7月の「ノット&東京交響楽団」も聴き逃せない、ブルックナー:交響曲第八番 ハ短調

コラム
クラシック
2016.7.12
「ノット&東響」、7月はブルックナーとベートーヴェン! (c)K.Miura

「ノット&東響」、7月はブルックナーとベートーヴェン! (c)K.Miura


ジョナサン・ノットの活躍ぶりが目覚ましい。つい6月下旬には、ダニエレ・ガッティの代役としてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に登場してヨナス・カウフマンの独唱による「大地の歌」を指揮、既にレコーディングも済ませたという。リハーサルの模様はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のFacebookアルバムでも見ることができるが、一人で長大な作品を歌い切る離れ業をこなしてみせたカウフマンもオケの面々もにこやかで、レコーディングのリリースが待ち遠しくなる。

レコーディングも無事終了したという(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 Facebookより)

レコーディングも無事終了したという(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 Facebookより)

そして6月末から、16年間務めたバンベルク交響楽団の首席指揮者として最後の演奏会を行った。バンベルク在任16年の間にシューベルト、マーラーの交響曲全集のレコーディングなど多くの成果を残した彼の退任コンサートは注目を集め、かなり早い時期には完売していたという。

最後の演奏会のために二つ用意したプログラムのうち、ひとつめは4月に東京オペラシティで披露したものと同じ趣向の、「リゲティ&パーセル、そしてシュトラウス」によるものだった(詳しくは4月のリハーサルレポートを参照いただきたい)。これまでの16年を振り返る意味を込めたのだろうか、バンベルクではメインに「英雄の生涯」を取り上げている。ここから深読みするならば、「ツァラトゥストラ」を演奏した東京交響楽団とはこれからの長く続くパートナーシップを、「超人へと至る一本の綱」を進むものだと宣言していた、のかもしれない。ジョナサン・ノットのプログラムは斯く聴き手を読みへと誘うのだ。

そしてもう一つ用意したプログラムが、ブルックナーの交響曲第八番だ。過去のレコーディングも好評の彼らのブルックナーは、長年のパートナーシップの最後を飾る意味もあって早々にが完売していたという。そしてこの週末、東京交響楽団とのコンサートで取り上げるのも同じ、ブルックナーの交響曲第八番だ。

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ジョナサン・ノットのブルックナーといえば、バンベルク交響楽団との第三番の録音、東京交響楽団との第三、第七番のコンサートがいずれも大好評で迎えられたことなどをファンの皆様がよくご存知だろう。第三番は録音、実演の両方であまり演奏されない第一稿の真価を示した。また、第七番は前任者ユベール・スダーンとはまた違うアプローチで美しく説得的な演奏をし、「ノット&東響」のコンビネーションの今後にさらなる期待をもたせたものだ。今回演奏する第八番は、ブルックナーの交響曲の中でも最も充実した作品のひとつ。フルトヴェングラーやカラヤン、ヴァントにチェリビダッケに忘れちゃいけない朝比奈隆…などなど、ブルックナー好きには数々の往年の名演奏の記憶も強い、ブルックナーの代表作だ。

異版の探索も興味深いブルックナー作品だが、ノットが今回使用する版はもっとも一般的なノヴァーク版第二稿だ。プログラミングの妙や、作品成立に対する立ち位置などの知的興味抜きの、音楽そのものの魅力で勝負することになる。幸いなことに、「ノット&東響」の関係は演奏を重ねるごとに深まるばかりだ。4月の演奏会に行かれた方はぜひ思い出してほしい(思い出せない方はぜひ、私からのリハーサルレポート その一その二を参照いただきたい)、第三シーズンを迎えたこのコンビネーションは共演を重ねるほどに熟成が進んでさらなる高みを目指せる、指揮者とオーケストラとして最良の状態にある。ジョナサン・ノットが愛するブルックナー作品の中でも最も重視する作品を、現在の「ノット&東響」がどう聴かせてくれるだろうか、今はただ期待が高まるばかりだ。

なお今回、ジョナサン・ノットが指揮する東京交響楽団の定期演奏会は16日(土)のサントリーホールでの一公演のみだが、ブルックナーを演奏するプログラムは17日(日)に横須賀でも開催される。横須賀では前半にピアニストの金子三勇士を迎えてモーツァルトの協奏曲(名曲、第二〇番!)を演奏するので、ふだんは都心の演奏会に行かれる皆さんも休日の小旅行がてら横須賀まで足を伸ばしては如何だろう。よこすか芸術劇場は日本ではあまり多くない本格的な馬蹄形の客席が見た目にも楽しく、自然な音響も美しいホールなのでぜひこの機会により多くの音楽ファンにお薦めさせていただこう。

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そしてジョナサン・ノットと東京交響楽団は、ブルックナーの第八番によるコンサートの後、ミューザ川崎シンフォニーホールの夏の恒例イヴェント、「フェスタサマーミューザ2016」のオープニングコンサートに登場する。こちらでもベートーヴェンの交響曲第六番「田園」をメインにノットが得意とするドイツ音楽を…と思わせて前半にヴィラ=ロボスとアイヴズを置くあたりが実にノットらしい。フェスティバルの開幕をノット&東響ならではの演奏で飾ってくれること間違いなし、である。本拠地で聴く「ノット&東響」に乞うご期待、である。

公演情報
東京交響楽団 第642回定期演奏会

■日時:2016年7月16日(土) 18:00開演
会場:サントリーホール 大ホール
出演:ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団
曲目:ブルックナー:交響曲第八番 ハ短調 (ノヴァーク版第2稿)
■公式サイト:http://tokyosymphony.jp/

 

 

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