舞台『Too Young』稽古場レポート&日澤雄介(演出)のコメントが公開——孤独にさせない、覚悟と優しさの物語
舞台『Too Young』稽古場オフショット 撮影:遠山高広
2025年11月、紀伊國屋ホールにて上演される、舞台『Too Young』のオフィシャル稽古場レポート、そして演出の日澤雄介よりコメントが届いたので紹介する。
ワタナベエンターテインメントがさまざまなクリエイター、プロデューサーとコラボレーションし、演劇の新たな可能性を拡げる実験的プロジェクトである「Diverse Theater」の第2弾『Too Young』が、11月13日(木)~24日(月・祝)、東京・紀伊國屋ホールにて上演される。
劇団チョコレートケーキの古川健が脚本、日澤雄介が演出を手掛け、新宿・歌舞伎町に集う「トー横キッズ」を題材に、誰もが抱える孤独や生きづらさに真正面から向き合う本作。初日を目前に控えたこの日、衣裳付きでの通し稽古が行なわれた。その様子と、通し稽古を終えた直後の演出・日澤雄介のコメントをあわせて紹介する。
撮影:遠山高広
稽古前、雑居ビルの屋上を模したセットの上に立たせてもらうと、わずか2メートルほどの高さでも足がすくむ。実際の歌舞伎町でそこに立ったら、眼下にはどんな景色が広がるのだろうか。記憶のなかの新宿に思いを巡らせるうちに、キャストが思い思いにウォーミングアップを始める。手にした台本にはびっしりと書き込みがあり、1ヶ月あまりの稽古の積み重ねを感じた。
キャストは順にヘアメイクと着替えを済ませていく。登場人物たちは皆「普段着」だが、稽古着から衣裳に変わるだけで一気に役の空気をまとったのがわかる。とりわけ「トー横界隈」の住人を演じる面々は普段とはガラリと雰囲気が変わり、稽古場に「トー横」の空気が流れ込む。
撮影:遠山高広
なお、本番用の衣裳はポスターなどで見られるビジュアルとは異なり、さらに本番に向けて髪を染めるキャストもいるという。それぞれのスタリングがどう仕上がるかは本番までのお楽しみにしていただこう。
物語は、興信所の調査員・本郷信吾(演:宮﨑秋人)が、雑居ビルの屋上から飛び降り自殺した少女・茉姫の母・亀山裕子(演:朝海ひかる)から「娘の生きた足跡をたどってほしい」と依頼を受けるシーンから始まる。ショッキングな導入ながら、絶妙に噛み合わない二人の会話にはどこかおかしさもある。席で見ていた綱啓永が思わず吹き出す瞬間もあった。亀山の切羽詰まった言葉には白々しさが漂い、本郷は誠実な人柄が伺える一方で、「社会人としての顔」を見せているだけにすぎないのでは、という気配もある。
撮影:遠山高広
場面が変わり、「トー横」に集うショーヘイ(演:岡島遼太郎)、カコ(演:大石愛陽)、ジャック(演:綱啓永)のシーンへ。明るくじゃれあう3人の姿に驚いた。「トー横キッズ」という言葉から連想される薄暗いイメージとは対照的に、「気のいい兄ちゃん」風のジャックと、その大人をからかいながら甘えるショーヘイとカコ。微笑ましい関係性の一方で、「またみんないなくなっちゃった」「ほかに行くところなんてない」というカコの言葉が、静かに胸に残る。
続く本郷とジャックの回想シーンでは、異なる立場で「トー横」に関わる二人の大人が、それぞれ何を抱えているのかが浮かび上がる。その表情の揺らぎは、劇場で見逃さずに受け取ってほしい。
撮影:遠山高広
一方、自ら命を絶った茉姫(演:伊礼姫奈)の「話してよ、隠されるほうがつらいよ」という真っすぐな言葉が胸に刺さる。不器用な大人たちに比べ、子どもたちはよほど素直に誰かを求め、心を差し出し、痛みを分かち合おうとする。そんな彼らに対し、大人たちは何ができるのか――。自問自答を繰り返す本郷を演じる宮﨑の集中力は圧巻だった。何かから逃げた大人が再び前に進もうとする、そのエネルギーはいかばかりか。宮﨑は出番の合間も神経を研ぎ澄ませ、本郷として立つたびに熱量を高めていく。その姿からは、「きれいごと」をきれいごとで終わらせない強い覚悟がにじんでいた。
物語は本郷と茉姫の父・高田(演:玉置孝匡)との会話を経て一気に加速し、終幕へ。カーテンコールの流れまでを通して、休憩なし・1時間50~55分ほどで通し稽古は終了となった。スタッフ一同から拍手が起こるも、すぐさま確認作業に移り、日澤から衣裳やヘアスタイルの細かい部分にもオーダーが入る。休憩のあとは日澤からのノートを踏まえて、いよいよ最終段階の調整が進められていく。
撮影:遠山高広
自殺や性暴力といった繊細な話題を扱う作品だけに、ガツンと殴られるような、ある種の激しい感情に当てられる覚悟で取材に臨んだ。しかし、実際に感じたのは、役者たちの圧倒的な熱量の奥にある優しさだった。それは誰かを否定するためではなく、受け止め、包み込もうとするような——。その温もりの感触を、劇場で確かめたい。
舞台『Too Young』では、キャストによるアフタートーク、観劇体験をさらに深めるトークイベント『語り合い~TooYoungをきっかけに~』の開催も決定している。また、11月12日(水)23:59までの期間限定・数量限定で、本作のメインビジュアルポスター(非売品)が特典として付く「ポスター付き」が販売中。さらに、対象公演限定で来場者特典オリジナルステッカーのプレゼントも。そのほか公演の詳細は公式ホームページにて。
演出:日澤雄介 コメント
緊張感のある非常にいい通し稽古だったと思います。音や照明のイメージもすでに掴めているので、劇場に入り空間が整ったときに、人間関係のより深い繋がりが立ち上がる——そんな手応えを感じています。
演劇においてはその瞬間瞬間に起こることを新鮮に受け止め、素直に反応していくことが何より大切です。そして、1ステージごとに俳優の色が変わっていくのが舞台の醍醐味でもあり、それが絡み合い人間関係の密度をより高め、舞台としての熱量を上げる。その化学変化が起こるのは、劇場に観に来ていただけたお客様がいるからです。皆様がこの作品の最後のピースになると思います。どのような作品になるか僕自身、とても楽しみです。
「トー横」という言葉が目を引きますが、先入観を持たずに観ていただきたいです。一つの場所に引き寄せられた「普通」の人たちが、その場所でどう関わり合い、どう変わっていくのか、あるいは変わらないのか。俳優たちを通して、観てくださる皆さんに確かに届くものがあると信じています。楽しみにしていただければと思います。