朝夏まなと「背中をポンと押すような力を届けたい」〜進化を遂げたミュージカル『モダン・ミリー』2024年版がいよいよ開幕

レポート
舞台
2024.7.10

舞台上に鎮座する3階建てのセットの2階にはオーケストラがズラリと並び、心踊るオーバーチュアで物語が幕を開ける。

物語の舞台は1922年のニューヨーク。第一次世界大戦後、女性の社会進出が一気に加速した狂騒の1920年代。そんな時代にモダンガールに憧れ、自由に生きることを夢見て田舎町カンザスから大都会ニューヨークへと飛び出したのが、本作の主人公ミリー・ディルモントだ。

ミリーは「♪私のニューヨーク」〜「♪とびきりモダンなミリー」の曲中でロングスカートからミニスカートへ、ロングヘアからショートボブへと、当時流行していた最先端のフラッパースタイルへ鮮やかに変貌を遂げる。ブロードウェイ・ミュージカルならではの魅力が詰まった音楽、ミリーの強い決意が込められた歌声、アンサンブルキャスト陣の華やかなコーラスと群舞。いずれも明るくポジティブな本作を象徴するシーンのひとつとなっている。

ミリーは外見こそモダンガールになったものの、早速ニューヨークの洗礼を受けて一文なしになってしまう。前途多難なミリーだったが、街で偶然出会った青年ジミー・スミスに長期滞在型ホテルプリシラを紹介してもらい、なんとか住む場所を確保。恋に仕事に奮闘する新生活が始まった。

自分らしく自由に生きることとは一体何なのか。ミリーは悩み葛藤しながらも、様々な人との出会いを通して前へと進んでいく。そんなある日、同じホテルに住む友人のミス・ドロシー・ブラウンが行方不明になって・・・・・・!?

本作の見どころのひとつは、個性豊かで魅力的な登場人物たち。

前回公演から引き続きミリーを演じたのは朝夏まなと。一喜一憂しながらも夢に向かってまっすぐ突き進むミリーをチャーミングに、そしてエネルギッシュに体現していた。冒頭から聴かせてくれる明るくパワフルな歌声はもちろん、2幕の「♪これこそ私よ」で本当に大切なものに気付くまでの繊細な心の動きにグッと惹き込まれる。悩みながらも懸命に生きるミリーの姿は、現代を生きる女性はもちろん、生きづらさを抱えるすべての人の共感を呼ぶに違いない。

彼女を取り巻く登場人物は一癖も二癖もあるツワモノ揃いだ。

ミリーがニューヨークで最初に出会うのは、田代万里生が演じるジミー・スミス。はじめこそ嫌味な青年に見えるのだが、繰り返しミリーと会ううちにそれは彼の不器用さの表れであることに気付かされる。ミリーへの想いに気付いてからの必死なアプローチは愛らしくもあり、恋心を歌う田代の甘く優しい歌声は劇場中をうっとりさせていた。

ジミーの気持ちを知らないミリーは、就職先の保険会社の社長トレヴァー・グレイドンへ猛アプローチ。ところが廣瀬友祐が演じるグレイドンは全く掴みどころがなく、ミリーのことは仕事の良きパートナーとしか思っていない。廣瀬は予測不可能なリアクションを自由自在に繰り出し、グレイドンの一挙手一投足で必ず笑いが起こるほど。二枚目と三枚目を絶妙な塩梅で織り交ぜた演技で抜群の存在感を放っていた。

ミリーがホテルプリシラで出会うミス・ドロシー・ブラウンを演じたのは、夢咲ねね。生粋のお嬢様の空気を纏い、登場した瞬間から彼女の周りだけほわほわとした異空間が広がっていた。ドロシーだけ舞台上から数センチ浮いているのでは? と思う程の浮遊感さえある。とんでもない発言をしても全く嫌味に感じられないのは、夢咲が放つ眩いピュアさによるものだろう。

ホテルプリシラの中国人従業員のチン・ホーは、大山真志が愛嬌のある演技で好演。ドロシーに一目惚れしてからの一途さは目を見張る物があり、客席から思わず応援したくなってしまう。英語はまだまだ勉強中のチン・ホーが、大きな体でドロシーのことを「ドロチー」と呼ぶ姿は実に微笑ましい。

世界を股にかけるスター歌手であり、ミリーの良き理解者となってくれるのは、土居裕子演じるマジー・ヴァン・ホスミア。土居はゴージャスで懐の広い大人の女性を、包容力のある演技で魅せてくれた。きらびやかな衣装を着こなし、温かい眼差しと芯を捉えた言葉でミリーを励まし勇気付ける姿には説得力がある。物語後半でコメディエンヌっぷりを発揮するシーンにもご注目。 

ホテルプリシラのオーナーであるミセス・ミアーズを、一筋縄ではいかないヒール役として見事に演じきったのは一路真輝だ。前回公演からキャラクター設定が変わったこともあり、衣装やメイクも中国人風から洋装へと変化。コミカルさを抑えることで、よりヒール役としての怪しい魅力を発揮していた。それでもどこか憎めないのは、ある意味誰よりも人間らしさを持ったキャラクターだからかもしれない。 

もうひとつの本作の見どころ、それはなんといっても華やかで迫力満点のダンスシーンの数々だ。

オープニングシーンはもちろん、ミリーが働く保険会社で披露されるタイピングしながらの一糸乱れぬタップダンスには圧倒されてしまう。タップダンスをしないと動かないというホテルプリシラのエレベーターのシーンも、遊び心たっぷりで楽しませてくれる。 

グレイドンとドロシーによるデュエットダンスも必見。運命の出会いをした二人による、あまりに大袈裟な歌とダンスに客席は爆笑必至だ。主人公であるはずのミリーを完全に無視して進行していく、シュール過ぎる名シーンである。

禁酒法が制定されていたこの時代、ミリーが友人たちを引き連れてもぐり酒場で大騒ぎするシーンも目が足りないほど見どころたっぷりだ。あっちでもこっちでも激しくアクロバティックなダンスが繰り広げられる中、登場人物たちが細かい芝居をしているのを見つけるのも楽しい。『モダン・ミリー』は歌・ダンス・芝居の3つのバランスが取れた、近年稀に見る王道ミュージカルと言えるだろう。


上演時間は約3時間(休憩20分含む)。日比谷シアタークリエでの公演は7月28日(日)まで。その後は大阪、愛知、福岡公演を経て東京へ凱旋し、昭和女子大学人見記念講堂にて8月25日(日)に大千穐楽を迎える。

日々の憂いはもちろん、この夏の暑ささえも吹き飛ばす勢いの痛快なミュージカル『モダン・ミリー』を、ぜひ劇場で体感してほしい。

取材・文・撮影 = 松村蘭(らんねえ)

公演情報

ミュージカル『モダン・ミリー』
【出演】
朝夏まなと 田代万里生 廣瀬友祐 夢咲ねね 大山真志
土居裕子 一路真輝

 
入絵加奈子 安倍康律
砂塚健斗 高木裕和 常住富大 堀江慎也 村上貴亮
伊藤かの子 島田 彩 橋本由希子 湊 陽奈 吉田萌美 玲実くれあ
 
 
【脚本】リチャード・モリスディック・スキャンラン
【新音楽】ジニーン・テソーリ
【新歌詞】ディック・スキャンラン
【広東語翻訳】ドゥラ・レオン(柯杜華)スーザン・チェン
【原作 / ユニバーサル・ピクチャーズ同名映画脚本】リチャード・モリス

【演出 / 翻訳】小林 香
 
【日程・会場】
<東京>
2024年7月10日(水)~28日(日) シアタークリエ
料金(全席指定・税込)13,000円
 
<全国ツアー>
2024年8月3日(土)~4日(日)  大阪 新歌舞伎座
2024年8月11日(日)       愛知 Niterra 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
2024年8月16日(金)~18日(日) 福岡 博多座
2024年8月24日(土)~25日(日) 東京・凱旋公演 昭和女子大学人見記念講堂

公式ホームページ https://www.tohostage.com/modern_millie/
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