柳下大&イモトアヤコ『ラヴ・レターズ』インタビュー

インタビュー
舞台
2016.6.22
柳下大・イモトアヤコ

柳下大・イモトアヤコ


ラヴ・レターズ』(作:A.R.ガーニー)は、男性(アンディ―役)と女性(メリッサ役)が交互に書簡を朗読してゆく全二幕の二人芝居だ。1989年ニューヨークでの初演以来、世界中で上演され静かなブームを巻き起こしてきた。パルコ劇場では1990年8月に青井陽治の訳・演出で上演されて以来、年齢も個性も異なる延べ450組の様々なカップルによって、この一つの台本が読み継がれてきた。渋谷パルコの建て替えに伴い、8月7日に一時休館が決まった現・パルコ劇場。そのファイナルを飾るクライマックス・ステージ第2弾の中でも、『ラヴ・レターズ2016クライマックス・スペシャル』として上演されている。そして、6月27日には柳下大イモトアヤコという異色カップルが登場する。この両人から話を聞く機会を得た。

--今回『ラヴ・レターズ』に出演することが決まっての感想は?

イモトアヤコ(以下イモト): 歴史のある演目に自分も出演させていただけることになり、うれしさと同時にこわさもありますね。先日初めて台本を読み、これはなかなか大変だなぁと思いました。私の演るメリッサは、とても自由奔放なかたです。私自身の性格はアンディ―に近く、だからこそ自由奔放な女性には憧れているところはあります。彼女を演じるにあたり、今回(朗読劇なので)台本を憶える必要こそないのですが、技術的なことだけで乗り切れるわけではないと思っています。そうすると、自分の奥の部分が出ちゃうというか……たぶん出さなきゃいけないのかもしれない。無意識に飾っている部分があるとすれば、そういうものが全部剥がれて、色んな自分がバレちゃうんじゃないか……というのが、ちょっとこわいところですね。

柳下大(以下、柳下): 今回、一時休館する前のパルコ劇場最後のシリーズに、この歴史ある『ラヴ・レターズ』で出させていただくのは、すごく嬉しいです。パルコ劇場は初出演になります。作品のことは、過去に先輩や後輩が出ていたこともあり、もちろん僕も知ってはいました。でも、タイミングが合わず公演を実際に観たことはなかったんです。ただ、今回台本を読んだ時に正直「観てなくてよかったな」と思いました。この作品は作者(A.R.ガーニー)から「本読み稽古は(一人の役者につき)一回限り」と指定されていて、上演も本来は一回限りが原則だそうです。普段の舞台では役や演技を固めてゆくのが当然ですが、この作品ではそれができない。つまり、その時その時に生まれてくる感情がすべてなんです。演者によって、またその組合せによって、さらにはその日のコンディションによっても、まったく状態が変わってくる。プロデューサーも「本読みと本番でも全く違ったものになる」と仰ってました。先に観てしまうと、それらの中のどれか一つを正解だと無意識で思ってしまうかもしれません。すると、自分らしく素直に演じることが難しくなる。だから観てなくてよかったなと思うんです。

柳下大

柳下大

--今回の共演相手については?

柳下: 最初にこの話をいただいた時に、まだ相手がわからないという状態だったので「誰になるんだろう?」というドキドキと不安がありました。マネージャーと二人で「誰だったらいいだろうね」と色々な人を想像していました。やがてイモトさんに決まったと知らされ、「イモトさんとできるんだ! これは面白い! すごい!」と。完全に想定外でしたからね(笑)。普段、女優をやられているだけのかたとはまた違いますから、僕のほうも新たな感情が出てくると思います。そこはすごく楽しみであり、ワクワクしていますね。

イモト: これまで柳下さんとは、一緒にお仕事をする機会がほとんどなくて、お仕事以外でも、事務所の社長の誕生パーティーで一回ご挨拶をしたくらいで(※二人は同じ事務所に所属している)……だから本番を通して知っていければいいかなって。(現時点での印象を尋ねられ)……横から見るとね、睫毛がクリクリしてて、すごくキレイだなって(笑)。でも本番では、二人は横に座り続けているので相手を見つめることができないんですよね。ですから、やはり本番でのアンディという人を通して柳下さんを知れればいいなと思います。

イモトアヤコ

イモトアヤコ

--もうすぐ現・パルコ劇場がなくなってしまうことについては?

イモト: 3年前、『君となら』(※作・演出:三谷幸喜。イモトの舞台女優デビュー作)でパルコ劇場に出させていただき、すごく楽しかったんです。作品自体も楽しかったんですけど、パルコ劇場だったからこそ、いい空気を味わえたのかなと。本番前に三谷さんが、お客さんのいない客席をステージから見せてくれたこともあります。ハートマークのついた椅子がたくさん並んでました。あの夏、毎日通い続けた劇場の、エレベータがなかなか来なかったこととか。そういうちょっとした思い出がいっぱい詰まっています。自分の出た舞台としては、パルコ劇場しか知らないということもあり、大好きな劇場でした。

柳下: 僕はパルコ劇場に、観客として何度も足を運びましたね。そういう馴染みのある劇場の舞台に、なくなってしまう前に立てるというのは、とてもうれしいですね。それはどの劇場でもそうですけどね。青山劇場にも思い入れがあったのですが、あそこがなくなる前にも、『アダムス・ファミリー』(パルコ・プロデュース)という作品で舞台に立たせていただき、とてもうれしかったですから。

柳下大

柳下大

--自分の演じる役について、どう考えていらっしゃいますか?

イモト: 先日、演出の青井さんから作品についての講習を受けました。時代背景とか、当時の上流階級の生活風習とか。ただ、役そのものについて話し合うというのはなかったかな。

柳下: してないですね。授業でしたから(笑)。

イモト: そう、授業でしたね(笑)。

柳下: 僕の演じるアンディーという役については、色々な作り方ができると思います。メリッサの出方次第でも色んな受け止め方がある。台本に書いてあることだけを言えば、彼はとても誠実でまじめな人です。ただ、手紙の文面だけでは表現し尽くせない何かがあって、その何かさえも表現できるように作られている芝居だと僕は思うんですよ。だから、メリッサからの発し方によって自分がどうなるか。そこはあまり事前に決めないようにしてます。こう読もうとか、こう喋ろうとかは考えないようにしてます。特に大事にしたいのは、第一幕の一番最初のやりとりですね。そこから感情を積み重ねてゆく。その時に生まれた感情だけでやってゆこうと。

イモト: 柳下さんの仰るとおり、こういうものだと決めつけずにいきたいですね。台本に書かれていること以上の、自分自身の中にあるプライヴェートなことも混ぜ合わせてゆきたいですね。

イモトアヤコ

イモトアヤコ

--それはたとえば、眉毛を太くするとか?

イモト: 描きません(笑)。女優として気持ちを作らなければいけないのに眉毛は邪魔でしょう?

柳下: あー、(太眉毛の顔を)思い出しちゃったなぁ(笑)。

イモト: 嫌でしょう? 眉毛の太い女が隣で手紙を読んでいたら(笑)。全然気持ちが入らないでしょう(笑)? 感情の積み重ねができなくなりますもの。

柳下: お客さんの中にも、眉毛のこと気になってるかたがいるかもしれませんね(笑)。

イモト: だから、いちおうこの場を借りて言っておきますけど、今回、眉毛は描きません! 第二幕から急に眉毛が太くなってる、ということもありません(笑)。全編通して描きません(笑)。

イモトアヤコ

イモトアヤコ

--実際にラブレターを書いたり、もらったりした経験は?

イモト: 小学生のときに書きました、Fくんに(※編集部側で実名を伏せました)。フラれる手紙をもらったこともあります。そちらはSくんというんですけど(笑)。おつきあいを始めて一年くらい経ってから「受験勉強に集中したいので、もうイモトさんとはつきあえません」て。受験まで、まだけっこう時間があった時期なんですけどねぇ(笑)。

柳下: 僕はほとんどないですねぇ。幼い時にヴァレンタインデーのチョコレートをもらった時に、そこに手紙が付いていたか付いていなかったか、くらいの記憶ですね。あとは、明治座の舞台に出た時に、共演していた6歳くらいの小学生の女の子から似顔絵付きの手紙をもらったことくらいですかね。僕は小学校高学年の頃から携帯電話を使っていたので、手紙のやりとりというのはほとんどないんです。

柳下大

柳下大

イモト: 今だったら、そういうツールはLINEとかになってしまうんでしょうかね。

--最後に、読者の方々へのメッセージをお願いします。

柳下: 朗読劇なので、二人の関係性やそれぞれの気持ちを、お客さまにどれだけ想像をしていただけるか、ということになるんだと思いますが、そのためには自分自身も手紙を読みながら、自分の感情の動きを楽しんでゆくしかないと思っています。今までご覧いただいたかたも、または何も知らないかたも、その日限り一回しか観ることのできない僕らの手紙のやりとりをご披露いたしますので、ぜひ観に来ていただきたいと思います。

イモト: 本当にそう思います。本読み稽古を一回したとしても、本番では全く別のものになっているかもしれない。6月27日の19時からの2時間、何が起こるのか、もう誰にもわかりません(笑)。実験を見学するような感じで観に来ていただけると嬉しいですし、私たちもそういう気持ちで頑張りたいと思います、ハイ。

柳下大・イモトアヤコ

柳下大・イモトアヤコ

(構成・文・撮影=安藤光夫)

公演情報
『 LOVE LETTERS ~2016 The Climax Special~ 』 6月公演
 
■作:A.R.ガーニー
■訳・演出:青井陽治
■会場:パルコ劇場
■日時:
6月27日(月)19:00 柳下大&イモトアヤコ
6月28日(火)19:00 三宅弘城&野々すみ花
■公式サイト:http://www.parco-play.com/loveletters/
■特設サイト:http://www.parco-play.com/loveletters/climaxspecial/

 
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