月影番外地『どどめ雪』高田聖子×福原充則×木野花の“濃密”鼎談「ひと言で説明できないものを芝居にする」
(左から)福原充則、高田聖子、木野花
劇団☆新感線の看板女優・高田聖子が主宰を務める月影番外地が、5作目となる『どどめ雪』を12月3日からザ・スズナリで上演する。脚本は、前々作『くじけまみれ』、そして第59回岸田國士戯曲賞の最終候補にも選ばれた前作『つんざき行路、されるがまま』に続き、福原充則。そして演出は、高田とは20年以上の付き合いであり、月影番外地の全公演の演出を務める木野花が担当する。
日本の小劇場のトップランナーたちが集結した本作。今度は、どんな劇空間で観客を魅了してくれるのだろうか。
福原充則、高田聖子、木野花
――今回で5作目となる月影番外地ですが、前作、前々作に続き、福原さん木野さんのコンビですね。
高田:私、福原さんと木野さんの相性ってすごく良いと思っているんですよ。
木野:聞きたいね、それ。どういうところが?
高田:福原さんの脚本って、どこか面白い台詞やシチュエーションで物語の芯になるものを隠しているところがある気がするんです。でも、それを木野さんが逆に掘り起こすというか。
木野:わかるわかる。福原さんが自分で演出するならあんまり前面に出さないようなところを、私は恥知らずに平気で出してしまうところはあるかもしれない(笑)。
福原:そんなふうに台本に書いてあることのどこを隠して、どこをクローズアップするかっていう取捨選択をしてもらえることは、作家としてはすごく信頼感がありますよ。演出家によっては、台本に書いてないことを持ってきたり、何かもっと小手先の技術で自分の特色を出そうとする方もいて。もちろんそれはそれで面白いんだけど、「そういうことだっけ?」ってなることもある。木野さんにはすごく尊重してもらった上で放り投げらてもらっているというか、熱い相撲を組んだ上でぶん投げられている感覚があります(笑)。
木野:お互い投げ合って、誰も土俵にいませんってこともあるかもしれないよ(笑)。
高田:それで役者だけが裸で取り残されるっていう(笑)。
高田聖子
福原:そもそも月影番外地に初めて書かせていただくのが決まったとき、木野さんから「もっと隠していることをちゃんと書け」って言われたんですよ。そこから、もう隠したり茶化している場合じゃないというのは、意識するようになりました。もちろん僕の年齢が上がってきたのもありますけど。
木野:そんなこと言ったなんて全然覚えてない(笑)。
一同:(笑)。
木野:でも、そう思っていたのは事実です。若い時期は、まっすぐ自分の言いたいことを前面に出すのを恥ずかしいとか芸がないって思うところがあるよね? 今ある演劇の王道を外れることが冒険だって思ったり。私も若い頃はそうでした。でもこの年になると、そういうのが全部まどろっこしくて(笑)。特に福原さんにまっすぐ書ける力があるんだから、そのまま出してしまえばいいのにって。恥ずかしいところを克服して勇気を出して書いてほしいという気持ちはありました。私としては、福原さんからいただいた台本は一字一句なおさずにやってみたいという心構えでいます。大変だけど、難しいことを要求してくるから。でも、それも挑戦だと思って、どんなト書きも実現させたいという気持でやっています。
福原充則
――高田さんと木野さんはもう20年以上のお付き合いだとか。
木野:そうですね、まだ私が40代の頃だったから。すごいよね、劇団だって20年持たせるなんて難しいでしょ。
高田:私にとって、木野さんは先生みたいなところがあるんですよ。それもちょっと面白い師匠。厳しいし、確固たるものがあるんですけど、何だか面白いっていう。
木野:先生のはずなのに、何かセーラー服着ているみたいなところあるものね、私(笑)。
高田:そう。で、そのままどーんっと座ってるみたいな(笑)。
木野:やっぱり先生になりきれないところがあるから。というか、なろうとも思ってないんだけど。言ってることとやってしまうことがちぐはぐなんだね、きっと。
高田:そういうところに憧れるんです。20代のとき、木野さんと出会ってこんなに面白い大人がいるんだってことを知って。なら、この先続けていくのも楽しいかもしれないなって思いましたから。
木野花
――木野さんにとって、高田聖子という女優はどんな存在ですか?
木野:初めて新感線の舞台で見たとき、まあとにかく女優の扱われ方がとっても粗末だったんですね(笑)。で、私、女優陣に説教しちゃったんですよ。「あんたたち、こんな役でいいのか!」って。
高田:「書割りでいいのか」って言われました(笑)。
木野:と言ってるけど、私、新感線が好きなんですよ。東京の劇団にはない破天荒な感じがすごく面白くて。だからこそ、女優たちに活躍してほしかった。書割りで満足しないで、役をしっかり獲得してほしいと思ったんです。それで、93年に『ぼくに優しい4人の女』という作品に聖子に出てもらって。
高田:それが、私にとって初めての外部の舞台だったんです。
木野:そしたらそのときの聖子がヒットしたんです。可能性が弾けた感じがしました。次もまたやりたいと思ったし、もっといろんな可能性があるだろうと思わせられた。演出にそう思わせるのは才能ですよね。上手い下手の前にそういう才能を見せつけられた気がします。そこからのお付き合いですけど、私がもうせっかちなもんだから、まだ聖子がそういう時期に到達していなくても「やれ」って追いこんで。恥ずかしくてできないということも、「やらねばならぬ」と勝手に課題を押しつけたり。聖子にとったら、ありがた迷惑というか相当辛かったと思います(笑)。
高田:私にとっては、とにかく『ぼくに優しい4人の女』の稽古が刺激的で楽しかった。ここでダメだったらこの先ないなと思ってたから、とにかく頑張らなきゃならんと気合いも入っていたし。そう言えば、そのときもそれぞれ違うタイプの4人の女性のお話でした。
高田聖子
――なるほど。そういう意味では、今回の『どどめ雪』とリンクしますね。本作も4姉妹の物語で、このタイトル。どうしても谷崎潤一郎のあの作品を連想してしまいますが…。
木野:そう。私が好きなんです、『細雪』。それで福原さんに「書かない?」って提案して。
福原:さすがにそのまま『細雪』の舞台版を僕が書くのはイメージが沸かなくて…。『細雪』から着想を得て、何か別のお話しにしてよいのであれば、と。
――この『どどめ雪』は、どんなお話になりそうですか?
福原:今回は出来れば、作品で何を書きたいかは言いたくないというか。ひと言ふた言でまとめた言葉にすると誤解されるようなことなので、2時間の芝居で伝えようという気持ちです。ただはっきり言えるのは、“生活していく上で必要なもの”。それを書こうと思っています。
木野:たとえばどこの街が舞台とか? そういうことは言ってもいいんじゃない?
福原:茨城の牛久を舞台にしようと思っています。関東平野の感じが好きなんですよ。僕の地元が神奈川の伊勢原という町で。そこも田舎なんですけど、電車に乗れば1時間で新宿に行けるようなところで。そういう微妙な距離感の土地で培われる変な人間というか、微妙な泥臭さを書ければいいなあ、と。きっと本人たちは泥臭いなんて一切思ってないと思うんですけど。
木野:不思議な感じがします、あのあたりの風景って。東京に近いのに田舎っぽくて、こんな街があるんだって意外だったりするんですけど。
福原:僕の地元にも国道246号線が走っているんですけど、東京の246とは完全に別物なんです。土地が余っているから大きな工場や倉庫がたくさんあったり、商業施設も何か巨大で。実家に帰ると、でっかいものに呑みこまれているという感覚が東京以上にするんです。その中で無自覚に生きている人たちを描きたいと思っています。
福原充則
――そして、その4姉妹を、高田さん、峯村リエさん、内田慈さん、藤田記子さんという、まあ濃い女優が演じます。
木野:しかも、その濃さがそれぞれで、かぶってない。そこもスリリングですよね。今ぜひやってみたい女優さんたちです。
高田:いいキャスティングしすぎたなと今はおののいているところです(笑)。あとは、前回から続投の田村(健太郎)くん。そして、11年前の月影十番勝負第九番『猫と庄造と二人のおんな』に出てもらった利重(剛)さんがいて。内側がギラギラした女性が集まって、そこに何かふんわりした男性がいるっていうのが、すごくいい感じじゃないかなって。それがうまい具合に混じり合えたらいいなと思っています。
木野:ドキドキです、こういう手ごわい方たちを演出するというのは(笑)。気の休まるところはひとつもない。また福原さんの台本が挑発的なんですよ。できるならやってみろというようなト書きを書いてくるんで。3作目だからと言って楽なところはまったくないです。頭を白紙にして、ゼロ出発でやっていかないといけないと今から気持ちを引き締めています。
木野花
1967年7月28日生まれ。奈良県出身。87年、『阿修羅城の瞳』より「劇団☆新感線」に参加。以降、看板女優として数々の公演でヒロインから悪役まで幅広く演じ、美しい殺陣回りや抜群の歌唱力に加え、ギャグまでもこなす看板女優として活躍している。95年に自身が立ち上げたプロデュースユニット「月影十番勝負」続く「月影番外地」では、様々な演劇人とコラボレートするなど新たな挑戦を続けている。客演も数多く、舞台の他、TV・映画でも幅広く活躍している。
福原 充則(ふくはら・みつのり)
1975年6月8日生まれ。神奈川県出身。02年、「ピチチ5(クインテット)」旗揚げ、主宰と脚本・演出を務める。また「ニッポンの河川」、「ベッド&メイキングス」など複数のユニットを立ち上げ、幅広い活動を展開する。 生活感あふれる日常的な光景が、飛躍を重ねて宇宙規模のラストまで結実するような物語作りに定評があり、 深い人間洞察を笑いのオブラートに包んで表現するのが特徴。宮崎あおい主演による『その夜明け、嘘。』で第54回、『つんざき航路、されるがまま』で第59回岸田國士戯曲賞最終候補作品にノミネート。
木野 花(きの・はな)
1948年1月8日生まれ。青森県出身。弘前大学教育学部美術学科を卒業後、中学校の美術教師となるが、1年で退職、上京して演劇の世界に入る。1974年に東京演劇アンサンブル養成所時代の仲間5人と、女性だけの劇団「青い鳥」を結成。翌年に旗揚げ公演を行い、80年代の小劇場ブームの旗手的な存在になる。86年、同劇団を退団。以降、現在に至るまで女優・演出家として映像・舞台と幅広く活躍中。
■会場:ザ・スズナリ
■料金:5,500円(前売・当日共/全席指定・税込)
■演出:木野花
■出演:高田聖子、峯村リエ、内田慈、藤田記子、田村健太郎、利重剛
■公式ブログ:http://tsukikagebangaichi.blog.fc2.com/