『朗読劇VOICARION「女王がいた客室」』三森すずこ&藤沢文翁にインタビュー「生の舞台ゆえの“イレギュラー”を楽しんでもらえたら」

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2016.6.24
(左から)藤沢文翁、三森すずこ (撮影=こむらさき)

(左から)藤沢文翁、三森すずこ (撮影=こむらさき)

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8月27日(土)から9月5日(月)まで、日比谷シアタークリエにて、『クリエ プレミア音楽朗読劇 「VOICARION」』が上演される。様々な朗読劇を手掛けてきた藤沢文翁が原作・脚本・演出を務め、出演するのは「声」が好きな方なら間違いなく飛びつくだろう、声優界きっての人気者であり実力派たち。その中から、『ふたりはミルキィホームズ』のシャーロック役や『ラブライブ!』が生み出した大人気ユニット『μ's』のメンバーでもある「みもりん」こと三森すずこ、そして藤沢文翁に話を伺った。


――ヒューマンドラマという言葉が公式サイトにありましたが、具体的にどんな物語になるのでしょうか?

藤沢:僕がヨーロッパとかで会ってきた人たち――、元貴族とかそれに近い人たちで、今幸福に暮らしていないとか、裕福ではないけれど、ただ生活だけはかつての貴族を引きずっているような人たちにたくさん会う機会があって。今回東宝からロマノフ王朝をモチーフにした芝居を作ってほしい、と言われた時に僕が会った人たちとの経験を混ぜ合わせていくといい話ができるのではないかと思いまして。ただ、ヒューマンドラマではあるんですが、それだけではないリアルなヨーロッパの貴族の現在とか、パリの本当の姿…パリってパッと見た感じでは輝いていてすごい綺麗な街なんですが、実際住んでみると人が冷たかったり、辛かったり、ひたすら寒かったりとマイナスのところもあるので、そういうのも含めて「リアルなヨーロッパとそこで生きる人たちの空気感」を楽しんでいただけたらなと思います。
 

――三森さん、この台本を最初に読んだときの印象は?

三森:この先に隠されている“秘密”というか、これどういうことなんだろうっていうワクワクがあって、どんどん先が知りたくなって読み進めていくうちにスッと入り込んでスッとエンディングに進んでいた、という感覚があり。すごく面白かったんです。小説を読んでいるようで、話の中に入っていきやすかったです。私の演じる役が、台本を読んでいる私と舞台を観ているお客さんと同じ立ち位置になっていて、「え、これなに?なに?」って翻弄されていく感じが同じでしたね。
 

――ミュージカル女優からスタートして、その後声優になられて、今回その中間のような作品への出演となりますが、オファーを受けた時はどう思われましたか?

三森:役者デビューが東宝のミュージカル(『ミー・アンド・マイ・ガール』)だったので、また東宝の舞台に戻ってこれるというのがすごく嬉しくて。ようやくこの時が来たか、という感じだったんです。とはいえ、ミュージカルではないですが、自分が6年くらいやっていた声優の仕事を朗読劇という形で、そしてミュージカルと声優の間みたいな感じなのでとても戻っていきやすい環境だなと思っています。
 

――藤沢さんが三森さんにこの仕事をオファーしたのはどんな理由からですか? 

藤沢:三森さんが演じるエレオノーラという役はとても重要です。彼女だけが貴族ではなく、現代の僕らに近い人間なんですよ。貴族たちと現代人の狭間にあるような「第一次世界大戦直後」っていう時間の中で、より僕たちに近い彼女に物語に存在してもらい、ごく普通の同僚でいた人たちが実は貴族だとある日突然分かり、さらに珍客が来たことによってかつての貴族の雰囲気が戻ってきてしまう……。そうなった場合、現代の人間はどう感じ、動くのか……っていうのが彼女の役どころなんです。とても等身大で演じてくれそうな、いい意味で翻弄されそうな、もしくは周りを振り回していそうなキャラクターだなって思っていたのでお願いしました。
 

――本作はあらすじだけを伺っているだけでも、朗読劇の枠を超え、本当に舞台化されそうだなというくらい深みのある作品になりそう、と思っているんですが、それでも朗読劇という形を取りたい、と思われた理由とは何だったのでしょうか?

藤沢:朗読劇の良さってそれを観るお客さんが自分だけのイメージを作れるところにあると思うんですよね。演出家のイメージで生まれる舞台・セット・衣裳そして演技を観ること自体、素晴らしいことだと思っています。朗読劇ってそういう意味ではとても不完全なんですが、不完全な分、お客さんの想像力で補っていけるところがあって。今回、実力派の声優さんたちもそろっていますので、彼らが作る言葉の世界を想像してもらって、幻と消えてしまったロマノフ王朝が各自の想像の中で復活してくれたらおもしろいなあと。もちろん、技術でロマノフ王朝の宮殿みたいなのを作ることは可能なんですが、そうではなくみんなが想像する“幻の世界”だけでいいなって。
 

――となると、ステージの上もあえてシンプルに、ともすれば椅子が4つ並んでいるだけとか…。

藤沢:それを口にしてしまうと、この舞台の予算を削られる可能性があるので言いません!(笑)
 

――お客様の想像の手助けになるような衣裳など、用意されているのでしょうか?

藤沢:衣裳は毎回こだわっていますよ! 今回、東宝舞台の衣裳部が参加してくださるんですが、彼らは普段『モーツァルト!』など東宝の大型舞台も手掛けているチームなので、そこはがっつりやってくれるような気がします。普段、自分が推している声優さんが20世紀初頭の衣裳を着ている姿を観ることは、ファンの皆さんにとってもなかなかない貴重な経験なのかもしれませんよ。
 

――今回、出演者がすごすぎる方ばかりで! 同業者としても憧れの方がいっぱいいらっしゃると思うのです。しかも三森さんは、2日間で全く異なる相手と組まれますよね。石田彰さんと保志総一朗さん、甲斐田ゆきさんと入野自由さん。その点どう演じ変えたりするつもりなんでしょうか? 

三森:私以外の方は、本当に大先輩ばかりでかなり恐縮している中でのポジションにいるんですが、逆にエレオノーラの役に近い、とも感じているので、いい感じに先輩方に振りまわされたいなって思っています。甲斐田さんはこうくるんだとか、石田さんはこんなこと言うんだとか。毎回違う新鮮さを味わえることが、演じている側としてもすごく楽しみです。相手の方によって私の演じ方も変わると思うんですよね。

藤沢:変えられればいいよね。

三森:今回はこのシーンで引っ張り回されている、とかリアルタイムで自分の中に沸き起こった感情が表現できればなって思うんです。

藤沢:三森さんには、本当に等身大で演じていただきたいのと、客観的に毎回驚きのあるステージをキープしてもらいたいなって。今回の役どころの中でいちばん瞬発力を要求されると思いますね。
 

――他の日程でもエレオノーラを演じる方がいらっしゃいますが、気になりますか?

三森:気になります! しかも沢城(みゆき)さんも水(夏希)さんも私にとっては雲の上の存在なので。いち宝塚ファンでもありますしね。沢城さんはいろんな作品でご一緒させていただく機会も多いんですが、年齢的には近くても、すごくキャリアが長くて尊敬する先輩の一人なんです。たたずまいが私とぜんぜん違うので、そのお二方と同じ役を演じさせていただくのも不思議な感じです。でもこのお二人とは違うエレオノーラを自分で見つけようと思っています。
 

三森すずこ (撮影=こむらさき)

三森すずこ (撮影=こむらさき)

――実際稽古をする時は、他の組み合わせの方々はいない状態でやるんですか?

藤沢:その予定ですね。

三森:他の方の演技を見たら引っ張られてしまいそうです。なるほど、ここでこういう感じに演じているのかって。自分の公演が終わったら観たいなあ。沢城さんのも見たい。ぜんぜん違うと思うんですよ。

藤沢:物陰から見る感じでね(笑)。
 

――昔ミュージカルに出演されていたとはいえ、今はほぼアフレコスタジオで、画面にタイムコードが出ている状態でセリフを言う生活にいらっしゃると思うんです。でも今回は舞台に立ち、台本はあるけれど、結局「その場で」「声で」演技をするということになると思うんです。その点は大変ではないですか?

三森:逆にタイムに合わせなくていい、ということで、自由に自分の間合いがとれるということはすごくラッキーです。アフレコだと、あるシーンでどん底に落ちた感情が次のシーンではいきなりあがっていたりして、自分の感情が置いてきぼりになることがあったりするんです。でも舞台なら自分のペースでお芝居ができますしね。すごくワクワクしています。
 

――他のキャストで気になっているのが甲斐田さんの存在なんです。唯一男性を演じるキャストとして入っていますがこれは何か狙いがあったのですか?

藤沢:今回、作品の多面性に挑戦したかったというのがありまして。声優さんだからこそできる、空想の世界だからこそできる「フェイク」をやってみたかったんです。女性だけど、男性の声を出せる存在、というのを主軸にして組み立てていくとどうなるかなって。
とはいえ、甲斐田さんがいる回だけ観た人はどういう感想を抱くのかなあ。

三森:嬉しいです、その回のキャストになれて。

藤沢:ある意味ファンタジーですよね。ロマノフという、消えてしまった貴族文化もファンタジー的なら、女性が男性を演じるのもファンタジー的というか。
 

――お客さんの方々も99%くらい(?)声優好きな方がいらっしゃると思うんですが、そういう方々にあえて伝えたい本作の見どころは? 

藤沢:生の舞台ゆえの「イレギュラー」な事だと思っています。映像作品の場合、何回も録り直しをするし、編集も入るでしょ。ところが今回は、舞台上で一発勝負で、かつ後ろで生の音楽も演奏されているんです。その場合、何が起きるかというと、バンドが盛り上がるとキャストも合わせて盛り上がってしまうんですよ。また、キャストが盛り上がってくると、バンドも盛り上がってしまう。その相乗効果の中で計算できない本音とか本性とか、素の部分が見え隠れすると思うんです。観客が今まで映像を通して観ていたものとは違う、本当に今泣きそうなんだなとか、本当にその世界で生きているんだなっていう生の感じを楽しみに来てもらえればいいかなと思いますね。
 

――ちなみに……キャストの方々で、いちばんハメを外して盛り上がってしまいそうな人は誰なんでしょうね?

藤沢:最後の組のお二方(平田弘明、山路和弘)かな!(笑) このお二人とはプライベートでもよく飲みに行くんですけど……。役者としてとてもアツいお二人なので! 共演が楽しみです。

――この物語は、宿泊すると願いが叶うというホテルが舞台となりますが、お二人が今叶えたい夢があるなら教えてください。

三森:10年前に東宝ミュージカルでデビューして。ちょうど6年くらい前から声優をして最近はかなり声優1本で活動していました。今年節目の年齢ということもあり、声優だけではなく舞台もやりたいし、もちろんライブ活動もやりたい。声優だからこの範囲は出られません、みたいな枠を取り払って、自由な役者になりたいなと思っているんです。だからいろんなチャンスが降ってきますようにってお願いしたいです。

藤沢:僕は、平田さんと山路さんが僕の演出を静かに聞いてくれるといいなって思っています、それだけが願いです(笑)。

――たぶん、静かに聞いてくれない気がします……(笑)。

(左から)藤沢文翁、三森すずこ (撮影=こむらさき)

(左から)藤沢文翁、三森すずこ (撮影=こむらさき)


 
公演情報
クリエ プレミア音楽朗読劇 「VOICARION」

日時:2016年8月27日(土)~9月5日(月)
会場:日比谷シアタークリエ
原作・脚本・演出:藤沢文翁
作曲・音楽監督:小杉紗代
<出演>
■8月27日(土)~9月2日(金) 「女王がいた客室」
鈴村健一、浪川大輔、沢城みゆき、中村悠一、山口勝平、石田彰、保志総一朗、三森すずこ、甲斐田ゆき、入野自由、平田広明、山路和弘、水夏希/竹下景子
■9月3日(土)~9月5日(月)「Mr.Prisoner」
上川隆也、林原めぐみ、山寺宏一

 

 

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