一緒に笑って感動した、あの感情にみんなで戻ろう! 『テイルズウィーバー』コンサート、ネクソン担当者と演奏者のプロフェッショナルな仕事を深堀り~楽曲アレンジ情報はファン必読!
アレンジにおいてなにより大切なのは、作品を愛するファン
庄司燦(編曲主任)
冒険するうちに様々なストーリーに触れ、幾度となく心を動かされただろう。その時側にそっと寄り添って感情を刺激してくれるのがBGMだ。曲を聞いただけで、名場面の数々が目の前によみがえり、自然と涙を流してしまうことも珍しくない。しかしキービジュアルにもあるように、本コンサートはオーケストラの演奏であり、いつもゲームで聞いている音とは異なる部分もあるだろう。
(庄司)「ゲームにおいて、音楽と体験は紐づいているものだと思います。当日いらっしゃる皆さんはゲームのファンが大多数だと思うので、プレイした時の環境や感情を想起し、振り返って追体験できる、そんなゲーム音楽の持つ特性を十分に堪能できるコンサートにしたいですね」
そう語るのは、編曲チームのひとりで、本公演の編曲主任の庄司燦だ。グランドフィルでは数々のオーケストレーションを担当し、ゲームやアニメ公演を担当することも多く、オーケストラメンバーより信頼を寄せられている。
編曲というのはゲームに実装されている曲を、用途に合わせて組みなおす役割。今回の場合はオーケストラ用に譜面を修正、またはアレンジを加えて更に良いものにするのだという。
編曲の依頼は、「原曲に近い形」を軸としつつも、ピアノの名曲が多い『テイルズウィーバー』だからこそ、ピアノを目立たせるような演出をしたい、と呉は庄司に伝えたという。そのオーダーを受けた庄司は、編曲にあたって、何に気をつけているのだろうか。
(庄司)「ゲーム音楽特有の、シンセ系の多いサウンド感をどう曲に落とし込むかを考えるのもひとつですが、一番は「お客さんが何を望んでいるのか」ですね。制作側からのオーダーと、お客さんが聞きたいであろうものとを噛み合わせていく作業を自分の中で行います。「ここはオリジナル通りで聴きたい」「ここはアレンジで聴きたい」「この曲はちょっと遊んでもいい」「こういう曲は逆に雰囲気を変えちゃっても面白いかも」とか」
だからこそ、庄司は実際にゲームをプレイし、作品ファンと同じ目線に立つことを重視しているという。
(庄司)「プレイヤーが一番聴きたいもの、何の曲が流れたら嬉しいのかとかは、実際にプレイしていないとわからないこともあると思うんです。今回で言うと、主人公がオカリナを吹いている場面があるので、じゃあアレンジの頭にオカリナを入れてみようかとか、このキャラクターのモチーフ曲が絡んできたら嬉しいかな、とか。……といいつつ、あまり長い時間はプレイできてなくて、今は影の塔にこもってレベリングをしてるところなんですが(笑)」
「余計なものはいれない」でも、生演奏だからこその揺らぎは醍醐味のひとつ
ピアニストの山中惇史(画面中央)は海外からオンラインで座談会に参加した
「ゲームを愛する人たちを第一に」という思いは、演奏者も同じだ。
ピアニストとして参加する山中惇史は、ゲーム音楽の世界には足を踏み入れたばかり。グランドフィルとの共演も初となる。これまで主戦場としてきたクラシックのテンポやリズムとは全く違う新鮮な感覚に戸惑いつつも、「だんだんと気持ちよくなっていった」と話す。
(山中)「演奏するうえで、そのゲームを愛している方たちにとって「不要なもの」を入れないというのは、重要だと思っています。共通認識として「聴きたい!」と思っているイメージを届けられるように、演奏者自身の主観的な部分や余計なアレンジはあまり入れないようにしています。「お客さんが何を聴きに来ているのか」は、すごく大事なところですから」
一方、「テンポ」を一番気にすると話したのは、指揮者の米田覚士だ。ちなみに米田の母は山中のファンで、今回の出演(=山中との共演)が決まった時、一番喜んでいたのは母親だったという。「親孝行をしているような感じで、すごく幸せ」と笑う。
(米田)「心地よく知っているテンポがちょっとでもズレるとやっぱりどこか違和感を覚えてしまいますから。特にゲームのように何度も聴いて、聴き慣れている音楽ほど、その傾向は強いと思いますね。毎回テンポだけは本番直前までずっと聞いて、寸分の狂いがないようにしています。こういう意識はクラシックの時以上にシビアに考えることの一つかなとは思います」
米田覚士(指揮)
馴染みあるものを、馴染みあるとおりに。その一方で、アレンジャーや楽譜への信頼もある。
(山中)「演奏会って、実は編曲が一番大事なんですよね。庄司さんたちの譜面は、ちゃんと演奏に集中できるというか、あとはこちらが演奏すれば大丈夫というのが見るだけでわかる。ピアノコンチェルトってクラシックの世界では王道といえるスタイルですし、それでゲーム音楽をってすごく贅沢だなと思います。今朝いただいた楽譜を全部弾いてみたのですが、ポピュラーでありながらクラシカルな雰囲気もあり、オーケストラが入った時にどういう化け方するのか楽しみです」
(米田)「本当に、庄司さんがかなりプロフェッショナルに、原曲の雰囲気を担保して作ってくださっているなという印象を楽譜から受けました。だからこそ、演奏者としては、”生”だからこその「立体感」や「臨場感」を、等しく大切にしていきたいですね。あとは今回やはりピアノがメインということで、山中さんの音色を堪能できるだろうなと!」
(庄司)「仰る通り、演奏者の皆さんには、譜面ままに演奏する+自由に演奏してほしい気持ちもあります。録音ではないからこその音の揺らぎやテンポ感は、生の人間が演奏する醍醐味でもありますしね。また違った視点から感情を入れて演奏していただくのも面白いんじゃないかなと思います」