吉右衛門が歌舞伎の演目を『ハムレット』『ロミオとジュリエット』に例える『秀山祭九月大歌舞伎』とは!?
中村吉右衛門
歌舞伎座では、9月に恒例となっている『秀山祭九月大歌舞伎』を上演する。
「秀山祭」(しゅうざんさい)とは、当代(二代目)中村吉右衛門の養父である初代中村吉右衛門の芝と舞台に対する功績をたたえ、ゆかりの芸の研鑽と伝承を中心に据えた公演のこと。初代中村吉右衛門の生誕120年であった平成18年に始まり、今年で10周年となる公演だ。
さらに今年は、初代中村吉右衛門生誕130年、また当代(二代目)中村吉右衛門が吉右衛門の名前を襲名してから50年という記念すべき年となる。そこで今年の公演に向けて吉右衛門が取材に応じた。
今回、吉右衛門は、『秀山祭』の昼の部で、初代が得意とし、当代も十数回演じている『一條大蔵譚』の一條大蔵長成(いちじょうおおくらながなり)を演じ、夜の部は初代も演じ、自身も度々演じた『吉野川』の大判事清澄(だいはんじきよずみ)を務める。
中村吉右衛門
『一條大蔵譚』について。「シェイクスピアのハムレットのような心境の大蔵卿は、やればやるほどおもしろみと苦悩と…いろいろなことを考えさせられる」と語る吉右衛門。もちろん『一條大蔵譚』に『ハムレット』の有名なセリフ「to be or not to be…」のように直截的に悩む台詞はないのだが、「自分の真の姿を垣間見せるところ、そしてあるセリフひとつで大蔵卿の悩み苦しむ気持ち…自分がやりたいことをすべて隠して阿呆のふりをしていなければならない大蔵卿の生き様をいかにお客様に伝えるか…そこが難しいですね」
夜の部の『吉野川』の大判事は14年ぶりの出演となる。この演目は2時間ほどかかる大作で、通常の花道に加え、上手にもう1本、仮花道を設置して上演される。「これまでは(二代目尾上)松緑の叔父さまに教えてもらった型でやらせていただいておりましたが、今回は初代吉右衛門から実父(初代松本白鴎)に伝わった型でやらせていただこうと思います。今までやってきた型と変えるのは勇気がいりますが、やはり今回は『秀山祭』ですしね」とチャレンジ精神を見せる。
舞台中央から客席を川に見立て、川を挟んでの恋と義に殉じる若者と、互いに子を思いながらも、逃れることのできない悲劇へと行き着く親たちを重厚に描き出す名作。「こちらはシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を彷彿とさせますね」と吉右衛門。
くしくも今年の「秀山祭」は、歌舞伎流『ハムレット』『ロミオとジュリエット』を一度に堪能できることになりそうだ。
吉右衛門の名前を継いでから50年。御年72歳。物腰柔らかく、ときに冗談を交えつつ笑顔を絶やさない吉右衛門だが、その一方でストイックに芸道を究めようとする姿勢が、取材の合間にたびたび見えてきた。
中村吉右衛門
「台詞はもちろんすべて頭に入っているが、その台詞ひとつひとつの意味合いや深さが、歳を経れば経るほどわかってくる。そして、その役が自分のモノになって初めて、それまで一点しか見つめていなかったのに、ふっと横を見ることができ、違うものが見えてくるようになる。今の若い世代はそうじゃないかもしれないが、我々の世代の役者は教わった通りに走ってきたので、横を向く余裕がなかったんです。で、やっと70歳になって、自分を振り返る余裕ができてきた」
「やればやるほど初代の偉大さが身に染みます。なんとかこの偉大な人の足元にすがりつきたい、たどり着きたい、という気持ちを感じます。楽日の翌日にまだ足りない、まだ足りない…そういう思いが常に残りますから」
「初代吉右衛門はものすごい数の作品を手掛けておりまして、今、初代の演目をやってはいますが、まだ三分の一もやれてない状態。やりたいものはいくらでもある。今までもずいぶん(上演は)難しいだろうと思っていたものも歌舞伎座などでやらせていただけたので、この勢いでまた何かやりたい」
中村吉右衛門
決して足を止めることなく、これからも前進し続ける吉右衛門。その姿をぜひ9月に歌舞伎座で観ていただきたい。
昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時30分~
【貸切】7日(水)、8日(木)、9日(金)、12日(月)、13日(火)全て昼の部 ※幕見席は販売
■会場:歌舞伎座