもちろん、犬の毛やトウモロコシのひげに至るまでが妖気にビビビと逆立っているのが面白い。

ミュージアムショップ

ミュージアムショップ

展示エリアを抜けると、展覧会オリジナルグッズを揃えたミュージアムショップが待っている。出展作品の一部はポストカードやクリアファイルになっているので、お気に入りの作品がグッズ化しているかぜひチェックしてみてほしい。

目玉のおやじの注意書きが可愛い。ちなみに「立入禁止」のマークはぬりかべである。

目玉のおやじの注意書きが可愛い。ちなみに「立入禁止」のマークはぬりかべである。

ひとつの作品をさまざまに変奏するトリビュートアート展では、展示作品の違いを見つめることで『ゲゲゲの鬼太郎』の持つ多面的な魅力を、展示作品の共通点を見つけることで『ゲゲゲの鬼太郎』の抱く本質を、それぞれ感じることができるだろう。本展は鬼太郎ファンにとっても、アートファンにとっても、想像以上に広く扉が開かれた展覧会である。涼を求めてふらっと足を向けてみれば、きっと心ときめく出会いを見つけられるはずだ。

個人的に欲しかったのはこちら。福山武志(VENDER WOH!)《We Turn Moment》

個人的に欲しかったのはこちら。福山武志(VENDER WOH!)《We Turn Moment》

「ゲゲゲの鬼太郎」トリビュートアート展『鬼太郎EXPO』は、池袋・サンシャインシティ 文化会館ビル3Fにて2023年8月27日(日)まで開催。


(C)水木プロ・東映アニメーション
​文・写真=小杉 美香

イベント情報

「ゲゲゲの鬼太郎」トリビュートアート展『鬼太郎EXPO』
■会場:池袋・サンシャインシティ 文化会館ビル3F 展示ホールC
■会期:2023年8月11日(金祝)~2023年8月27日(日) ■営業時間:11:00-19:00
:前売・当日共通 入場券/一般(中学生以上)1,800円(税込)※小学生以下無料
■主催:東映アニメーション ■特別協力:水木プロダクション ■後援:TOKYO MX
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